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北の帝国と非有の皇子
幕間〜ダリル辺境伯・晩餐での一齣〜
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ダリル辺境伯視点
晩餐の最中、恐ろしい程濃密な魔力が不自然に部屋の中に広がった。身体を舐める様に魔力が触れたかと思うと突如として収束する。収束元を見やれば小さな子供だった。ランガルトの孫…確かナユタだったか。そいつが、まだ目の前に濃密な氷の結界で包んだ何かに力を加えている。
(奴がこの中で一番強いと言ったのは戯言でもなかったのだな…)
恐ろしくも濃密な魔力をしっかりと制御し操る幼児に、我が子らもその異様な様子に気付いたのか視線がその魔力の大元に行く。
皆の注目も気付かず、ナユタは難しい顔をして懸命に何かをしていると思えば、結界内に何かの液体を流し込み満足げな顔になった。更には魔力を発する前に侍従に頼んでいた何かを受取ると其れを結界内に流し込む。
(奴は一体何をしたいんだ?)
ナユタはキョロキョロと辺りを見渡し、希望のものがなかったのか少し考え、何処からか水差しを取り出した。そこに結界内の液体を器用に注ぎこみ、自身のグラスにも注いでいた。
その間自身の手は使わず、魔力でのみグラスなどを操作している。普段は騒がしい息子らも一言も喋らずその光景に釘付けだ。
「くぅー!うまい!」
ナユタはグラスの中のモノを飲むと、仕事終わりに酒を嗜む壮年の男の様な呻き声を上げ、更に侍従に前菜を頼み、その飲み物と共に楽しんでいた。
(…まさか…あの飲料を作りたいが為に、あの濃密な魔力を放出したのか…?なんと言う無駄な…)
ふとランガルトを見れば、珍しく困った様な…残念そうな顔をしていた。ナユタがこの様な…戦い以外で魔法を駆使する事は日常茶飯事なのかもしれない。
「私も飲みたい!」
ランガルトの嗣子の少年の一声で、止まっていた我らの時間が動き出し、どうせならとランガルトの娘の一言でナユタが作った飲料が皆に振舞われた。息子がショックの顔をしているがいいのか?アネットちゃん…確かに何をしていたのか、ナユタの能力がわかりやすいと言えばわかりやすいが…
恐る恐る口に含めば、キンッと氷の結界で冷やされたレモンの酸味と苦味、蜜の仄かな甘さが爽やかさと飲みやすさを生み、発酵した酒より強めの泡が喉に当たり、爽やかさと刺激と心地よい喉越しが感じられた。
「これは…刺激的でうまいな…」
皆、発泡の強さに驚きながらもうまいといい、酒に弱い妻と次男も飲みやすいと絶賛していた。
その光景をナユタが恨めしそうに睨め上げながら、ボソボソと、
「…風味がクリア…いえ…味が殆ど無い蒸留酒が有れば…その飲み物に好みの分量を入れると…おぃしぃと………」
最後の方は小さくて聞こえなかったが、この飲み物に蒸留酒を入れるといいのだな。早速侍従に、錬金術師が芋から作った燃えるワインを持って来させ入れてみた。
「これはさっぱりとしてクセもなく飲みやすいですわ。これからの季節、庭園での茶会や、昼食会などにとても良いと思います。何よりも酒量を調節出来るのがとても良いですわ!」
