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誠史郎ルート 2章
禁断の果実 1
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土曜日だから、今日は学校は休み。だけどいつも通りの時間に目が覚めた。私としては珍しい。寝起きがすっきりしていたのでまず洗面所へ顔を洗いに行った。
部屋に戻ってパジャマから着替え終えるのを図ったみたいに、こんこんと軽く部屋のドアがノックされた。
「はい?」
「私です」
誠史郎さんが訪ねて来るなんて珍しくて、心臓が跳ねる。
山神さんに忠告されてからふたりきりになることを避けていたので、どうしたのだろうと緊張する。
「はい……」
扉を開くと誠史郎さんがいた。休日なのでスーツは着ていない。カジュアル過ぎないけれど堅苦しくもない服装がとても似合っていてどきどきする。大人の男性だ。
「お怪我の具合はいかがかと思いまして」
「あ、ええと……」
フレアのロングスカートをはいていたので膝は完全に隠れていた。
「拝見してよろしいですか?」
眼鏡の奥の切れ長の瞳の妖しさに照れてしまう。頬が熱い。恋人同士のはずなのに、私ばかり緊張している気がする。
「どうぞ」
誠史郎さんを中へ招き入れて、ドアを閉じた。
偶然だけど、着替えていたからカーテンも開いていなかった。窓の外を気にする必要もない。
「どこかに座っていただけますか?」
どこに座るか迷ったけれど、ベッドに腰かけた。
跪く誠史郎さんの目の前で、自分でケガをした膝が現れるまでスカートをたくしあげるのはかなり恥ずかしい行為だった。
すっかりかさぶたになっている傷だけど、キレイなものではない。
「……痕が残らなければ良いのですが」
整った指先が膝頭をなでる。触れられた箇所が火傷しそうに熱くなった。
「だ、大丈夫です!」
羞恥心が最高潮に達して、私はすっくと立ち上がった。
心臓はばくばく、顔は湯気が出そうに熱い。
「それは何よりです」
柔らかい微笑みを浮かべる紳士。その端正な口元に視線が止まってしまう。
「ありがとうございました……っ!」
出て行こうとした私の手をつかんだ誠史郎さんに引き寄せられた。
「行かないでください」
胸板に額を預けるような体勢になる。長い腕に包み込まれて動けない。
「みさきさん」
誠史郎さんの少し甘えたような声に心臓がわしづかみされたようにきゅんとなった。かわいい。ずるい。
彼の広い背中に手をまわす。深く息を吸うと、誠史郎さんの香りで満たされる。
「誠史郎さん……」
顔を上げると視線が絡まった。キスしてもらいたくて、目を閉じる。
意思が通じて、優しく唇が重ねられた。幸せで嬉しくてとろけてしまいそう。
キスを終えてうっとりしながら瞳を開く。ゆっくり開いた誠史郎さんの瞳が潤んでいるように見えた。
「申し訳ありません。自制できませんでした」
誠史郎さんが照れている。なんて貴重な場面だろう。
私は口をポカンと開けて、こちらから目をそらす誠史郎さんを見つめていた。
「……そんなにじっと見ないでください」
頬を染めて口許を隠す誠史郎さんが新鮮に映る。頬が緩むのが止められない。
「だって、かわいい誠史郎さんなんてレアで……」
「かわいくなんてありませんよ」
大きくて少し骨ばった手が私の頬を包んだ。切れ長の双眸は一瞬にして妖艶な男性に変貌していた。
緊張で動けなくなった私に誠史郎さんはキスをする。さっきとは違う、奪うような口づけ。
「みさきさんを目の前にしただけで、理性が簡単に吹き飛ぶんですから」
聴覚を刺激する甘露に膝から崩れ落ちそうになった。誠史郎さんは抱き止めてくれたけど、耳朶を甘噛みしてくる。
腕の中に私を閉じ込めて、誠史郎さんは耳から首筋へとゆっくり唇を滑らせた。
