神様お願い!~神様のトバッチリで異世界に転生したので心穏やかにスローライフを送りたい~

きのこのこ

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北の帝国と非有の皇子

幕間〜夜の訪問者〜

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 ※ランガルトお祖父様視点


「お父様、失礼します」

「どうした?アネット。ナユタ殿とティーモは?」

「2人とも寝ております」

 三つ子月が中天にかかる少し前、子供達と共に馬車へ入ったはずのアネットが我が元へやってきた。
 獣の身体に白い毛を纏った我が娘を見る度に、皇城での娘の状態に気づかず、あまつさえ狂ったなどと…思い込んだ己自身への怒りと贖罪がないまぜになって自身を責める。あの時誰にも相談できず、一族全ての命を背負い、たった1人で娘はどれほど嘆き苦しみ葛藤したであろう。
 獣人化を受け入れ、今は望んでそうあり続けるのであっても。簡単にはできないと知りつつももう一度、ナユタ殿に縋ってでも、娘の呪いを解いて欲しいと懇願したくなる。

「夜分に申し訳ありません。とても大切な事なので…手短にお話しします。今から数刻後、来訪者が現れます。その者はお父様に吉報をもたらす者でございます。邪険に扱わないようお願い致します」

「スキルか…邪険にするなど……もしや…」

 ハッと思い出し、アネットに目を向けるとコクリと頷く。

「では、お父様、お休みなさいませ…良い夜を…」

「お休み、アン。良い夜を」

 ゆらゆら尻尾をゆらめかせ馬車へと入っていくアネットを複雑な気持ちで見送った。




 何かの気配を感じ、仮眠から覚醒し衝動的に護身の短剣を突き出す。

「ぅわっ!」

「………」

 相手は尻餅をついたのか「いててて」と声が聞こえた。手元にある光の魔道具ランプをつけると、少し年老いた見知った顔が、痛みに顔を歪めながら片手を上げ気やすげに声をかけてきた。

「よっ!久しぶり!」

「犯罪者でも捕まえにきたのか?ダリル辺境伯殿」

「捕まえて欲しければ捕まえるけど、俺1人じゃ俺のなけなしのスキルでさえ、お前を捕まえるには苦労するなぁ。そう言えばお前、いつから商人になったんだよ?兵士たちが飯がうまかったと盛り上がっていたそうじゃないか」

 ニヤニヤと相変わらず嫌な笑いをしながら聞いてくる。

「商人は孫だ」

「はぁ?孫?!お前…皇妃は子供を産んでないだろ?孫なんて…は!まさか…婚外児が子供を産…」

 とりあえず全てを言い切る前にこの愚か者を叩いておいた。

 不本意だが、この地方全体の国境を管理する辺境伯のダリルは、私が魔法学院に入学した時からの腐れ縁だ。よく氷のグラキエグレイペウス、土のダリルと言われたものだ。辺境伯を継いでからは、領地から一切出て来ていないので学院卒業以来だ。学生の頃はピンクブロンドの髪を無造作に切り、年がら年中女と共にいた。そう言えば会う度に女が変わっていたな…まぁ…細やかな配慮が足らデリカシーがないからだろう。

「あー!いてぇ!お前直ぐに暴力に訴えるのやめろよな!本当に犯罪者にするぞ!」

 軽く叩いたのに大袈裟に言うのは相変わらずだ。

「本当も何も、我が一族全てが犯罪者なのだろう?ご丁寧にあの側姫グレモリーが、法廷で我らを呪い獣の姿に変えたのに、王家を謀った罪だの何だのと申しておったぞ」

「そこなー。尋問官も馬鹿じゃない。側姫がグラキエグレイペウス一門に飲ませた液体を訝しがってな。1人の尋問官が液体を秘密裏に回収し、皇城所縁の組織以外の魔術研究所で調べたんだ。」

「ほう?」

「で、結果が、とんでもなく強力な呪術がかかった、幾百人もの憎悪が蠢く体液が混ぜられ呪われた呪物ワインだった」

「それで?」

「それでって…まぁ…これからヴァニタインとその娘の側姫グレモリーに、を伺おうかと手続きをしていたら、突然国に光が通り抜けて、ヴァニタイン公爵家一門と、と関係が近かった者、そして美の女神エレオノーラを祀っていた神殿の奴らが呪われたんだ」

「狼の姿にでもなったのか?」

「否。真っ黒い何かだ。身体中に顔が浮かび上がって、其々が口々に、自分達が連れて行かれた場所やされた事を大声で訴えていて、その声の通りに連れて行かれた場所を調べたら死体だらけで。今、帝国内は教会を中心に混乱中って所に、お前たちが人の姿で戻ってきたってわけ」

「そうか」

「そうかってお前…」

「そうか以外に何か言葉が必要か?我ら一族、名も知らぬ遠縁の者まで160人余り、帝国騎士団に法廷へ無理やり連れて行かれ、一方的に責められ押さえつけられ、得体の知れない液体を無理やり飲まされ…生まれたばかりの赤子までだ。直ぐに血を吐いて事切れた者もいた。呪われ変異してしまった我らに、魔物だと言いながら剣を向けた者もいた。生き残った我が一族は、孫をいれて50人だ。私が感情を露わにして、失われた者達が戻るのならばいくらだって言おう」

「…すまなかった……」

 奴は珍しくも謝り、愁傷な顔を浮かべた。そしてしばらくの沈黙の後、思い出したように皇帝の話を切り出した。

「あと皇帝だが…ヴァニタインに何かの薬物を投与されていてな。元々人形の様なかんばせだったが、頭の中も身体も人形の様になっちまってる。典医や薬師にも調べてもらっているそうだが…どうなるか」

 前皇帝亡き後からずっと所謂物を投与されていた可能性があるな…

「…もしかしたらだが…ナユタが…なんとかできるのではとは思うが…」

「ナユタ?誰だ?」

「我が主君あるじにして、商人であり、孫だ」

「はぁ?ちょっと盛りすぎじゃないか?我が主君あるじって孫に誓いを立てたと?」

「そうだ。私達の呪もその孫に解いてもらった」

「は??高名な解呪師なのか?もしかして、馬車を中心とした所から広がる光結界も、その孫が張っているのか?」

「寝ている時でも、結界を常時張れる様にしたいと言っていたなそう言えば…」

「強固すぎて入るのに苦労したんだぜ。まぁ俺様にかかれば小さなほころびを見つけるのも容易いが…そうか。孫か…とんでもねぇ逸材だな」

「将来が楽しみな良き孫だ」

「ああ…すっかり好々爺になって…あ!あとお前に礼を言おうと思っていたんだ」

「礼?」

「寄付だよ!財源ギリギリだったからよ…最初はめんどくさいし金がかかるから皇城に行かなかったけど、兵士たちの俸禄が出ないし、国に訴えても返事がこないし!金のかかる皇城も何度も行けず仕舞いだったし、暫く魔物討伐で稼いでいたんだ。助かったぜ!恩に着る」

「構わん。国境を護るのは貴族の務めだ。帝国の状態はわかった。早く帰れ」

「俺、ちょっとお孫ちゃんに会いたくなったから、朝までいていい?」

「断る」

「えー!出し惜しみか?!ケチ臭いぞ」
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