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北の帝国と非有の皇子

非有の皇子×魔封じの牢

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「爺…少し眠る。後は余の奥らを地下牢へ…案内を頼…む…」

「ルキウス様…!」

 俺が気づいた時にはもうは動き出し、少し起きたらしい皇帝はボト大臣に指示を出した後また眠ってしまったようだ。
 ボト大臣は慌てて侍従に典医を呼ぶように伝え慌しくしていた。

 収納から那由多印の魔力や体力などを回復出来るポーションを何個かこっそり出して母様に渡すと、母様は「ありがとう」とニコッと目元を緩め頭を撫でてくれた。ボト大臣にポーションを渡すと、ボト大臣は典医の到着を見届け典医にポーションを渡し、皇帝に向かって深い礼をした。

「…陛下は…いえ…。皇后陛下、魔封じの地下牢手前までご案内致します。しかし地下牢は…今もなお、兵が近づけぬ程邪悪な魔力が溢れ出ております。何人か地下牢に行った兵士たちは未だ帰ってきません。何が起こるかわかりませんのでお子達は…」

「わかりました。…ティーモ。貴方は一族の皆の元へお戻りなさい。」

 ボト大臣の言葉を受け、母様はティーモ兄様に静かに言葉を放つ。

「ではナユタも…」

「ナユタはわたくしと共に行きます。貴方はグラキエグレイペウスの大切な嗣子。何かありましたらに面目が立ちません」

 母様はいつもより圧を強めにティーモ兄様へ言う。お祖父様の事まで公爵だなんて…娘ではなく皇后としての言葉なのか。

「…はい…御前失礼仕ります…」

 ティーモ兄様はグッと言葉を飲み込み、母様に礼をすると隣にいた俺をギュッと抱きしめ、

「早く僕たちの元へ帰ってきてね」

 と囁き、侍従に連れられて後ろ髪を引かれる様に振り向きながらも退出していく。俺はと言うと母様にヒョイと持ち上げられ片腕抱っこだ。
 怖い騎士を目端に捉えみんなの元へ戻るのは酷だけど…近くを通りかかった時に感じた嫌な気配にティーモ兄様を近づけたくないと言う気持ちもある。此処は心を鬼にして見送った。

 ボト大臣は典医と話した後、何人か騎士をつけ執事っぽい人を呼び地下牢へと続く道を案内してくれた。
 やがて先程通った長い道のりの途中にあった嫌な気配の場所に着くと執事っぽい人が腰にぶら下げていた鍵の束から一本の鍵を選び嫌な気配に続く重厚な扉を開ける。

「…魔封じの地下牢はこの先になりますが…どうしても入られますか?」

 ボト大臣も周りの執事っぽい人や騎士もちょっと顔色が悪い。

「ええ。着いてきてとは言わないわ。貴方達は此処で待っていて」

「しかし…」

「この身は既に呪われた身。この子は光魔法も得意なのよ。何かあったらすぐに戻るわ」

「…御意に…必ず…戻って下さい」

「ええ。元よりそのつもりよ。でも何かあったら陛下を頼みますね」

「…皇后陛下…」

 俺と母様は、顔色の悪いボト大臣達に見送られながら扉の向こう側へと進んだ。皇帝のスキルのおかげで、通りかかった時よりも安定した光結界は張れているけどサブイボ再びで有る。

 漏れ出ていた嫌な気配は、神眼で見ることが出来るくらいに溢れていた。まるで真っ黒な毛むくじゃらがまとわりつく様な感じだ。不快度でいうと排水溝に溜まった人毛の塊の様な…あ。想像したら余計サブイボが…

(いつも使っている念入り浄化魔法で消えるかな…)

 モノは試しにと先程の皇帝が眠る部屋より強力に…毛穴の奥底…ではなく、壁のシミも絨毯の塵もダニも天井のくすみもくまなく綺麗に清潔に即ちクリーンにイメージを作って…

(新築並みに綺麗になぁれ!!)

