祓い屋の家の娘はイケメンたちに愛されています

卯月なな

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淳ルート 1章

この手は離さない 5

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「みさき、みさき」

 眠っているとみやびちゃんに顔をぺしぺし肉球で叩かれる。目を擦って何とか起きようとするけれど開かない。

「外でヘンな音がしたの」

 みやびちゃんは耳が良い。彼女が言うのだから、何かあったのだと思う。何とか起き上がって目が開かないまま玄関の扉を開ける。人が倒れていた。

 驚きで眠気が醒める。着物を着た女性の背中があった。
 私の知っている人で普段から着物を着ている女の人はひとりしかいない。

「珠緒さん……!」

 慌てて駆け寄る。意識はあるけれど、痛みで動けないみたいだった。
 珠緒さんはお腹の辺りを押さえて、身体を丸めている。

「……申し訳ありません。少し休ませていただければ回復いたしますので、場所をお借しください」
「中へ……」

 私が肩を貸そうとしたけれど起き上がれないみたいだ。どうすればいいのか狼狽えていると、みやびちゃんと淳くんが急いでやって来た。

 淳くんは何も言わず、さっと珠緒さんをお姫様抱っこして家の中へ連れていく。慌てて後を追った。

 常夜灯を点けたリビングに透さんが布団を敷いてくれていた。そこへ珠緒さんを横たえさせる。

「ご迷惑をおかけします……」
「珠緒さん、まさか」

 私が問いかけるのを遮るように、珠緒さんは小さく首を横に振った。痛みに耐えながら微笑む努力をして口を開く。

「お気になさらないでください。私がいけませんの」
月白つきしろですか?」

 淳くんの問いに、珠緒さんは曖昧に微笑んだだけで答えない。彼女まで傷つけるのは、おそらく月白さんだ。人間の女性だった雪村さんには、ここまでのことはできないと思う。

 身体が勝手に震え始めた。

 みやびちゃんが誠史郎さんを呼んできた。誠史郎さんは珠緒さんの傍らに膝をつき、具合を尋ねたみたいだ。
 ふたりが会話を交わしているのはわかるのだけど、何も耳に入ってこない。眞澄くんと裕翔くんも何事かと、ここへ集まってきた。

 私のせいだ。ぺたりと床に崩れ落ちてしまう。

「みさき、立てるかい?」

 淳くんがいつの間にか背後にいた。立ち上がろうと床に手をついたけれど、上手くいかない。

「ごめんね」

 脇に手が差し入れられると、ひょいとお姫様抱っこをされた。びっくりして思わず小声で抵抗してしまう。

「お、重いから危ないよ……!」
「暴れる方が危ないよ」

 私を抱えて淳くんは平然と階段を昇った。見た目よりずっと力がある。

「みさきの部屋に入っても平気かな?」

 淳くんの部屋ほど片付いていないので恥ずかしいけれどうなずいた。部屋に入るとベッドに私を座らせ、扉を閉めてから正面に跪く。


「大丈夫?」
 暗闇の中、膝の上で強く握った私の両手の拳を、少し冷たい淳くんのふたつの掌が包み込む。あの状況でも淳くんは私が崩れ落ちたことに気づいてくれた。急に涙が溢れてくる。

「怖いの……。私のせいで……イズミさんも、珠緒さんも……。みんなだって……!」

 私のせいで淳くんはきっと、みんなを守るために黙ってひとりで堺さんのところへ行ってしまう。頬を伝った涙が彼の手にぽたぽたと落ちた。

「みさき、冷静になるんだ」

 淳くんが私の両肩を掴む。ミルクティーの色の双眸が私の瞳を奥まで射ぬいた。

「嫌なの……、こんなの……」

 涙が止まらない。次はこの家に住んでいる誰かが襲われるかもしれない。そう思うと恐ろしかった。

 私の甘い判断が、みんなを争いに巻き込んだ。

「私、どうして……っ」

 悪い想像ばかりが膨らんでいく。

 嗚咽と吐き出すような泣き言しか出てこない唇が不意に、淳くんの唇で塞がれた。頭が真っ白になってしまう。

「……大丈夫。誰もみさきが悪いなんて思ってないよ。君のせいじゃない」

 強く抱き締められ、ささやきが耳殻をなぞった。宥めるように何度も髪を撫でられる。

「僕の罪が、全ての始まりだ」
「そんなことない……!」

 それ以上言葉が見つからなくて、淳くんの胸に額を擦り付けながら何度もかぶりを振った。彼の背中に両手を回し、爪を立てるようにしがみつく。

「ひとりで翡翠くんのところへ行かないで」
「……みさき」

 顔を上げると、淳くんの瞳は暗闇の中でキラキラ輝いていた。

「ずっと一緒にいて」

 また涙が流れてくる。淳くんは指の背でそれを優しく拭ってくれた。
 もう一度抱き締め合い、目を閉じると唇が触れ合う。その柔らかさに少し安堵した。

「……不安にさせてごめん」

 額を合わせると、淳くんが呟いた。

「黙ってひとりで翡翠を探しに行ったりしないよ。だからもう泣かないで」

 彼の右手の小指が私のそれに絡まる。安心して声を上げて泣きそうになった涙でぐしゃぐしゃの瞼に、淳くんは優しくキスをしてくれた。

「何があっても、この手は離さないから」

 穏やかなのに力強く感じる言葉。

「……約束だよ?」
「もちろんだよ。ずっとみさきの側にいる」

 淳くんはおとぎ話の王子様みたいな麗しい微笑みを浮かべてうなずいてくれる。誓いのキスみたいに、私の手の甲に口づけた。


 それからしばらく、ただ抱き合っていた。やっと涙腺も閉じて呼吸も落ち着く。淳くんはずっと中腰だったので辛かったかもしれない。

「……ごめんね」

 今さらだけどあまりに取り乱してしまった。思い出すと恥ずかしくなる。優美な仕草で隣に座った淳くんに肩を抱き寄せられた。

「珠緒さんは大丈夫。見たところ出血もなかったから」

 冷静になってくると、さっきのいろいろなことを思い出して頬が熱くなってきた。違ったパニックになってしまう。

「えと、その……」

 淳くんからのキスの理由を聞きたかったけれど、照れてしまって言い澱む。

「そろそろ戻ろう。みんな心配する」

 すっと立ち上がった淳くんは穏和に破顔しながら私に手を差し伸べてくれる。
 どういう気持ちでキスをしてくれたのか尋ねたかったから少し躊躇した。だけど結局、言い出す勇気が持てなくて指先を重ねた。
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