祓い屋の家の娘はイケメンたちに愛されています

卯月なな

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淳ルート 2章

暗くなるまで待って 5

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 淳くんとふたりで夜の散歩を繰り返すこと一週間。月白さんはどこかで見ていると思うのだけど、私たちの前に現れない。なかなか慎重だ。

 淳くんとふたりで歩く夜の道は、まだ少し冷たい風が火照る頬に心地よかった。毎日繰り返しているうちにだんだん話題もなくなってきたけれど、ただ手を繋いで歩いているだけで嬉しかった。ふたりだけの、特別な時間。

 今日は工場の並ぶ線路沿いの道へ来てみた。大きな通りにほど近いけれど、こちらは夜はほとんど人通りがなくなる。
 街灯と月明かりに照らされる淳くんの横顔がきれいでどきどきする。月白さんと戦うかもしれない時にこんな油断と隙だらけではいけないと思うのだけど、好きだなと改めて思う。

「どうしたの?」

 私の視線に気づいた彼は柔らかく微笑んでこちらを向いてくれる。

「淳くん、きれいだなって……」
「みさきの方がきれいだよ」

 優しい色の瞳が月の光をたたえて少しだけ細められた。淳くんは何のてらいもなくこんな返答をしてくるから、心臓に悪い。

 少し冷たい手が私の顎に軽く添えられ、上を向かせた。

「誰よりも、きれいだ」

 目を閉じるのと同時に、唇が重なる。離れると甘い吐息がこぼれた。

 互いに破顔して、両手を繋いで額を合わせた。
 淳くんは最近、ふたりきりだと少し大胆に触れてくれるようになった。それが嬉しい。

 だけど私はどんどん欲張りになっていくのが怖くもある。もっとこうしていたいなんて考えてると淳くんに知られたら、嫌われないだろうか。

「……もう少し歩こうか」

 整った面がはにかむ。頷いて足を踏み出したとき、背後で少しひりついた気配を感じた。
 淳くんも同じだったみたいで一瞬視線を交わす。

 ばっと振り返ると、すらりとした若い男性が少し離れた場所に立っていた。こちらをにらんでいるように見える。その顔に見覚えがあった。

「やっと会えましたね、月白」
「……全然変わってるから驚いた」

 一度ちらりと見かけたことのある爽やかな好青年。遥さんの結界から翡翠くんを連れ出していた。あの時は遥さんに閉じ込める意思がなかったのだと思う。

「お前のせいで翡翠は捕らえられたっていうのに、イヌに成り下がった挙句ご主人サマと恋愛ごっことは良いご身分で」
「僕はイヌではありませんし、翡翠が捕らえられたのは僕のせいじゃありません」

 淳くんはきっぱりと言い放った。涼やかな目元には微塵も迷いがない。

「翡翠はみさきを傷つけようと画策した結果、別の勢力に足元をすくわれただけです。こちらも翡翠を助け出そうと努力はしています。だから僕の縁のある方たちをこれ以上傷つけるのはやめてください」

「いつまでも結果が出ないから警告しただけだろう」

 月白さんは苛立ちを隠さない。

「度が過ぎています」

 ミルクティー色の瞳に冷たい怒りがにじむ。

「これ以上誰も傷つけないと約束してください。時間はかかるかもしれませんが、必ず翡翠はお返しします」
「それじゃ遅いんだ!」

 いくら人通りはほぼなくて住居もないと言っても、こんな大きな声を出しては目立ってしまう。わかっていても抑えられない感情が月白さんにあったのだろう。

「翡翠を捕らえた連中は、吸血種を何人も実験体としていて誰一人戻ってこない」

 私は驚いて息を呑む。月白さんは奥歯を強く噛み締めていた。

「もしかしたら翡翠も、もう……」
「それとこれとは別問題です」

 淳くんはあくまで冷静だった。

「お前が今こうして、迫害もされずのうのうと生きていられるのは誰のおかげだ!?」
「……翡翠のおかげと言わせたいのでしょうが」

 少しうつむいてぐっと拳を握る彼の腕にそっと触れる。皮膚を裂いてしまわないか心配だった。
 色素の薄い双眸は、一度私を見て少し微笑む。そして姿勢を正した。

あまねとみさきのおかげで、僕はこうしていられる」

 ざわりと風が木々を揺らす。

「眞澄がいてくれて、誠史郎も、裕翔も、真壁さんも……僕を排除しないでいてくれるひとたちのおかげだ」

 月白さんは驚いているようだった。

「琥珀……変わったな」
「琥珀ではなくなりましたから」

 どこまでもまっすぐな淳くんの声と瞳。

「……なるほど」

 一瞬穏やかに微笑んだかと思った月白さんの目が、鋭く私をにらみつける。
 嫌な予感がして棍を構えようとしたのと同時に、月白さんが地面を蹴ってこちらへ飛びかかった。

 私の武器の棍棒を握られ、力比べになりそうだった。だけど淳くんが銃を数発、月白さんへ撃つ。
 軽やかに後方宙返りを繰り返して私たちと距離をあけた。

「『白』の血を持つ人間の危険さ、本当の意味で理解していなかった」

 月白さんの私への敵意がむき出しになる。
 淳くんが片手で銃を持ったまま結界を張り、スマートフォンで家にいる誰かに連絡を取ろうとしていた。コールしていたことに気づいてもらえれば、GPSで居場所を探してもらえる。

 隙を見せないように棍の柄を強く握って、中段の構えを取る。
 月白さんは私を殺しにくる。わかっているので気が抜けなかった。

 淳くんが私のすぐ後ろに立ち、首筋に唇を寄せる。
 触れられる心地よさに恍惚としてしまう。
 この血は、彼の力を高める。

「ありがとう、みさき」

 普段は穏やかで優しい色の瞳が、燃えるような紅の双眸に変わる。
 淳くんは私を背中に隠すように、月白さんと対峙した。
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