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1巻

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『そして精霊の子は、過去の忌々いまいましい事件のために、存在するだけでも恐れられ、大抵の場合は森などに捨てられて魔獣に食われるか、親の手で殺されるか……いずれにせよ、似たような末路を辿たどります』
『じゃあ……この子も捨てられたのか?』

 ボロ布を被って、貧相な服をまとった枯れ枝のような体を見る。

『そうですね……捨てられ……三人の騎士に殺されそうになって……』
『え? その騎士たちは? 起きた時は誰もいなかったような……』
『はい。丁度共同体様がこの体に入った時……■■■の力に接触し、消滅しました』
『消滅!?』
『強すぎる神の力は、人にとっては脅威ですから。しかも異世界から私が入った魂魄を送り込むほどの力です。騎士といえどただの人間、ひとたまりもなかったでしょう』

 俺たちが来たことによって、三人もの命を奪ったってところに驚いた。
 本当にあの糞女神、ろくなことをしない。この体を殺そうとした見知らぬ騎士たちよ……安らかに眠ってくれ……

『あ……でも俺がいた周囲に木々は生えていたけど……』
『それはここが【記憶する森】だからです』
『記憶する森?』
『人間には【真宵まよいの森】【帰らずの森】【精霊の森】などと言われています。この森自体がダンジョンのようなものになっていて、急激な変化が起きても、状態を元に戻すのです。特にこの場所は、最深部に近く、効果も高めですね。似たような土地は世界各地に存在します』
『ダンジョン……』

 ゲーム好きな奴らが血を吐くほど喜ぶワードが出てきた。ということは……

『もしかして……俺も魔法が使えたりして……』
『はい。その通りです。共同体様の世界では科学が発達していたようですが、この世界では神々が星を守るため、永久的に自然を壊すような兵器などの技術を排除してきました。この森もその一環です』

 確かに俺のいた地球は、地球ができてから現在までに比べれば、まばたき程度の短時間で、科学が発展し環境が破壊されていた。それを思うと排除は致し方ないのかなとは思う。
 それにしても、剣と魔法の世界か。
 俺はゲームをするとすぐに酔ってしまって、付き合い程度にしかできなかったが、超能力にはあこがれた。子供の頃、スプーンを握りながら超能力者が出てくるテレビ番組を見ていたのが懐かしい。
 ゲームにも慣れていない俺が、リアルに剣と魔法を体験することになってしまって先行き不安ではあるが、少し楽しくなってきた。
 でもこの世界の社会がよくわからない。
 そもそも、この体はかなり幼い気がするが、働き口はあるのだろうか……とりあえず過ぎたことは仕方がない。
 生きるすべを見つけて、前向きにいっちょ異世界楽しんでみますか!



 第一章 捨て子な幼児



 幼児×ステータス


『あ! そういえばあんたの元の名前、なんて言うんだ? 俺は石原那由多って言うんだが……勿論もちろん「様」はいらない。あ、でもこの体の子の名前が……』
『元の体に名はつけられてないようですから、那由多と呼ばせていただきます。私の名は■■■に消されてしまったので……今の私に名はありません。お好きに呼んでくださってかまいませんよ』
『この体の子は名をつけてもらえなかったのか……やるせないな……』

 ……それにしても、神様が名前を消されるって、聞いたことがあるようなないような。
 俺が聞いたことがある話じゃ、その宗教自体は残ってるそうだけど……左目の存在の信者はどうなったんだろうか。

『しかし、お好きにって言ってもなぁ』

 欠片といえども神であることは違いない。
 ガイドだからカイドとか? うーん。ナビゲートのナビィ……なんか違うな。
 ふと空を見上げると、俺がいた国ではなかなか見られなくなった、夜空に敷き詰められた数え切れないほどの星のきらめきと、三個の月が変わらず空に浮かんでいた。
 女神だったら、北欧神話から過去、現在、未来をつかさどる神様――ノルンって名を貰うのだけど、なんとなく声が男っぽいしな……男の神様……中国の生と死を司る南斗星君なんとせいくんとか北斗星君ほくとせいくんとか……でも星の位置も全くわからない。
 あ、良い名前があった。
 俺が最後に参拝した神社。そこでまつっていた神様。そしてこの世界に来た時間、さらに俺に現実を見せた三つの月。

『ツクヨミはどうだ?』
『……ツクヨミ……』
『うん。夜を司る月の神様……月読命つくよみのみこと

 俺のいた国は、どんな国の神様でも受け入れ、おそれ、祀る国だった。
 自然とか歳を経た古い道具とか……他国では悪鬼羅刹あっきらせつと言われるものや、人肉を食べる魔女さえも神様として受け入れていたほどだ。
 月読命はその国を作ったとされる神様の子供の一人だ。

