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北の帝国と非有の皇子

非有の皇子×怪しげな店

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『いいえ?何も言ってないですよ?何か聞こえましたか?』

『……クショーーー‼︎  こっか……出せってばっ! 腐れ……ケジ……‼︎  誰……助けて~!』

『ホラ今、助けてって聞こえた!』

『何も聞こえませんが……?』

 が聞こえない?そんなことがあるのか?何か引っ掛かるけれど、なんとなく放っては置けず、声のする方向へ向かってみた。

「ナユタ様!お待ちください‼︎  そちらはいけません‼︎」

「直ぐ戻ってくるから‼︎  お祖父様、母様、ちょっと待っていて下さーい‼︎」

 お祖父様に言われたのか、お祖父様の侍従と護衛2人が慌てて付いてきているのを目の端で捉えつつ、ふわふわと浮きながら迷路の様な裏道を入る。声を頼りに進んでいくと寂れた店が見えた。

『チクショー‼︎  バカヤローー‼︎  出せってんだよぉ~‼︎』

 あの店の中から声が聞こえる!

 空中で止まっていたところ遅れてきた侍従に即座に捕まり、抱っこをされながら護衛に頼んで目の前の寂れた店へ入ってもらう様にお願いをする。従者も護衛もとても嫌な顔をしていたが、ティーモ兄様直伝⭐︎お目目ウルウルお願い攻撃をしたら、侍従から離れないと言う約束をし妥協してくれた。

 フッ。俺は目的の為ならなんだってする男さ。

『カッコつけて言っても、小さな子供の駄々捏ねですけどね』

 確かに。低年齢層だから許される行いではあるのは否定はしない。幼児たるもの今だけの特権は有効に活用するのだ。

 護衛が店の扉を開けると、独特の獣臭さ、それに排泄物や腐敗臭が入り混じった不快な臭いが鼻につく。開けただけで、しかも聖域結界サンクチュアリーで護られた俺の鼻腔まで届くとは。思わず周囲を浄化してしまった。

 護衛に続いて侍従に抱っこされた俺たちが薄暗い店内に入ると、檻に入った小型の魔獣たちが目を爛々と光らせつつも怯えるかの様にこちらを見ている。どの魔獣も随分と痩せ細っていた。もう事切れているのかぴくりとも動かない毛の塊もある。

「ごめんくださーい」

 声を掛けるが誰も出てこない。所謂生体販売店舗ペットショップなのか、室内は寂れた店頭と違い、魔獣のハンティングトロフィーや悪趣味な装飾で溢れていた。
 ハンティングトロフィーのガラスの目玉が、わずかに差し込む光に反射し異様な雰囲気を醸し出す店内に護衛が警戒して胸元の鞘からかちりと短剣を出す。
 浄化をしつつ光の魔法で光源を確保し、店の奥に行くとドアが大きく開け放たれた地下へと続く階段があった。

『出せーーー‼︎  イカレポンチーー‼︎』

 声はこの下から聞こえる様だ。嫌な顔をする侍従と護衛にお願いをして地下に降りてもらう。下に降りるにつれ酷くなる臭気に護衛達は堪らずうめくが、俺がすかさず浄化を施し先を促す。

『那由多。これ一種のパワハラですよ~』

『うっ。確かに。あとで俺のスペシャルカクテルとおつまみでねぎらうよ…』

 無理を言った自覚はあるので、金銭はきっと断られるから、特別手当じゃないけどお酒と合う食べ物で労おう。

 尊い犠牲を払っているとは思うが、それでも今行かないといけないと言う感じがしたんだ。

 護衛が慎重に階段を下る後についていくと階段下に人?が倒れていた。

 すっかり浄化された為、腐っていた血肉は白骨と化したのか、または俺たちがくる前より元々白骨だったのかはわからないが、服を着た人型の骨がそこにあった。しかしあの衣服…見覚えがあるな…

 あ! あの腰にある小さな獣の足。
 
 そうだ!黒妖精の穴蔵フマラセッパで会ったヴェルミクルムとかいう商人だ!

 奥にはいくつかの牢があり、横たわった大人や子供の獣人や人?が見えた。まだ微かに息使いが聞こえる。

「お祖父様に…‼︎」

 1人の護衛が頭を下げ、身を翻して走って行った。多分お祖父様へ報告が行き、憲兵などに連絡されるに違いない。

 恐怖で震える侍従の腕をトントンと叩き、床に下ろしてもらい、一つ一つの牢の中全体に強い浄化と、ツクヨミに教えてもらいながら慣れない回復魔法ヒールをかけてみた。

『こりゃ回復薬ポーションを作るのにハマってないで魔法も頑張ればよかったかな』

『これからだって遅くはありませんよ』

 中の人たちを解放するのは構わないが、なにがあるかわからないので、とりあえずお祖父様か憲兵が来るまで一つ一つ牢を浄化し、回復魔法をかけて回った。すると奥の方に隠される様に扉があるのが見えた。その扉は厳重に鍵が掛けられていたが、遠慮なく不可視の手マジックハンドで破壊させてもらう。すると、そこには、魔獣と思わしき剥製と、まだ生きている魔獣が入れられた檻が幾重にも積まれていた。

『テヤンデェ! バーロー! チクショウ‼︎  こっからだせってんだ‼︎』

 さっきから聞こえていた声の主を求めて探せば、悪態をついていたのですぐに見つかった。

『貴方は…‼︎』

 ツクヨミが驚愕の声をあげているが、相対した者はひしゃげて薄汚れた座布団から長い耳が生えたような不思議な生き物だった。



 _________________________________________


「わかった。アン、そのままティーモと共に屋敷に戻りなさい。私はナユタの所へ向かう。其方そなたは憲兵の詰め所へ、今ならエバーハルト卿憲兵隊長がいるだろう」

「お父様…」

「心配はいらぬ。魔物も弱った個体ばかりだと言うし。しかし…ナユタは引きが強いと言うかなんと言うか…」

「お父様、ナユタをお願い致します」

「あいわかった。ティーモもアンと共に大人しく待っているのだぞ?」

「はい、お義父様」
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