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第一章 学園編
036.とろふわがお好き?
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ようやく、変成術の授業が始まった。
私やモニカ、ルシアンや王子、ジェラルドは変成術の講義でフォローに回っている。
何しろ先生は感覚の人だから、先生の言葉で変成術をマスターするのは難易度高い。
先生には、もうちょっと説明方法を変えたほうがいいと五人がかりで説明して納得してもらい、私たちに教えてくれた時よりは格段に分かりやすくなっていた。
説明内容は主に王子とモニカが考えていた。
今日はカーネリアン先生の執務室に集まっている。
そしてみんな難しい顔をしている。
何故難しい顔をしているのかと言えば、皇国で魔力の器の再測定が行われ、皇女も測定してもらった筈なのに、皇女は頑なにオフィーリア学園への編入を強行しようとしているからである。
思っていた通りではあるのだが、まぁ、難しい顔になるよね、そりゃ。
しかも皇女が学園に通う為の住居の準備をしろと、うちの王室に言ってきてるらしい。
清々しい程に厚かましい!
招かれてないってのにこの厚かましさ。
ここにもいるよ、鋼メンタル。もはや鋼を超えてウーツ鋼とかかも知れない。ウーツ鋼が何なのかよく知らないけど、鋼より強そう。
「その為にわざわざ屋敷を用意する訳にもいかないから、王城で預かることになると思う。
歓迎していないけど、歓迎パーティーをすることになると思うし、ここにいる全員呼ばれるから、覚悟しておいてね」
黒い笑顔で王子がふふふ、と笑った。
怒ってる!
めっちゃ怒ってらっしゃる!
モニカ様も怒ってる!
私の頭では一夫多妻制のこの世界で、ルシアンの嫁に皇女がぐいぐい来るであろう未来を止められる策が思い付かない。
ルシアンも、アルト侯爵も、その辺を聞くと大丈夫、と答えるのだ。
その大丈夫な理由を教えて欲しいのだけど、教えてくれない。
何がどう大丈夫なんだ。
「研究室での集まりにも、皇女が割り込んでくる可能性が高い。先生の執務室も安全とは言えない」
こ、皇女……キャロルより凄そう……。
権力を最大限に活かす悪役皇女だね……。
「来年度は私たち五人は同じクラスになる。皇女は別クラスにしたいが、多分無理を言ってくるだろうから、同じクラスになると思う。
皇女が供として連れて来ることが確定してるのは、皇国の伯爵家の令息、令嬢が主だ。
現皇室は公爵、侯爵両陣営から背を向けられているし、わざわざ我が国に来る必要など無いからね、付いて来るのは皇国内での立場を良くしたいと思っている伯爵家だけらしい」
何処にでも、そういった輩はいるものです。
うちの父とか、うちの父とか、うちの父とか?
「皇女が来てからどう連絡を取り合うか、どうやって研究を続けていくか、考えておいて欲しい。当然、私も考えるから」
私の所為で多忙を極めているのに、更に皇女対策まで……王子、長生きしてね……。
私が言うなって感じだけど。
今日はきのこ料理です。
先日侯爵に料理を振る舞えなかった料理長に懇願され、私の知る料理のレシピを教えることになりました。
私も出来れば食事は和食が嬉しいので、これは有り難い。
世の中に出回ってる和食は偏りがあって、何故か魚の干物ばかりが豊富な訳なんだが、毎日干物はなぁ。
なんでこんなに歪なんだろうと思ったら、かつての転生者の影響なのだとルシアンが言った。
かつて訪れた転生者は恐ろしく魚が好きで、毎日干物でも、魚の種類さえ違ってれば大丈夫だったようだ。
そんなことまで記録されんの?! と内心悲鳴を上げていたら、なんて事はない、その転生者の日記が残っているのだそうだ。そこに延々と魚愛が綴られていたと。
私、日記書いた事まともに無いけど、今後も書かない。だって、転生者が書いたと言う理由だけでずっと保管されるなんて耐えられない! 後世の為とか無理!
