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不思議な感情

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 〈三坂旭目線〉

「お前変わったな」
 夏休み中の練習後。植木キャプテンにそう話しかけられた。
「何がっすか」
「ん? 柔らかくなった」
「何がっすか」
「性格」
「……?」
「みんな言ってるよ。三坂は丸くなったって。前より話しかけやすくなったって。だからアドバイスもらいやすくなって、より成長してる後輩多いんだよ」
 確かに。最近よく後輩から話しかけられるようになった。怖がられなくもなった。
「何かあったのか?」
「何もないっす」
「そう。俺には、浦瀬さんが影響してると思うけどね」
「浦瀬……」
 浦瀬天音。初日に、「バレー部に必要だと証明してみせる」と俺に啖呵を切った人物。今まで真正面から歯向かってきたやつがいなかった俺は、浦瀬のことが気になっていた。そいつは、次の日から誰よりも早く部活に来て、俺たち部員が練習しやすいように考えて行動していた。バレーの勉強も始めたらしく、監督やキャプテンとよく話していた。対戦校の研究もして、どういう戦術が良いのかという提案もしていると聞いた。そういう力はすぐに身につくものではない。「選手を支える面では素人ではない」と言っていたあいつの言葉も気になり、キャプテンの幼なじみでよく試合を見にきていたから顔見知りであり、あいつの親友でもある須藤亜紀に詳しい話を聞いたことがある。曰く、「小学生の頃から、サッカーのプロでしたよ。研究、戦術組立て。それであり得ないと言われていた強豪校からの勝利をもぎ取ったこともある」らしい。つまり、バレーの勉強をしたあいつは、サッカーで培ったその力を俺たちのために使っているらしかった。かっこいいな。俺は素直にそう思った。

 それから、なぜか浦瀬を目で追うようになった。部活の休憩中に何をしているのか気になったり、体育の様子を窓際の席からこっそり見たりした。自分のこの行動の意味がよく分からなかったが、真剣に部活に取り組んでいたり、友人たちと楽しそうにしているのを見るのは悪くなかった。

 秋。植木キャプテンをはじめ、3年生が引退した。そして俺は、キャプテンになった。そのため、浦瀬と話す機会が増え、部活に新しい楽しみを感じていた。

「み、さ、か」
 ある日の昼休み。校庭にいた浦瀬を見ていたら、丸脇が肩を組んできた。
「ちぇ。振り払うとかつれねーな」
 こいつは、サッカー選手としては最高らしいが、人としては最低だと思う。だって。
「聞いてよ、昨日他校のかわい子ちゃんに誘われちゃった」
 女にだらしない。来るもの拒まず。女子にデートに誘われたら行くし、キスをねだられたらするし、それ以上のこともしているらしい。そういうのは、愛する1人とするものだろう。

 そんな丸脇は、バレー部のエースと言われている俺によく突っかかってきた。人気を独り占めできないのが悔しいとか、よく分からん理由で。まあ今年は、1年にイケメン御曹司がいてサッカー部の人気がそいつに集中しているからさらに突っかかって来る。まじで意味分からない。
「俺、浦瀬ちゃん気になるんだよね。可愛くね? ってか、知ってるか? あの子がこの高校に来たのって俺目当てらしいぜ?」
 は?
「俺を追いかけてきたって。俺が好きらしいぞ。俺は好きじゃねーけど、まあ、可愛いから1回相手してもいーかなーって。って、おい!」
 気がついたら俺は丸脇の胸ぐらを掴んでいた。
「何だよ。浦瀬ちゃん取られるの気に入らない?」
「っち」
 俺は手を離してクラスから離れた。よく分からない感情を抱えて。

 〈三坂旭目線終わり〉
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