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北の帝国と非有の皇子
非有の皇子×別れ
しおりを挟むまるで夢から覚醒した様に…意識が戻った時には強い力で身体が引っ張り出されていた。
「私の子を返して!!」
(母様…!)
黒い奴の鞭でやられたのか、ボロボロな体とブカブカの装備で俺の胴体を必死に抱え転がる母様にギュッとしがみつく。
転がった反動を利用して立ち上がった母様の腕の中から、次の攻撃から身を守る為、なけなしの魔力を練り振り向けば、俺の身体から光が反射してやっとわかるような無数の細い糸らしきモノが出て、黒い奴に絡みつき動きを封じていた。
『妙な気配がすると思えば…!!半端者の分際で私の那由多の魔力を奪うなど万死に値する!…否…お前の罪は万死に処した所でも到底足りませんね!』
(ツクヨミ!!)
『那由多、遅くなって申し訳ありません』
(動きを封じてくれてありがとう…でもツクヨミは出てきて大丈夫なのか?)
『公爵が頑張っているお陰で帝都内の*^.?#•*の気配はありません。ただこの城では妙な気配がしたので、城の礼拝堂にでも…と思いましたが…どうやら見誤ったようです』
(そっか…それにしてもコイツはなんなんだ?学ラン少年が言うにはたまごが孵るとか言っていたけど)
『学ラン少年と言うと……。那由多はパパに会ったのですね…では私の事も…』
(パパ?)
『うーん。那由多の世界で言うこの星の創造神みたいなものでしょうか?私は出会い頭に
「初めまして!僕が君達を作ったパパだよ」
と、言われましたので。他の者も同等にパパと皆称んでいますよ』
(へえ?正しいと言えば正しいけど…パパね…)
少年はもしかしたら…家族が欲しかったのかもしれない。否、推測の域でしかないけど。自分が生み出したものを愛おしいと繰り返しそう思うように言っていた気もする。
割とブカブカな真新しい制服だったから中学1年生かそこら辺の年齢で、あの誰もいない広い神殿らしき場所で永遠と唯ひとり、星を育て続けるとか。最初は楽しそうだったけど…俺からしたらなんの苦行なんだかと思ってしまう。寂しくて思わず見えざる者にも声をかけてしまう位に。
『たまごは…推測となりますが、いくら我々の力を取り込んだとしても、一柱でこの世界の澱を取り除くのは負担が大きく、*^.?#•*にとって都合のいい餌ともなる擬似的な神を創り出そうとしたのでしょう』
(擬似的な神…)
『…万にも満たない生命を脅かしただけのこの程度の罪では世界を支えられないのです。
おそらく、*^.?#•*の取り込んだ罪の一部を継承させる因子をこの娘に植え付けたのでしょうね。おおかた嫉妬あたりかとは思いますが…』
いつの間にかツクヨミが言っていた糞女神の名前がわかるようになってた。
(…糞女神も糞女神で世界樹の子株に齧り付いてるって学ラン少年が言ってたし…力が足りないのかもしれないな…)
『…それはまた…アヴァリチアの名を冠した者だけのことはあります…』
ツクヨミは俺の中からギリギリと黒い奴を糸で締め上げながら、ふぅ…と呆れたように溜息をついた。
『…本当は私は那由多が死ぬまで一緒にいようと思ったのです』
(ん?急にどうした?)
『…この者の代わりに私が罪を贖いましょう』
(え?)
『この者の贖罪を私が取り込み*^.?#•*を押さえつけます』
(え??)
『那由多…私はずっとこの終わりの無い一柱の歯車から己が解放されるのをずっと…幾星霜も待っていました。
でも…那由多と出会い、那由多がいる世界なら…ちょっと解放されるのが長引いてもいいかなと思えたんです』
(つまり…)
『那由多。暫しのお別れです。*^.?#•*を押さえつけるのは賭けとなりますが…那由多から貰った異世界の神の名と力があれば…或いは眠らせる事ならばできるかもしれません』
(そんな突然…)
『…いつも見ていますからね。悪い事をしてはいけませんよ?』
(ツクヨミ…)
『では、那由多…また会いましょう…』
(ツクヨミっ!)