『あんたが俺の左目に飛び込んだ時に参拝していたのが、地元の月読命を祀った神社だったんだよ。丁度今、月も出てる。しかもこの神様は月から転じて、ツキを呼び込む神様って言われてるんだ』
『……名付けの感謝を。そして異世界の力ある古き神の名前を拝する栄誉をたまわりましょう。我が名はツクヨミ……夜のとばりをまといし月の現し身ツクヨミ』


 ツクヨミがそう言って名前を唱えたら、体中の力がスッと抜けるような感覚がした。

『なんだ!? 低血糖ていけっとうか? 貧血か!?』
『申し訳ありません。私への名付けで、那由多の魔力の大半を消費しました。そのため一時的に魔力が枯渇こかつしている状態です。しばらくすれば元に戻るのですが……』
『なんだよ! そういうことは先に言ってくれよ』

 コロリと木の洞で転がりながらぼやく。
 しかし魔力か……そういえばスキルのことも聞きたかったんだった。俺のこれからのことを決める能力だし。

『なぁ、あの糞女神が言っていたスキルってヤツなんだけど、どんな感じになってるんだ?』
『ふふっ。なかなかすごいことになっていましたよ。なにせ十全十美と言ったことで、■■■はこの世界に存在するすべてのスキルを那由多に与えることになりましたからね。そのぶん、彼奴きゃつの神力が放出されることになり、彼奴本体の力が弱体化したほどです。おかげで■■■の神力を、逆に食らってやりましたよ。そうそう、スキルがたくさんあって使いづらそうだったので、圧縮してまとめて一つのものにしておきました』

 ドヤ顔の気配が左目から伝わってくる。
 最初にパソコンの起動音かと思ったのは、その圧縮とかなんとかの作業をしていた音だったのだろうか? 虫の羽音にも似ている気もするのだが……

『ありがとうな。助かったよ。なにかスキルを見られる方法とかあるのか?』
『まずは「ステータスオープン」と唱えてみてください』
『ステータス……オープン?』

 寝たままの姿勢で、さっきの号泣とはまた違った気恥ずかしさを覚えながら小さく唱えてみると、空中にディスプレイが出てきた。

『へぇ! 自分の力で出すことができるのすごいな! 俺がいた世界だと最先端技術だよ』
『ふふふ。魔力があればこの程度のこと、造作もありませんよ』


 名前   :石原 那由多
 年齢   :3
 種族   :半神?
 称号   :捨て子、異邦人ストレンジャー
 固有スキル:天神地祇
       十全十美


『半神? てか年齢ーーーー!! 3って三歳のこと? ってか、異世界の三歳発育良すぎでは?? しっかり歩けるし、六歳くらいかと思ったぞ!?』
『すみません。半神は私がいるためにそのような曖昧あいまいな存在になってしまいました。それはいずれ解消するとして、体はこの世界ではまだ小さい方です。魔力だけで生きていたようなものですから……』
『まだ小さい方って……』

 他の子どもはどれだけ発育良いんだ。異世界の三歳児怖い。
 ツクヨミは神様の欠片って言ってたもんな……今は姿は現せないって言っていたし……そのうち神様として復活するかもしれんから解消ってことか?
 まぁそれは追々わかるだろう。

『お? スキルの文字が光ってる?』
『押してみてください。詳細がっていますよ』


 天神地祇
  異世界の神々の加護、過去に石原那由多が蒐集しゅうしゅうした御朱印による加護(極小)が与えられる。

 十全十美
  この世界に現存するすべてのスキル、その他能力を所有する。
  なおこの世界で失われたスキルその他能力はその対象にあらず。


 は?
 もうちょっと詳しく説明してくれないか、と思っていると、また画面が切り替わった。


 ▽天神地祇
  天之御中主あめのみなかぬしの加護(極小)、天之常立あめのとこたちの加護(極小)、豊雲野神とよくもののかみの加護(極小)
  天照大神あまてらすおおかみの加護(極小)、月読命つくよみのみことの加護(極小)、須佐之男命すさのおのみことの加護(極小)
  宇迦之御魂神うかのみたまのかみの加護(極小)、豊宇気毘売神とようけひめのかみの加護(極小)、櫛名田比売くしなだひめの加護(極小)
  大国主神おおくにぬしのかみの加護(極小)、大和武尊やまとたけるの加護(極小)、建御名方神たけみなかたのかみの加護(極小)
  天宇受売命あまのうずめのみことの加護(極小)、猿田彦命さるたひこのみことの加護(極小)、大綿津見神おおわたつみのかみの加護(極小)
  五十猛命いそたけるのみことの加護(極小)、瀬織津姫せおりつひめの加護(極小)、天之御影命あめのみかげのみことの加護(極小)
  石凝姥命いしこりどめのみことの加護(極小)、玉祖命たまのおやのみことの加護(極小)、大口真神おおくちのまかみの加護(極小)   ……etc.

