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透ルート 1章
ふたりの花嫁 4
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「けっこん?」
あまりにもさらりと言われたので、とっさに漢字に変換できなかった。
一生を左右することなのに、透さんが言うとお手軽な感じがする。
「婚約でもええで。ずっと言うてるやん。俺、結婚するならみさきちゃんとって決めてるねん」
腰にタオルを巻いているだけの男性に言われると、本気なのか冗談なのかわからない。
だけど透さんが言ってくれたからその言葉を嬉しく思って、信じたいと思っている私がいた。
「本当、ですか?」
「もちろん」
正式なプロポーズは然るべきシチュエーションでお願いしたいなんて考えてしまったけれど、まだお付き合いもしていないのに私は何を先走っているのだろう。
だけど透さんの年齢を考えたら、そういったことを考える人も現れる頃だ。
「何でみさきが透と結婚しなきゃならないんだよ!?」
眞澄くんが焦ったように透さんに詰め寄る。
「センセは答えてくれへんかったけど、多分迎えに来たっちゅーんは、連れて帰って真宮さんとこの4人もおる息子の誰かの嫁にするってことなんやと思うで」
「誰かって……」
眞澄くんが困惑した声を力なく発する。
「みさきは犬や猫じゃないぞ」
「人権なんか無視なんやろ。自分らの家とか名誉さえ守れたらそれでええんや。順当にいったら相手は長男なんやろうけど、遥より歳上やった気がするで」
全く知らない男性といきなり結婚だなんてお断りだ。まして、私を道具としてしか見ていない人達と家族にはなれない。
「誠史郎さん……」
そこまで強引なことはされないと思うけれど、少し不安になって誠史郎さんの顔を見る。
「大丈夫ですよ。みさきさんが生まれて間もない頃から何度もそう言った申し入れはありましたが、毎回きちんとお断りしています」
「真宮さんとこは、最近エエ話聞けへんからなー。『白』の能力者で、あの真堂周の孫であるみさきちