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透ルート 3章
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「お久しぶりですぅ」
荷物を持って家を出ると、真壁さんがニコニコと亘理さんに話しかけていた。
「お久しぶりです、真壁さん」
亘理さんは紳士な笑顔を崩さない。翡翠くんを使って透さんにひどいことをしたとわかっているから、私は顔が強張ってしまう。淳くんは私を亘理さんから隠すように一歩前へ進んだ。
「うちの子がエライお世話になったみたいで」
笑顔だけど、真壁さんの纏う空気がピリピリしている。当然だ。
「こちらこそ、お世話になっております」
少しも表情を崩さない亘理さんの胆力に思わず感心してしまう。感心しちゃいけないのだけど。
「みさきちゃんと透、両家公認で結婚前提のお付き合いやから、邪魔せんといてな」
真壁さんは駆け引きなど一切なし。すごい。そしていろんなことが真壁さんの耳に入っていると知った。それでも私を責めたりしなかった。本当にありがたい。
亘理さんが無言て笑顔なところが不気味に思えた。
「お忙しいところ声かけてごめんねぇ。これからもよろしゅう」
「……こちらこそ、よろしくお願いいたします」
亘理さんは自宅へ戻り、真壁さんはこちらへ近づいてきた。
淳くんに気づいて優しい笑顔になる。
「真壁さん、夕飯ありがとうございます」
「どういたしましてぇ。みさきちゃんは責任持って預かるから、心配せんといて」
「よろしくお願いします」
折り目正しく一礼する淳くんは、お父さんよりしっかりしているように感じた。こんなに頼りになる人が傍にいてくれる。
「行ってきます」
「気をつけて」
笑顔で淳くんに手を振って、黒沢さんの運転する真壁さんの車に再び乗せてもらった。
✝✝✝✝✝✝✝✝
透さんのお家は隣の市にあった。大きなお家で、透さんがひとりで使っているときは寂しいかもしれないと思う。だから我が家に入り浸っているのだろうか。
多分、真壁一門の人がたくさんこちらに仕事で来ても過ごせるようになっているのだと思う。部屋がたくさんある。大きな和室はみんなでお布団を敷いて寝るのかな、と考える。修学旅行みたいで楽しそうだ。
私が案内してもらった部屋は、とても立派な寝室だった。大きくて立派なベッドが置いてある。
「みさきちゃんはこの部屋使て。ちゃんと鍵かけてな。心配やったら術もかけとくし、部屋の前に黒沢置いとこか?」
「だ、大丈夫です……」
苦笑いがこぼれてしまう。透さんと間違いがないようにってことなんだろうけれど。
ちょっとぐらい、透さんにひっついて過ごしたい。
「これはみさきちゃん専用」
透さんはさっき買った部屋着を手渡してくれた。
「夜、部屋行くから」
真壁さんの目を盗んで、透さんは私の耳元でささやく。ドキドキしながら小さくうなずいた。
だけどこういうところが、周囲の人を警戒させてしまうのかなとも思う。
晩ごはんを食べて、お風呂に入らせてもらう。自宅ではないから緊張する。
透さんとお揃いのパジャマに袖を通す。何だか大人の彼氏彼女みたいだ。透さんは大人なんだけど。
これまでの恋人にもこんなことをしてあげていたのかな、と考えてしまう。
過去に嫉妬しても仕方ないのに。
こんな時は深呼吸。透さんは私と結婚すると言ってくれている。指輪まで選ぼうとしてくれているのだから。
私と入れ替わりに透さんがお風呂に入る。リビングへ行き、真壁さんがお風呂に入るまで少しお話をした。黒沢さんが冷たい飲み物を用意してくれた。
全部いただいてお礼を伝えた。グラスを片付けようと黒沢さんにしなくて良いと言われた。お言葉に甘えてひとり部屋に戻る。
