転生を希望します!

黛 ちまた

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第一章 学園編

024.悪役令嬢の才能に目覚めました?

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 昨日に引き続き、今日は組成の講義です!
 分解ではデネブ先生に便利に使われましたが、今日もまた便利に使われることでしょう!
 分かってますよ!

「それでは、本日は組成です。組成では、そこにあるもので何を作るのかを想像するだけでいいのです。ただ、必要な要素がなければ出来ませんのよ。何を組成していただこうかしら……」

 そう言って、先生は鉛筆を授業の時同様に芯の抜けた木の棒とダイアモンドに変成させた。
 それからまたすぐにダイアモンドを消し、鉛筆の芯に戻した。
 考えごとをしながら、鉛筆をくるくる回す仕草があるけど、どうやらデネブ先生にとっての鉛筆くるくるは、この鉛筆の芯をダイアモンドにして元の芯に戻すことのようだ。
 高度すぎんだろ!

 天才すぎる! と思いながら先生が机に持った鉛筆を手に取り、目を閉じる。
 先生がやっていた姿を思い出す。鉛筆の芯は、煙のように消えて、煙の中からダイアモンドが出てきた。
 分解したいのは木ではなく、芯部分のみだ。
 木と炭素に分解してみた後、炭素をダイアモンドにした。
 目を開けると、芯の抜けた木と、ダイアモンドが出来ていた。
 それからまた炭素に戻して、鉛筆の芯に作り直した。
 当たり前だけど、先生のように一瞬では出来なかったわー。そしてちょっと疲れた。
 なんていうか、プールで泳いだ後の、おなかがすーっと空いてる感じに似てる。

 デネブ先生はちょっと困った顔になって、「こんな簡単に成功されてしまうと、さすがに教師としても、カーネリアン家の一員としても、複雑な気持ちです」と言った。

「多分、他のものはこんなすぐには出来ませんね。これは、二度、先生が目の前で実演されてますから、とてもイメージしやすかったのです」

 いや、本当に。
 百聞は一見にしかずというけれど、目の前で見たものに勝る情報量はないと思う。
 続いてルシアン、王子、モニカ、ジェラルドが実演してみたけど、時間のかかり方は違っても、みんな成功していた。

「皆さまが今やったのは変成です。組成をやっていただきたいんですよ、本日は」

 もー、と先生は言うが、先生が目の前でやるのがいけないんじゃなかろうか? とは言え、私は自分の中で、分解や組成のイメージが出来つつあった。
 これは、本当にセンスの問題なのかもしれない。
 イメージ出来ないと形が出来ない気がする。そうそう、この前、魔石を電池に変形させてみた時も、私は電池の形を知っているからすぐに作れたけど、モニカはそうじゃなかった。
 そうであるならば、前世のものを再現させようとするなら、私が思い出して作り出せなければいけないということだ。

「先生、紙を百枚ぐらいいただけますか?」

  先生は引き出しから紙を大量に出してくれた。
 前世の紙とは違って、大分厚みのある紙だ。その紙を十枚ぐらい手にして、前世では大変お世話になったファイルボックスをイメージする。
 目を開けると、私が想像していたものが出来ていた。おおーっ、初めてにしては上手くいったんじゃー?
 王子たちが不思議なものを見る目でファイルボックスを見る。ルシアンはファイルボックスを手に取り、色んな角度で眺めている。

「ミチル、これは何ですか?」

「ファイルボックスといいます。同じものをあと三つ程作りますので、少々お待ち下さい」

「私も作ってみたいです」とルシアン。

 それならばと王子とジェラルド、モニカもファイルボックスを作ってくれた。

「それで、これはどうやって使うものなの?」

 デネブ先生も不思議そうな物を見るようにファイルボックスを手に取って見つめている。

「これはですね、こうやって使います」

 ファイルボックスを五つ、テーブルの上に並べる。
 先生の机の上にある調査結果を手に取る。
 ……うん、これは大丈夫。

「これは、必須項目が全て記入されているので、こちらのファイルボックスに入れます」

 一番左に置いたファイルボックスに入れる。
 次の書類は丁度良いことに、必要な項目に答えてないのがあった為、左から二番目のファイルボックスに入れた。

「これは、足りない部分があったので、こちらに」

「なるほど、仕分けに使うのに便利そうだ」

 関心するように王子が頷いた。

「じゃあ、必要項目が何なのか教えてくれ。それで仕訳けていけばいいんだろう?」

 やることが決まれば早いとばかりにジェラルドも立ち上がった。

 必要項目は、
 ・何処に魔力の器が存在するか
 ・魔導値はいくつか
 ・子供がいる場合、子供は16歳以上であれば、魔力の有無
 この三つ。
 これが一つでも欠けていたら、不足ありとする。全てに回答されていたら、問題なしとする。

「ミチル様、このファイルボックスには文字を書き込んでもよろしくて?」

 大丈夫ですよ、と答えると、モニカがファイルボックスに”問題なし”と”不足あり”と記入した。
 それから私はもう一つ、”その他”と記入した。

「その他?」

「こういう調査をすると、何故、と思うようなものが混じったりするのです。なので、そういった回答を入れておくようですね」

 先生を含めて六人で回答をそれぞれ”問題なし””不足あり””その他”に分類していく。
 ファイルボックス一つでは足りなくなってきて、紙を手にしてファイルボックスを作ったときに、多く取り過ぎていたのだろう、一枚、残った。

