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淳ルート 2章
暗くなるまで待って 6
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淳くんはそれぞれの手に銃を持って構えた。正面の月白さんを鋭く見据える。
ふたりはしばらくにらみあっていたけれど、月白さんが地面を強く蹴ってこちらへ猛スピードで突っ込んできた。
だけど淳くんがコルトで撃った3発の銀の弾丸は全弾正確に、無慈悲に月白さんの両足を撃ち抜く。
いくら吸血種とはいえ、銃撃を受けた衝撃で勢いよく地面に転がり倒れた。
「無謀ですね」
いつでも発砲できる状態のまま、淳くんは月白さんに近づく。
「あなたらしくない」
銃口は月白さんの心臓に向いていた。
「僕とあなたが、ここで争う必要はないと思います」
私は魔封じのロープで月白さんの両足首をひとつ縛った。これで時間は稼げる。
月白さんは私のことなど微塵も気にしていない様子で、ずっと淳くんを見ていた。
「おとなしく群れに帰って待っていてください」
「……長は、翡翠を見捨てる」
淳くんは一瞬ピクリと反応した。だけどすぐに平静を装う。
「もう時間がない」
哀願するように月白さんは言う。
「……あなたが翡翠とふたりで生きていく覚悟はないのですか?」
その言葉淳くんの目の前の青年は目を丸くする。その間に私は月白さんの身体を腕も一緒にロープでぐるぐる巻いて封じた。
「ふたりきりは難しいと言うなら、珠緒さんに……」
「バカにするな!」
月白さんの大きな声に私は驚いてしまう。
銀の弾丸に貫かれてかなりのダメージを受けているはずなのに、この反応。よほど彼の矜持を傷つけたとみえる。
「お前のように吸血種としての誇りのないものに、おれたちの何がわかる!?」
珠緒さんも吸血種だ。だけど人間と共存する道を選んでいるので、月白さんのいる群れとは正反対だ。
思想や思考の違いというのはやっかいで、そう簡単には溝を埋められない。
「わかりません」
淳くんは銃口の位置を変えることなく、冷ややかに告げる。
「僕は一度も、吸血種としての自分を誇ったことがないから」
月白さんは黙って淳くんを見ていた。
「だけど翡翠は、そんな僕でも生かしてくれた。彼と共に歩むことはできないけれど、実験台にされたままで良いなんて思っていない。必ず解放してもらう」
淡々と告げる淳くん。白い指先はいつでも引き金を引けるようになっている。
銀の弾丸のよる傷なのでかなりゆっくりとだけど、月白さんの傷口が修復していることに注意を払っているみたいだった。
「……翡翠のこと、よろしくお願いします」
頭を下げることはせず、紅蓮の瞳はまっすぐに人当たりの良さそうな青年を見つめる。
「そういうのは、翡翠を助け出してから言ってくれ」
動けなくされた月白さんは鼻を鳴らした。
「では僕が安心して行動できるよう、もう誰も傷つけないと約束してください」
「約束?あいかわらず甘いな」
嘲るように片頬だけで笑う。
「甘くありません」
かち、と小さく金属の動く音がする。
「約束できないのなら、今ここであなたの心臓を貫くだけです。約束してもらっても、野放しになんてしませんよ」
自転車を飛ばす人の姿が近づいてきていることに気づく。たぶん眞澄くんだ。みんながもうすぐ来てくれると、私はほっとした。
「野放しにしない、とは具体的にどうするつもりかな?」
魔封じのロープで動きを封じられているのに、月白さんは余裕そうだ。
「珠緒さんにあなたの身柄を預けます」
淳くんの案は確かに、私たちが彼を見張るより現実的に思えた。たぶん人間の血液という吸血種の食事だって提供してもらえる。
「……それは針のむしろだな」
月白さんは小さくため息をつく。だけど少し楽しそうにも見えた。
「その状況をつくったのはあなた自身だ」
「否定はしないけど」
「淳……っ!」
眞澄くんが結界の手前で自転車を乗り捨てて飛び込んできた。
脇差しを手にした彼は一目で状況を把握したみたいで、ちょっとほっとしたように息を吐く。
「みさき、下がってろ」
月白さんが逃げないように握っていたロープの端を持つのを交代してくれる。
3対1になって、さすがに月白さんは不利だと思ったようで身体の力を抜いた。 戦う意思はなくなったみたいだ。
「誠史郎たちもすぐ来る」
眞澄くんの言葉通り、誠史郎さんの運転する自動車が私たちのすぐ近くに停車した。
裕翔くんが助手席から降りてくる。
「なんだー。もう終わってた」
「その方が良いのですよ」
誠史郎さんも運転席から出てくると、後部座席のドアを開けた。
「真壁さんが彼を閉じ込めておく陣を用意してくださっています」
淳くんはうなずくと、月白さんの足を縛っていた魔封じはほどく。身体を巻いているものはそのままだ。
「おかしなことは考えないでください」
「みさきは前に乗って」
裕翔くんはそう言って、淳くんとの間に月白さんを挟むように後部座席に座る。
もし誰かに見られていたら騒ぎになってしまうけれど、幸い目撃者はいなかった。
「俺は先に帰ってるから」
眞澄くんは自転車で先に家へ向かう。
誠史郎さんもみんなが乗り込むとすぐに発車してくれた。
家までの道のりの時間、月白さんはおとなしく座っていた。そして透さんが鍛練場に作った魔法陣の中におとなしく入ってくれる。