和食の調味料が多いのも、その転生者が人生かけて作らせたとかなんとか。
冷蔵庫やレンジなんかも別の転生者によって開発されたらしい。
……と、言うことは、その転生者達は割と現代に生きていたのではないだろうか。
時間の流れ的な問題なのか、転生する先はその世界の最新ではない、ということなのか、検証は出来ないけれど、間違いないのは、その転生者達が私と同じ現代人であり、日本人だった、ということだ。
転生者の趣味嗜好が反映された結果が、現代の不思議な和食事情だということはよく分かった。
ちなみにその転生者は平民出身者だったようで、変成術は使えなかったとのこと。
上位貴族と結婚して囲い込まれはしたけど、それはそれで有意義に生きていたようだ。
料理長も和食は知ってるけど、なにぶん干物料理ばかりだから、関心が湧かなかったようである。
そりゃそうだ。
だから、ルシアンから照り焼きチキンのレシピを渡された時、和食とは思えなかったと。
チキン南蛮と菊花かぶのレシピも教えてあげたんだけど、それも驚いていた。
そんな訳できのこ料理です。
和食を、と言われてしまったので、きのこのかぶら蒸しと、きのこの炊き込みご飯と、きのこの天ぷらを作ることにした。
まず、きのこの炊き込みご飯。
時間かかるからね。
料理長もお米の炊き方は知ってるけど、作るにしてもリゾットが多い、ということなので、一から教えることにした。
米を研ぎ、しめじとマイタケを一口大に切り、油揚げも同様に切っておく。
油抜きが面倒なので乾いた布巾でさっと油拭いちゃう。
土鍋に米ときのこ、油揚げを入れて浸水させておく。
炊き込みご飯も、作り方はピンからキリまであるんだろうけど、横着な私はこんな作り方でいつも作ってしまってる。
さて、次はきのこのかぶら蒸し。
和食に向いてるきのこを複数種類用意して、石づきを取っておく。
食感を楽しみたいので、あまり小さくする必要なし。
調味料のだし、醤油、酒、みりんを鍋に入れてひと煮立ちさせたところにきのこをわさっと投入する。
その間にかぶをすり下ろしておく。あんまり水分が出ると困るので、おろし金の目の荒いほうでザリザリとかぶをすり下ろす。
当然水分は出るので、ガーゼ類で包んで軽く絞る。絞り切るとぱっさぱさになっちゃうので、程々に。
何故おろし金があるんだろうと思っていたけど、これ、あれでしょ、サンマ! サンマのお供に大根おろし作る為に作ったんだと思うよ、このおろし金!
ボウルに卵白入れて、塩もちょっと入れてほぐし、すり下ろしたかぶと混ぜる。
お皿にきのこと、きのこを煮ていた煮汁を少し、その上にかぶをのせたものを、準備しておいた蒸し器の中に入れて蒸す。
菜箸を置いて布巾をかぶせて蓋みたいにして、5分程蒸す。
その間に蒸しあがったかぶら蒸しにかける調味料を、作っておく。
とろみを付けたいので片栗粉入りですよ。
ちなみに私は横着なので、さっききのこを煮るのに使った煮汁に、片栗粉をインしちゃう。
っていうか、こんな適当なレシピ教えられて料理長大丈夫かな……。
最後は天ぷらですね。これは揚げたてが美味しいので、最後です。
食用の菊はこちらにはないみたいなので諦めた。
きのこと栗を適当な大きさに割っておいた奴を、衣の中にくぐらせる。
かき揚げですな、かき揚げ。
衣はさっきのかぶら蒸しで余った卵黄と、薄力粉と、水をよくかき混ぜておいたもの。
深めのフライパンにたっぷりの油を入れて温めている間に、大根と生姜をすりおろし、天つゆを作っておく。
以前の転生者は天つゆまでは伝授してくれてなかったようなので、作る。
だし、砂糖、醤油、みりんを鍋に入れて軽く煮立たせておく。
そうこうしてる内にフライパンの油の温度が上がってきているようなので、浅めのお玉で具と衣を掬い、油の中に投入する。
すぐにしゅわしゅわーっと音を立てて、かき揚げの周りが泡立つ。
次のかき揚げを鍋に投入し、前に入れたかき揚げとぶつからないようにしながら、あげていく。
沈んでいたかき揚げが、火が入るにつれ浮かんでくる。
色が少し付いてきて、箸でコツコツと叩くといい感じの固さになっていればOK!