 ▽十全十美
〔武術〕
  短剣Lv1、剣Lv2、大剣Lv1、盾Lv1、投擲とうてきLv1、棒Lv1、やりLv1、おのLv1
  弓Lv2、暗器Lv1、体術Lv3
〔魔法〕
  火Lv1、水Lv1、土Lv1、風Lv1、光Lv1、闇Lv1、聖Lv1、呪Lv1、空Lv1
  時Lv1、無Lv1
〔生活〕
  調理Lv‌56、清掃せいそうLv‌34、裁縫さいほうLv8、交渉Lv‌24、社交Lv‌38
〔創造〕
  鍛冶Lv1、細工Lv1、陶芸Lv1、木工Lv1、魔道具Lv1、絵画Lv3、詩Lv1
  音楽Lv‌19、地図Lv1、建築Lv1、農業Lv5
〔スキル〕
 【神眼】、【無限収納】、【言語翻訳ほんやく】、【予兆】、【魔法創造】、【付与魔術】、【空間転移】
 【魔獣調教】、【身体強化】、【体魔力自動回復】、【探索】、【毒耐性】      ……etc.


 っておい! 多すぎだろ!?
 というか、レベルが高いものもあるな……調理、清掃、音楽……社交? 

『あ。もしかして、今までのの生活スタイルが反映されたのか?』

 一時期チェーン店の再現料理とかにはまったし、花金な仕事帰りとかによく部下を連れてカラオケに行ってたんだよ。武術系とか絵画とかは学生の頃の授業の影響だろうし、裁縫は単身だったのでボタン付けくらいはやった。農業は小さな頃から上京するまで親の手伝いをしていたからな。

『その通りです。那由多が今までつちかった経験をレベルで換算してみました。まだまだ処理しきれていない部分がありますが、なかなか使い勝手が良くなっていると思います。あとは使いこなして魔法やスキルもレベルを上げると良いですよ』

 ツクヨミのドヤァ~の気配がするが、これはいかん気がする……

『人間、過ぎたるはなお及ばざるがごとしって言ってだな……』
『まぁ、備えあればうれいなしとも言うじゃありませんか。無理やりこちらの世界に来たのですからイージーモードで気楽に行きましょう』
『お? イージーモードなんてこの世界でも使うのか?』
『いいえ、那由多の記憶を学習させてもらったのです。いけなかったでしょうか?』
『や。大丈夫』

 まぁしばらく一緒にいるだろうし、気兼ねなく話ができるのもいいかな……ただ俺の黒歴史をのぞかれたのは痛い気もするが。
 号泣も見られて? るし、まぁいいか。
 それに俺の記憶を覗かれたせいか、最初の話し慣れないというか機械のようなぎこちなさはなくなってきたようだし。

『さて。これからどうするか……人里に向かうにしても、金もないし体も幼児だ』
『ちなみに那由多の財産は、この世界の貨幣に変換して、【無限収納】スキルの中に入れておきましたよ』
『え?』
流石さすがに株券や債券さいけん等は手を出せませんでしたが、貯金分くらいならなんとか私の力でも変換できましたので。しばらくの資金としてお使いください』

 俺は時が止まったようにしばらく息をしていなかったと思う。
 身一つ……いや、魂一つでこの世界に投げ出されて、少し不安だったのだ。
 当座の資金があるならば、人里に行ってもなんとかなるかもしれない。

『ありがとう……』
『はい。どういたしまして』

 たとえこの世界に来たきっかけがツクヨミでも、もし今こいつがいなかったら俺はどうなっていたのか。今はこの縁に感謝しかない。

『これから……ツクヨミはどうすれば良いと思う?』
『流石にこの世界でも、幼児が一人でいたら、孤児院送りにされるか、浮浪児ふろうじと共に治安の悪い貧民街で野宿かになりそうですね……この森でしばらく暮らすのもありだと思いますよ?』
『森で?』
『はい。この森は、ダンジョンのようになっていると先ほど言いましたが、食料や薬など、生活に必要な素材が尽きることなくよく採れるのです。この周辺の国々の人らは、冒険者に依頼し素材を採取してもらい、日々のかてにしているのですよ』