珠緒さんに彼のことをお願いすると、今夜中に引き取ってくれると返事があった。
ふたりはしばらくにらみあっていたけれど、月白さんが地面を強く蹴ってこちらへ猛スピードで突っ込んできた。
だけど淳くんがコルトで撃った3発の銀の弾丸は全弾正確に、無慈悲に月白さんの両足を撃ち抜く。
いくら吸血種とはいえ、銃撃を受けた衝撃で勢いよく地面に転がり倒れた。
「無謀ですね」
いつでも発砲できる状態のまま、淳くんは月白さんに近づく。
「あなたらしくない」
銃口は月白さんの心臓に向いていた。
「僕とあなたが、ここで争う必要はないと思います」
私は魔封じのロープで月白さんの両足首をひとつ縛った。これで時間は稼げる。
月白さんは私のことなど微塵も気にしていない様子で、ずっと淳くんを見ていた。
「おとなしく群れに帰って待っていてください」
「……長は、翡翠を見捨てる」
淳くんは一瞬ピクリと反応した。だけどすぐに平静を装う。
「もう時間がない」
哀願するように月白さんは言う。
「……あなたが翡翠とふたりで生きていく覚悟はないのですか?」
その言葉淳くんの目の前の青年は目を丸くする。その間に私は月白さんの身体を腕も一緒にロープでぐるぐる巻いて封じた。
「ふたりきりは難しいと言うなら、珠緒さんに……」
「バカにするな!」
月白さんの大きな声に私は驚いてしまう。
銀の弾丸に貫かれてかなりのダメージを受けているはずなのに、この反応。よほど彼の矜持を傷つけたとみえる。
「お前のように吸血種としての誇りのないものに、おれたちの何がわかる!?」
珠緒さんも吸血種だ。だけど人間と共存する道を選んでいるので、月白さんのいる群れとは正反対だ。
思想や思考の違いというのはやっかいで、そう簡単には溝を埋められない。
「わかりません」
淳くんは銃口の位置を変えることなく、冷ややかに告げる。
「僕は一度も、吸血種としての自分を誇ったことがないから」
月白さんは黙って淳くんを見ていた。
「だけど翡翠は、そんな僕でも生かしてくれた。彼と共に歩むことはできないけれど、実験台にされたままで良いなんて思っていない。必ず解放してもらう」
淡々と告げる淳くん。白い指先はいつでも引き金を引けるようになっている。
銀の弾丸のよる傷なのでかなりゆっくりとだけど、月白さんの傷口が修復していることに注意を払っているみたいだった。
「……翡翠のこと、よろしくお願いします」
頭を下げることはせず、紅蓮の瞳はまっすぐに人当たりの良さそうな青年を見つめる。
「そういうのは、翡翠を助け出してから言ってくれ」
動けなくされた月白さんは鼻を鳴らした。
「では僕が安心して行動できるよう、もう誰も傷つけないと約束してください」
「約束?あいかわらず甘いな」
嘲るように片頬だけで笑う。
「甘くありません」
かち、と小さく金属の動く音がする。
「約束できないのなら、今ここであなたの心臓を貫くだけです。約束してもらっても、野放しになんてしませんよ」
自転車を飛ばす人の姿が近づいてきていることに気づく。たぶん眞澄くんだ。みんながもうすぐ来てくれると、私はほっとした。
「野放しにしない、とは具体的にどうするつもりかな?」
魔封じのロープで動きを封じられているのに、月白さんは余裕そうだ。
「珠緒さんにあなたの身柄を預けます」
淳くんの案は確かに、私たちが彼を見張るより現実的に思えた。たぶん人間の血液という吸血種の食事だって提供してもらえる。
「……それは針のむしろだな」
月白さんは小さくため息をつく。だけど少し楽しそうにも見えた。
「その状況をつくったのはあなた自身だ」
「否定はしないけど」
「淳……っ!」
眞澄くんが結界の手前で自転車を乗り捨てて飛び込んできた。
脇差しを手にした彼は一目で状況を把握したみたいで、ちょっとほっとしたように息を吐く。
「みさき、下がってろ」
月白さんが逃げないように握っていたロープの端を持つのを交代してくれる。
3対1になって、さすがに月白さんは不利だと思ったようで身体の力を抜いた。 戦う意思はなくなったみたいだ。
「誠史郎たちもすぐ来る」
眞澄くんの言葉通り、誠史郎さんの運転する自動車が私たちのすぐ近くに停車した。
裕翔くんが助手席から降りてくる。
「なんだー。もう終わってた」
「その方が良いのですよ」
誠史郎さんも運転席から出てくると、後部座席のドアを開けた。
「真壁さんが彼を閉じ込めておく陣を用意してくださっています」
淳くんはうなずくと、月白さんの足を縛っていた魔封じはほどく。身体を巻いているものはそのままだ。
「おかしなことは考えないでください」
「みさきは前に乗って」
裕翔くんはそう言って、淳くんとの間に月白さんを挟むように後部座席に座る。
もし誰かに見られていたら騒ぎになってしまうけれど、幸い目撃者はいなかった。
「俺は先に帰ってるから」
眞澄くんは自転車で先に家へ向かう。
誠史郎さんもみんなが乗り込むとすぐに発車してくれた。
家までの道のりの時間、月白さんはおとなしく座っていた。そして透さんが鍛練場に作った魔法陣の中におとなしく入ってくれる。
珠緒さんに彼のことをお願いすると、今夜中に引き取ってくれると返事があった。
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