 浄化?魔法が発動するとペカリと壁やら床やら天井やらが光り、通路の不快指数は0になった。騎士や牢番の詰め所かわからないけれど何個か扉はあったが、人の気配はなく使われていない。鍵もかかっていない様なので、ついでに浄化魔法で綺麗にしておいた。嫌な気配は、浄化魔法が効く、というのがわかったので衣類消臭剤をかけるかの如く、親の仇とばかりにシュシュっと浄化しまくった。

(この分なら地下牢まで行けるな…)

 地下へと降りる階段は奥にあるらしく、奥の方からモジャモジャと嫌な気配が溢れ出て来ている。

 シュシュッとこまめに浄化魔法をかけながら、奥にある階段を降りて、やがて地下に辿り着いた。地下は真っ暗で何も見えない。だけどゴソゴソビチャビチャと何か粘着質のものが這う不快な音と呻き声が聞こえた。

(光源を…)

 電球の様な光をイメージして、光球を何個か出し視界を確保した。そして浄化魔法をかける。
 不快な黒いモジャモジャが一掃され、見えた牢の先にはぬらぬら蠢くタールの様な黒い大きな塊が呻き声を上げ蠢いていた。正に醜悪という言葉がピッタリだ。

「あ"~!」

「た…す…ば…ぉ…た…て」

「早く此処から出しなさいよ!私を誰だと思っているの!!私の名はぁ!!名…はぁ!!」

「うぁ」

「ぐる…しぃ」

 近づいて見ると蠢くタールの塊には苦悶の症状を浮かべる人の顔がびっしりと出たり入ったり繰り返していた。何人もの顔がそれぞれ呻き声を上げ1番上の女っぽい顔が1番姿も声も明瞭だが、自分の名前さえ忘れたのか、名はぁ!と言いながらわめいている。鑑定しても、


 ^#•*.** 羽化前


 とだけ出て、何が何だかわからない。

 とりあえず牢の外から浄化魔法を問答無用で放ってみたけど、何個かの人面は消えが効きが悪い。しかも先程よりも体積がデカくなった気がす…る…?

(いや…大分膨れてる?!)

 すると突然黒いタールの様な塊から鞭の様に触手が何本か生え、その触手が魔封じの牢を切り裂き俺たちに攻撃を放った。

「うわぁ!」

「ハッ!」

 母様は光属性のグローブで触手の機動を逸らし、俺は風魔法で触手を断ち切るが触手は一向に減らない。

(むしろ更に肥大してる?!)

「…カエシテ…カエシテ…!!」

「オナカヘッタ…オナカヘッタヨ…」

「無礼者!わたくしを誰だと思っているの?!」

「モット…モット…」

「ィ…ダ…ィ…イ…タイ…」

(なんだこいつ?!魔力を吸収してるのか?!)

 撤退しようと母様に声をかけようとしたが、母様の腕に触手が巻き付いた。

「?!」

「母様!」

「くっ…」

 急いで毛を切り離したが、母様のもふもふな毛は、焼け焦げた様にジュっと音を発しながらなんとそのままライカンスロープ化を解いてしまった。

(母様の呪い魔力を食ったのか?!)

「タリナイ…」

「タリナイヨ…」

「地を這う虫螻が!わたくしにひざまづくがいいわ!」

「モット…モットォ…」

 黒い物体は興奮したのか、ウニの様に黒い棘を身体中を尖らせその棘を一斉に鞭の様に放った。

(クソっ!)

 撤退しながら強力に浄化魔法を放つが、鞭は消えるが本体の方は肥大するばかりだ。

(母様だけでも守らなければ)

 しかし浄化魔法を掛ける隙をついて鞭が俺の胴体を捉え引き込まれる。

「ナユタ!!」

「あぐっ!!」

 よく鞭は音速を超えるというが…その速さに俺はついていけなかった。
 気づいた時には黒いタールの様な液体の様な気持ちが悪い物体の中に引き込まれ沈んでいた。浄化魔法を放とうとしても急速に魔力が奪われる。肺の酸素も奪われもがくが出ることは叶わない。

(此処で死ぬのか俺…)

 この身体になってやりたい事も全然出来なかったし、この世界で1番のご長寿さんになる夢も齢3歳にて潰えてしまうのか?畜生!!

(こうなったら死なば諸共!!窮鼠猫を噛む!窮寇追うこと勿れだ!)

 俺はありったけの魔力を込めて浄化魔法を放った。 


『那由多!!』
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