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第一章 新しい生活の始まり

012-2

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 メルは意外な事に雑食、って言うのはちょっと違うかな。草とか野菜とか穀物、果物を好んで食べるらしい。草しか食べないのかと思っていた。
 試しにラズロさんが大量に買い込んだ熟していないリンゴを出してみたところ、普通に食べていた。あまりに大量にあり過ぎて、フルールに食べさせるにしてもその前に悪くなりそうだと思っていたから、良かった。

 柔らかくなった端肉を、塩で煮込んで味を染み込ませて冷ましておく。すっかり冷めたところでネギとリンゴを適当な大きさに切って更に塩を追加して煮込む。
 食べる前に胡椒をふりかけて出来上がり。
 肉の筋の部分も煮溶けてるから、口に入れたらホロホロと崩れるぐらいには柔らかくなっていると思う。

 洗い物を終えて中庭を見ると、リンゴを無心に食べてるメルがいた。牛と同じで反芻するからなのか、リンゴ一つ食べるのも結構時間かかるみたい。
 そんなメルの足元でコッコが土を啄んでる。メルはほとんど動かないから大丈夫なんだろうけど、普通なら大きさが全然違うから足元をうろうろするのは危なさそう。
 一緒にいるって事は、仲良くなったのかな?
 ネロは食堂に用意したカゴベッドの中で丸まってる。このベッドを用意しないと、寒いのが嫌で、ずっと僕の肩の上に乗ってしまうから、仕方なく。
 食堂に来た人たちにはきまぐれに撫でさせたり、相手をしたりするけど、構われたくない時は僕の部屋に行ってるみたい。賢いなぁ。
 フルールは僕の側にいて、調理で出た不要な部分。野菜とか果物の皮とかをせっせと食べてる。
 ラズロさんは買い出しで、お店が売値も付かないようなものを置いてるとフルール用にもらって来てくれる。
 トキア様が沢山食べさせろとおっしゃってたから、ラズロさんからの差し入れ?は、とてもありがたいのです。

「うおっ! 良い匂い!」

 買い出しに出ていたラズロさんが戻って来た。
 端肉を煮てるので今日も僕はお留守番。

「おかえりなさい、ラズロさん」

 カゴいっぱいに入れた素材を台の上にドサドサと並べて行く。

「今日は粉類と塩と胡椒、ベーコンと腸詰、ハムを冬を越せる分頼んで来たから遅くなっちまった。悪ぃな、アシュリー」

「大丈夫ですよー」

「土産があるぞ」

 土産?
 ほら、と言って渡されたのは、紫色の塊だった。

「アシュリーはアマイモは初めてか?」

 アマイモ?

「この時期にな、ほんっとにたまにだけど南の国から入ってくるんだよ。蒸して食うんだけどな、甘くて美味いぞ」

 半分に割って、皮を剥いて齧れ、と言われたので、言われたように皮を剥く。凄い薄い皮! 中は黄金色で、甘くて良い匂いがする。
 フルールに皮と身の部分をあげると、鼻をひくひくさせてから、齧り付いた。
 僕も噛り付く。柔らかい! 甘い! 熱い!

「あつ……っ!」

 はははっ、とラズロさんは笑った。

「でも美味いだろ?」

 口の中にアマイモが入ってるから、こくこく頷くと満足げにラズロさんは笑った。

「また売ってたら買って来てやるよ」

「ありがとうございます!」

 にゃー、と足元からネロの鳴き声。僕の足をカリカリしてる。

「ネロも食べたい?」

 屈んで皮を剥いてから少しネロにあげる。ネロは器用に前足でアマイモを挟んで食べ始めた。美味しいのか、夢中になって食べてる。コッコとメルにも少しずつお裾分けした。
 コッコは恐る恐る突いた後、高速で突いて食べた。美味しかったんだね。
 メルはひと口で食べてしまったけど、べろり、と口のまわりを舐めていたから美味しかったんだと思う。

「ラズロさん、ありがとうございます、とっても美味しかったです!」

「動物にも分けてやるなんて、ほんっとアシュリーは良い子だよなぁ」

「そんな事ないですよ?」

 食べ終えたネロは肉球部分を念入りに舐めてる。満足 してくれたみたいで良かった。

「独り占めしようとしても、ネロに取られてたかも知れませんし」

 ははっ、とラズロさんは笑う。

「確かに良い食い付きだったな」

「でしたね。あ、そうだ。ラズロさん、煮込みの味見してもらえますか?」

「おっ! 遂に来たかー! いつ食えんのかと聞かれまくってたんだよ」

 えっ、そうなの?!

 ラズロさんは煮込みから取り皿に少しだけ移して口に入れた。

「うまっ! なんだこれ!」

 僕も味見をしたんだけど、お肉の旨味とリンゴの酸味とネギの甘味が出て、自画自賛しちゃうけど、美味しかった。

「これが端肉と捨てリンゴとは思えないな!」

「明日のお昼に出そうと思います」

「明日は売り切れ注意だな」

 ニヤ、とラズロさんが笑った。
 まさかそんな。
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