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第一章 学園編
057.鬼で悪魔で鬼畜なルシアン
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皇女が王城でのマンツーマンレッスンに突入してから二ヶ月が経つ。
王子からは何も報告がないので、どうなってるのかさっぱりだけど、まぁ、そういうことなんだろうと思う。
だって期末テストですし。しかも今日は最終日。
これは、皇女のお名前が掲示板に枠外として張り出されちゃうという、前代未聞の状況になっちゃうのでは?
スキップして三年生の仲間入りしたけど、皇女が王城に閉じ込められてしまうんだったら、頑張らなくても良かったかなーと言ったら、王子が否定した。
何でだろう。
モニカに同意を求めようと彼女の顔を見ると、頰を赤らめている。
……あぁ!
思わずぽん、と手を叩いてしまった。
モニカと王子の結婚式は来年に予定されてるもんね。
王子はモニカのことが大好きだから、早く結婚したいみたいだし、納得です。
「ミチル、デザートの白玉あんみつですよ」
私が選んだハヤシライスのランチプレートにはカットフルーツの盛り合わせが付いていて、ルシアンが選んだ煮魚のランチプレートには白玉あんみつが付いていたのだ。
ハヤシライスが食べたかったけど、あんみつも食べたくて迷っていたら、ルシアンが交換してくれるというので、ハヤシライスを選んだ。
「はい、あーん」
ルシアンがあんみつをスプーンで掬って食べさせようとしてくる。
えぇ……っ! カットフルーツと交換って、約束したのに!
「自分で食べられますっ、このカットフルーツと交換のお約束ですっ」
ルシアンはそうですか、と言ってスプーンのあんみつを食べてしまった。
「!!」
続けてスプーンで掬うと、また食べてしまう。
あああああああ、私のあんみつが……! ただでさえランチプレートに付いてる奴だから量が少ないのに……!
ちょっ、お待ちになって……!
ルシアンがにっこり微笑む。
「どうします?」
鬼! ルシアンの悪魔!!
でもっ、でもっ!!
「ルシアン、あんみつ、食べさせて下さいませ」
「いいですよ」
にこにこした笑顔でルシアンがあんみつをスプーンで掬い、私の口に運ぶ。
うぅっ、あんみつ美味しい……! 染み渡る味!!
恥ずかしいけど、あんみつには変えられない……! 背に腹は変えられないのです……!
「ねぇ、モニカ」
「私に弱点のスイーツはありませんわ」
赤い顔をしてモニカは王子から顔をそらしている。
これ絶対弱点スイーツあるな。
簡単に籠絡されておいてなんですが、モニカ、ふぁいと!
あんみつを食べ終わったので満足し、ルシアンにカットフルーツを押し付けておく。
ビタミンCを摂取したまえ。
はぁ……小豆、もっと安定して手に入らないかなぁ。
「こんなにミチルが小豆を好むのであれば、燕国から取り寄せるのもいいかも知れませんね」
「!」
さっきまで悪魔に見えたルシアンが、天使に見えてきた!
「是非!」
「でも燕国は交渉上手ですからね、気力も体力も必要そうです……」
ため息を吐くイケメン。やだ色っぽい!
いや、そうじゃなかった。
「私にお手伝い出来ることがあれば何でもしますわ、ルシアン!」
小豆! こしあん! つぶあん!
広がる甘味!
洋菓子も好きだけど、和菓子も大好き!
ルシアンの手をぎゅっと握る。
何が出来るのか分からないけど!
何でも応援しちゃう! 和菓子食べたい!!
「ありがとう、ミチル。夜にご相談しますね」
「はい!」
「……蟻地獄を見てる気持ちになったのは俺だけか?」と、ジェラルドが不思議なことを言っていた。
蟻地獄??
王子はいつもの笑顔で、「ルシアンは凄い参考になるよ。ねぇ、モニカ?」と話しかけてる。
真っ赤な顔でモニカがふるふる首を振ってる。
参考になる?
聞いた話だけど、ルシアンは交渉上手らしいから、そのことを言ってるんだろうな。
ほうじ茶の交渉はルシアンがやって、スムーズに進めたらしく、王子が関心してたし。
聞いてない!
こんなの聞いてないーっ!
「る、ルシアン……!」
小豆を燕国から輸入する為の相談だった筈……!
それなのになんでこんな、ベッドに押し倒されてるの!
しかも制服のまま!
「小豆の話を……!」
あぁ、と言ってルシアンは微笑むと、「ミチルに話を聞いていただいていたら、頑張れそうな気がしました」
ものの数分しか小豆の話してない!
