祓い屋の家の娘はイケメンたちに愛されています

卯月なな

文字の大きさ
上 下
97 / 145
透ルート 2章

籠の鳥 3

しおりを挟む
 透さんに言われたことを電話で伝えると、彰太くんをうちに泊めることに同意を得られた。
 再び透さんに自動車を運転してもらい、家に連れて帰ってもらう。

 透さんが私と彰太くんだけを連れていったのは、彰太くんの寝床を確保しなければいけなくなった場合にこの展開に持ち込むためだったのかもしれない。
 運転席の飄々とした横顔を見るけれど、私には彼の真意は図りかねた。




 明日は真ん中のお兄さんがこちらへ迎えに来てくれると、彰太くんは食事のときに話してくれた。こちらまで来てくれるそうだ。
 真ん中の兄貴、と彰太くんが言った時、透さんが微妙な表情になった。知り合いなのだろうか。

 私たちは学校があるから、帰って来るまで待ってると言われた。
 そこまで気を使ってもらわなくて大丈夫だと伝えたのだけど、彰太くんではなくて、お兄さんが挨拶したいと言っているそうだ。
 それを聞いた透さんは意味ありげに片頬だけで笑った。



「透、あいつの兄ちゃんのこと知ってるのか?」

 彰太くんがお風呂に入っている隙に眞澄くんが訪ねた。私と同じく、透さんの表情を見ていたみたいだ。

「片手でたりるぐらいしかうたことないけどな。弟が世話になった挨拶とか言いながら、みさきちゃんに何しでかすかわからん」

 ダイニングチェアに長い足を組んで座っていた透さんはテーブルに肘をつく。

「ショータには悪いけど、あの男は信用できへん」

 透さんの双眸が鋭く細められる。誰かのことをこんな風に評するのは珍しい。眞澄くんも小さくため息を吐いた。

「透が婚約者ってハッタリに頼らないといけないのかよ」
「ハッタリちゃうけどな」

 透さんがムッとした様子で告げる。

「……真壁さんがそう仰るなら、彼のご家族には僕たちだけで」
「そうしたいけどな、みさきちゃんに会わんと引き下がらんと思う」
「でしょうね……」

 誠史郎さんが指先で眼鏡の位置を直す。誠史郎さんも知っている人みたいだ。

「ま、何があってもみさきちゃんは俺が守るけどな」

 透さんが上手なウインクをこちらへ投げ掛けた。

「彩音さんの件で懲りてくれへんかったんやなぁ」

 呆れた表情の透さんは頭の後ろで手を組む。

「闘志に火を点けてしまったのでしょうね。ということに気づけないほど」

 眼鏡の奥の切れ長の瞳が酷薄に微笑んだ。私は状況が把握できなくてきょとんとしてしまう。

 誠史郎さんが何を言っているのか理解するために、先日のことを順を追って思い出してみる。
 遥さんがみんなと一緒に、透さんと私を探して真壁一門の元保養所までやって来た。彩音さんの生き霊は私を真宮家に連れていくのが目的だろうからと言っていた。
 透さんは遥さんが誰かに依頼されて、私の保護と彩音さんの救出の手伝いをしていた、と――――。

 そこではっと気がつく。遥さんはのだろう。真堂家でも、真壁一門でもない第三者から受けた仕事だ。私たちは誰も彩音さんの存在を知らなかった。

「依頼人が誰かによっても話変わってくるけど、遥に仕事寄越すんは――――」

 みんな、多分同じ人を想像した。だけどそれを口にする前に廊下から物音が聞こえた。

「ありがと……」

 お風呂上がりの彰太くんがリビングに顔を出した。裕翔くんが貸してくれたスウェットを着た彼は、全員の顔を見渡して首を傾げる。

「どうかした?」

 それぞれ目配せをして誰が口火を切るか探り合う。

「ショータはどんくらい知っとるんや?」

 この中で一番なつかれている透さんがその役を買って出てくれた。

「何を?」

 透さんに質問されたことが嬉しかったみたいで、彰太くんは笑顔で歩み寄る。

「真堂家とのイロイロ」

 透さんはにっこりと笑って見せたけれど、気の強そうな少年は寂しそうな表情になる。

「……オレはそんなに知らない」

 何度も首を横に振って一歩退いた。

「知ってることだけ教えてくれたらええ」

 一瞬迷ったような顔になった彰太くんは、うつむいて気が重そうに口を開く。

「オヤジと兄貴たちは、『白』の血を持ってるひとと結婚して……『白』の血を持った子供がほしいみたい」

 彩音さんも似たようなことを言っていた。

 『白』の血を持っているからと言って、その子供が必ず同じ能力を持って生まれるとは限らない。現に、お祖父ちゃんは『白』の血の力を持っていたけれど、私のお父さんにこの力はなかった。お母さんにもない。

