神様お願い!~神様のトバッチリで異世界に転生したので心穏やかにスローライフを送りたい~

きのこのこ

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北の帝国と非有の皇子

非有の皇子×父子感動の再会?

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(やっぱり…うまく神眼が使えない…?)

 長い回廊を行く俺たちを扇動している小太りの中年男の背中をじっと見つめる。

 この城に入ってから魔力が安定せず、うまく神眼が機能しないで鑑定した文字がバラけてしまい読めないのだ。結界もうまく張れずどうにか力技で身内の人数分人体スレスレの周りを囲む程度。いつも以上に魔力が失われている気がする。こんな事態は初めてだ。

 何度か神眼を試していると、不意にゾワリと冷たい空気が流れた様な気がした。全身粟立つ様な嫌な感じだ。思わず当たりを見回してしまう。

「ナユタ…」

「母様…」

 よく見れば母様の背中の毛がボワボワと逆立っているし、いつの間にかティーモ兄様も母様の手を握っていた。

「如何されましたか?」

 不意に先を行く小太りの中年男が訝しげに振り返った。

「ボト大臣。もしやこの区画の何処かに彼女達・・・が…?」

 どうやら小太りの中年男はボト大臣と言う様だ。

「その通りでございます。先に陛下の元へご案内して、その後様子を見てから魔封じの牢へ後程と…」

「そう…では後程そちらへの案内をお願い致します」

「かしこまりました」

 そのままボト大臣は、廊下を先に行く。どうやら早く俺たちを彼の言う陛下の元へと案内したい様だ。

「母様、この城は魔力がうまく働きません。そして魔封じの牢にいる彼女達とは?」

 小声で母様に次いでとばかりに疑問に思ったことを聞いてみた。

「ごめんなさいね…馬車で言い忘れていましたが…」

 母様が言うには、どうやらこの城を覆う白い灰が魔力を吸収してしまって、上手く魔法が使えないとの事だ。でも自分の体内に魔法をかける事…例えば身体強化などは使えるので、身体強化などが使える高位貴族の犯罪者用に魔力自体を封じる牢があるそうだ。そこに今回、母様やグラキエグレイペウスの一族を呪ったり虐殺したりした元凶がいるらしい。

 何故お祖父様とか騎士家の一族の人たちは、魔法も使えるのに筋力を鍛えてるのかな?と思ったら、この城では魔法が役に立たないからと言うことか。
 身体強化も基礎筋力がモノを言うし…母様は元々魔法が使えなかったし母様のスキルは身体強化の様な内面的なものでこの城に住んでてもとくに不便は感じなかったそうな。
 この国にはこの城だけじゃなく、他にもこの様な白い灰で覆わコーティングされた城や要塞などの建物があるのかもしれない。

 しかし、その魔法を吸収する城の造りと魔封じの牢を持ってしても漏れ出る何か良くないものがあると言うことだ。後で行く様だが、魔法を封じられたままでは正直行きたくはない。君子、危に近寄らずである。
 でも…俺の身体の本当の持ち主が、精霊の子になってしまった原因がそこにあるのかもしれないし、出来るのならばきっちり見届けて、今度生まれてくるあの子精霊の子の為にスッキリサッパリさせておくのも、おじさんとしてはやぶさかではない。

(それにしても…母様は吸収と言ったけど体感的に、万華鏡みたいに文字が踊っていたと言うか…何枚も鏡を置いて覗き込んだ様な感覚というか…魔力を反射してる気がしたんだよな…)

 仮定として、魔石のシャンデリアの発光は蛍光灯の様に柔らかく光を発して居るし…何かの条件や一定以上の魔力だと反射したりするのかもしれない。こんな時すぐ疑問を答えてくれそうなツクヨミが居たらな、と思うけど仕方がない。以前の様に俺の深層心理で映画や雑誌を嗜んでるのかも知れないし。異文化コミュニュケーションは異世界の元神様でも面白いそうな。