何枚も重ねておいたキッチンペーパーの上に上がったかき揚げをのせていき、全部揚げ終えたら完成です!
ワゴンに料理を乗せ、ルシアンの待つ食堂に向かう。
ルシアンは今回も見学したいと言ったのだけど、私のキッチンならいいけど、厨房は駄目です、とロイエに止められてた。
その違いが私にはさっぱり分からないよ、ロイエ?
既に着席しているルシアンの前に、きのこのかき揚げが積み重ねられた大皿と、かぶら蒸しと、きのこの炊き込みご飯を置く。
天つゆの入った器も置く。不思議そうにルシアンは天つゆを見つめている。
真っ黒だもんね、不思議だよねぇ。
ロイエが慣れた手付きでルシアンのお皿にかき揚げをのせる。
「これはかき揚げです。きのこと栗が入ってます。
こちらの天つゆに付けて召し上がるか、塩をかけてお召し上がりになって下さいね」
ルシアンはかき揚げを口に入れた。さくり、といういい音。
最初は何も付けないで食べる派なのか。続いて塩。次に天つゆに付けて食べる。
うんうん、と頷く。
「サクサクして、美味しいです。」
口をぎゅっとはしないので、普通に美味しかったらしい。
次にかぶら蒸し。
とろふわになったかぶのすりおろしと、きのこを口に入れる。
とろみのある調味料の味は若干濃い目だが、かぶのとろふわがそれを緩和させる。
「不思議です……」
そう言ってぱくぱく、と次々口に入れていく。
口をぎゅっとはしてないけど、これも美味しかったようだ。
ぺろりと食べてしまった。
とろふわ好きなのかな。とろふわオムライスでも作ったら喜ぶかな?
ルシアン、炊き込みご飯が残ってるよ。
三角食べしないと駄目だよ。
フレンチに慣れ親しんでるからなのか、ルシアンは一点集中する。
炊き込みご飯を口に入れるルシアン。
「これは、ほっとする味ですね。疲れているときに食べたいです」
あぁ、なんかそれ分かるー。
おにぎり食べるとほっとするもんなぁ。
「ルシアンが夜にお仕事する時のお夜食に良さそうですわね」
ぴく、とルシアンが反応する。
あれからも結局、ルシアンは夜に仕事をしている。
私、あんまり役に立ってない……。
なのでせめて夜食ぐらい……。
「夜食としてミチルの作ったご飯が食べられるのですか?
それは、幸せですね」
ふわっとした笑みを浮かべるルシアン。
本当、食べ物関連だと年相応の顔になるなぁ。
「では、余ったのを冷凍して、お夜食にお持ちいたします」
エマが知ってる料理は、エマから料理長に教えてもらうことになった。彼女も私から教わって大分作れるようになってるからね。
フレアージュ侯爵にお渡しする用の、プレゼントの意味を思い出しながら紙に書き出していた。
腕時計は親から子にであれば、勉強頑張れ、の意味を持つ。
イヤリングなら、いつでも自分の存在を感じて欲しい。これはピアスだった気もする。でもこの世界ピアスないからイヤリングで。
ブレスレットなら、あなたを独占したい。
口紅はあなたにキスしたい。
あまり後ろ向きなものは流行って欲しくないから、教えないことにする。
「なるほど、口紅ですか……」
声に気が付いて顔を上げると、ルシアンが立っていた。
い、いつの間に!!