「どうしてそこまで……?」

 単純に疑問に思った。だけどこぼしてしまった言葉が彰太くんに失礼だったと口元を押さえる。

「ごめんなさい」
「ううん。あんたは能力者だから、わからなくて当然だよ」

 年下の男の子に苦笑いされてしまった。彰太くんの寂しげな瞳にチクリと胸が痛む。
 結局、無い物ねだりなんだと思う。私も透さんも、『白』の血の能力者でなければこんな騒動に巻き込まれることはなかった。

 もちろん、嫌なことばかりじゃない。この力があったから、眞澄くん、淳くん、誠史郎さん、裕翔くんに出会うことができた。

 もちろん、透さんも。

「オヤジたちは、あんたさえ手に入れば真宮家にかつての栄光が戻ってくるって思ってる。かつての栄光ってのはオヤジが言ってるだけでよくわからないけど……。要は最近、真壁一門ばっかり注目されてるからおもしろくないんだ」

 彰太くんが透さんをちらりと見る。視線を向けられた透さんは左側の口角だけをニヒルに上げた。
 確かに透さんも遥さんも、祓い屋業界で一目置かれるのも納得のすごい力の持ち主だ。

「売上上げたいんやったら、もっと他に力注ぐことがあるやろうに」

 透さんの呆れたような声に、彰太くんは肩を落とした。

「オヤジと夏生なつお兄貴以外、大した霊力を持ってなくて」
「ナツオさん?」

 私が尋ねると、彰太くんはうなずいた。

「明日こっちに来る、真ん中の兄貴」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~

恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん) は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。 しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!? (もしかして、私、転生してる!!?) そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!! そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?

明智さんちの旦那さんたちR

明智 颯茄
恋愛
 あの小高い丘の上に建つ大きなお屋敷には、一風変わった夫婦が住んでいる。それは、妻一人に夫十人のいわゆる逆ハーレム婚だ。  奥さんは何かと大変かと思いきやそうではないらしい。旦那さんたちは全員神がかりな美しさを持つイケメンで、奥さんはニヤケ放題らしい。  ほのぼのとしながらも、複数婚が巻き起こすおかしな日常が満載。  *BL描写あり  毎週月曜日と隔週の日曜日お休みします。

【R18】幼馴染がイケメン過ぎる

ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。 幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。 幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。 関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。

【R18】人気AV嬢だった私は乙ゲーのヒロインに転生したので、攻略キャラを全員美味しくいただくことにしました♪

奏音 美都
恋愛
「レイラちゃん、おつかれさまぁ。今日もよかったよ」 「おつかれさまでーす。シャワー浴びますね」 AV女優の私は、仕事を終えてシャワーを浴びてたんだけど、石鹸に滑って転んで頭を打って失神し……なぜか、乙女ゲームの世界に転生してた。 そこで、可愛くて美味しそうなDKたちに出会うんだけど、この乙ゲーって全対象年齢なのよね。 でも、誘惑に抗えるわけないでしょっ! 全員美味しくいただいちゃいまーす。

4人の王子に囲まれて

*YUA*
恋愛
シングルマザーで育った貧乏で平凡な女子高生の結衣は、母の再婚がきっかけとなり4人の義兄ができる。 4人の兄たちは結衣が気に食わず意地悪ばかりし、追い出そうとするが、段々と結衣の魅力に惹かれていって…… 4人のイケメン義兄と1人の妹の共同生活を描いたストーリー! 鈴木結衣(Yui Suzuki) 高1 156cm 39kg シングルマザーで育った貧乏で平凡な女子高生。 母の再婚によって4人の義兄ができる。 矢神 琉生(Ryusei yagami) 26歳 178cm 結衣の義兄の長男。 面倒見がよく優しい。 近くのクリニックの先生をしている。 矢神 秀(Shu yagami) 24歳 172cm 結衣の義兄の次男。 優しくて結衣の1番の頼れるお義兄さん。 結衣と大雅が通うS高の数学教師。 矢神 瑛斗(Eito yagami) 22歳 177cm 結衣の義兄の三男。 優しいけどちょっぴりSな一面も!? 今大人気若手俳優のエイトの顔を持つ。 矢神 大雅(Taiga yagami) 高3 182cm 結衣の義兄の四男。 学校からも目をつけられているヤンキー。 結衣と同じ高校に通うモテモテの先輩でもある。 *注 医療の知識等はございません。    ご了承くださいませ。

女性の少ない異世界に生まれ変わったら

Azuki
恋愛
高校に登校している途中、道路に飛び出した子供を助ける形でトラックに轢かれてそのまま意識を失った私。 目を覚ますと、私はベッドに寝ていて、目の前にも周りにもイケメン、イケメン、イケメンだらけーーー!? なんと私は幼女に生まれ変わっており、しかもお嬢様だった!! ーーやった〜!勝ち組人生来た〜〜〜!!! そう、心の中で思いっきり歓喜していた私だけど、この世界はとんでもない世界で・・・!? これは、女性が圧倒的に少ない異世界に転生した私が、家族や周りから溺愛されながら様々な問題を解決して、更に溺愛されていく物語。

旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハー異世界ラブコメ〜

ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉 転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!? のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました…… イケメン山盛りの逆ハーです 前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります 小説家になろう、カクヨムに転載しています

処理中です...