妻は大絶賛だ。確かに…確かにこれからの季節に適した飲み物であろう。…が、誰があの濃密な魔力を巡らせる作業ができると言うのか。
先々の事を思うと少々頭が痛い事だ。ナユタが何をしたのか聞いてもみたが、要領を得ない。
ナユタは…二酸化炭素…と言っていたが…我らの吐き出した空気を、この目に見えない大気から選別して圧縮冷却をするなど、どうしろと言うのだ?魔法蒐集家の次男坊が、目を爛々と輝かせている。悪い癖が出なければ良いが…。頭が痛い。
ランガルトを見れば、さもありなん、少し勝ち誇った顔でこちらを見やる。
俺も含めて此処にいる誰よりも、強いと言う意味がわかった様な気がした。強いとは力強さだけとは限らないのだから。教会では恐らく力を押さえていたのだろう。昼間とは魔力の質までもが違う気がした。
その後ナユタは、当家の料理長特製魚介のミルクシチューが気に入ったのかよく食べ、更に焼き菓子を欠伸混じりに食べながらウトウトとしている。
晩餐前まで寝ていたと言うのに、腹が満杯になって眠くなった様だ。そう言うところは外見通り子供らしく、少し…なんと言うか安心した。
大人でも知らぬ知識と、強すぎる魔力は時として畏怖の念を持つモノだから…
侍従に抱かれ部屋に下がった幼児に皆の意識が向く。次男坊はナユタに興味津々と言う顔だった。
_________________________________________
▼ダリル辺境伯家 お抱え料理人特製 砕けた魚のミルクシチュー【プロックフィスクル】
◆レシピ
根菜類の皮を剥く。皮はよく洗い鍋に敷き詰め上に内臓を取り出した虎魚を乗せ、たっぷりと白ワインをふりかけ蒸し焼きにする。その間、別鍋で芋を蒸す。
蒸し焼きにした虎魚を取り出し骨や皮などを取り除き、肉を細かくほぐす。
玉ねぎを微塵切りにして豊なる牝牛の牛酪で炒めそこに小麦粉を入れ、粉っぽさがなくなるまで炒める。
粉っぽさがなくなったら、ほぐした虎魚を入れ軽く混ぜたら、蒸した芋と豊なる牝牛の乳を入れ、煮る。
とろみができたら皿に盛り、細かく切った青ネギとカリカリに焼いた角羊の背脂のチャンクフライを散らして出来上がり。
材料
虎魚白身魚ならなんでも
芋
玉ねぎ
青ねぎ(適量)
豊なる牝牛の乳
小麦粉(出来れば白色を。無ければ好きな麦で)
海塩
胡椒(お好きな香辛料やハーブなど足しても可)
豊なる牝牛の牛酪
角羊《ホーンランマス》の背脂のチャンクフライ
白ワイン(適量)
晩餐の最中、恐ろしい程濃密な魔力が不自然に部屋の中に広がった。身体を舐める様に魔力が触れたかと思うと突如として収束する。収束元を見やれば小さな子供だった。ランガルトの孫…確かナユタだったか。そいつが、まだ目の前に濃密な氷の結界で包んだ何かに力を加えている。
(奴がこの中で一番強いと言ったのは戯言でもなかったのだな…)
恐ろしくも濃密な魔力をしっかりと制御し操る幼児に、我が子らもその異様な様子に気付いたのか視線がその魔力の大元に行く。
皆の注目も気付かず、ナユタは難しい顔をして懸命に何かをしていると思えば、結界内に何かの液体を流し込み満足げな顔になった。更には魔力を発する前に侍従に頼んでいた何かを受取ると其れを結界内に流し込む。
(奴は一体何をしたいんだ?)