慌てて紙を隠すけど、時すでに遅しだとは、我ながら思う……。
「今度プレゼントします」
「結構ですっ」
私の言葉を無視してルシアンは私を椅子から立ち上がらせると、そのままお姫様抱っこしてソファに向かう。
「ルシアン、お仕事は終わったのですか?」
もう色々諦めてるので、されたままにしておく。
落とされても困るし。
実はお姫様抱っこが好きとか、そういうのでは、決してないよ?
「少し疲れたのでミチルに癒されに来ました」
「あ、それでしたら膝枕とか?」
「膝枕」
なるほど、と言ってソファに座る。
普通、癒されたくて来た人がいて、癒す相手が膝枕と言ったならば、私がルシアンに膝枕するのが普通じゃない?!
なんで私が膝枕されてるの?!
「これはなかなか、癒されますね」
「癒されてるのは私ですわっ」
ルシアンはふふ、と笑いながら私の髪を指で梳く。
「ミチルに膝枕されたら、色々我慢出来なくなりそうなので、止めておきます」
色々我慢出来なくなる、という言葉が頭の中をぐるぐる回る。
「顔が赤いです。想像したの?」
「秘密です」
「夫婦の間に秘密はよくありませんね……」
そう言うなりルシアンは私の体を起こして膝に座らせる。
ピンチ!!
ピンチです!!
「る、ルシアンだって私に沢山秘密をお持ちでしょう?!」
長い指が頰を撫でる。
いやーっ、何回撫でられても恥ずかしいものは恥ずかしいのーっ!
「伯爵位を持つ者としては秘密はありますが、夫婦としてはありませんよ?」
ルシアンの顔が近付いてくるのを、必死に両手で押さえて「そ、そんなの詭弁ですー!」と抵抗する。
「さぁ、何を想像なさったのか、夫に話して下さい。言うまで口付けします。ですから、言わなくても結構ですよ?」
え、なにそれ!
口付けも困るけど、想像も口には出来ぬ!
そんなこと口にしたら破廉恥罪で捕まっちゃう!!
私やモニカ、ルシアンや王子、ジェラルドは変成術の講義でフォローに回っている。
何しろ先生は感覚の人だから、先生の言葉で変成術をマスターするのは難易度高い。
先生には、もうちょっと説明方法を変えたほうがいいと五人がかりで説明して納得してもらい、私たちに教えてくれた時よりは格段に分かりやすくなっていた。
説明内容は主に王子とモニカが考えていた。
今日はカーネリアン先生の執務室に集まっている。
そしてみんな難しい顔をしている。
何故難しい顔をしているのかと言えば、皇国で魔力の器の再測定が行われ、皇女も測定してもらった筈なのに、皇女は頑なにオフィーリア学園への編入を強行しようとしているからである。
思っていた通りではあるのだが、まぁ、難しい顔になるよね、そりゃ。
しかも皇女が学園に通う為の住居の準備をしろと、うちの王室に言ってきてるらしい。
清々しい程に厚かましい!
招かれてないってのにこの厚かましさ。
ここにもいるよ、鋼メンタル。もはや鋼を超えてウーツ鋼とかかも知れない。ウーツ鋼が何なのかよく知らないけど、鋼より強そう。
「その為にわざわざ屋敷を用意する訳にもいかないから、王城で預かることになると思う。
歓迎していないけど、歓迎パーティーをすることになると思うし、ここにいる全員呼ばれるから、覚悟しておいてね」
黒い笑顔で王子がふふふ、と笑った。
怒ってる!
めっちゃ怒ってらっしゃる!
モニカ様も怒ってる!
