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第一章 新しい生活の始まり

010-2

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 ラズロさんのサラミは置いといて、ネズミは本当に何とかしないといけないよね。

 なぅー、と鳴いて現れたネロは、僕の足に身体を擦り付ける。小さな頭を撫でると気持ちよさそうに目を閉じる。
毎日思ってるけど、可愛いです。

「ネズミがね、これ以上悪さすると僕達のごはんが減ってしまうんだって。困ったねぇ、ネロ」

 足元でちょこんと座っていたネロは、尻尾をゆらゆらさせて、に!と鳴いて食堂から出て行った。

「自由だなー、ネロ」

「猫はきまぐれだから可愛いんですよ」

うんうん、とノエルさんが頷く。



 夕方、ネロが食堂のはじっこで何かしていた。
 何かを運んでいるみたいで、食堂を出たり入ったりしているのを遠巻きにしながら、ラズロさんと厨房で夕食の準備をしている。
 夜には王城で働く人たちも帰宅するのが殆どだけど、お城を無人にする訳にはいかないから、夜勤の人たちがいる。その人たち用に作る。
 ラズロさんは外に食べに行くけど、僕は夜勤の人たちと同じ夕食を食べさせてもらってる。それから、ノエルさんがよく食べに来てくれる。
 夕食の準備を終えたラズロさんは意気揚々と出かけて行った。飲み過ぎないで下さいね、と声をかけると、夜の街にあるのはお酒だけじゃないんだぞ、とご機嫌な顔をして出かけて行った。
 ……何だろう? 賭け事かな? 酒と自由となんだっけ?

 今日は平らにしたパン生地の上に、秋野菜をたっぷりとチーズをのせて石窯で焼いたもの。
 窯の中の火は、魔法で直ぐに起こせるので、以前よりも使用頻度が上がったらしい。
 いつもなら焼いて置いたものを出すから、冷えているんだけど、少し待っていてもらえれば火魔法で焼けるので、温かいものが食べられると好評なんだって。
 火を起こすのとか、火力を維持するとかって、結構大変だもんね。スキルをもらう前は薪で火を起こしていたから、大変さはよく分かる。
 魔力弱いけど、あって本当に助かってるもの。

 ノエルさんがやって来た。
 食べに来ない日は連絡が来る。食べに来る日に連絡じゃなくって、食べに来ない日に連絡が来る。

 いつもの席に座ったノエルさんの前に、焼きたての秋野菜の具のせパンとさつまいものスープを置く。

 「今日のスープはとろりとしてるね?」

 スプーンでスープを掬うと、とろみに直ぐ気付いたようでノエルさんが言った。

「はい、とろみをつけてみました。とろみのある方が温かさが長持ちする気がします」

 大分寒くなったきたし。

「寮の食事は、僕が帰った時には冷めてて美味しくないんだよ……その点ここに来れば温かくて美味しい食事と、もふもふとアシュリーに癒される」

 僕は癒しに入らない気がする。きっと気を使ってくれてるんだろうな。ノエルさん優しいもの。

「僕もノエルさんとの夕食、好きです」

「アシュリーが尊い」

 尊い?
 いくら何でも、それは褒め過ぎだと思う。

 さつまいものとろみスープを飲んだ後、野菜のせパンを頬張るノエルさん。

「んんー、美味しいっ! とろけたチーズが落ちないようにするのに慌てちゃうけど!」

 僕もパンに噛り付く。チーズが熱い!
 二人ではふはふ言いながら食べる。

「美味しそうだな」

 声のした方を見るとクリフさんだった。
 クリフさんはここ数日、ちょっとした遠征に出ていたらしく、顔を見ていなかったんだよね。

「おかえりなさい、クリフさん。お城には報告に来たんですか?」

「あぁ。それで食堂に寄ってみたら二人が美味しそうに食べてるからな、我慢出来ずに声をかけてしまった」

「クリフさんも食べますか?」

「もらえるか?」

「はい、ちょっと待ってて下さいね」

 焼き上がった次のパンを、食べやすいようにナイフで切れ目を付ける。
 新しいお皿にのせてテーブルに戻る。取り皿とスープをクリフさんの前に置く。

 今回のクリフさんの遠征の話を聞きながら、焼きたてのパンを食べる。二人は健啖家なんだって。ラズロさんが教えてくれた。よく食べる人ってことらしい。

「このとろけるチーズがたまらないな」

「本当だよね。あつあつで、火傷しそうなのに、我慢出来ずに食べちゃうんだよね」

 分かる。
 溶けたチーズは、野菜や肉とも相性が良くって、美味しくて僕も好き。
 チーズと魚で何か作れないかなぁ。またデボラさんのお店に行ってみたい。

 食べ終えてみんなでコーヒーを飲んでいた時、クリフさんが言った。

「入った時から気になってるんだが、あれは何なんだ?」

 クリフさんが指差した先に、なにやら小さな山のように積み上げられたものが見える。

「?」

 ちょうど明かりの届かない所で、厨房からもこのテーブルからも死角になっている場所。
 ノエルさんと僕は立ち上がって見に行く。
 そこにはラズロさんの敵が山盛りになっていた。
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