人生でした3回の恋は3回目でようやく叶ったわけではない？

社会人時代

①兄と友人と（2）

　兄の恋バナを聞いて羨ましいなと思うけれど、私は恋をしていない。白川さんのことが少し心に残っているから。けれど同僚の男性からアピールされている。「仕事が出来て、優しくて周りをよく見ている、そんな橋水を好きになった」と言って。そう言ってもらえるのはとても嬉しかったけれど、彼のことは好きではないからお断りした。それでもその男性は諦めず、「友達からでいいから」とか「お試し交際とかどう？」とか強引に言ってくる。この男性とは同じ部署なのでできれば穏便に済ませたい。でもどうすれば良いのか分からない。そう思っていたら白川が後ろから現れて、私の腕時計をその男性に見せつけた。

「これ、俺があげた」

　白川が一言そう言ったら、その男性は急に勢いをなくして「なんだ、そう言うことか。悪かったよ」と言ってその場を立ち去った。助かったと思ったけれど、なぜああなったのかが分からなかった私は振り返って

「えどういうこと？」

　と聞いた。でも「さあね」と意地悪な顔をして「男性関係で困ったらこの腕時計を見せつけて、俺に貰ったて言いなよ」と言って仕事に戻って行った。

　それから仕事をしている時、あの意地悪な顔が頭に残っていた。腕時計に何か意味があるんだ。気になって気になってその日はいつもより早く仕事を終わらせて帰宅した。家に帰ってネットを開いて『腕時計　プレゼント　意味』と調べたら

　同じ時を過ごしたい

　と言う意味があること、男性から女性へのプレゼントの場合は

　独占欲が強い

　という意味があることを知った。顔が真っ赤になるのを感じたけれど、『友人』と付け加えて調べたら

　これからも良い関係を築いていきたい

　と出てきた。そうだよね、びっくりした。白川が私に対してそんな感情を持っているわけないもんね。安心すると同時に少し寂しさを覚えたけれど、それには気がつかないふりをした。

　よく考えれば『これからも良い関係を築いていきたい』と言う意味のわけがない。それであの同僚が諦めるわけない。けれど、この時の私はそこまで考えが及ばなかった。


　そして徐々に仕事も覚えきた頃、白川の部署が変わった。入社半年での部署変更は今までほとんどないそうだ。白川は仕事をちゃんとしているし評判も良いし、問題を起こしてもいない。それなのに部署が変わって驚いていたけれど白川はそうでもないらしい。すんなりと受け入れていた。そしてまた半年経つと新しい部署へ行った。それからも白川は、半年から1年のペースで部署が変わったのだ。最初は周りは『なんで？』、『白川くんて問題児じゃないのに』と言っていて、部署変更の理由を理解していなかったけれど、何回か経つと『白川くんの部署変更の時期だ』と受け入れられるようになっていた。私は理由が気になって本人に聞いたけれど『よく分かんねえ』と言っていた。まあ、周りが白川に対して態度を変えていないのでそれで彼の仕事に影響が出ているとは考えられないため、私も『そっか』と受け入れられるようになっていた。