私の頭では一夫多妻制のこの世界で、ルシアンの嫁に皇女がぐいぐい来るであろう未来を止められる策が思い付かない。
ルシアンも、アルト侯爵も、その辺を聞くと大丈夫、と答えるのだ。
その大丈夫な理由を教えて欲しいのだけど、教えてくれない。
何がどう大丈夫なんだ。
「研究室での集まりにも、皇女が割り込んでくる可能性が高い。先生の執務室も安全とは言えない」
こ、皇女……キャロルより凄そう……。
権力を最大限に活かす悪役皇女だね……。
「来年度は私たち五人は同じクラスになる。皇女は別クラスにしたいが、多分無理を言ってくるだろうから、同じクラスになると思う。
皇女が供として連れて来ることが確定してるのは、皇国の伯爵家の令息、令嬢が主だ。
現皇室は公爵、侯爵両陣営から背を向けられているし、わざわざ我が国に来る必要など無いからね、付いて来るのは皇国内での立場を良くしたいと思っている伯爵家だけらしい」
何処にでも、そういった輩はいるものです。
うちの父とか、うちの父とか、うちの父とか?
「皇女が来てからどう連絡を取り合うか、どうやって研究を続けていくか、考えておいて欲しい。当然、私も考えるから」
私の所為で多忙を極めているのに、更に皇女対策まで……王子、長生きしてね……。
私が言うなって感じだけど。
今日はきのこ料理です。
先日侯爵に料理を振る舞えなかった料理長に懇願され、私の知る料理のレシピを教えることになりました。
私も出来れば食事は和食が嬉しいので、これは有り難い。
世の中に出回ってる和食は偏りがあって、何故か魚の干物ばかりが豊富な訳なんだが、毎日干物はなぁ。
なんでこんなに歪なんだろうと思ったら、かつての転生者の影響なのだとルシアンが言った。
かつて訪れた転生者は恐ろしく魚が好きで、毎日干物でも、魚の種類さえ違ってれば大丈夫だったようだ。
そんなことまで記録されんの?! と内心悲鳴を上げていたら、なんて事はない、その転生者の日記が残っているのだそうだ。そこに延々と魚愛が綴られていたと。
私、日記書いた事まともに無いけど、今後も書かない。だって、転生者が書いたと言う理由だけでずっと保管されるなんて耐えられない! 後世の為とか無理!
和食の調味料が多いのも、その転生者が人生かけて作らせたとかなんとか。
冷蔵庫やレンジなんかも別の転生者によって開発されたらしい。
……と、言うことは、その転生者達は割と現代に生きていたのではないだろうか。
時間の流れ的な問題なのか、転生する先はその世界の最新ではない、ということなのか、検証は出来ないけれど、間違いないのは、その転生者達が私と同じ現代人であり、日本人だった、ということだ。
転生者の趣味嗜好が反映された結果が、現代の不思議な和食事情だということはよく分かった。
ちなみにその転生者は平民出身者だったようで、変成術は使えなかったとのこと。
上位貴族と結婚して囲い込まれはしたけど、それはそれで有意義に生きていたようだ。
料理長も和食は知ってるけど、なにぶん干物料理ばかりだから、関心が湧かなかったようである。
そりゃそうだ。
だから、ルシアンから照り焼きチキンのレシピを渡された時、和食とは思えなかったと。
チキン南蛮と菊花かぶのレシピも教えてあげたんだけど、それも驚いていた。
そんな訳できのこ料理です。
和食を、と言われてしまったので、きのこのかぶら蒸しと、きのこの炊き込みご飯と、きのこの天ぷらを作ることにした。
まず、きのこの炊き込みご飯。
時間かかるからね。
料理長もお米の炊き方は知ってるけど、作るにしてもリゾットが多い、ということなので、一から教えることにした。
米を研ぎ、しめじとマイタケを一口大に切り、油揚げも同様に切っておく。
油抜きが面倒なので乾いた布巾でさっと油拭いちゃう。
土鍋に米ときのこ、油揚げを入れて浸水させておく。
炊き込みご飯も、作り方はピンからキリまであるんだろうけど、横着な私はこんな作り方でいつも作ってしまってる。
さて、次はきのこのかぶら蒸し。
和食に向いてるきのこを複数種類用意して、石づきを取っておく。
食感を楽しみたいので、あまり小さくする必要なし。
調味料のだし、醤油、酒、みりんを鍋に入れてひと煮立ちさせたところにきのこをわさっと投入する。
その間にかぶをすり下ろしておく。あんまり水分が出ると困るので、おろし金の目の荒いほうでザリザリとかぶをすり下ろす。
当然水分は出るので、ガーゼ類で包んで軽く絞る。絞り切るとぱっさぱさになっちゃうので、程々に。
何故おろし金があるんだろうと思っていたけど、これ、あれでしょ、サンマ! サンマのお供に大根おろし作る為に作ったんだと思うよ、このおろし金!
