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裕翔ルート 2章
冷たい海 6
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「この方のいた群れは、ジエーネ研究所に協力して金銭をいただいていたようです」
「何だと……?」
サクヤさんは呆然と呟く。お金が発生していたことを知らなかったみたいだ。
「裕翔さんはジエーネ研究所で対吸血種用に作り出された吸血種。同じ群れが近くで見つけて仲間にしたばかりの裕翔さんを売り、この方を厄介払いと同時に裕翔さんの性能テストのために戦わせたとお話してくださいました」
「厄介払い……」
呆然と呟くサクヤさんは力なく膝をつき、急に老け込んだように見える。
群れの中で出ていって欲しいと思われるほど嫌われていたなんて。そんな性格だから裕翔くんを逆恨みで狙ったのかもしれない。
珠緒さんの話だと、裕翔くんは何も知らない被害者だと私は感じる。
「そんなことになっている群れまであったとは……」
誠史郎さんは小さくため息をついた。
「吸血種でも人里に下りて生活するには金銭は必要ですから。人間を襲うことはどんどん難しくなっていますし」
外見はもちろんだけど、夜になれば人間とそれほど変わらない行動だってできるから、余計にお金は欲しくなるのだろう。
「あなたが裕翔さんを恨むのは筋違いです」
珠緒さんはぴしゃりとサクヤさんに言ったけれど、彼の耳には届いていないみたいだ。
うつむいて目を見開き、ぶつぶつ呟いている。何を言っているのかはわからない。
「仲間にしたばかりのオレって、どういうこと?」
「私もそうですが、生まれながらの吸血種はどうやって誕生しているのかわからないのです。おそらく裕翔さんも群れの拠点近くで誕生したばかりだったのだと思いますが……」
「そっか」
裕翔くんはちらりと彼の開いた手のひらを見た。
それからサクヤさんを捕らえる光の柱に近づいて屈み込む。
「ごめんね」
「は……」
サクヤさんは憔悴しきった顔を上げた。
「オレが勝っちゃったから、サクヤは群れを追い出されちゃったんでしょ?」
「違う! 私はもっと強くなるために自分の意志で群れを離れた!」
裕翔くんをにらみつけるサクヤさん。地面に膝をついたまま、きつく握った拳は震えていた。
「お前はいつもそうだ……。ふらりと現れて、誰もが驚く身体能力を見せた。それまで私は何をしてもあの群れで一番だったのに、皆、まだ何も知らないお前を育て上げたいといろいろ教え始めた。どれだけ強い吸血種になるだろうと期待して。それなのにお前は突然姿を消して、再び現れると実験体になっていた」
めらめら燃え上がる嫉妬の炎でサクヤさんは黒焦げになっていた。
一度奥歯を強く噛みしめたけれど、まだ言い足りないらしく立ち上がって光の壁に拳を振り下ろす。
ダン、と音が鳴ったけれど、檻が壊れることはなかった。
「お前に謝られる筋合いなどない! あんな弱腰の群れは出ていって正解だと思っている! 吸血種の誇りもなく、金銭で仲間を売るような連中と共に過ごせる訳がない!」
「そんなに怒られても、オレは何にも覚えてないし」
裕翔くんは小さくため息をついた。
「群れには群れの考え方とかやり方があって、サクヤはそれに合わなかったんでしょ? それで良いじゃん。自分で離れたんだから。オレに勝ってサクヤは自分が強いって安心したいんだろうけど、オレはみさきがいる限り負けないよ?」
不敵に微笑む裕翔くんに、サクヤさんはギリギリと歯噛みしているのがわかる。
「真堂家は人間を何人も殺した吸血種を野放しにはできないから、ここで勝負しよっか」
裕翔くんの提案に私は息を飲んだ。
このまま朝まで閉じ込めておけば、サクヤさんは日に焼かれる。残酷だけど、みんなに一番危険のない方法。
カイさんの家族を殺したサクヤさんを見逃す訳にはいかない。だけど彼らに人間の法は通じない。
いくら争いを避けると言っても、出会った時点でこれほどの行為をしている吸血種に温情はかけられない。
「絶対にオレ以外に手を出さないって、約束守れるならだけどね」
裕翔くんの端正な唇の端に不敵な笑みがひらめく。
「裕翔くん……」
止めるべきなのか、手が彷徨ってしまう。
サクヤさんが裕翔くんとの約束を守ってくれるだろうか。カイさんの邪魔が入るかもしれない。女郎蜘蛛の件もある。
私が優先すべきなのはみんなの安全。
だけど気持ちを大切にしたい。彼らの因縁をここで終わらせる。
私はまっすぐに裕翔くんを見た。
「裕翔くんがサクヤさんを倒すことに集中できるようにするから、こちらの心配はしなくて大丈夫。ただ、絶対負けないで」
「もちろん、負けないよ」
裕翔くんはにこ、と笑う。それで私も決心がついた。
誠史郎さんのやれやれと言わんばかりのため息が聞こえる。
「……若い人は、どうしてこう血の気が多いのでしょうね」
振り向くと肩をすくめた誠史郎さんと、口元を着物の袖で隠して微笑む珠緒さんがいた。
「あなたはそれで良いのですか?」
結界の中にいるサクヤさんに誠史郎さんが問いかけた。
しおらしく微かにうなずいたサクヤさんを見て、誠史郎さんは裕翔くんに目配せする。
裕翔くんは不敵に破顔して、腰を低くしてサクヤさんを待ち受ける。
