29 / 59
北の帝国と非有の皇子
幕間〜ダリル辺境伯・晩餐での一齣〜
しおりを挟む
ダリル辺境伯視点
晩餐の最中、恐ろしい程濃密な魔力が不自然に部屋の中に広がった。身体を舐める様に魔力が触れたかと思うと突如として収束する。収束元を見やれば小さな子供だった。ランガルトの孫…確かナユタだったか。そいつが、まだ目の前に濃密な氷の結界で包んだ何かに力を加えている。
(奴がこの中で一番強いと言ったのは戯言でもなかったのだな…)
恐ろしくも濃密な魔力をしっかりと制御し操る幼児に、我が子らもその異様な様子に気付いたのか視線がその魔力の大元に行く。
皆の注目も気付かず、ナユタは難しい顔をして懸命に何かをしていると思えば、結界内に何かの液体を流し込み満足げな顔になった。更には魔力を発する前に侍従に頼んでいた何かを受取ると其れを結界内に流し込む。
(奴は一体何をしたいんだ?)
ナユタはキョロキョロと辺りを見渡し、希望のものがなかったのか少し考え、何処からか水差しを取り出した。そこに結界内の液体を器用に注ぎこみ、自身のグラスにも注いでいた。
その間自身の手は使わず、魔力でのみグラスなどを操作している。普段は騒がしい息子らも一言も喋らずその光景に釘付けだ。
「くぅー!うまい!」
ナユタはグラスの中のモノを飲むと、仕事終わりに酒を嗜む壮年の男の様な呻き声を上げ、更に侍従に前菜を頼み、その飲み物と共に楽しんでいた。
(…まさか…あの飲料を作りたいが為に、あの濃密な魔力を放出したのか…?なんと言う無駄な…)
ふとランガルトを見れば、珍しく困った様な…残念そうな顔をしていた。ナユタがこの様な…戦い以外で魔法を駆使する事は日常茶飯事なのかもしれない。
「私も飲みたい!」
ランガルトの嗣子の少年の一声で、止まっていた我らの時間が動き出し、どうせならとランガルトの娘の一言でナユタが作った飲料が皆に振舞われた。息子がショックの顔をしているがいいのか?アネットちゃん…確かに何をしていたのか、ナユタの能力がわかりやすいと言えばわかりやすいが…
恐る恐る口に含めば、キンッと氷の結界で冷やされたレモンの酸味と苦味、蜜の仄かな甘さが爽やかさと飲みやすさを生み、発酵した酒より強めの泡が喉に当たり、爽やかさと刺激と心地よい喉越しが感じられた。
「これは…刺激的でうまいな…」
皆、発泡の強さに驚きながらもうまいといい、酒に弱い妻と次男も飲みやすいと絶賛していた。
その光景をナユタが恨めしそうに睨め上げながら、ボソボソと、
「…風味がクリア…いえ…味が殆ど無い蒸留酒が有れば…その飲み物に好みの分量を入れると…おぃしぃと………」
最後の方は小さくて聞こえなかったが、この飲み物に蒸留酒を入れるといいのだな。早速侍従に、錬金術師が芋から作った燃えるワインを持って来させ入れてみた。
「これはさっぱりとしてクセもなく飲みやすいですわ。これからの季節、庭園での茶会や、昼食会などにとても良いと思います。何よりも酒量を調節出来るのがとても良いですわ!」
妻は大絶賛だ。確かに…確かにこれからの季節に適した飲み物であろう。…が、誰があの濃密な魔力を巡らせる作業ができると言うのか。
先々の事を思うと少々頭が痛い事だ。ナユタが何をしたのか聞いてもみたが、要領を得ない。
ナユタは…二酸化炭素…と言っていたが…我らの吐き出した空気を、この目に見えない大気から選別して圧縮冷却をするなど、どうしろと言うのだ?魔法蒐集家の次男坊が、目を爛々と輝かせている。悪い癖が出なければ良いが…。頭が痛い。
ランガルトを見れば、さもありなん、少し勝ち誇った顔でこちらを見やる。
俺も含めて此処にいる誰よりも、強いと言う意味がわかった様な気がした。強いとは力強さだけとは限らないのだから。教会では恐らく力を押さえていたのだろう。昼間とは魔力の質までもが違う気がした。
その後ナユタは、当家の料理長特製魚介のミルクシチューが気に入ったのかよく食べ、更に焼き菓子を欠伸混じりに食べながらウトウトとしている。
晩餐前まで寝ていたと言うのに、腹が満杯になって眠くなった様だ。そう言うところは外見通り子供らしく、少し…なんと言うか安心した。
大人でも知らぬ知識と、強すぎる魔力は時として畏怖の念を持つモノだから…
侍従に抱かれ部屋に下がった幼児に皆の意識が向く。次男坊はナユタに興味津々と言う顔だった。
_________________________________________
▼ダリル辺境伯家 お抱え料理人特製 砕けた魚のミルクシチュー【プロックフィスクル】
◆レシピ
根菜類の皮を剥く。皮はよく洗い鍋に敷き詰め上に内臓を取り出した虎魚を乗せ、たっぷりと白ワインをふりかけ蒸し焼きにする。その間、別鍋で芋を蒸す。
蒸し焼きにした虎魚を取り出し骨や皮などを取り除き、肉を細かくほぐす。
玉ねぎを微塵切りにして豊なる牝牛の牛酪で炒めそこに小麦粉を入れ、粉っぽさがなくなるまで炒める。
粉っぽさがなくなったら、ほぐした虎魚を入れ軽く混ぜたら、蒸した芋と豊なる牝牛の乳を入れ、煮る。
とろみができたら皿に盛り、細かく切った青ネギとカリカリに焼いた角羊の背脂のチャンクフライを散らして出来上がり。
材料
虎魚白身魚ならなんでも
芋
玉ねぎ
青ねぎ(適量)
豊なる牝牛の乳
小麦粉(出来れば白色を。無ければ好きな麦で)
海塩
胡椒(お好きな香辛料やハーブなど足しても可)
豊なる牝牛の牛酪
角羊《ホーンランマス》の背脂のチャンクフライ
白ワイン(適量)
晩餐の最中、恐ろしい程濃密な魔力が不自然に部屋の中に広がった。身体を舐める様に魔力が触れたかと思うと突如として収束する。収束元を見やれば小さな子供だった。ランガルトの孫…確かナユタだったか。そいつが、まだ目の前に濃密な氷の結界で包んだ何かに力を加えている。
(奴がこの中で一番強いと言ったのは戯言でもなかったのだな…)
恐ろしくも濃密な魔力をしっかりと制御し操る幼児に、我が子らもその異様な様子に気付いたのか視線がその魔力の大元に行く。
皆の注目も気付かず、ナユタは難しい顔をして懸命に何かをしていると思えば、結界内に何かの液体を流し込み満足げな顔になった。更には魔力を発する前に侍従に頼んでいた何かを受取ると其れを結界内に流し込む。
(奴は一体何をしたいんだ?)
ナユタはキョロキョロと辺りを見渡し、希望のものがなかったのか少し考え、何処からか水差しを取り出した。そこに結界内の液体を器用に注ぎこみ、自身のグラスにも注いでいた。
その間自身の手は使わず、魔力でのみグラスなどを操作している。普段は騒がしい息子らも一言も喋らずその光景に釘付けだ。
「くぅー!うまい!」
ナユタはグラスの中のモノを飲むと、仕事終わりに酒を嗜む壮年の男の様な呻き声を上げ、更に侍従に前菜を頼み、その飲み物と共に楽しんでいた。
(…まさか…あの飲料を作りたいが為に、あの濃密な魔力を放出したのか…?なんと言う無駄な…)
ふとランガルトを見れば、珍しく困った様な…残念そうな顔をしていた。ナユタがこの様な…戦い以外で魔法を駆使する事は日常茶飯事なのかもしれない。
「私も飲みたい!」
ランガルトの嗣子の少年の一声で、止まっていた我らの時間が動き出し、どうせならとランガルトの娘の一言でナユタが作った飲料が皆に振舞われた。息子がショックの顔をしているがいいのか?アネットちゃん…確かに何をしていたのか、ナユタの能力がわかりやすいと言えばわかりやすいが…
恐る恐る口に含めば、キンッと氷の結界で冷やされたレモンの酸味と苦味、蜜の仄かな甘さが爽やかさと飲みやすさを生み、発酵した酒より強めの泡が喉に当たり、爽やかさと刺激と心地よい喉越しが感じられた。
「これは…刺激的でうまいな…」
皆、発泡の強さに驚きながらもうまいといい、酒に弱い妻と次男も飲みやすいと絶賛していた。
その光景をナユタが恨めしそうに睨め上げながら、ボソボソと、
「…風味がクリア…いえ…味が殆ど無い蒸留酒が有れば…その飲み物に好みの分量を入れると…おぃしぃと………」
最後の方は小さくて聞こえなかったが、この飲み物に蒸留酒を入れるといいのだな。早速侍従に、錬金術師が芋から作った燃えるワインを持って来させ入れてみた。
「これはさっぱりとしてクセもなく飲みやすいですわ。これからの季節、庭園での茶会や、昼食会などにとても良いと思います。何よりも酒量を調節出来るのがとても良いですわ!」
妻は大絶賛だ。確かに…確かにこれからの季節に適した飲み物であろう。…が、誰があの濃密な魔力を巡らせる作業ができると言うのか。
先々の事を思うと少々頭が痛い事だ。ナユタが何をしたのか聞いてもみたが、要領を得ない。
ナユタは…二酸化炭素…と言っていたが…我らの吐き出した空気を、この目に見えない大気から選別して圧縮冷却をするなど、どうしろと言うのだ?魔法蒐集家の次男坊が、目を爛々と輝かせている。悪い癖が出なければ良いが…。頭が痛い。
ランガルトを見れば、さもありなん、少し勝ち誇った顔でこちらを見やる。
