祓い屋の家の娘はイケメンたちに愛されています

卯月なな

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眞澄ルート 2章

たいせつなひと 8

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 あれから大島先生は、今までみたいに攻撃的に接してくることはなかった。

 校内で教育実習生として姿を見かけることはあるけれど、こちらからも関わることはない。
 まだ片づいていない問題はあるけれど、少し息のつける日々がやってくる。

 そう思っていたけれど、私たちの事情なんて関係なく、中間テストが来週から始まってしまう。

 家に帰ってから、私は眞澄くんに数学のテスト勉強を見てもらいたいとお願いした。眞澄くんにも試験はあるのに申し訳なく思うけれど、彼は私と違って数学が得意だ。

「うう……。全然わかんないよー……」

 私の部屋に折り畳み式のテーブルを広げて、ふたりで隣合って座っていた。

 突っ伏した目の前に眞澄くんの手があって、その男らしさにどきりとする。この手に触れられたいし、この手に触りたい。

 数学がわからないと言って部屋に来てもらったのに、私は何を考えているのだろう。
 眞澄くんと付き合いはじめて、どんどんえっちになっている。恥ずかしい。

 おずおずと眞澄くんの手の甲に指先を遊ばせようとしていたら、後頭部をぽこんと何かで軽く叩かれる。

 顔を上げると、丸めたノートを持った眞澄くんが苦笑していた。

「まだ1問も終わってないぞ?」
「だってわかんないんだもん……」

 天板にあごを預けて唇を尖らせる。

「何がわからないんだ?」
「何がわからないのかわからない……」

 がくりと顔を伏せる。どうにかモチベーションが上がる方法を考えなくては。テスト結果が大惨事になってしまう。

「……ごほうび」

 むくりと顔を起こす。

「ん?」
「何かごほうびがあれば、がんばれる……気がする」

 あくまで気がするだけだけど。これを乗り越えたら、楽しいことに待っていてほしい。

「テスト終わったら、眞澄くんとふたりでお出かけしたい」
「そんなの、ごほうびじゃないだろ」

 やれやれと言わんばかりに眞澄くんは小さなため息をついた。
 私にとってはごほうびなのに、と頬を膨らませて眞澄くんを見る。

「俺だって、みさきとふたりで出かけたいよ」

 ちょっと照れた表情でぶっきらぼうに呟く。ずるい。ハートを射ぬかれるに決まってる。

 ふたりして赤くなって、沈黙が訪れる。

「いいから、早くやるぞ」
「じゃ、じゃあ……キスして」

 考えるより早く言葉が口をついて出た。あまりにも直接的な要求で、自分でもびっくりする。

「ま、眞澄くん?」

 眞澄くんはこちらを見たまま固まっている。

「……バカだな」

 ようやく動いたと思ったら、黒曜石のような双眸を柔らかく細めた。とても甘い声が鼓膜をくすぐる。身を乗り出して、優しい口づけをしてくれた。

「それはみさきのごほうびじゃなくて、俺のごほうびだろ」

 少し照れくさそうに目の前で低く甘やかにささやかれると、私はゆでダコみたいになった。

 何を言ってもごほうびにならない。数学のテスト対策より、ごほうび探しに脳をフル回転し始めてしまう。

「わかった。ごほうびは俺が考えるから、みさきはこっちをがんばってくれ」

 眞澄くんは本当に面倒見が良いなと思いながら、暗号にしか見えない数式と向き合うことにした。




 †††††††




 テスト期間が終わった土曜日にふたりで出かけようと、眞澄くんと約束していた。

 来ていく洋服に悩んでいると、駅での待ち合わせ時間に遅れそうになってしまう。

 数学のテスト結果は72点だったのでほっと胸を撫で下ろした。私にしては自慢できる点数だ。

 今日は世界一乗降客の多いターミナル駅周辺へ行こうと眞澄くんに言われた。
 始発駅から電車に乗って1時間もかからないので、横に並んで座って話しているとすぐに到着した。

 駅と直結している商業施設の地下階にあるタイ料理店でお昼ごはんを食べた。私はパッタイを、眞澄くんはガパオとグリーンカレーのセットを注文した。
 テレビで見たことのあるタイの市場の雰囲気を模した店内で、楽しい食事の時間だった。

 地上に出ると高いビルがたくさん見えた。ひとの数もすごい。油断すると人混みに流されてしまいそうだ。

 駅の大きな出入口もあり、待ち合わせをしているひとも多い。私たちはその前を横切るように通りすぎる。

 眞澄くんは大きくて少し冷たい手で、私のそれを握ってくれる。歩くスピードも私に合わせてくれた。

 手を繋いで歩いているだけなのに、ドキドキして、幸せを感じる。この時間がずっと続けば良いのに。

「どこ行くの?」
「あそこ」

 眞澄くんが指を差した先には映画館と百貨店の入っているビルがあった。

「映画見る前に、ちょっと買い物しようと思って」

 建物の中に入ると、エスカレーターで2階へ行く。連れられるまま歩いていくと、アクセサリーショップの前で立ち止まった。
 店員さんがいらっしゃいませー、と声をかけてくれる。

「……まだ早いかもしれないけどさ。お揃いの指輪はどうかと思って」

 照れている眞澄くんの横顔を見上げる。

「テストがんばったからな」

 端正で精悍な面が優しく私に微笑みかける。想像もしていなかったごほうびだ。

 嬉しくて頬が緩んでしまう。

「ありがとう」

 ペアのアクセサリーを多く扱っているお店みたいで、お揃いや、ふたつでひとつの図柄になるデザインのものがたくさんディスプレイされていた。

 高校生にとっては高額なので、商品を前に悩んでしまう。

「何も気にしないで良いから。みさきの好きなの選んでくれよ」
「でも……」
「大丈夫だよ。ちゃんと働いた分は瑠美さんくれてるから」

 知らなかった。もしかして、おこづかいなのは私だけなのかもしれない。だからといってそんなに高いものを選んで良いわけじゃないけど。

 気を取り直して指輪を選ぶ。種類が豊富で目移りしてしまう。

 そんな中で、緩やかなカーブを描いたデザインのリングが目に止まった。中央に小さなダイヤモンドが輝いている。

 男性用は黒で、女性用がピンクを想定して作られている。

「それにするか?」

 私がうなずくと、店員さんが指に合うサイズのものを探してくれた。私と眞澄くん、どちらの大きさも在庫があったので、買い求めてそのまま装着させてもらう。

 シルバーなのできちんと手入れしないと黒ずんでしまうと説明してくれた。そのためのキットも購入した。

 映画館へ移動するエレベーターの中、左手の薬指できらめく指輪が嬉しくて、つい眺めてしまう。

 他のお客さんはひとりも乗っていないので、堂々とにやけていた。

「……いつか、もっとちゃんとしたの贈るから」

 眞澄くんの繋いだ手を握る力が強くなる。頬を赤らめる横顔を見上げて、私は時間が止まったように錯覚した。

「待ってるね」
「ああ」

 背の高い彼が膝を屈めて私に顔を寄せる。

 瞳を閉じると、眞澄くんの柔らかい唇の感触が、私の唇から伝わった。
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