結界が解かれた瞬間、サクヤさんが飛び出して目指したのは裕翔くんではなく私だった。
「何だと……?」
サクヤさんは呆然と呟く。お金が発生していたことを知らなかったみたいだ。
「裕翔さんはジエーネ研究所で対吸血種用に作り出された吸血種。同じ群れが近くで見つけて仲間にしたばかりの裕翔さんを売り、この方を厄介払いと同時に裕翔さんの性能テストのために戦わせたとお話してくださいました」
「厄介払い……」
呆然と呟くサクヤさんは力なく膝をつき、急に老け込んだように見える。
群れの中で出ていって欲しいと思われるほど嫌われていたなんて。そんな性格だから裕翔くんを逆恨みで狙ったのかもしれない。
珠緒さんの話だと、裕翔くんは何も知らない被害者だと私は感じる。
「そんなことになっている群れまであったとは……」
誠史郎さんは小さくため息をついた。
「吸血種でも人里に下りて生活するには金銭は必要ですから。人間を襲うことはどんどん難しくなっていますし」
外見はもちろんだけど、夜になれば人間とそれほど変わらない行動だってできるから、余計にお金は欲しくなるのだろう。
「あなたが裕翔さんを恨むのは筋違いです」
珠緒さんはぴしゃりとサクヤさんに言ったけれど、彼の耳には届いていないみたいだ。
うつむいて目を見開き、ぶつぶつ呟いている。何を言っているのかはわからない。
「仲間にしたばかりのオレって、どういうこと?」
「私もそうですが、生まれながらの吸血種はどうやって誕生しているのかわからないのです。おそらく裕翔さんも群れの拠点近くで誕生したばかりだったのだと思いますが……」
「そっか」
裕翔くんはちらりと彼の開いた手のひらを見た。
それからサクヤさんを捕らえる光の柱に近づいて屈み込む。
「ごめんね」
「は……」
サクヤさんは憔悴しきった顔を上げた。
「オレが勝っちゃったから、サクヤは群れを追い出されちゃったんでしょ?」
「違う! 私はもっと強くなるために自分の意志で群れを離れた!」
裕翔くんをにらみつけるサクヤさん。地面に膝をついたまま、きつく握った拳は震えていた。
「お前はいつもそうだ……。ふらりと現れて、誰もが驚く身体能力を見せた。それまで私は何をしてもあの群れで一番だったのに、皆、まだ何も知らないお前を育て上げたいといろいろ教え始めた。どれだけ強い吸血種になるだろうと期待して。それなのにお前は突然姿を消して、再び現れると実験体になっていた」
めらめら燃え上がる嫉妬の炎でサクヤさんは黒焦げになっていた。
一度奥歯を強く噛みしめたけれど、まだ言い足りないらしく立ち上がって光の壁に拳を振り下ろす。
ダン、と音が鳴ったけれど、檻が壊れることはなかった。
「お前に謝られる筋合いなどない! あんな弱腰の群れは出ていって正解だと思っている! 吸血種の誇りもなく、金銭で仲間を売るような連中と共に過ごせる訳がない!」
「そんなに怒られても、オレは何にも覚えてないし」
裕翔くんは小さくため息をついた。
「群れには群れの考え方とかやり方があって、サクヤはそれに合わなかったんでしょ? それで良いじゃん。自分で離れたんだから。オレに勝ってサクヤは自分が強いって安心したいんだろうけど、オレはみさきがいる限り負けないよ?」
不敵に微笑む裕翔くんに、サクヤさんはギリギリと歯噛みしているのがわかる。
「真堂家は人間を何人も殺した吸血種を野放しにはできないから、ここで勝負しよっか」
裕翔くんの提案に私は息を飲んだ。
このまま朝まで閉じ込めておけば、サクヤさんは日に焼かれる。残酷だけど、みんなに一番危険のない方法。
カイさんの家族を殺したサクヤさんを見逃す訳にはいかない。だけど彼らに人間の法は通じない。
いくら争いを避けると言っても、出会った時点でこれほどの行為をしている吸血種に温情はかけられない。
「絶対にオレ以外に手を出さないって、約束守れるならだけどね」
裕翔くんの端正な唇の端に不敵な笑みがひらめく。
「裕翔くん……」
止めるべきなのか、手が彷徨ってしまう。
サクヤさんが裕翔くんとの約束を守ってくれるだろうか。カイさんの邪魔が入るかもしれない。女郎蜘蛛の件もある。
私が優先すべきなのはみんなの安全。
だけど気持ちを大切にしたい。彼らの因縁をここで終わらせる。
私はまっすぐに裕翔くんを見た。
「裕翔くんがサクヤさんを倒すことに集中できるようにするから、こちらの心配はしなくて大丈夫。ただ、絶対負けないで」
「もちろん、負けないよ」
裕翔くんはにこ、と笑う。それで私も決心がついた。
誠史郎さんのやれやれと言わんばかりのため息が聞こえる。
「……若い人は、どうしてこう血の気が多いのでしょうね」
振り向くと肩をすくめた誠史郎さんと、口元を着物の袖で隠して微笑む珠緒さんがいた。
「あなたはそれで良いのですか?」
結界の中にいるサクヤさんに誠史郎さんが問いかけた。
しおらしく微かにうなずいたサクヤさんを見て、誠史郎さんは裕翔くんに目配せする。
裕翔くんは不敵に破顔して、腰を低くしてサクヤさんを待ち受ける。
結界が解かれた瞬間、サクヤさんが飛び出して目指したのは裕翔くんではなく私だった。
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