俺も含めて此処にいる誰よりも、強いと言う意味がわかった様な気がした。強いとは力強さだけとは限らないのだから。教会では恐らく力を押さえていたのだろう。昼間とは魔力の質までもが違う気がした。
その後ナユタは、当家の料理長特製魚介のミルクシチューが気に入ったのかよく食べ、更に焼き菓子を欠伸混じりに食べながらウトウトとしている。
晩餐前まで寝ていたと言うのに、腹が満杯になって眠くなった様だ。そう言うところは外見通り子供らしく、少し…なんと言うか安心した。
大人でも知らぬ知識と、強すぎる魔力は時として畏怖の念を持つモノだから…
侍従に抱かれ部屋に下がった幼児に皆の意識が向く。次男坊はナユタに興味津々と言う顔だった。
_________________________________________
▼ダリル辺境伯家 お抱え料理人特製 砕けた魚のミルクシチュー【プロックフィスクル】
◆レシピ
根菜類の皮を剥く。皮はよく洗い鍋に敷き詰め上に内臓を取り出した虎魚を乗せ、たっぷりと白ワインをふりかけ蒸し焼きにする。その間、別鍋で芋を蒸す。
蒸し焼きにした虎魚を取り出し骨や皮などを取り除き、肉を細かくほぐす。
玉ねぎを微塵切りにして豊なる牝牛の牛酪で炒めそこに小麦粉を入れ、粉っぽさがなくなるまで炒める。
粉っぽさがなくなったら、ほぐした虎魚を入れ軽く混ぜたら、蒸した芋と豊なる牝牛の乳を入れ、煮る。
とろみができたら皿に盛り、細かく切った青ネギとカリカリに焼いた角羊の背脂のチャンクフライを散らして出来上がり。
材料
虎魚白身魚ならなんでも
芋
玉ねぎ
青ねぎ(適量)
豊なる牝牛の乳
小麦粉(出来れば白色を。無ければ好きな麦で)
海塩
胡椒(お好きな香辛料やハーブなど足しても可)
豊なる牝牛の牛酪
角羊《ホーンランマス》の背脂のチャンクフライ
白ワイン(適量)
565
お気に入りに追加
3,370
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
聖女の私が追放されたらお父さんも一緒についてきちゃいました。
重田いの
ファンタジー
聖女である私が追放されたらお父さんも一緒についてきちゃいました。
あのお、私はともかくお父さんがいなくなるのは国としてマズイと思うのですが……。
よくある聖女追放ものです。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
治療院の聖者様 ~パーティーを追放されたけど、俺は治療院の仕事で忙しいので今さら戻ってこいと言われてももう遅いです~
大山 たろう
ファンタジー
「ロード、君はこのパーティーに相応しくない」
唐突に主人公:ロードはパーティーを追放された。
そして生計を立てるために、ロードは治療院で働くことになった。
「なんで無詠唱でそれだけの回復ができるの!」
「これぐらいできないと怒鳴られましたから......」
一方、ロードが追放されたパーティーは、だんだんと崩壊していくのだった。
これは、一人の少年が幸せを送り、幸せを探す話である。
※小説家になろう様でも連載しております。
2021/02/12日、完結しました。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ!
タヌキ汁
ファンタジー
国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。
これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。
勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス
R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。
そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。
最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。
そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。
※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。