しかもすぐに抱き上げられてベッドに運ばれてたし!
これの何処が相談だって言うの?!
ルシアンの腕の中から逃げようとしたら、完全に上に乗られてしまった!
上半身だけフリーでも逃げられない……!
いやーーっ!!
「でしたら……!」
微笑みながらルシアンはネクタイを緩める。
「!」
その仕草反則です!
前世から私が好きなその仕草を、よりによってこのイケメンがやった日には……!
ジャケットを脱いでベッドの外に投げる。
信じられない。こんな動きすらイケメンがやるとカッコいい!
いや、冷静に見とれてる場合じゃないのは分かってるのに、目が離せなくなってしまってる。
シャツもするりと脱ぎ、ベッドの外へ。
鍛えられてる身体が目に入ってきて、心臓の鼓動が早まる。くらっとしてしまった。
イケメンの鍛えられた上半身とか、卑怯すぎる!
あれに目がくらまない人なんているの?!
「小豆の話だけとは言ってませんよ?」
あぁ、ジェラルドの言ってた意味が今更分かったなんて、なんてアホなの私!
「そんな……!」
っていうかルシアン! 男の人なのに、何でこんなに女子の衣服を脱がせるのが得意なの?! どういうことなの!
この制服、結構着るの大変なんだよ?!
あっ、リボンが!
これ以上脱がせまいとしてうつ伏せになったのに、うなじにルシアンの唇が触れる。
「!」
後ろから抱きすくめられる。
そうかと思えばボタンが、見えてない筈なのにどんどん外されていく……!
えぇ……っ?!
ううぅっ、やだやだっ、まだお風呂も入ってないのに!
またしてもエマもリジーもセラまでいない!
みんなしてルシアンの味方ばっかりして!!
いくら夫婦だからって! こんな……!
恥ずかしいのにーっ!!
「先日のミチルはあんなに情熱的だったのに……もう私に飽きてしまいましたか?」
囁くように響くルシアンの声に、背中がぞくぞくする。
絶対わざと耳元で囁いてる!! 分かっててやってるこの鬼畜!
しかも心にもないことを聞いてくる!
鬼! 悪魔!
ジャケットが脱がされてしまった!
返してっ! 私の防寒具!
「そんなこと……っ!」
シャツ越しにルシアンの体温が伝わる。
それすら意識してしまう。
「ミチルは、耳が弱いんですよね」
そう言ってルシアンは私の耳を軽く噛む。
「……っ!」
ひぃ……っ。
それでもなんとか逃げようとしていた手を、上から握られ、耳元で「愛してますよ」と言われた瞬間に、私は陥落した。
*****
小豆から餡を作ってもらって、餡を使った新作スイーツを使った期間限定の燕国イベントをカフェで開くことになった。
「いやぁ、もうじき甥か姪に会えるんだと思うと、人生に張り合いが出てくるね」
なに言ってるんですか、ラトリア様!
燕国イベントで使う和風の陶器について、ラトリア様に相談しに来た。
パティシエに作ってもらった和菓子持参で。
何故ラトリア様が甥だの姪だの言ってるかと言えば、レンブラント公爵家にいるにもかかわらず、私がルシアンの膝の上にいるからです……。
抵抗はシタヨ……?
「お義兄様、気が早すぎます……!」
まだ学生なのに!
「そう? そんなことないよね? ルシアン」
「えぇ」
またこの兄弟は! こういう時だけ!!
「ふふ、ミチルの顔が真っ赤だよ。
ほらルシアン、これでも食べさせてもっと甘やかしてあげるといいよ」
ルシアンの前に出される私の大好きなマカロン。
「はい、兄上」
この前実の兄を目で射殺そうとしていたとは思えない程の別人っぷりで、素直に頷くルシアン。
ありえない! ありえないよ、この兄弟!!
「ミチル、あーん」
フォークで半分にカットされたマカロンが、目の前に運ばれる。
「自分で食べられます! 自分で食べたほうが緊張しないから美味しく感じられますっ!」
必死に抵抗する私に、ラトリア様は身体ごと背ける。肩がめっちゃ震えとる。
笑っておるな……?!
おのれ、ラトリア様……!
私の恥ずかしさを思い知らせようと、ルシアンに逆に食べさせても、喜ぶだけでまったく意味がないし!
防戦一方だからいけないのでは!?
思い付いたぞ?!
フォークを手にして、半分残ったマカロンをラトリア様に差し出す。
道連れって奴ですよ!
