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北の帝国と非有の皇子

非有の皇子×帝都散策

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 異変はある日突然やってきた。


 我らがこの地へ生まれ落ちてから幾億幾千という長い刻がたった。

 その間、我らは疑う事なく、昨日も今日も明日もいつもと同じ、世界は不変である物と誰しもが思っていた。


 しかし異変は突然やってきたのだ。




「何だと⁉︎  大樹様の枝が落ちたというのか?」

 いつもと変わらぬ日常に突如異変が混じった。

 このが生まれてから我らいにしえの民と共にある、母なる大樹ユグドラシルの枝が落ちたのだ。

 母なる大樹、世界樹ユグドラシルは、天地開闢以来たった一枚の葉でさえ落とされたことはない。

 一族の男たちを引き連れ、母なる大樹世界樹ユグドラシルの御許へ馳せ参ずれば、白化した大樹の大きな枝が其処彼処と落ちていた。

「…何と言うことだ…‼︎  一体、大樹様に何が起こっていると言うのだ…」



 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 日が中天に差し掛かるまで俺は、歩くお稽古レッスンをしました。ただひたすらに。

「今度はお稽古レッスンも始めてみましょうか」

 と、母様が言い出したので、

「母様!私はこう見えてもは得意なのです!」

 と、鼻の穴を膨らませながらドヤ顔で、モンキーダンスやツイストダンスを踊ってみたらダメ出しを食らった。こうなったら映画でお馴染み、土曜の夜に熱狂するディスコダンスを身体強化を使いキめたら残念な顔をされました。那由多です。


(一体全体何が悪かったんだ⁈)

『…那由多…全部ダメダメです。ダンスとは那由多がいた世界で言う社交ダンスのことですよ…』

(は?社交ダンス?あの点数を競う奴か。3歳児と体格が合う練習相手なんかいないだろ??)

『何か私が考えている社交ダンスと那由多が考えている社交ダンスと違う気もしますが。パートナーでしたら公爵家でありますし、直ぐに用意ができるのではないですかね?』

(社交ダンス…布の範囲が狭いドレスでサンバとかチャチャチャとか踊る奴だろ? 男女のダンスなんかマイム・マイム位しか記憶にないぞ?)

『マイム・マイム…何ですかそれ…あぁ。水の精霊を呼び出す呪文かと思いましたが、こちらの庶民の踊りに近いですね。成程。那由多のいた世界では、ダンスは種目別の競技になってるようですね。アネットさんは社交に出る事を許された乙女達が宮殿で、花のようにドレスを翻して踊る演舞曲ワルツの様なダンスのエスコートを那由多に早く覚えて欲しいようですよ』

 俺の記憶を覗いたツクヨミが、うむうむと納得しながら説明してくれた。多分芸能人がダンス部を作って競技に出る番組記憶を見ているのだろう。うん。社交ダンスと言えば馴染みがないから、まずテレビで見たこっちの方を思い浮かべちゃうんだよ。

 母様は、俺に若いうちから西洋文化でいうデビュタントやウィーン舞踏会ヴィーナー・オーパンバルで踊るフォーマルダンスを習得してもらいたい様だ。ダンスが上手い男性はモテるとか何とか…コブダイじゃないんだから…母様、俺はまだ3歳ですよ。

『子供の時間はあっという間に過ぎ去りますからね。背筋も伸びますし、早いうちから覚えるのは私としても良いと思いますよ』

(むぅ)

 確かに子供の時間はあっという間だ。日本にいた頃の俺も気がついたら成人して、あれよあれよという間に半世紀過ぎてしまったし。何なら異世界にまで来てしまった。

 そんな事をツクヨミと話していたら軽快なノックが聞こえた。母様が許可を出すと公爵家のお祖父様付き従者さんが静かに室内に入ってきた。

「失礼いたします。旦那様よりお支度がお済みでしたら、馬車寄せにお越し下さいと言付かりました」

「はい。直ぐ参ります」

 母様はすくっと立ち、俺の手を取りお祖父様付きの従者の後について行った。

 俺はと言えば宙に浮いたまま、母様と手を繋いでエアウォークである。

 今日は母様と楽しみにしていた帝都散策の日である。ティーモ兄様も先に来ていたようだ。ほっぺたが真っ赤だから走ってきたのであろう。ティーモ兄様付きの人が平静を装いながら微かに肩で息をしている。

