祓い屋の家の娘はイケメンたちに愛されています

卯月なな

文字の大きさ
上 下
86 / 145
誠史郎ルート 1章

甘い毒 7

しおりを挟む
 亘理さんの私たちに平穏に暮らしてもらいたいという心遣いはありがたいけれど、生活を見張られていると思うと複雑な気分になる。

 誠史郎さんの車で、学校から自宅まで送ってもらう。重傷ではないので申し訳ない。

「……みさきさん、大丈夫ですか?」
「あ、はい!大丈夫です。大したケガじゃないのに送っていただいて……」
「いえ、そちらではなく」

 理知的な整った横顔がくすりと笑う。

「ご自宅は亘理さんたちがみさきさんの情報をたいと見張っているようですから、精神的に問題はないかと思いまして」

 どうしてこの人は私の思うことをわかってしまうのだろう。思わず目を見開いてしまう。

「……いい気分はしませんけれど、家の中に監視カメラがついているという訳でもありませんから。大丈夫です」

 これ以上、誠史郎さんに心配や迷惑をかける訳にはいかない。できるだけ明るい笑顔を心掛けた。

 ハンドルを握っていた左手がそこ離れると、シートの上にあった私の右手の甲を包む。

「どうしても辛いようでしたら仰ってください。誰にも気づかれないよう、ふたりで出かけましょう」
「ありがとうございます」

 自然に頬が緩む。誠史郎さんは小さく微笑んで応えてくれた。

「水族館……。動物園、遊園地……」

 宙を見上げて指を折りながら、行きたいところを羅列してみる。

「時間はかかりますが、全て行きましょう」

 何でもないことのように誠史郎さんは言ったけれど、私は深読みして照れてしまう。だって時間はかかると言うことは、その間、ずっと私と一緒にいてくれると言うことだ。

 自動車だと学校から自宅まではすぐだった。礼を言って車から降り、仕事のため再び高校へ戻る誠史郎さんを見送る。

 私はちらりと隣の家を見た。特にカメラなどは見当たらない。音を聞きつけて誰かが飛び出してくることもなかった。

 山神さんが私たちに亘理さんが隣に居を構えた理由を伝えたということは、亘理さんたちにとって私の行動を把握することはそれほど重要ではない。もしくは、もう目的は達しているのだろう。

 平穏な生活。人ならざるものを相手の仕事を生業にしている以上、それは難しいことだと思う。
 両親だって、仕事で海外へ行ってからもう一年以上経つけれど、まだ戻ってこられない。

 複雑な思いを抱えたまま、門扉を開け、玄関のドアノブに手をかける。

「ただいまー」

 靴を脱ごうと膝を曲げると少し痛い。もたもたしていると、淳くんがリビングから様子を見に来てくれた。制服ではなく、普段着に着替えている。

「お帰り。足は大丈夫? 誠史郎に送ってもらった?」
「うん。大丈夫」

 うなずくとミルクティーの色の王子様は柔和な笑みを浮かべる。

「良かった。着替えてくる?」
「うん、そうする」

 私の返事を聞いて、淳くんはリビングへ戻る。私は自室へ移動した。

 着替えてからリビングに顔を出す。
 今日の数学の授業が解らなかったので、淳くんか眞澄くんに教えてもらおうと教科書とノートも持ってきた。

 淳くんはキッチンでお茶の用意をしてくれている。眞澄くんはソファーに座ってゲームに忙しそうだ。携帯ゲーム機のボタンを激しく連打している。

「みさき、どうしたの?」

 どうしようと悩みながらダイニングチェアに座ると、向かいにするりと裕翔くんがやって来て、テーブルに身を乗り出した。

「数学でわからないところがあったから、教えてもらいたくて」
「う、オレもわかんない」

 並んだ数字と記号を前に裕翔くんがやぶ蛇だったという表情になる。自然に目が合うと、どちらからともなく笑ってしまった。

 そんなことをしていると、呼び鈴が鳴った。モニターには透さんが映っている。
 出迎えると、透さんはにこにこしながら玄関を上がる。

「みさきちゃんが帰って来てて良かったわ」

 私の後ろで透さんはのんびり呟く。

「ケガでもしたん?」

 無意識のうちに、左足を庇うような動きをしていたみたいだ。透さんは目ざとい。

「ハードルで転んじゃって……」
「だっこしたろか?」

 じりじりと私を壁際に追いやろうとする透さんに、私は勢い良く何度も首を左右に振って見せる。
 だけど彼は意地悪に微笑んだまま、動きを止めることはない。

「と、透さ……」

 背中が壁についてもう逃げる場所がない。背の高い透さんが私の行く手を阻むように壁へ掌をついたと同時に、リビングの扉が軽やかな音とともに開いた。

「あ! トールがまた悪さしようとしてる!」

 裕翔くんの目の前で透さんは、チッチッと舌を鳴らして人差し指をメトロノームのように動かす。

「悪さやないで。スキンシップ」

「ひとりで歩けますから、大丈夫です」
「残念やなぁ」

 透さんが諦めてくれたことにほっとしながら、どこか罪悪感もあった。
 誠史郎さんに同じ事を言ってもらえたらと想像してしまったからだ。今日のことがあったから、誠史郎さんはきっと用心深くなっている。仕方ないけれど、少し残念だ。

