上 下
17 / 271
第一章 新しい生活の始まり

005-3

しおりを挟む
 パンくずをお腹に回収し終えたコッコを裏庭に放し、厨房に戻った所、裏庭からコッコの悲鳴が聞こえた。

 裏庭に行くと、コッコが猫に乗られていた。
 乗られていたんだけど、なんか様子がおかしい。コッコに噛み付いていない。

 そうかと思うと、猫はパタリと倒れた。

「?!」

 慌てて駆け寄ると、猫はお腹のあたりが真っ赤で、呼吸が荒かった。

 死んじゃう! 猫が死んじゃうよ!!

「おーい、アシュリー、今コッコの声が……ってそれ、猫か?」

 背後からラズロさんの声がした。

「ラズロさん、猫が死んじゃう! どうしよう! 猫が!」

「ちょっと待ってろ!」

 猫のお腹を気持ち心臓より上にして傷を圧迫し、これ以上血が出ないようにする。
 みるみる僕の手が真っ赤に染まっていく。

 長い時間待ったような気持ちになった時、足音が聞こえた。ラズロさんかな。

「アシュリー! 待たせた!」

「アシュリー!」

 ノエルさんの声だった。

 僕は振り返って半泣きのまま、ノエルさんの名前を呼んだ。見ると、トキア様までいた。

「ノエルさん……猫が……猫が死んじゃう……」

「アシュリー、手を離して、直ぐに治療するから」

 トキア様は猫のお腹の上に手をかざすと、何やら聞きなれない呪文を唱えた。手から光が溢れて、お腹に吸い込まれていく。
 それに合わせて、血が溢れなくなっていった。

「内臓と皮膚の表面の傷を癒した。これで死にはしないだろう」

「ありがとうございますっ、トキア様、ありがとうございますっ」

 水魔法で自分の手と猫の身体を洗い、風魔法で乾かした。

 猫の呼吸はさっきより落ち着いてきて、一度目を開けたけど、また目を閉じた。

「茶ァ、淹れたぞ」

 ラズロさんに呼ばれて、食堂に戻る。
 何があったのかを説明してくれと言われたので、あったままを説明した。

「傷を抱えたまま、狩りをしたんだろうなぁ」

 猫は僕の膝の上で寝ている。どうも嫌じゃないみたいだ。

「トキア様、本当にありがとうございました」

「いや……ラズロがアシュリーが大変だと言うから来てみれば……猫とはな……」

 息を吐くトキア様。お忙しいだろうトキア様とノエルさんを連れて来た理由がそれって……。
 ラズロさんは悪びれずに言った。

「アシュリーがパニックになってて大変だったからな、何も間違ってない」

 うわぁ……そのお陰で猫は助かったけど、さすがにそれは僕でもどうかと思う、ラズロさん!

「アシュリー、この猫の傷が治ったら、テイムすれば?」

 ノエルさんが言った。

 膝の上ですやすや眠るその姿に、そうなってくれたら良いな、とは思うものの、無理強いはしたくないなとも思った。

「そうですね、もし猫が僕にテイムされてもいいって思ってくれたら、そうします」

 猫、何なら食べれるかなぁ。
 目が覚めたら栄養のあるものを食べさせてあげたいんだけど……。
 出血いっぱいしてたし……。

「アシュリー、ちょっと良いか?」

 トキア様に声をかけられて、慌てて顔を上げる。

「は、はいっ」

「面白い魔法の使い方をしていたな」

「え? あ、手を洗っていたからですか?」

「そうだ」

「アシュリーは料理でも魔法を使うんですよ」

 ほぅ、とトキア様は呟くと顎を撫でる。鳶色の瞳がじっと僕を見つめていて、落ち着かない。

「魔力の少ない者でも、アシュリーのように魔法を使えば、日々の生活が楽になるかも知れんな」

 生活の殆どを魔法に頼ってる僕としては、頷くしかない。

「とても便利ですよ」

 トキア様は目を閉じて何か思案し始めてしまった。
 ノエルさんを見ると、ノエルさんはにっこり微笑んで、「大丈夫だよ」と言ってくれたので、気にしない事にする。

「アシュリー、猫は肉食だから、余ってるお肉なんかがあったら食べさせてあげるといいよ」

「あ、ありがとうございます」

 そうだよね、さっきコッコを狙ってたしね。

 猫の傷、早く良くなるといいなぁ。

「おまえ、助かって良かったね」

 そっと撫でると、猫はうっすら目を開けて、みゃ、と鳴いてまた目を閉じた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