 そんな事を考えていたら、大きな扉の前でボト大臣が止まり扉を守る騎士達に開ける様に指示を出していた。

 騎士達は恭しく扉を開け、俺たちが通るとまたきっちりと扉は閉められた。反対側にも扉を護る騎士がいて、敬礼をしていた。

「此処から先が皇族が住まう区画となります」

 母様がこそっと教えてくれた。ティーモ兄様もこの場所に来たのは初めてなのか、母様の手を握りしめて辺りを見回している。

 壁には…多分周辺の国の王様たちの人物画が飾ってあった。絵の上に国の名前や紋章が彫られたエンブレムが飾ってある。壮年の男性たちや女性たちが国ごとに何枚も描かれていた。

 そしてそのままボト大臣について階段を上がると一際眩しい光が目に飛び込んできた。目が慣れるとなんと水晶で覆われた廊下だった。金と水晶クリスタルが惜しげもなく使われ、光が漆喰に反射して目が痛い。この身体になって思ったのだが、目の色素が薄いせいか、日光の光をやたらと眩しいと感じたり、薄い暗闇では割とよく見えたりする。それもあって、光を柔らかくする為、ツクヨミがいなくとも光を和らげつつ結界を常時展開する事も学んだのだが…
 窓はこれでもか!と大きく、光をふんだんに取り込んで、それがまた水晶やら金ピカに反射して…

(目ガァー!!)

 眩しーー!!まさに憎たらしい程に豪華絢爛という文字が相応しい。こっそり目を両手で塞ぐと母様にククッと笑われた。母様もティーモ兄様も笑いつつ目が細くなっております。ちなみにこの部屋にも多分、この国の…歴代?の皇帝が描かれた絵が並べられていた。

「ここは皇族が最も見栄を張る広間、水晶クリスタルのロングギャラリーです。他国の王族などをご案内したりするのよ」
 
 母様がコソコソっと教えてくれた。通りで贅を凝らしてピカピカがすぎる。そのロングギャラリーというピカピカの廊下の奥に行くとまた階段が。騎士達も左右を守る様に配置されて居る。

(コレはピカピカの中に居る騎士達にサングラスを支給したくなるな…)

 目を細めて眩しさに耐え、騎士達が護る階段を上がり、更ににまた騎士達が護る扉へと案内される。迷路の様でもあり各所に騎士がいてかなり厳重だ。

 重厚な扉を2枚ほど開けると、重厚な机の周りの壁には天井付近まで本がぎっちりと並べられ、さらにど真ん中に大きな地球儀の様な物がある部屋だった。先ほどの眩しい廊下とは違い落ち着いた薄暗さにホッと一息つく。ボト大臣は更に奥の部屋へと俺たちを案内した。至る所にシャンデリアがぶら下がり壁も調度品もどこもかしこも豪華だ。さすが皇帝国の顔の住まう場所。どこもかしこも一部の隙間なく贅沢な作りだ。

 奥の部屋はどうやらベッドルームのようだ。ど真ん中に配置された豪華な天蓋付きの大きな寝台には人の気配がした。左右の枕元の豪華な椅子には若い男性が2人座っており、ボト大臣に立ち上がって挨拶をしていた。部屋にはこの部屋に来る途中見かけなかった子供の人物画などが何枚もあった。

(あ…母様の絵もある…)

「其方達は下がっておれ」

「はっ」

 ボト大臣は若い男性たちを下がらせ此方…というか母様に礼をする。

「皇后陛下…我らが至らぬばかりに…陛下も未だ目覚めず…」

「いいえ。貴方達は良くやってくれたわ。わたくし能力クロトーは少しの差異でも大きく変わってしまう。変わりゆく陛下に何もできず手を拱いて居たのは貴方達に精神的な苦痛を伴わせたと思います」