「はい、お義兄様、あーん」
「!?」
ラトリア様の顔色がサッと変わる。
「ミチル……いくらなんでも……」
ルシアンの手はフォークを持つ私の手を掴んでるけど、視線はラトリア様に。
「……兄上?」
ひんやりした笑顔が向けられてる。
「ルシアン安心して、兄は絶対食べないからね。
ミチルも止めて。兄を売らないで!」
「お義兄様が先に私を売るからですわっ」
私のフォークの先にあったマカロンは、ルシアンによって食べられてしまった。
「あ!」
あからさまにホッとした顔のラトリア様。黒い笑顔を私に向けるルシアン。
「ミチルにはお仕置きが必要ですね」
「?!」
それは予想外!!
「それともミチルは、お仕置きされたかったのですか?
お望みならいくらでもしてさしあげますよ?」
ルシアンの私の頰を撫でる指が恐ろしい……!
ひぃぃっ!
「イイエッ、メッソウモゴザイマセン」
ミチル如きがルシアン様に抵抗しようとしたことが、そもそもの間違いだったのだと、気付かされました。
……モウシマセン。モウシワケゴザイマセン。ゴメンナサイ。
*****
燕国イベント告知も完了し、残るは今日発表される期末試験の結果のみ! 自分の成績結果より、皇女がどう表示されるのかが気になってしまう。
廊下に張り出された結果を見に行こう、とモニカに誘われたので行ってみると、凄い人集り。
何だかいつもより多い気がする。二年生の順位表の前が……。
きっとみんな、同じことを考えてるんだろうと思う。
三年生の順位表を見る。
1位は当然の如くルシアン。
2位は殿下。
3位はフィオニア様。おぉーっ、お顔が美しいだけでなく、頭もいいのねー!
4位はモニカ。
5位は知らない3年生の人。
6位は私。良かった! セラに怒られないで済む!
ジェラルドも9位に入ってた。
健闘しました、私!
セラに10位以内に入らなかったら、ルシアン様からお仕置きしてもらうからね☆と脅されたので、必死だったよ……。
さて、二年生の順位表を見に行こうかな。
モニカが私の腕を掴み、首を横に振った。
「評価対象外になっておりましたわ」
やはり! っていうか一緒に来たのにいつの間に見て来たの?!
バタバタと皇女の取り巻きの人たちが走り去って行く。
これは、ついに……?
教室に戻った私の元に、手紙を持ったカーネリアン先生の従者がやって来た。
手紙? どうしたんだろう??
「何が書いてあったのです?」
「皇女のことで、相談があると……」
王子からは何も報告がないので、どうなってるのかさっぱりだけど、まぁ、そういうことなんだろうと思う。
だって期末テストですし。しかも今日は最終日。
これは、皇女のお名前が掲示板に枠外として張り出されちゃうという、前代未聞の状況になっちゃうのでは?
スキップして三年生の仲間入りしたけど、皇女が王城に閉じ込められてしまうんだったら、頑張らなくても良かったかなーと言ったら、王子が否定した。
何でだろう。
モニカに同意を求めようと彼女の顔を見ると、頰を赤らめている。
……あぁ!
思わずぽん、と手を叩いてしまった。
モニカと王子の結婚式は来年に予定されてるもんね。
王子はモニカのことが大好きだから、早く結婚したいみたいだし、納得です。
「ミチル、デザートの白玉あんみつですよ」
私が選んだハヤシライスのランチプレートにはカットフルーツの盛り合わせが付いていて、ルシアンが選んだ煮魚のランチプレートには白玉あんみつが付いていたのだ。
ハヤシライスが食べたかったけど、あんみつも食べたくて迷っていたら、ルシアンが交換してくれるというので、ハヤシライスを選んだ。
「はい、あーん」
ルシアンがあんみつをスプーンで掬って食べさせようとしてくる。
えぇ……っ! カットフルーツと交換って、約束したのに!
「自分で食べられますっ、このカットフルーツと交換のお約束ですっ」
ルシアンはそうですか、と言ってスプーンのあんみつを食べてしまった。
「!!」
続けてスプーンで掬うと、また食べてしまう。
あああああああ、私のあんみつが……! ただでさえランチプレートに付いてる奴だから量が少ないのに……!
ちょっ、お待ちになって……!
ルシアンがにっこり微笑む。
「どうします?」
鬼! ルシアンの悪魔!!
でもっ、でもっ!!
「ルシアン、あんみつ、食べさせて下さいませ」
「いいですよ」
にこにこした笑顔でルシアンがあんみつをスプーンで掬い、私の口に運ぶ。
うぅっ、あんみつ美味しい……! 染み渡る味!!
恥ずかしいけど、あんみつには変えられない……! 背に腹は変えられないのです……!