 ……ふむ?
 今度は一枚足りない状態で組成してみた。そうすると、一部欠けた状態のファイルボックスが出来た。
 なるほど?
 過不足に応じて組成されるってこと? それで、多かった分は消費されずに残るのか。
 ということは、紙の束数十枚の上に手をのせた状態で目を閉じ、ファイルボックスを組成してみると、紙の束が少し減って、新しいファイルボックスが出来ていた。
 これは便利。数えなくても、私の思っているサイズに必要な分の紙が消費されるという訳か。
 イメージとしては、コピー機などの用紙入れから、必要なだけを取り出している、という感じ。
 それから、先ほどの一枚足りない状態で作ったファイルボックスと一枚の紙を片方ずつの手に取って分解と組成を行ってみる。
 ……お、出来た出来た。

「ミチル、何となくやっていたことは理解していますが、一連の流れを説明していただいても?」

 ルシアンに言われたので、自分が試していたことを説明する。デネブ先生はうんうん頷いている。
 間違っていなかったようだ。

「さて、皆さま、本日はここまでにしましょう」

 ファイルボックスを棚にしまう時、ボックスごとそのまま棚に入れられる為、先生が凄い感動していた。

「これは便利ねぇ」

「紙ですから、あまり重いものは入れられませんけれど、持ち運びもしやすいのです」

 棚にファイルボックスをしまってから、みんなでテーブルにつき、豆腐ブラウニーを食べ、ひと息ついた。

「まぁまぁ、こんなに美味しいのに豆腐が入っているなんて、不思議ですわ。さらに太りにくいだなんて、夢のようなお菓子ですこと」

 デネブ先生は甘いものに目がないのか、ひょいひょい、とブラウニーを食べていく。
 モニカもにこにこしながらブラウニーをつまんでいる。

「これも、美味しいですね」

 ルシアンは一口ずつ丁寧に食べる。味わってくれてるのだなぁ、と感じるので、ちょっと幸せな気持ちになる。
 モニカがふふ、と笑った。

「?」

「ミチル様ったら、ルシアン様ばかり見つめてらっしゃるから。当てられてしまいますわ」

「そう見えていますか?」

 思わずモニカの手を握る。
 予想外の反応だったらしく、モニカが戸惑っている。

「私達が婚姻したとの情報を耳にしても皇女がこちらに来てしまった際、入り込めない空気を醸成する為にも、なるべくルシアンを見るように練習しているのです。突然出来るようにはなりませんもの」

 ここにいるメンバーはルシアン目当てで皇女が来ることも分かっている。

 モニカを始めとしたみんなががくっと肩を落とした。ジェラルドがルシアンの肩を叩き、苦労するな、と慰めている。何で?!
 ルシアンは別に、と返す。いや、だから何で?!

「問題はそれでも強引に来て、私を第二夫人にしてご自身が第一夫人に収まろうとすることです」

 この世界は一夫多妻制だ。
 女性が家を継ぐことがない為、一妻多夫はないけれども。
 ただの伯爵令嬢と、相手は皇女だ。先んじて結婚ぐらいではへこたれない可能性もある。
 結婚すればいいって思ってたけど、一夫多妻制なんだからそんなに困らないんじゃないのか、って今更ながらに気付いてしまった。
 ルシアンたちは分かってるみたいだけれども。
 あーもー! どうすればいいんだろうなー。馬鹿だからワカンナイよー! むきー!!

「やっぱりクーデター?」

「ちょっ、不穏なこと言うな! 王族の前だぞ!」

 慌てて否定に入るジェラルドに、うっかり口に出していたことに気が付いた。

「え? 皇国のことですよ?」

「皇国のことだろうと、駄目に決まってるだろ!」と、怒られた。

 クーデターもいいけど、それには準備が必要だし、そんなこと別の国にいてやれるだけの財力も人脈も何もかもがないもんな。だからこれは駄目として。
 後は、皇女に失格の烙印を押すことぐらいだろうかー。

 ……あぁ、なるほど?
 皇女を何とかする方法、思いつきました。






 私、悪役の素質あるかも! と帰り道思っていた。
 最終目標に向けて何をどうやっていけばいいかを考えなくては。

 明日は香水を買いに行こうっと。
 やっぱりあれかな。女の影を思わせるような甘めがいいのかな。っていうか全然影じゃなくて前面に出てるけどさ。

「随分ご機嫌ですね?」

 隣を歩くルシアンが聞いてくる。

「ふふ。私、悪役の才能があるみたいです、ルシアン。」

「?」

 私はヒロインではない。それは厳然たる事実だ。
 悪役令嬢として、相応しい動きをしてあげようではありませんか!

 ずっと気になっていたことと、皇女のことを合わせ技でなんとか出来る算段がついたのです。
 まぁ、手段についてはこれから考えなくちゃいけないですけど!

「それは、すぐに行動に移すのですか?」

「いえ。まだ最終目標に向かう方法が見えてきただけですので、これから策を練ります。悪役令嬢として!」

「悪役令嬢?」

 ルシアンはきょとんとしている。

「悪いことするのだから、悪役令嬢です」

「なるほど?」

 ふ、とルシアンは笑うと私のおでこにキスをした。
 ぬぁ!

「名案が浮かびますように」

 名案の前に脳が茹で上がりそうだよ……!!
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