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第一章 新しい生活の始まり

009-5

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 貝が口を開けた。あまりの熱さに耐えかねて開けるんだって。ラズロさんが言っていたように、殻の中の身はそんなに大きくない。
 ラズロさんは手慣れた様子で身にお酒を垂らしていく。熱せられたお酒の香りが辺りに広がる。

「臭み消しだな」と教えてくれる。

 トキア様はもう一つ網を用意すると、僕のと同じぐらいの大きさの火を出した。

「少量だが、維持し続けるのはなかなか難しいな」

 ラズロさんは嬉々として網の上に大きな魚をのせて、塩をふる。さっきは塩は要らないって言ったのに、魚はいるの? 貝と魚は違うのかな。

「貝が焼き上がったぞ! 熱いから火傷すんなよ!」

 持っていたお皿に貝をのせてくれた。……どうやって食べるんだろう?
 そんな僕にノエルさんは直ぐに気が付いてくれた。

「ラズロ、アシュリーは食べ方が分からないんじゃない?」

「おぉ、そうか。じゃあノエル、食い方を教えてやってくれ」

 ノエルさんのお皿に貝がのる。

「熱いから、手で直接触らない方がいいよ。フォークで刺すと良い」

 そう言ってノエルさんは、身と殻の間にフォークを刺した。フォークの上にのった身はぷるぷるとして、それだけで美味しそうだ。
 ノエルさんはひと口で身を食べた。

「うん、美味しい。さ、アシュリーも身を殻から剥がして食べてみて」

 身を殻から剥がす?
 不思議に思いながら、ノエルさんの真似をしてフォークを身と殻の間に刺し入れる。持ち上げようとすると抵抗がある。見ると身と殻が僅かにくっ付いていた。
 なるほどー、これを剥がせって言ってたんだな。

 剥がした身を口に頬張る。塩味とお酒の味がした。ちょっと生臭い。
 美味しさもあるけど、生臭さが気になる。
 ノエルさんもラズロさんもトキア様も気にせず食べてる。
 生臭いのは今食べた貝だけだったのかも、と思い直して次の貝を口に入れる。……うん、生臭い。
 コーヒーの時もそうだったけど、僕が子供だから生臭いと感じるのかも知れない。
 生臭さを消す方法……。

 厨房から胡椒を持って来て貝にかけてみた。
 僕の様子を見て、ラズロさんが苦笑する。

「アシュリーにはまだこのにおいが辛いかー」

 胡椒をかけたら少しは減ったものの、においは消し切れない。でも、美味しさは増した。
 他のものもかけてみたいかも。
 もう一度厨房に戻って、ニンニクとネギを細かく刻んだのを持って中庭に戻る。

「何だ? ニンニク?」

「そうです。ニンニクとネギならにおいを消せるかなと思って」

 スプーンで貝の上に刻みニンニクとネギをのせ、胡椒もかけてから食べる。
 んんっ! 美味しい!

「……アシュリー、僕ももらって良い?」

 頷くとノエルさんもニンニクとネギ、胡椒をかけて貝を食べた。

「うまっ!」

「なにっ!」

 ラズロさんも同じようにしてニンニクと胡椒をかけて食べた。

「うまいっ!」

 気付けばトキア様もやってて、貝を口に入れた後、少し口角が上がってた。

「魚も焼けたぞ! アシュリー、こっちは貝ほど癖がないから大丈夫だと思うぞ」

 ラズロさんが魚をお皿にのせてくれようとするんだけど、お皿の上には貝の殻がある。
 いつの間に来たのか、フルールが隣にやって来ていたので、試しに貝殻を渡すと、両手で受け取る。
 鼻をふんふんさせたかと思うと、貝殻をパキパキと音をさせながら割るように齧り出した。
 あっという間に食べてしまって、僕を見上げる。まだある貝殻を渡すと、食べ始めた。

「言い忘れていたが、擬態しているスライムは燃費が悪いのだ」

 ネンピ?

「沢山食べないと駄目って事だよ」とノエルさんが教えてくれた。

 ノエルと一緒だな、とラズロさんがにやりと笑いながら言って、うるさいなと返すノエルさん。いつものやりとりです。

「その点、フルールは食堂で素材を沢山もらっているから、問題ないだろう」

 トキア様がフルールに貝殻を差し出す。フルールは良い音をさせながら食べていく。
 音だけ聞いてると美味しそうで、食べたくなってくる不思議。

 ラズロさんは厨房からお皿を持ってきて、そこに貝殻を乗せ始めた。
 フルール用って事みたいだ。
 みんなのお皿にあった貝殻をお皿にまとめて、フルールの前に置く。

「フルール、貝殻だよ」

 ふんふん、と鼻をひくひくさせた後、夢中で貝殻を食べていくフルール。
 頭を撫でても気にせず殻を食べていく。おなか空いてたのかな。
 食べすぎはよくないと思ってあんまりあげないようにしてたんだけど、どうやら気にしなくても良さそう?
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