 リビングに戻ってお茶をいただく。飲み終えると、淳くんが数学のわからないところを教えてくれた。そこに眞澄くんも参加する。

 透さんと裕翔くんも混じって、話が脱線したり、元に戻って数学を教えてもらっていると、いつの間にか誠史郎さんが学校から帰って来る時刻になっていた。

 山神さんに言われたことはいつの間にか記憶の端に追いやられていた。みんなと楽しく送る時間にリラックスしていた。

 眠ろうとベッドに入った時、私は平穏に暮らしていると気がついた。

 山神さんに会える機会をなんとか作って、警戒してもらわなくても大丈夫だと伝えてみようと思う。聞き入れてもらえると良いのだけど。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~

恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん) は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。 しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!? (もしかして、私、転生してる!!?) そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!! そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?

明智さんちの旦那さんたちR

明智 颯茄
恋愛
 あの小高い丘の上に建つ大きなお屋敷には、一風変わった夫婦が住んでいる。それは、妻一人に夫十人のいわゆる逆ハーレム婚だ。  奥さんは何かと大変かと思いきやそうではないらしい。旦那さんたちは全員神がかりな美しさを持つイケメンで、奥さんはニヤケ放題らしい。  ほのぼのとしながらも、複数婚が巻き起こすおかしな日常が満載。  *BL描写あり  毎週月曜日と隔週の日曜日お休みします。

【R18】幼馴染がイケメン過ぎる

ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。 幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。 幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。 関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。

【R18】人気AV嬢だった私は乙ゲーのヒロインに転生したので、攻略キャラを全員美味しくいただくことにしました♪

奏音 美都
恋愛
「レイラちゃん、おつかれさまぁ。今日もよかったよ」 「おつかれさまでーす。シャワー浴びますね」 AV女優の私は、仕事を終えてシャワーを浴びてたんだけど、石鹸に滑って転んで頭を打って失神し……なぜか、乙女ゲームの世界に転生してた。 そこで、可愛くて美味しそうなDKたちに出会うんだけど、この乙ゲーって全対象年齢なのよね。 でも、誘惑に抗えるわけないでしょっ! 全員美味しくいただいちゃいまーす。

4人の王子に囲まれて

*YUA*
恋愛
シングルマザーで育った貧乏で平凡な女子高生の結衣は、母の再婚がきっかけとなり4人の義兄ができる。 4人の兄たちは結衣が気に食わず意地悪ばかりし、追い出そうとするが、段々と結衣の魅力に惹かれていって…… 4人のイケメン義兄と1人の妹の共同生活を描いたストーリー! 鈴木結衣(Yui Suzuki) 高1 156cm 39kg シングルマザーで育った貧乏で平凡な女子高生。 母の再婚によって4人の義兄ができる。 矢神 琉生(Ryusei yagami) 26歳 178cm 結衣の義兄の長男。 面倒見がよく優しい。 近くのクリニックの先生をしている。 矢神 秀(Shu yagami) 24歳 172cm 結衣の義兄の次男。 優しくて結衣の1番の頼れるお義兄さん。 結衣と大雅が通うS高の数学教師。 矢神 瑛斗(Eito yagami) 22歳 177cm 結衣の義兄の三男。 優しいけどちょっぴりSな一面も!? 今大人気若手俳優のエイトの顔を持つ。 矢神 大雅(Taiga yagami) 高3 182cm 結衣の義兄の四男。 学校からも目をつけられているヤンキー。 結衣と同じ高校に通うモテモテの先輩でもある。 *注 医療の知識等はございません。    ご了承くださいませ。

女性の少ない異世界に生まれ変わったら

Azuki
恋愛
高校に登校している途中、道路に飛び出した子供を助ける形でトラックに轢かれてそのまま意識を失った私。 目を覚ますと、私はベッドに寝ていて、目の前にも周りにもイケメン、イケメン、イケメンだらけーーー!? なんと私は幼女に生まれ変わっており、しかもお嬢様だった!! ーーやった〜!勝ち組人生来た〜〜〜!!! そう、心の中で思いっきり歓喜していた私だけど、この世界はとんでもない世界で・・・!? これは、女性が圧倒的に少ない異世界に転生した私が、家族や周りから溺愛されながら様々な問題を解決して、更に溺愛されていく物語。

旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハー異世界ラブコメ〜

ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉 転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!? のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました…… イケメン山盛りの逆ハーです 前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります 小説家になろう、カクヨムに転載しています

処理中です...