「ねぇ、モニカ」
「私に弱点のスイーツはありませんわ」
赤い顔をしてモニカは王子から顔をそらしている。
これ絶対弱点スイーツあるな。
簡単に籠絡されておいてなんですが、モニカ、ふぁいと!
あんみつを食べ終わったので満足し、ルシアンにカットフルーツを押し付けておく。
ビタミンCを摂取したまえ。
はぁ……小豆、もっと安定して手に入らないかなぁ。
「こんなにミチルが小豆を好むのであれば、燕国から取り寄せるのもいいかも知れませんね」
「!」
さっきまで悪魔に見えたルシアンが、天使に見えてきた!
「是非!」
「でも燕国は交渉上手ですからね、気力も体力も必要そうです……」
ため息を吐くイケメン。やだ色っぽい!
いや、そうじゃなかった。
「私にお手伝い出来ることがあれば何でもしますわ、ルシアン!」
小豆! こしあん! つぶあん!
広がる甘味!
洋菓子も好きだけど、和菓子も大好き!
ルシアンの手をぎゅっと握る。
何が出来るのか分からないけど!
何でも応援しちゃう! 和菓子食べたい!!
「ありがとう、ミチル。夜にご相談しますね」
「はい!」
「……蟻地獄を見てる気持ちになったのは俺だけか?」と、ジェラルドが不思議なことを言っていた。
蟻地獄??
王子はいつもの笑顔で、「ルシアンは凄い参考になるよ。ねぇ、モニカ?」と話しかけてる。
真っ赤な顔でモニカがふるふる首を振ってる。
参考になる?
聞いた話だけど、ルシアンは交渉上手らしいから、そのことを言ってるんだろうな。
ほうじ茶の交渉はルシアンがやって、スムーズに進めたらしく、王子が関心してたし。
聞いてない!
こんなの聞いてないーっ!
「る、ルシアン……!」
小豆を燕国から輸入する為の相談だった筈……!
それなのになんでこんな、ベッドに押し倒されてるの!
しかも制服のまま!
「小豆の話を……!」
あぁ、と言ってルシアンは微笑むと、「ミチルに話を聞いていただいていたら、頑張れそうな気がしました」
ものの数分しか小豆の話してない!
しかもすぐに抱き上げられてベッドに運ばれてたし!
これの何処が相談だって言うの?!
ルシアンの腕の中から逃げようとしたら、完全に上に乗られてしまった!
上半身だけフリーでも逃げられない……!
いやーーっ!!
「でしたら……!」
微笑みながらルシアンはネクタイを緩める。
「!」
その仕草反則です!
前世から私が好きなその仕草を、よりによってこのイケメンがやった日には……!
ジャケットを脱いでベッドの外に投げる。
信じられない。こんな動きすらイケメンがやるとカッコいい!
いや、冷静に見とれてる場合じゃないのは分かってるのに、目が離せなくなってしまってる。
シャツもするりと脱ぎ、ベッドの外へ。
鍛えられてる身体が目に入ってきて、心臓の鼓動が早まる。くらっとしてしまった。
イケメンの鍛えられた上半身とか、卑怯すぎる!
あれに目がくらまない人なんているの?!
「小豆の話だけとは言ってませんよ?」
あぁ、ジェラルドの言ってた意味が今更分かったなんて、なんてアホなの私!
「そんな……!」
っていうかルシアン! 男の人なのに、何でこんなに女子の衣服を脱がせるのが得意なの?! どういうことなの!
この制服、結構着るの大変なんだよ?!
あっ、リボンが!
これ以上脱がせまいとしてうつ伏せになったのに、うなじにルシアンの唇が触れる。
「!」
後ろから抱きすくめられる。
そうかと思えばボタンが、見えてない筈なのにどんどん外されていく……!
えぇ……っ?!
ううぅっ、やだやだっ、まだお風呂も入ってないのに!
またしてもエマもリジーもセラまでいない!
みんなしてルシアンの味方ばっかりして!!
いくら夫婦だからって! こんな……!
恥ずかしいのにーっ!!
「先日のミチルはあんなに情熱的だったのに……もう私に飽きてしまいましたか?」
囁くように響くルシアンの声に、背中がぞくぞくする。
絶対わざと耳元で囁いてる!! 分かっててやってるこの鬼畜!
しかも心にもないことを聞いてくる!
鬼! 悪魔!
ジャケットが脱がされてしまった!
返してっ! 私の防寒具!
