祓い屋の家の娘はイケメンたちに愛されています

卯月なな

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淳ルート 1章

この手は離さない 2

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 気になっていたけれどなかなか言い出せないまま、夜になってしまった。

 透さんと誠史郎さんは明日また来ると言って、それぞれ自宅に戻った。

 私は淳くんはどうしているかしらと気にしながら、部屋のベッドで枕を抱えてゴロゴロ転がっていた。

 足元で休んでいるみやびちゃんは、私の行動が迷惑だと言わんばかりに尻尾をぱたぱたさせている。

 頭上に一応置いてある目覚まし時計を見るともう日付が変わろうと言う時刻になっていた。

 意を決して起き上がる。みやびちゃんと枕を抱えて部屋を出た。廊下は抜き足差し足忍び足で慎重に進む。

 眞澄くんと裕翔くんも眠っているみたいで静かだ。
 フットライトが足元をオレンジに小さく照らしているだけで、しんと静まり返っていた。

 みやびちゃんは怪訝な顔をしているけれど、おとなしく私の腕にぶら下がってくれている。

 淳くんの部屋の前で深呼吸する。両手がふさがっていたのでみやびちゃんを降ろしてドアノブに手をかけた。

 少し開くと先にみやびちゃんがするりと入り込む。中はぼんやりとした明かりが点いていた。

「みやび?」

 やっぱり淳くんは起きていた。私もささっと素早く部屋に押し入り、お尻で扉を閉める。

「えっ……」

 枕で顔を隠しながら片目だけで彼の様子を覗き見る。

「みさき……?」

 サイドボードに置かれたランプが、白皙の美男子を柔らかく浮かび上がらせていた。淳くんは上半身を片肘で支え、ミルクティー色の目を見開いてこちらを見ている。

 持参した枕を淳くんの隣に放り投げて、みやびちゃんと共に強引にベッドへ侵入する。

「み、みさき……!」

 淳くんは狼狽しているけれど、大きな声は出さなかった。壁際へ逃げる彼の頭を両腕で抱え込んで胸の辺りへ引き寄せる。

「淳くん、最近あんまり寝てないでしょ」

 疑問ではなく、断定。そしてそれは当たっていたみたいで、返事が無い。

「ちっちゃい時、淳くんにこうしてもらうと、いつもいつの間にか寝てたよね」
「……そうだったね」

「前にみやびちゃんに言われたの。ちゃんと寝ないと、強い精神を保てないって。淳くんは少しぐらいは平気かもしれないけど、ずっと寝不足だから、良くないことばっかり考えちゃうんだよ」

 軽く唇を尖らせる。淳くんは肩を竦めて小さく笑った。

「みさきに見抜かれるなんて、僕も修行が足りないな」

 淳くんが私と頭の位置が同じぐらいになるように動いた。

 お昼はどんよりしていると感じたミルクティーの色をした両眼が、今は心なしか平穏を取り戻している感じがした。

「ありがとう」

 指の長い白くて少し冷たい手が私の頬を包む。

「……ダメだね。僕の悪い癖だ」

 双眸を伏せると長い睫毛が頬に影を落とした。

「翡翠くんが心配なのはわかるけど、淳くんのせいじゃないよ」
「そーよ。あっちゃん何も悪くないわ」

 みやびちゃんが淳くんの二の腕の上に乗って頬擦りをする。

「みやびもありがとう」

 頭を優しく撫でられたみやびちゃんは嬉しそうだ。

 言いたいことを伝えたら、急に眠気が襲ってきた。

「みさき、部屋に戻った方が……」

 もう身体が動かない。瞼が閉じて、そのまま意識が遠のいた。










 温かい――――。

 安心する匂いだ。そこへさらに顔を埋めると、頭上で淳くんの寝息が聞こえた。

 いつの間にか淳くんの腕の中に潜り込んでいる。そう言えば、部屋に乱入してそのまま眠りこけてしまったんだった。

 だけど淳くんも眠れているみたいで良かった。こうして触れあっていると心地好い。

 いつから気軽にこんな風にできなくなったのかと考える。小学校の高学年ぐらいからだったような気がする。

 少しだけ顔を上げる。淳くんの寝顔は整っているけれど、少しあどけなさが残っていた。何だか懐かしさが込み上げてくる。

 それからすぐに再びうとうとしてしまって、次にうっすら目が覚めたときはカーテンの隙間から光が射していた。

 誰もいないと寝返りをうつと、淳くんはこちらに背を向けて着替えていた。

「ごめん、起こした?」

 気配で起きたことを察知したみたいで、着衣を整えてこちらへ来る。今さらだけど寝起きを見られるのが恥ずかしくて、首を横に振りながら掛け布団で鼻まで隠した。

「みさきのおかげで良く眠れた。ありがとう」

 穏やかに微笑みながらそっと頭を撫でてくれる。誉められた気がして自然に頬が緩んでしまう。

「先に出て、眞澄と裕翔がどこにいるか確認するよ。みさきがここで寝てたって知られたら大騒ぎだから」

 いたずらっぽい微笑がとても妖艶で見ている私がどきどきしてしまう。

「みやびに合図してもらうから、もう少しここにいて」

 そう言い残すと、淳くんはみやびちゃんを連れて部屋を出ようする。だけどなぜだかみやびちゃんを扉の向こう側へ出すと、静かに閉じてからくるりと淳くんだけ戻って来た。

 ベッドの脇に屈んで目線を合わせられる。何事かしらとどぎまぎしながらミルクティーの色をした瞳を見ていると、コツンと額が重なる。

「……僕だから無事だったんだよ? だけど次はどうなるかわからないからね」

 意味を理解するのに僅かに時間を要したけれど、ぼっと火がついたように顔が熱くなる。

「僕だって男だから」

 耳元で低くささやかれた声の甘さに驚いてしまう。そのまま頬に微かに淳くんのさらさらした髪と唇が触れた。
 多分、今、私の脳天からは湯気が出ている。

「みやびが来るまでおとなしくしてるんだよ」

 布団から半分だけ顔を出してこくこくと何度もうなずく。
 部屋を去ろうとする淳くんの後ろ姿を見ていると、耳が赤くなっていることに気がついた。
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