「しかし…」

わたくしたちも陛下も生きている。ボト大臣達も官僚達も必死になって調べてくれ元凶は牢にいる。それが答えです」

「は…」

 もしかしたら母様は事前に、ボト大臣へ何らかの形で何かよくないことが起こると知らせていたのかもしれない。母様は気落ちしたボト大臣を見やり、俺をティーモ兄様のそばへ下ろした。自分の懐からいつぞや購入した聖属性の厳ついグローブを取り出し、モフモフな毛に覆われた拳にギチリと嵌め込む。

 そしてベッドサイドの豪華なチェストを開くと、その中からきらきらしい宝石箱の様なものを取り出した。

「陛下は…荒療治ですが、わたくしがなんとか致します」

「その箱は一体…?」

 母様はパカリとくだんの宝石箱を開けるとピンポン玉の様な玉を何個か取り出した。

「陛下の『追憶のマテリアル』ですわ」

「なんと…?!」

「自分を見失いそうになったら分ける様・・・・に助言しておいたのです」

 母様は寝台に横たわる男性…を横抱き…所謂お姫様抱っこなのだが…にしてヒョイと天井に投げた。

「「えっ?!」」

「んなっ?!」

「ルキウス様!!ごめんあそばせっ!!!」

 重力に従って落ちて来た皇帝からドフッという凄まじい音が聞こえた。驚きのあまり固まっていた俺たちは、母様が皇帝の腹に一発拳を打ち込んだのを察する。母様が握り込んだ追憶のマテリアルが何個か割れたのかバキバキ音がしカケラも残さず消えてゆく。
 腹に一発喰らった皇帝は、かはッと息を吐くが目覚めず、母様は残りの追憶のマテリアルを握り込むともう一回天井に皇帝を放り投げ腹に一発撃ち込む。

「ルキウス様!お目覚め遊ばせっ!!」

「ど…!!ど…!!!!」

(どめすてぃっく・ばいおれんす!!!)

 ボト大臣は顎を開けたまま微動だにしていない。もしや目を開けたままショックで気絶しているのか?!
 俺とティーモ兄様は抱きしめあって震えながら母様の恐るべき姿を見守る。もしや…母様が言っていた、ぶん殴りますわ!って旦那のことだったのか…?

 二発目の渾身の一撃を喰らった皇帝は、ゴホゴホと咳き込み口から黒いタールの様な物を吐き出すと、

「…君はいつも………なんだから…………」

 ボソボソ何かを言いながらカクリと力尽きてしまった。母様は皇帝を寝台へ下ろして、

「もう大丈夫ですわ」

 と言いつつ下がる。

「ルキウス様!!」

 時を止めていたボト大臣が皇帝のそばへより声をかけると皇帝が少しだけ目を開け、

「爺…心配をかけたな…」

 と言って目を閉じてしまった。微かな寝息が聞こえる。ボト大臣は安心したのか皇帝の手をギュッと握り強く目を瞑っていた。

 俺はというと、皇帝が床に吐き出したタールの様な物が気になったので、鑑定もろくに定まらないしと思って今一度鑑定をかけると何故か鑑定ができた。
 
(あれ?)

▶︎ 呪いの澱

体の奥底に潜んでいた呪いの残滓
対象者の記憶と魔力を奪った物の残り物
なお記憶を奪われ空っぽになった身体は生の活動を終えるまで魔力製造機として美の女神に魔力が供給される。


 とりあえず糞女神の残した悪い物と判断がついたので聖属性の浄化の魔法で部屋ごと強めに微に入り細に入り浄化をしておいた。浄化をかけると黒いタールは跡形もなく消えてしまった。

(うん。スッキリさわやか)

 しかし突然魔法が…鑑定ができる様になったのは何故なんだろう?この部屋も、壁紙はあるけど白い灰の漆喰で囲まれているのは鑑定結果で間違えなさそうだ。
 もしかして魔法が使える条件があるのか…?

「皇后陛下、これは一体…」

「追憶のマテリアルは強い衝撃をかけなければ割れませんので…」

「それにしてももう少し…」

 母様とボト大臣が話して居るのを聞きながら辺りを見回す。マジックアイテム不思議道具もないし…うーん。
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