ベッドに横になろうと思ったけれど、不自然で大きな膨らみができていた。
「透さん」
掛け布団をめくる。やっぱり中に透さんが隠れていた。
お揃いのパジャマを着ているのを見て、ドキリとする。
「みさきちゃん、鋭いなー」
「さすがにわかります」
くすりと笑いながらベッドに座る私と、微笑みをたたえて起き上がる透さん。
ぎゅっと抱きしめられて、とろけてしまいそうに甘いキスをされる。
とても静かだ。声を出さないようにしないといけないって思うのに、透さんの舌に口の中を蹂躙されるとふわふわして喘ぎがこぼれてしまう。
「透さん、好き……」
「俺も、好きやで」
くぐもった声が、伏し目がちな双眸が艶っぽい。
目が合うと、いたずらっぽく薄い微笑みを唇の端に浮かべた透さんに見惚れる。
「ホンマ、かわいいなぁ。食べたくなるぐらいかわいい」
私の鼻の頭に透さんがかぶりつく。もちろん、甘噛みだけど。
楽しくなって、くすくす笑ってしまう。
毎日ずっと、透さんとこうしていられたら良いのに。
学校があるから現実的には無理なんだけど、結婚すれば一緒に暮らせる。早ければ、あと二年すれば。
その時まで、このまま変わらないでいられるのだろうか。
「どうしたん?」
透さんはすぐに私の微妙な気持ちの変化に気づくから、心臓に悪い。
「ずっとこのまま、変わらないでいられるのかなって……」
「おじーちゃん、おばーちゃんになっても、ずっと一緒におろ。大丈夫や」
ほしい言葉をくれて、優しいキスをしてくれる透さん。
本当は物足りない。もっと深く触れてほしい。
今日は真壁さんと黒沢さんが同じ屋根の下にいるから、そんなことできないって頭ではわかっている。
時々見せる野性の獣みたいな瞳で、全部奪って喰らい尽くしてほしい。
「今日は一緒に寝よか。ここの方がおかんたちから離れてるから、この部屋でエエ?」
手をつないで、布団の中に入る。
「おやすみなさい」
「おやすみ」
額にそっと、透さんの唇が触れた。
荷物を持って家を出ると、真壁さんがニコニコと亘理さんに話しかけていた。
「お久しぶりです、真壁さん」
亘理さんは紳士な笑顔を崩さない。翡翠くんを使って透さんにひどいことをしたとわかっているから、私は顔が強張ってしまう。淳くんは私を亘理さんから隠すように一歩前へ進んだ。
「うちの子がエライお世話になったみたいで」
笑顔だけど、真壁さんの纏う空気がピリピリしている。当然だ。
「こちらこそ、お世話になっております」
少しも表情を崩さない亘理さんの胆力に思わず感心してしまう。感心しちゃいけないのだけど。
「みさきちゃんと透、両家公認で結婚前提のお付き合いやから、邪魔せんといてな」
真壁さんは駆け引きなど一切なし。すごい。そしていろんなことが真壁さんの耳に入っていると知った。それでも私を責めたりしなかった。本当にありがたい。
亘理さんが無言て笑顔なところが不気味に思えた。
「お忙しいところ声かけてごめんねぇ。これからもよろしゅう」
「……こちらこそ、よろしくお願いいたします」
亘理さんは自宅へ戻り、真壁さんはこちらへ近づいてきた。
淳くんに気づいて優しい笑顔になる。
「真壁さん、夕飯ありがとうございます」
「どういたしましてぇ。みさきちゃんは責任持って預かるから、心配せんといて」
「よろしくお願いします」
折り目正しく一礼する淳くんは、お父さんよりしっかりしているように感じた。こんなに頼りになる人が傍にいてくれる。
「行ってきます」
「気をつけて」
笑顔で淳くんに手を振って、黒沢さんの運転する真壁さんの車に再び乗せてもらった。
✝✝✝✝✝✝✝✝
透さんのお家は隣の市にあった。大きなお家で、透さんがひとりで使っているときは寂しいかもしれないと思う。だから我が家に入り浸っているのだろうか。