自身の身の喪失感を感じた時には目の前に、夜の帳を具現化したようなローブを着た男とも女ともつかない者がいた。
「お前の罪は私が貰い受けましょう」
俺の身体から出ていた糸は無くなり代わりに目の前の…ツクヨミの腕に絡んで黒い奴を締め上げていた。
黒い奴は呻きながら徐々に縮んで行き、やがて骨と皮になった豪華な服を着た人や騎士や兵士の服を着た人たちだけその場に横たわっていた。
「ツクヨミ…」
「那由多…今まで楽しいひと時をありがとうございました」
星屑が煌めくローブに覆われツクヨミの顔は見えない。
ツクヨミがパチンと指を鳴らすと、頑なに俺を抱きしめていた母様の傷と装備が一新され、この城に相応しいと言うような髪型とドレスになっていた。
母様はそっと俺を下し、最上級の屈膝礼だろう膝を地につけるような低い礼をした。
「アネットさん。那由多を頼みます。無理強いはせず健やかに育ませて下さいね」
「はい…ツクヨミ様。我が一族の者でナユタを健やかに育てさせて頂きます」
「那由多」
「ツクヨミ…」
「いつの日か共に…」
「ツクヨミ!さよ…な…ら…」
俺が別れの挨拶を言い終わる前にツクヨミは溶けるように消えてしまった。
畜生。数ヶ月しか共にいなかったけど、されど数ヶ月だ。1人で知らない世界…森に放り込まれ少なくともツクヨミを頼り生きて来たのだ。
(挨拶くらいさせろってんだバカヤロ)
突然の別れにビックリし挨拶もできなかったと憤る俺の心とは裏腹に、勝手に流れていた涙を母様がドレスの袖口で優しく拭ってくれていた。
(バカヤロが)
いい歳して別れの挨拶も出来なかった己に悪態をついた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
そんなこんなで、地下牢から出て来た俺たち…主に母様にボト大臣たちは驚いたり、いつの間にかフードがはだけていた俺の素顔を見て泣かれたり、地下牢の遺骸になっていた騎士やら兵士やら何やらに城中てんやわんやの状態で、そこに帰ってきたグラキエグレイペウス公爵の鶴の一声で、どさくさにくっついて来た母様と共に、グラキエグレイペウス公爵家が所有する帝都の屋敷へ逗留する事になった。
ボト大臣には、
「皇后殿下と皇子様は城で過ごすように」
と、泣かれたが、皇帝の系譜に俺は居ない者となっているし、お祖父様にくっついて来てしまった。母様も来ちゃったけど…まぁいいか。
俺は暫くお祖父様の屋敷で母様とボーっと過ごし、一緒に来た一族の人達は、俺に変わらない忠誠をとか暑苦しい挨拶をしたのち、一部は執政官を連れ領地の代官に挨拶をしに行って、そのまま領地を治めたりしているみたいだ。
クヴァルさんら料理チームは、一生俺について行くと、俺の周囲から離れず、屋敷の調理人に混じって日々料理の研究や改造馬車を繰り出して、帝都の市場味覚調査とかしているみたいだ。爵位待ちなのに…
(いずれクヴァルさん達が腕をふるえる店とか帝都に買うのも良いな…)
何のけなしにボーッと考える。これからやる事とか何をしたいかとか、やる気が迷子になってしまったのだ。
(いっそ百貨店とか…作っちゃうか…安くて広い土地あるかな…)
『ひゃっかてん!!それ良いですねー!ぶてぃっくとかでぱちかとか!でぱちかのでざーとは美しいですからね』
(そうそう。デパ地下の高級路線もすてがたいよな…)
『夢が広がりますね~。でぱちかのでざーと…いっそ貧民街を買い上げて貧民を店員にすればいいのでは無いでしょうか?』
(街ごと買うとか豪快すぎだろツクヨミ…
は?
ツクヨミ??)
『はい、ツクヨミです』
(ツクヨミ!!)
『はい、ツクヨミですよ』
(ツクヨミーー!!)
『はい。那由多のツクヨミですよ。那由多。赤ちゃんみたいに泣いちゃってますね』
(…いいんだよ…まだ赤ちゃんなんだから…)
『ふふっ。那由多。ただいま戻りました』
(うん。
お帰り、ツクヨミ)
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