ボウルに卵白入れて、塩もちょっと入れてほぐし、すり下ろしたかぶと混ぜる。
お皿にきのこと、きのこを煮ていた煮汁を少し、その上にかぶをのせたものを、準備しておいた蒸し器の中に入れて蒸す。
菜箸を置いて布巾をかぶせて蓋みたいにして、5分程蒸す。
その間に蒸しあがったかぶら蒸しにかける調味料を、作っておく。
とろみを付けたいので片栗粉入りですよ。
ちなみに私は横着なので、さっききのこを煮るのに使った煮汁に、片栗粉をインしちゃう。
っていうか、こんな適当なレシピ教えられて料理長大丈夫かな……。
最後は天ぷらですね。これは揚げたてが美味しいので、最後です。
食用の菊はこちらにはないみたいなので諦めた。
きのこと栗を適当な大きさに割っておいた奴を、衣の中にくぐらせる。
かき揚げですな、かき揚げ。
衣はさっきのかぶら蒸しで余った卵黄と、薄力粉と、水をよくかき混ぜておいたもの。
深めのフライパンにたっぷりの油を入れて温めている間に、大根と生姜をすりおろし、天つゆを作っておく。
以前の転生者は天つゆまでは伝授してくれてなかったようなので、作る。
だし、砂糖、醤油、みりんを鍋に入れて軽く煮立たせておく。
そうこうしてる内にフライパンの油の温度が上がってきているようなので、浅めのお玉で具と衣を掬い、油の中に投入する。
すぐにしゅわしゅわーっと音を立てて、かき揚げの周りが泡立つ。
次のかき揚げを鍋に投入し、前に入れたかき揚げとぶつからないようにしながら、あげていく。
沈んでいたかき揚げが、火が入るにつれ浮かんでくる。
色が少し付いてきて、箸でコツコツと叩くといい感じの固さになっていればOK!
何枚も重ねておいたキッチンペーパーの上に上がったかき揚げをのせていき、全部揚げ終えたら完成です!
ワゴンに料理を乗せ、ルシアンの待つ食堂に向かう。
ルシアンは今回も見学したいと言ったのだけど、私のキッチンならいいけど、厨房は駄目です、とロイエに止められてた。
その違いが私にはさっぱり分からないよ、ロイエ?
既に着席しているルシアンの前に、きのこのかき揚げが積み重ねられた大皿と、かぶら蒸しと、きのこの炊き込みご飯を置く。
天つゆの入った器も置く。不思議そうにルシアンは天つゆを見つめている。
真っ黒だもんね、不思議だよねぇ。
ロイエが慣れた手付きでルシアンのお皿にかき揚げをのせる。
「これはかき揚げです。きのこと栗が入ってます。
こちらの天つゆに付けて召し上がるか、塩をかけてお召し上がりになって下さいね」
ルシアンはかき揚げを口に入れた。さくり、といういい音。
最初は何も付けないで食べる派なのか。続いて塩。次に天つゆに付けて食べる。
うんうん、と頷く。
「サクサクして、美味しいです。」
口をぎゅっとはしないので、普通に美味しかったらしい。
次にかぶら蒸し。
とろふわになったかぶのすりおろしと、きのこを口に入れる。
とろみのある調味料の味は若干濃い目だが、かぶのとろふわがそれを緩和させる。
「不思議です……」
そう言ってぱくぱく、と次々口に入れていく。
口をぎゅっとはしてないけど、これも美味しかったようだ。
ぺろりと食べてしまった。
とろふわ好きなのかな。とろふわオムライスでも作ったら喜ぶかな?