刷り込みで竜の母親になった私は、国の運命を預かることになりました。繁栄も滅亡も、私の導き次第で決まるようです。

木山楽斗
ファンタジー
宿屋で働くフェリナは、ある日森で卵を見つけた。 その卵からかえったのは、彼女が見たことがない生物だった。その生物は、生まれて初めて見たフェリナのことを母親だと思ったらしく、彼女にとても懐いていた。 本物の母親も見当たらず、見捨てることも忍びないことから、フェリナは謎の生物を育てることにした。 リルフと名付けられた生物と、フェリナはしばらく平和な日常を過ごしていた。 しかし、ある日彼女達の元に国王から通達があった。 なんでも、リルフは竜という生物であり、国を繁栄にも破滅にも導く特別な存在であるようだ。 竜がどちらの道を辿るかは、その母親にかかっているらしい。知らない内に、フェリナは国の運命を握っていたのだ。 ※この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「アルファポリス」にも掲載しています。 ※2021/09/03 改題しました。(旧題:刷り込みで竜の母親になった私は、国の運命を預かることになりました。)

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

転生嫌われ令嬢の幸せカロリー飯

赤羽夕夜
恋愛
15の時に生前OLだった記憶がよみがえった嫌われ令嬢ミリアーナは、OLだったときの食生活、趣味嗜好が影響され、日々の人間関係のストレスを食や趣味で発散するようになる。 濃い味付けやこってりとしたものが好きなミリアーナは、令嬢にあるまじきこと、いけないことだと認識しながらも、人が寝静まる深夜に人目を盗むようになにかと夜食を作り始める。 そんななかミリアーナの父ヴェスター、父の専属執事であり幼い頃自分の世話役だったジョンに夜食を作っているところを見られてしまうことが始まりで、ミリアーナの変わった趣味、食生活が世間に露見して――? ※恋愛要素は中盤以降になります。

料理スキルで完璧な料理が作れるようになったから、異世界を満喫します

黒木 楓
恋愛
 隣の部屋の住人というだけで、女子高生2人が行った異世界転移の儀式に私、アカネは巻き込まれてしまう。  どうやら儀式は成功したみたいで、女子高生2人は聖女や賢者といったスキルを手に入れたらしい。  巻き込まれた私のスキルは「料理」スキルだけど、それは手順を省略して完璧な料理が作れる凄いスキルだった。  転生者で1人だけ立場が悪かった私は、こき使われることを恐れてスキルの力を隠しながら過ごしていた。  そうしていたら「お前は不要だ」と言われて城から追い出されたけど――こうなったらもう、異世界を満喫するしかないでしょう。

異世界でのんびり暮らしてみることにしました

松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。

積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!

ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。 悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。

【完結】実家に捨てられた私は侯爵邸に拾われ、使用人としてのんびりとスローライフを満喫しています〜なお、実家はどんどん崩壊しているようです〜

よどら文鳥
恋愛
 フィアラの父は、再婚してから新たな妻と子供だけの生活を望んでいたため、フィアラは邪魔者だった。  フィアラは毎日毎日、家事だけではなく父の仕事までも強制的にやらされる毎日である。  だがフィアラが十四歳になったとある日、長く奴隷生活を続けていたデジョレーン子爵邸から抹消される運命になる。  侯爵がフィアラを除名したうえで専属使用人として雇いたいという申し出があったからだ。  金銭面で余裕のないデジョレーン子爵にとってはこのうえない案件であったため、フィアラはゴミのように捨てられた。  父の発言では『侯爵一家は非常に悪名高く、さらに過酷な日々になるだろう』と宣言していたため、フィアラは不安なまま侯爵邸へ向かう。  だが侯爵邸で待っていたのは過酷な毎日ではなくむしろ……。  いっぽう、フィアラのいなくなった子爵邸では大金が入ってきて全員が大喜び。  さっそくこの大金を手にして新たな使用人を雇う。  お金にも困らずのびのびとした生活ができるかと思っていたのだが、現実は……。

インチキ呼ばわりされて廃業した『調理時間をゼロにできる』魔法使い料理人、魔術師養成女子校の学食で重宝される

椎名 富比路
ファンタジー
イクタは料理の時間を省略できる魔法の才能があったが、インチキ呼ばわりされて廃業に。 魔法学校の学食に拾ってもらい、忙しい日々を送る。 仕事が一段落して作業場を片付けていたら、悪役令嬢デボラが学食フロアの隅で寝泊まりしようとしていた。 母国が戦争状態になったせいで、援助を止められてしまったらしい。 イクタは、デボラの面倒を見ることに。 その後も、問題を抱えた女生徒が、イクタを頼ってくる。 ボクシングのプロを目指す少女。 魔王の娘であることを隠す、ダークエルフ。 卒業の度に、変装して学生になりすます賢者。 番長と生徒会長。 イクタと出会い、少女たちは学び、変わっていく。

処理中です...