「ひゃ……っ」
ぞくぞくして、ひとりでに声がこぼれた。
「これに懲りて、あまり私をからかわないでください」
なんだか寂しくなった。誠史郎さんが意地悪で言っているのではないってわかっているけれど、もっと近づきたい。
「……嫌です」
誠史郎さんの細い腰に抱きついて、うつむいた。
「みさきさん……」
あきれられるだろうなと思ったけれど、髪をなでてくれる誠史郎さんの手のひらはとても優しかった。
「私が軽率でした。申し訳ありません」
鼓膜をくすぐる声も柔らかくて、私はわがままを言ったことを反省する。
「謝らないでください。誠史郎さんがこうしてくれて、すごく嬉しいです」
離れたくない。そう思ってしがみついた。今離れてしまったら、次にこんな風に触れ合えるのはいつになるのかわからない。
「少々回りくどいやり方になりますが、外で待ち合わせましょうか」
その言葉に驚いて私は顔を上げた。目が丸くなっていたと思う。誠史郎さんは穏やかな微笑みを浮かべていた。
「私の家は見張られている可能性がありますから、みさきさんは電車でH駅へ移動してください。駅前のロータリーで私の車に乗って、どこかへ出かけましょう」
私の手の甲に誠史郎さんがキスをした。その光景と感触にくらくらする。
交錯した視線。その熱に溶けてしまいそうだ。
だけどまばたきをして切れ長の瞳が再び姿を表した時には、普段の理知的な誠史郎さんに戻っていた。
「ですが、まずは朝食を」
こくんと私がうなずくのを見た誠史郎さんはそっと破顔する。
「みさきさんは少し落ち着いてから降りてきてください」
長い指がするりと私の頬をなでた。そして誠史郎さんは静かに部屋を出ていく。
しばらく立ち尽くしていたけれど、誠史郎さんに言われた通りに落ち着こうと思った。まだどきどきしている。
口の中に誠史郎さんの柔らかさが残っている気がした。
あんなキスをしておいて、私にはこれに懲りておとなしくしろなんて、無理な話だ。もっとしてほしくなるに決まってる。
ふと鏡に映る自分に気がついた。目を潤ませ、頬を真っ赤にした私がそこにいた。
部屋に戻ってパジャマから着替え終えるのを図ったみたいに、こんこんと軽く部屋のドアがノックされた。
「はい?」
「私です」
誠史郎さんが訪ねて来るなんて珍しくて、心臓が跳ねる。
山神さんに忠告されてからふたりきりになることを避けていたので、どうしたのだろうと緊張する。
「はい……」
扉を開くと誠史郎さんがいた。休日なのでスーツは着ていない。カジュアル過ぎないけれど堅苦しくもない服装がとても似合っていてどきどきする。大人の男性だ。
「お怪我の具合はいかがかと思いまして」
「あ、ええと……」
フレアのロングスカートをはいていたので膝は完全に隠れていた。
「拝見してよろしいですか?」
眼鏡の奥の切れ長の瞳の妖しさに照れてしまう。頬が熱い。恋人同士のはずなのに、私ばかり緊張している気がする。
「どうぞ」
誠史郎さんを中へ招き入れて、ドアを閉じた。
偶然だけど、着替えていたからカーテンも開いていなかった。窓の外を気にする必要もない。
「どこかに座っていただけますか?」
どこに座るか迷ったけれど、ベッドに腰かけた。
跪く誠史郎さんの目の前で、自分でケガをした膝が現れるまでスカートをたくしあげるのはかなり恥ずかしい行為だった。
すっかりかさぶたになっている傷だけど、キレイなものではない。
「……痕が残らなければ良いのですが」
整った指先が膝頭をなでる。触れられた箇所が火傷しそうに熱くなった。
「だ、大丈夫です!」
羞恥心が最高潮に達して、私はすっくと立ち上がった。
心臓はばくばく、顔は湯気が出そうに熱い。
「それは何よりです」
柔らかい微笑みを浮かべる紳士。その端正な口元に視線が止まってしまう。
「ありがとうございました……っ!」