 冒険者……まさに漫画やゲームの世界だ……

『じゃあ、明るくなったら拠点を見つけて、しばらくこの森で生活してみるか……』
『はい。では今日はゆっくりお休みください。私が結界を張っておきましょう』
『わかった……後のことはよろしく……』

 俺は大きく欠伸あくびをして、明日に思いをはせる。
 今日は色々なことがあって疲れたけど……明日はどんなことが待ち構えているのか。
 その後、俺は夢も見ずに深い眠りに落ちた。


 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇


 明朝、目が覚めると魔力欠乏? と体の痛みがだいぶ治っていた。寒さもなくなったがツクヨミの結界で快適な温度を保っているからだそうだ。
 ツクヨミいわく、この体は生まれてから三年、動いていなかったそうだ。それが突然動いたものだから、ひどい筋肉痛のようになっていたとのことで、むしろよく動けたものだと感心した。
 最後まで詳しく見てなかったスキル【体魔力自動回復】と【身体強化】で、ある程度魔力も痛みも回復したとのこと。筋肉もつけなければ……と思いつつ腹をさする。

『那由多。具合はいかがですか?』
『だいぶ良くなったよ。ただ腹が減った……』
『拠点探しの目星はつけてあります。出発前に腹ごしらえしておきますか? 体を動かすようになったから、大気から吸収できる魔力では栄養がまかないきれなくなってきて、お腹も空いているでしょう?』

 そうか、元々大気から魔力を吸収して生命を維持してるって話だったな。だから昨日は腹が減らなかったのか。

『うん。食べ物が見つかれば食べたいかな。何か拠点に当てがあるのか?』
『はい。ここから……那由多の国の言葉だと……そうですね、二百キロメートル弱行った辺りに、古い遺跡があります。そこがまだ使えれば良い拠点になりますよ』
『うーん。二百キロか……だいぶあるな』

 都内からだったら静岡辺りだろうか……幼児の徒歩だと何日かかるのか。しばらく野宿を覚悟しなければならないな……

『いえいえ。そこで那由多がお持ちのスキル【空間転移】ですよ。今は【空間転移】と連動する空魔法のレベルが低いので、数百メートル、目に見える範囲までしか進めません。ですが繰り返し使うたびにレベルが上がりますので、いずれは一度行ったことのある場所など、自由に転移ができるようになりますよ。勿論、朝食もスキルで探してから行きましょう』

 ふむ。スキルを使うと、それに関係する魔法属性のレベルも上がるのか。

『スキルって便利だな』

 俺が若かった時流行ったゲームや漫画やなんかは、呪文で移動とか、生き物だったり船だったり乗り物に乗って移動するとか、遺跡等の転移装置間移動とか、色々あったものだ。
 それを実際にこの身で使えるということで楽しみだ。レベルを上げるためにちょっとずつでも試していかなきゃな。

『さて。食料探しですが、スキルの【神眼】を使いましょう。こちらは物事の情報を読み取ることができる【鑑定】の上位スキルで、レアアイテムやレア素材は通常とは違う色で表示されます』

 へえ、便利なものだ。

『目に魔力をめて【神眼】を開眼させていきます。少し魔力の使い方の手助けをしますね』

 ツクヨミがそう言うと、俺の体の中で渦巻く何かが、どんどん左目に集まってくる感覚がした。
 思わず目を閉じてしまったが、コレが魔力ってやつか……
 ぐるぐる……
 ぐるぐる……
 魔力が体を巡る……
 何か……が……つかめた……気が……する。
 そろそろと目を開くと、今まで見ていた景色に、無数の文字が加わっていた。
 大部分が白色と灰色の文字だが、たまに黄緑色に紫色、黄色で書かれた文字が見えた。

『赤く点滅しているものは危険ですのでお気を付けください。白→灰→黄緑→紫→黄の順で、希少価値が高くなっていきます。魔物などが寄ってこぬように結界を――聖域結界サンクチュアリーを張りますので安心して採取してください。この結界は、魔物や悪意のあるものを通さない優れものですから』