ナユタはキョロキョロと辺りを見渡し、希望のものがなかったのか少し考え、何処からか水差しを取り出した。そこに結界内の液体を器用に注ぎこみ、自身のグラスにも注いでいた。
その間自身の手は使わず、魔力でのみグラスなどを操作している。普段は騒がしい息子らも一言も喋らずその光景に釘付けだ。
「くぅー!うまい!」
ナユタはグラスの中のモノを飲むと、仕事終わりに酒を嗜む壮年の男の様な呻き声を上げ、更に侍従に前菜を頼み、その飲み物と共に楽しんでいた。
(…まさか…あの飲料を作りたいが為に、あの濃密な魔力を放出したのか…?なんと言う無駄な…)
ふとランガルトを見れば、珍しく困った様な…残念そうな顔をしていた。ナユタがこの様な…戦い以外で魔法を駆使する事は日常茶飯事なのかもしれない。
「私も飲みたい!」
ランガルトの嗣子の少年の一声で、止まっていた我らの時間が動き出し、どうせならとランガルトの娘の一言でナユタが作った飲料が皆に振舞われた。息子がショックの顔をしているがいいのか?アネットちゃん…確かに何をしていたのか、ナユタの能力がわかりやすいと言えばわかりやすいが…
恐る恐る口に含めば、キンッと氷の結界で冷やされたレモンの酸味と苦味、蜜の仄かな甘さが爽やかさと飲みやすさを生み、発酵した酒より強めの泡が喉に当たり、爽やかさと刺激と心地よい喉越しが感じられた。
「これは…刺激的でうまいな…」
皆、発泡の強さに驚きながらもうまいといい、酒に弱い妻と次男も飲みやすいと絶賛していた。
その光景をナユタが恨めしそうに睨め上げながら、ボソボソと、
「…風味がクリア…いえ…味が殆ど無い蒸留酒が有れば…その飲み物に好みの分量を入れると…おぃしぃと………」
最後の方は小さくて聞こえなかったが、この飲み物に蒸留酒を入れるといいのだな。早速侍従に、錬金術師が芋から作った燃えるワインを持って来させ入れてみた。
「これはさっぱりとしてクセもなく飲みやすいですわ。これからの季節、庭園での茶会や、昼食会などにとても良いと思います。何よりも酒量を調節出来るのがとても良いですわ!」
妻は大絶賛だ。確かに…確かにこれからの季節に適した飲み物であろう。…が、誰があの濃密な魔力を巡らせる作業ができると言うのか。
先々の事を思うと少々頭が痛い事だ。ナユタが何をしたのか聞いてもみたが、要領を得ない。
ナユタは…二酸化炭素…と言っていたが…我らの吐き出した空気を、この目に見えない大気から選別して圧縮冷却をするなど、どうしろと言うのだ?魔法蒐集家の次男坊が、目を爛々と輝かせている。悪い癖が出なければ良いが…。頭が痛い。
ランガルトを見れば、さもありなん、少し勝ち誇った顔でこちらを見やる。
俺も含めて此処にいる誰よりも、強いと言う意味がわかった様な気がした。強いとは力強さだけとは限らないのだから。教会では恐らく力を押さえていたのだろう。昼間とは魔力の質までもが違う気がした。
その後ナユタは、当家の料理長特製魚介のミルクシチューが気に入ったのかよく食べ、更に焼き菓子を欠伸混じりに食べながらウトウトとしている。
晩餐前まで寝ていたと言うのに、腹が満杯になって眠くなった様だ。そう言うところは外見通り子供らしく、少し…なんと言うか安心した。
大人でも知らぬ知識と、強すぎる魔力は時として畏怖の念を持つモノだから…
侍従に抱かれ部屋に下がった幼児に皆の意識が向く。次男坊はナユタに興味津々と言う顔だった。
_________________________________________
▼ダリル辺境伯家 お抱え料理人特製 砕けた魚のミルクシチュー【プロックフィスクル】
◆レシピ
根菜類の皮を剥く。皮はよく洗い鍋に敷き詰め上に内臓を取り出した虎魚を乗せ、たっぷりと白ワインをふりかけ蒸し焼きにする。その間、別鍋で芋を蒸す。
蒸し焼きにした虎魚を取り出し骨や皮などを取り除き、肉を細かくほぐす。
玉ねぎを微塵切りにして豊なる牝牛の牛酪で炒めそこに小麦粉を入れ、粉っぽさがなくなるまで炒める。
粉っぽさがなくなったら、ほぐした虎魚を入れ軽く混ぜたら、蒸した芋と豊なる牝牛の乳を入れ、煮る。
とろみができたら皿に盛り、細かく切った青ネギとカリカリに焼いた角羊の背脂のチャンクフライを散らして出来上がり。
材料
虎魚白身魚ならなんでも
芋
玉ねぎ
青ねぎ(適量)
豊なる牝牛の乳
小麦粉(出来れば白色を。無ければ好きな麦で)
海塩
胡椒(お好きな香辛料やハーブなど足しても可)
豊なる牝牛の牛酪
角羊《ホーンランマス》の背脂のチャンクフライ
白ワイン(適量)
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