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第一章 新しい生活の始まり
014-3
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十種類のザルを通したからか、ゴミは殆ど無くなった。残りは目で見て取れる程になったから、手で寄り分けていく。
「んで? この後はどうすんだ?」
「天日干しして乾かすんですけど、サイモンさんに保管されてる間に種も十分に乾燥してるみたいなので、洗います」
金ダライに種を入れる。ザラザラーと粒が金属に当たる音がして、金ダライの底は一面、カラシナの赤茶色の種でいっぱいになった。
水を魔法で注ぎ、洗っていく。これは洗濯のようにはいかないので、手でゴシゴシ洗う。
うぅ、水が冷たい!
水はあっという間に黒く濁るので、その都度、水を替えて洗う。量もあるので時間はかかったけど、水が濁らなくなるまで種を繰り返し洗った。
洗い終えた種をシーツの上に拡げて乾かす。
念の為、フルールには食べちゃ駄目だよ、と伝えておく。
「アシュリーさん、手が、手が冷たいです!」
ラズロさんの唇が紫だった。何故?!
食堂に戻った僕達は、コーヒーを淹れてひと息吐いた。
僕は放置してしまっていた紅茶に、温めたミルクを注いで飲む。
「はー、あったまるわー」
「本当ですねー」
ひと仕事終えた後のお茶、美味しいです。
「種が乾いたらどうすんだ?」
「お酢で漬けるんです。村では、日が経って悪くなってしまった白ワインを使ってました」
「ほぉ、じゃあ、ザックに聞いてみるか」
「ザックさん?」
「宵鍋の店主だよ、この前会っただろ?」
あの髭もじゃのおじさん、ザックさんっていうんだ。
「ザックさん、髭、凄いですよね」
「髭が無いと年齢より若く見えて、客に舐められる事があるらしくてな、仕方なく伸ばしてんだぜ、アレ」
確かにお店には色んなお客さんがいた。人の良さそうなおじさんから、体格の良いおじさんと、色々だった。
王都だから柄の悪い人も出入りする事もあるんだろうし、お酒が入ったら余計だよね。
「お店を切り盛りするのも、大変ですね」
「よし、コレを飲み終わったら行くぞ」
「あ、はい!」
宵鍋に行くと、当然だけどお店は開いてなかった。
裏口のドアをラズロさんが叩く。
ちょっとしてドアが開いてザックさんが出てきた。手を拭いてる。何か作業していたみたいだ。
「おぅ、ラズロにアシュリーじゃねぇか、どうした?」
「悪くなった白ワインがあったら、分けてもらえないかと思ってな」
「あぁ」
入れ、と言われて裏口から中に入らせてもらう。
良い匂いがする。仕込み中だったのかな。
この前食べた料理、美味しかったなぁ。
「どのぐらい必要なんだ?」
「あ、もらえるだけもらえると嬉しいです」
ラズロさんが瞬きする。
「いつも控えめなアシュリーが、そんなにはっきり欲しがるなんて珍しいな」
「あ、すみません。凄い図々しかったですね」
慌てて、少しで、と訂正する。
「何に使う?」
「野菜の酢漬けを作る時によく使うんですけど、普通の酢で作るよりも香りが良いんです。生の野菜を食べる時にかけても美味しいんですよ。
粒マスタードと、白ワインビネガー、あ、悪くなって酸っぱくなった白ワインのことを、僕の村ではそう呼んでるんですけど、それとオイルを脂身の少ない肉にのせて食べても美味しいんです。今度作りますね」
ラズロさんの咽喉がごくり、と鳴る。どうやらラズロさんはお腹が空いてるみたい。
「待ってろ」
ザックさんはそう言って、奥から小さな樽を持って来てくれた。
「アシュリー、その粒マスタードってのは何だ?」
「酸味のある調味料です。液体じゃないので、ソースみたいにかけたりもします」
ふむ、とザックさんは呟くと、顎の髭を撫でる。
「良かったらその粒マスタードを分けてくれねぇか。勿論代金なら支払うぜ」
「白ワインビネガーをもらうんですから、お代なんてもらえないですよ!」
「こっちからすれば捨てるしかないもんだ。それで物々交換にはならねぇよ」
でも、元は商品だし、料理にも使えるし、良くない気がする。
「じゃあ、こうしようぜ。ザックは不要な白ワインビネガーだったか?を、アシュリーにやる。アシュリーは粒マスタードをザックにいくらか分ける。ついでに宵鍋に来た時に、サービスしてもらう」
「えっ! それ、ザックさんだけが損しちゃうじゃないですか! 駄目ですよ!」
ザックさんが顎を撫でながら言った。
「近頃見ねぇ程に良い子ちゃんだなぁ、オイ。ラズロ、ちゃんと守ってやれよ?」
「おぅよ」
ほら、とザックさんが樽をラズロさんに渡す。
……!
またしても話が勝手に進んでいる気がする!
「じゃ、じゃあ、僕、宵鍋に来たら何か裏方手伝います! 洗い物とか!」
タダより高いものはないんだぞ、って父さんと兄さんがいつも言ってたし!