「そんなこと……っ!」
シャツ越しにルシアンの体温が伝わる。
それすら意識してしまう。
「ミチルは、耳が弱いんですよね」
そう言ってルシアンは私の耳を軽く噛む。
「……っ!」
ひぃ……っ。
それでもなんとか逃げようとしていた手を、上から握られ、耳元で「愛してますよ」と言われた瞬間に、私は陥落した。
*****
小豆から餡を作ってもらって、餡を使った新作スイーツを使った期間限定の燕国イベントをカフェで開くことになった。
「いやぁ、もうじき甥か姪に会えるんだと思うと、人生に張り合いが出てくるね」
なに言ってるんですか、ラトリア様!
燕国イベントで使う和風の陶器について、ラトリア様に相談しに来た。
パティシエに作ってもらった和菓子持参で。
何故ラトリア様が甥だの姪だの言ってるかと言えば、レンブラント公爵家にいるにもかかわらず、私がルシアンの膝の上にいるからです……。
抵抗はシタヨ……?
「お義兄様、気が早すぎます……!」
まだ学生なのに!
「そう? そんなことないよね? ルシアン」
「えぇ」
またこの兄弟は! こういう時だけ!!
「ふふ、ミチルの顔が真っ赤だよ。
ほらルシアン、これでも食べさせてもっと甘やかしてあげるといいよ」
ルシアンの前に出される私の大好きなマカロン。
「はい、兄上」
この前実の兄を目で射殺そうとしていたとは思えない程の別人っぷりで、素直に頷くルシアン。
ありえない! ありえないよ、この兄弟!!
「ミチル、あーん」
フォークで半分にカットされたマカロンが、目の前に運ばれる。
「自分で食べられます! 自分で食べたほうが緊張しないから美味しく感じられますっ!」
必死に抵抗する私に、ラトリア様は身体ごと背ける。肩がめっちゃ震えとる。
笑っておるな……?!
おのれ、ラトリア様……!
私の恥ずかしさを思い知らせようと、ルシアンに逆に食べさせても、喜ぶだけでまったく意味がないし!
防戦一方だからいけないのでは!?
思い付いたぞ?!
フォークを手にして、半分残ったマカロンをラトリア様に差し出す。
道連れって奴ですよ!
「はい、お義兄様、あーん」
「!?」
ラトリア様の顔色がサッと変わる。
「ミチル……いくらなんでも……」
ルシアンの手はフォークを持つ私の手を掴んでるけど、視線はラトリア様に。
「……兄上?」
ひんやりした笑顔が向けられてる。
「ルシアン安心して、兄は絶対食べないからね。
ミチルも止めて。兄を売らないで!」
「お義兄様が先に私を売るからですわっ」
私のフォークの先にあったマカロンは、ルシアンによって食べられてしまった。
「あ!」
あからさまにホッとした顔のラトリア様。黒い笑顔を私に向けるルシアン。
「ミチルにはお仕置きが必要ですね」
「?!」
それは予想外!!
「それともミチルは、お仕置きされたかったのですか?
お望みならいくらでもしてさしあげますよ?」
ルシアンの私の頰を撫でる指が恐ろしい……!
ひぃぃっ!
「イイエッ、メッソウモゴザイマセン」
ミチル如きがルシアン様に抵抗しようとしたことが、そもそもの間違いだったのだと、気付かされました。
……モウシマセン。モウシワケゴザイマセン。ゴメンナサイ。
*****
燕国イベント告知も完了し、残るは今日発表される期末試験の結果のみ! 自分の成績結果より、皇女がどう表示されるのかが気になってしまう。
廊下に張り出された結果を見に行こう、とモニカに誘われたので行ってみると、凄い人集り。
何だかいつもより多い気がする。二年生の順位表の前が……。
きっとみんな、同じことを考えてるんだろうと思う。
三年生の順位表を見る。
1位は当然の如くルシアン。
2位は殿下。
3位はフィオニア様。おぉーっ、お顔が美しいだけでなく、頭もいいのねー!
4位はモニカ。
5位は知らない3年生の人。
6位は私。良かった! セラに怒られないで済む!
ジェラルドも9位に入ってた。
健闘しました、私!
セラに10位以内に入らなかったら、ルシアン様からお仕置きしてもらうからね☆と脅されたので、必死だったよ……。
さて、二年生の順位表を見に行こうかな。
モニカが私の腕を掴み、首を横に振った。
「評価対象外になっておりましたわ」
やはり! っていうか一緒に来たのにいつの間に見て来たの?!
バタバタと皇女の取り巻きの人たちが走り去って行く。
これは、ついに……?
教室に戻った私の元に、手紙を持ったカーネリアン先生の従者がやって来た。
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