 お祖父様は既に馬車に乗っているからお祖父様の隣にティーモ兄様が座り、向かい合わせの席に母様と俺が座ると軽快に馬車が動き出した。
 今日は古くからあると言う公爵家の馬車での移動だ。豪華だけど黒妖精の穴蔵フマラセッパで作った馬車より乗り心地はイマイチでちょっと尻が痛い。

 馬車の外にある後部ステップの左右にお祖父様とティーモ兄様付きの従者が立って乗り、御者の隣には母様と俺付きの侍女が乗っていた。馬はもちろんここまで一緒に来たグラニの二頭引きだ。縮地のようなスキルは街中では使わないようにしているのか、旅をしていた時のような速さはないが、とても安定した力強い走りを見せてくれる。

 ずんずんと白い豪邸というか城の様な物件がひしめく街並みを超えて林のような場所をしばらく行くと、半木骨造ハーフティンバー様式の様な白と茶色の可愛いツートンカラーの家々が見えてきた。随分とメルヘンチックな街並みだ。この国は北の帝都というだけあって雪も積もるそうだから、冬になったらさらにメルヘンチックになるだろう。

 尻の痛さも忘れ、初めて見る帝都の街並みを窓に張り付いて見る俺に、ティーモ兄様が笑いながら和やかに馬車は目的の場所までいくのであった。

『土地は狭いですが随分と教会跡地がありますね』

(あー。さっきから不自然に空き地が多いのは教会跡地か)

 先程から景観を損ねるほどではないが、空き地がかなりあった。あの中には買い手がついているものもあるのだろう。
 すると馬車は緩やかに止まり目的の場所についたようだ。

「ナユタ、此処が売り出す土地の中で1番広い教会跡地になる。帝都の目抜け通りメインストリートにあるから賑やかで人通りは多い」

 馬車の中からとはなるが、土地を見学し人通りの多さなど見てこの土地を買う事にした。お祖父様も反対はしないと言ってくれた。
 念の為他にも多少狭くはなるが、土地を見て回り候補を作ってボト大臣に報告する事にした。指名入札の権利が貰えると良いんだけど…大体大手の商人や商売をしているお金持ちの貴族やなんかに指名入札が行くみたいだがお祖父様経由の俺はどうなることやら。

 一通り土地を見繕ったら此処からが街散策である。散策といってもお祖父様もいるので馬車移動だ。
 ゆっくりと馬車は走り、気になった店の前で止まり従者に連れて行ってもらって買い物をする。 
 本来は従者に買いに行かせる物だけど、自分の目で見たいという好奇心もあってお祖父様にお願いした。
 そこに母様やティーモ兄様が便乗してくっついてきたりしたけど、多分俺…と言うかツクヨミの聖域結界サンクチュアリーがあるからこそ許されたのであろう。護衛も数名後ろに騎馬で着いてきているけど厳戒態勢って訳でもないし。

 母様好みのお茶や、ティーモ兄様が欲しがっていた魔道具の羽ペンをお祖父様とお揃いで購入したり、俺は俺でパンなど食品を売る区画に行き、結構充実した買い物をした。
 しかし食品を売る区画はスリなどガラが悪い者も多く護衛達がピリピリとしている。

『…たす…て‼︎』

 ん?

(ツクヨミ、今なんか言ったか?)




_________________________________________



◇◆お知らせ◇◆

本作、
神様お願い!~神様のトバッチリを受けた定年おっさんは異世界に転生して心穏やかにスローライフを送りたい~

の書籍化が決定致しましたことをご報告させて頂きます。

お祝いのお言葉もありがとうございます。全ていつも楽しんで読んでくださっている読者様のお陰でございます。

自身にとって初めての書籍化と言うこともあり、小説を書き慣れていない自分にとって勉強になることばかりでした。

近況ボードでもお知らせしておりますが、Xにて書籍プレゼント企画も致しますのでよかったらご参加いただけると嬉しいです。

発行レーベル、発売時期など今月末か来月頭にはお知らせできるんじゃなかろうかと思いますのでまた近況ボードよりご連絡させていただきたいと思います。

引き続き物語をお楽しみくださいませ。

きのこのこ
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