「おぅ、こき使ってやるよ」
ほっ。伝わったみたいだ、良かったー。
「こき使って言われて笑顔はおかしいだろ」
「えっ、だって、僕ばっかり得をするなんて、良くないですよ」
「アシュリーの両親にご挨拶に行きたくなってきたわ」
「何の挨拶ですか?」
僕とラズロさんは、白ワインビネガーの入った樽を持って城に帰った。
「んで? この後はどうすんだ?」
「天日干しして乾かすんですけど、サイモンさんに保管されてる間に種も十分に乾燥してるみたいなので、洗います」
金ダライに種を入れる。ザラザラーと粒が金属に当たる音がして、金ダライの底は一面、カラシナの赤茶色の種でいっぱいになった。
水を魔法で注ぎ、洗っていく。これは洗濯のようにはいかないので、手でゴシゴシ洗う。
うぅ、水が冷たい!
水はあっという間に黒く濁るので、その都度、水を替えて洗う。量もあるので時間はかかったけど、水が濁らなくなるまで種を繰り返し洗った。
洗い終えた種をシーツの上に拡げて乾かす。
念の為、フルールには食べちゃ駄目だよ、と伝えておく。
「アシュリーさん、手が、手が冷たいです!」
ラズロさんの唇が紫だった。何故?!
食堂に戻った僕達は、コーヒーを淹れてひと息吐いた。
僕は放置してしまっていた紅茶に、温めたミルクを注いで飲む。
「はー、あったまるわー」
「本当ですねー」
ひと仕事終えた後のお茶、美味しいです。
「種が乾いたらどうすんだ?」
「お酢で漬けるんです。村では、日が経って悪くなってしまった白ワインを使ってました」
「ほぉ、じゃあ、ザックに聞いてみるか」
「ザックさん?」
「宵鍋の店主だよ、この前会っただろ?」
あの髭もじゃのおじさん、ザックさんっていうんだ。
「ザックさん、髭、凄いですよね」
「髭が無いと年齢より若く見えて、客に舐められる事があるらしくてな、仕方なく伸ばしてんだぜ、アレ」
確かにお店には色んなお客さんがいた。人の良さそうなおじさんから、体格の良いおじさんと、色々だった。
王都だから柄の悪い人も出入りする事もあるんだろうし、お酒が入ったら余計だよね。
「お店を切り盛りするのも、大変ですね」
「よし、コレを飲み終わったら行くぞ」
「あ、はい!」
宵鍋に行くと、当然だけどお店は開いてなかった。
裏口のドアをラズロさんが叩く。
ちょっとしてドアが開いてザックさんが出てきた。手を拭いてる。何か作業していたみたいだ。
「おぅ、ラズロにアシュリーじゃねぇか、どうした?」
「悪くなった白ワインがあったら、分けてもらえないかと思ってな」
「あぁ」
入れ、と言われて裏口から中に入らせてもらう。
良い匂いがする。仕込み中だったのかな。
この前食べた料理、美味しかったなぁ。
「どのぐらい必要なんだ?」
「あ、もらえるだけもらえると嬉しいです」
ラズロさんが瞬きする。
「いつも控えめなアシュリーが、そんなにはっきり欲しがるなんて珍しいな」
「あ、すみません。凄い図々しかったですね」
慌てて、少しで、と訂正する。
「何に使う?」
「野菜の酢漬けを作る時によく使うんですけど、普通の酢で作るよりも香りが良いんです。生の野菜を食べる時にかけても美味しいんですよ。
粒マスタードと、白ワインビネガー、あ、悪くなって酸っぱくなった白ワインのことを、僕の村ではそう呼んでるんですけど、それとオイルを脂身の少ない肉にのせて食べても美味しいんです。今度作りますね」
ラズロさんの咽喉がごくり、と鳴る。どうやらラズロさんはお腹が空いてるみたい。
「待ってろ」
ザックさんはそう言って、奥から小さな樽を持って来てくれた。
「アシュリー、その粒マスタードってのは何だ?」
「酸味のある調味料です。液体じゃないので、ソースみたいにかけたりもします」
ふむ、とザックさんは呟くと、顎の髭を撫でる。
「良かったらその粒マスタードを分けてくれねぇか。勿論代金なら支払うぜ」
「白ワインビネガーをもらうんですから、お代なんてもらえないですよ!」
「こっちからすれば捨てるしかないもんだ。それで物々交換にはならねぇよ」
でも、元は商品だし、料理にも使えるし、良くない気がする。
「じゃあ、こうしようぜ。ザックは不要な白ワインビネガーだったか?を、アシュリーにやる。アシュリーは粒マスタードをザックにいくらか分ける。ついでに宵鍋に来た時に、サービスしてもらう」
「えっ! それ、ザックさんだけが損しちゃうじゃないですか! 駄目ですよ!」
ザックさんが顎を撫でながら言った。
「近頃見ねぇ程に良い子ちゃんだなぁ、オイ。ラズロ、ちゃんと守ってやれよ?」
「おぅよ」
ほら、とザックさんが樽をラズロさんに渡す。
……!
またしても話が勝手に進んでいる気がする!
「じゃ、じゃあ、僕、宵鍋に来たら何か裏方手伝います! 洗い物とか!」
タダより高いものはないんだぞ、って父さんと兄さんがいつも言ってたし!
「おぅ、こき使ってやるよ」
ほっ。伝わったみたいだ、良かったー。
「こき使って言われて笑顔はおかしいだろ」
「えっ、だって、僕ばっかり得をするなんて、良くないですよ」
「アシュリーの両親にご挨拶に行きたくなってきたわ」
「何の挨拶ですか?」
僕とラズロさんは、白ワインビネガーの入った樽を持って城に帰った。
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