ルシアン、炊き込みご飯が残ってるよ。
三角食べしないと駄目だよ。
フレンチに慣れ親しんでるからなのか、ルシアンは一点集中する。
炊き込みご飯を口に入れるルシアン。
「これは、ほっとする味ですね。疲れているときに食べたいです」
あぁ、なんかそれ分かるー。
おにぎり食べるとほっとするもんなぁ。
「ルシアンが夜にお仕事する時のお夜食に良さそうですわね」
ぴく、とルシアンが反応する。
あれからも結局、ルシアンは夜に仕事をしている。
私、あんまり役に立ってない……。
なのでせめて夜食ぐらい……。
「夜食としてミチルの作ったご飯が食べられるのですか?
それは、幸せですね」
ふわっとした笑みを浮かべるルシアン。
本当、食べ物関連だと年相応の顔になるなぁ。
「では、余ったのを冷凍して、お夜食にお持ちいたします」
エマが知ってる料理は、エマから料理長に教えてもらうことになった。彼女も私から教わって大分作れるようになってるからね。
フレアージュ侯爵にお渡しする用の、プレゼントの意味を思い出しながら紙に書き出していた。
腕時計は親から子にであれば、勉強頑張れ、の意味を持つ。
イヤリングなら、いつでも自分の存在を感じて欲しい。これはピアスだった気もする。でもこの世界ピアスないからイヤリングで。
ブレスレットなら、あなたを独占したい。
口紅はあなたにキスしたい。
あまり後ろ向きなものは流行って欲しくないから、教えないことにする。
「なるほど、口紅ですか……」
声に気が付いて顔を上げると、ルシアンが立っていた。
い、いつの間に!!
慌てて紙を隠すけど、時すでに遅しだとは、我ながら思う……。
「今度プレゼントします」
「結構ですっ」
私の言葉を無視してルシアンは私を椅子から立ち上がらせると、そのままお姫様抱っこしてソファに向かう。
「ルシアン、お仕事は終わったのですか?」
もう色々諦めてるので、されたままにしておく。
落とされても困るし。
実はお姫様抱っこが好きとか、そういうのでは、決してないよ?
「少し疲れたのでミチルに癒されに来ました」
「あ、それでしたら膝枕とか?」
「膝枕」
なるほど、と言ってソファに座る。
普通、癒されたくて来た人がいて、癒す相手が膝枕と言ったならば、私がルシアンに膝枕するのが普通じゃない?!
なんで私が膝枕されてるの?!
「これはなかなか、癒されますね」
「癒されてるのは私ですわっ」
ルシアンはふふ、と笑いながら私の髪を指で梳く。
「ミチルに膝枕されたら、色々我慢出来なくなりそうなので、止めておきます」
色々我慢出来なくなる、という言葉が頭の中をぐるぐる回る。
「顔が赤いです。想像したの?」
「秘密です」
「夫婦の間に秘密はよくありませんね……」
そう言うなりルシアンは私の体を起こして膝に座らせる。
ピンチ!!
ピンチです!!
「る、ルシアンだって私に沢山秘密をお持ちでしょう?!」
長い指が頰を撫でる。
いやーっ、何回撫でられても恥ずかしいものは恥ずかしいのーっ!
「伯爵位を持つ者としては秘密はありますが、夫婦としてはありませんよ?」
ルシアンの顔が近付いてくるのを、必死に両手で押さえて「そ、そんなの詭弁ですー!」と抵抗する。
「さぁ、何を想像なさったのか、夫に話して下さい。言うまで口付けします。ですから、言わなくても結構ですよ?」
え、なにそれ!
口付けも困るけど、想像も口には出来ぬ!
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