多分、真壁一門の人がたくさんこちらに仕事で来ても過ごせるようになっているのだと思う。部屋がたくさんある。大きな和室はみんなでお布団を敷いて寝るのかな、と考える。修学旅行みたいで楽しそうだ。
私が案内してもらった部屋は、とても立派な寝室だった。大きくて立派なベッドが置いてある。
「みさきちゃんはこの部屋使て。ちゃんと鍵かけてな。心配やったら術もかけとくし、部屋の前に黒沢置いとこか?」
「だ、大丈夫です……」
苦笑いがこぼれてしまう。透さんと間違いがないようにってことなんだろうけれど。
ちょっとぐらい、透さんにひっついて過ごしたい。
「これはみさきちゃん専用」
透さんはさっき買った部屋着を手渡してくれた。
「夜、部屋行くから」
真壁さんの目を盗んで、透さんは私の耳元でささやく。ドキドキしながら小さくうなずいた。
だけどこういうところが、周囲の人を警戒させてしまうのかなとも思う。
晩ごはんを食べて、お風呂に入らせてもらう。自宅ではないから緊張する。
透さんとお揃いのパジャマに袖を通す。何だか大人の彼氏彼女みたいだ。透さんは大人なんだけど。
これまでの恋人にもこんなことをしてあげていたのかな、と考えてしまう。
過去に嫉妬しても仕方ないのに。
こんな時は深呼吸。透さんは私と結婚すると言ってくれている。指輪まで選ぼうとしてくれているのだから。
私と入れ替わりに透さんがお風呂に入る。リビングへ行き、真壁さんがお風呂に入るまで少しお話をした。黒沢さんが冷たい飲み物を用意してくれた。
全部いただいてお礼を伝えた。グラスを片付けようと黒沢さんにしなくて良いと言われた。お言葉に甘えてひとり部屋に戻る。
ベッドに横になろうと思ったけれど、不自然で大きな膨らみができていた。
「透さん」
掛け布団をめくる。やっぱり中に透さんが隠れていた。
お揃いのパジャマを着ているのを見て、ドキリとする。
「みさきちゃん、鋭いなー」
「さすがにわかります」
くすりと笑いながらベッドに座る私と、微笑みをたたえて起き上がる透さん。
ぎゅっと抱きしめられて、とろけてしまいそうに甘いキスをされる。
とても静かだ。声を出さないようにしないといけないって思うのに、透さんの舌に口の中を蹂躙されるとふわふわして喘ぎがこぼれてしまう。
「透さん、好き……」
「俺も、好きやで」
くぐもった声が、伏し目がちな双眸が艶っぽい。
目が合うと、いたずらっぽく薄い微笑みを唇の端に浮かべた透さんに見惚れる。
「ホンマ、かわいいなぁ。食べたくなるぐらいかわいい」
私の鼻の頭に透さんがかぶりつく。もちろん、甘噛みだけど。
楽しくなって、くすくす笑ってしまう。
毎日ずっと、透さんとこうしていられたら良いのに。
学校があるから現実的には無理なんだけど、結婚すれば一緒に暮らせる。早ければ、あと二年すれば。
その時まで、このまま変わらないでいられるのだろうか。
「どうしたん?」
透さんはすぐに私の微妙な気持ちの変化に気づくから、心臓に悪い。
「ずっとこのまま、変わらないでいられるのかなって……」
「おじーちゃん、おばーちゃんになっても、ずっと一緒におろ。大丈夫や」
ほしい言葉をくれて、優しいキスをしてくれる透さん。
本当は物足りない。もっと深く触れてほしい。
今日は真壁さんと黒沢さんが同じ屋根の下にいるから、そんなことできないって頭ではわかっている。
時々見せる野性の獣みたいな瞳で、全部奪って喰らい尽くしてほしい。
「今日は一緒に寝よか。ここの方がおかんたちから離れてるから、この部屋でエエ?」
手をつないで、布団の中に入る。
「おやすみなさい」
「おやすみ」
額にそっと、透さんの唇が触れた。
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