出て行こうとした私の手をつかんだ誠史郎さんに引き寄せられた。
「行かないでください」
胸板に額を預けるような体勢になる。長い腕に包み込まれて動けない。
「みさきさん」
誠史郎さんの少し甘えたような声に心臓がわしづかみされたようにきゅんとなった。かわいい。ずるい。
彼の広い背中に手をまわす。深く息を吸うと、誠史郎さんの香りで満たされる。
「誠史郎さん……」
顔を上げると視線が絡まった。キスしてもらいたくて、目を閉じる。
意思が通じて、優しく唇が重ねられた。幸せで嬉しくてとろけてしまいそう。
キスを終えてうっとりしながら瞳を開く。ゆっくり開いた誠史郎さんの瞳が潤んでいるように見えた。
「申し訳ありません。自制できませんでした」
誠史郎さんが照れている。なんて貴重な場面だろう。
私は口をポカンと開けて、こちらから目をそらす誠史郎さんを見つめていた。
「……そんなにじっと見ないでください」
頬を染めて口許を隠す誠史郎さんが新鮮に映る。頬が緩むのが止められない。
「だって、かわいい誠史郎さんなんてレアで……」
「かわいくなんてありませんよ」
大きくて少し骨ばった手が私の頬を包んだ。切れ長の双眸は一瞬にして妖艶な男性に変貌していた。
緊張で動けなくなった私に誠史郎さんはキスをする。さっきとは違う、奪うような口づけ。
「みさきさんを目の前にしただけで、理性が簡単に吹き飛ぶんですから」
聴覚を刺激する甘露に膝から崩れ落ちそうになった。誠史郎さんは抱き止めてくれたけど、耳朶を甘噛みしてくる。
腕の中に私を閉じ込めて、誠史郎さんは耳から首筋へとゆっくり唇を滑らせた。
「ひゃ……っ」
ぞくぞくして、ひとりでに声がこぼれた。
「これに懲りて、あまり私をからかわないでください」
なんだか寂しくなった。誠史郎さんが意地悪で言っているのではないってわかっているけれど、もっと近づきたい。
「……嫌です」
誠史郎さんの細い腰に抱きついて、うつむいた。
「みさきさん……」
あきれられるだろうなと思ったけれど、髪をなでてくれる誠史郎さんの手のひらはとても優しかった。
「私が軽率でした。申し訳ありません」
鼓膜をくすぐる声も柔らかくて、私はわがままを言ったことを反省する。
「謝らないでください。誠史郎さんがこうしてくれて、すごく嬉しいです」
離れたくない。そう思ってしがみついた。今離れてしまったら、次にこんな風に触れ合えるのはいつになるのかわからない。
「少々回りくどいやり方になりますが、外で待ち合わせましょうか」
その言葉に驚いて私は顔を上げた。目が丸くなっていたと思う。誠史郎さんは穏やかな微笑みを浮かべていた。
「私の家は見張られている可能性がありますから、みさきさんは電車でH駅へ移動してください。駅前のロータリーで私の車に乗って、どこかへ出かけましょう」
私の手の甲に誠史郎さんがキスをした。その光景と感触にくらくらする。
交錯した視線。その熱に溶けてしまいそうだ。
だけどまばたきをして切れ長の瞳が再び姿を表した時には、普段の理知的な誠史郎さんに戻っていた。
「ですが、まずは朝食を」
こくんと私がうなずくのを見た誠史郎さんはそっと破顔する。
「みさきさんは少し落ち着いてから降りてきてください」
長い指がするりと私の頬をなでた。そして誠史郎さんは静かに部屋を出ていく。
しばらく立ち尽くしていたけれど、誠史郎さんに言われた通りに落ち着こうと思った。まだどきどきしている。
口の中に誠史郎さんの柔らかさが残っている気がした。
あんなキスをしておいて、私にはこれに懲りておとなしくしろなんて、無理な話だ。もっとしてほしくなるに決まってる。
ふと鏡に映る自分に気がついた。目を潤ませ、頬を真っ赤にした私がそこにいた。
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