 魔物とかいるのか……
 早速キョロキョロと辺りを見回すと、よく見知ったものばかり目に入った。

『タラの芽に虎杖いたどりに……コシアブラ……あっちは月桂樹げっけいじゅだ……地球と同じ植物が生えてるのか。植生とかどうなってるんだろうな』
『それは、那由多のスキル【言語翻訳】が働いているからですね。実際にはこちらの世界の名前を持つ植物ですが、スキルによって、この世界のあらゆるものが、那由多の知っている近しいものの名前に翻訳されているのです。世界が違うので生態には多少差異がありますが。そしてまた逆もしかり。那由多の言葉は翻訳され、あらゆる相手に伝わります。勿論、書いた文字もです。便利でしょう?』
『そいつはすごい! 翻訳の仕事も思うがままじゃないか!』
『ふふっ。失われた神聖文字や古代帝国語の翻訳さえも意のままです』
『……それはちょっといかん気がするんだが……』

 とりあえず目に入ったすぐ食べられそうなオレンジらしき果物やいちご枇杷びわなどをもぎ取り食べる。
 実りの季節がてんでバラバラではある。そして品種改良がされていないせいか、日本のものより酸味はあるけれど、それなりに美味しく食べられた。
 が、今までこの体が食物を摂取していなかった弊害へいがいか、あまり量を食べることができなかった。

『徐々に慣らしていきましょう。余ったものは【無限収納】に入れて保管もできます。【無限収納】は入れた状態のまま時が止まりますから、少し多めに採っておけばいつでも食べられますよ。収納する時はてのひらに魔力を溜めて……』
『……なるほど……こうして……』

 手に持っていた苺がまたたく間に消え、パッと目の前に小さめの空中ディスプレイが現れた。


 記憶する森の苺 1


 と表示されている。

『おお。コレが収納か。めちゃくちゃ便利だ。手当たり次第入れたくなる』
『でしょ? ついでに、右上の数字がお手持ちのお金となります。ここから近い国の貨幣ですが、古く強い国で貨幣価値が安定してます。単位はリブラ。1リブラは、元の那由多の住んでいた国の価値だと……そうですね……大体1円でしょうか』


 所持金 28568135lb


 確かに、積立とか株式投資とは別に貯金していた金額が、円で大体この位だった。丁度退職金も振り込まれた後だったから、割と高額になっている。
 ニマニマと口元が緩む。
 さぁ! 腹ごしらえもすんだし、いざ拠点(仮)へ!



 幼児×誰もいない街


 あれから鑑定することに慣れた俺は、ツクヨミの案内でレア植物など採取しながら目的地に進んだ。
 途中で植物を採取する時、道具がなかったので、『超音波カッターがあればなぁ……』と、ぼやいた。
 そしたら、『ハイ、それ採用』って、ツクヨミが頑張って無属性魔法で再現してくれた。それをその場でたたき込まれたおかげで、採取の効率は上がった。
 そうこうしている間に声も出せるようになって、鼻歌なんか歌いながら進んだ。
 というか今気付いたけど、まるで初めてのおつかい状態だ。鼻歌歌いながら寄り道……まあ良い。今は三歳だし。許されるはず。
 たまにツクヨミが張った聖域結界サンクチュアリーに、でかい鳥やら動物、魔物? やなんかが特攻カチコミを決めてきては、弾かれて転がって気絶していた。
 どうしたものかと思っていたら、ツクヨミがさらっと提案してくる。

『気絶してるだけでまだ生きてますからね。こういう時は、スキル【探索】で探し当てた心臓などを転移させちゃうと楽ですよ』

 そんなエグいことを簡単に言うし、言われたままに実行した俺も大概である。
 そして【探索】が有能すぎる。心臓など肉体を動かす重要な器官を探り当ててしまうのだ。
 動物を捌いた経験は流石にない。だが、実家で暮らしていた時、近所のおじさんらが「畑さ~いく時、トラックに体当たりしてきたからやるわ~」って、俺んちの庭でいのししやら鹿やらを捌いてお肉をいただいていたので、食べられるものの殺生に関しての躊躇ちゅうちょはなかった。
 だが、二足歩行の魔物には参った。
 昔、父親が某国で野生動物の狩猟体験をした際、猿を撃ったらしいが、「人間を撃ったみたいで本当に嫌だった。もう二度としたくない」と言っていたが……その気持ちがわかった。
 しかしツクヨミが『この魔物は◯◯が高額で売れますよ』とか、『この魔物はお肉が美味しいのです!』とか言うので、二足歩行だろうと何だろうと、この世界では魔物を容赦なく狩るのは当たり前らしい。
 いずれ俺も二足歩行の魔物を殺すことに躊躇はなくなるのだろうな……と思いながら、亡骸なきがらに手を合わせどんどんと収納に入れていった。
 道中、採取とか狩猟に明け暮れているうちに、目的の場所に着いた。


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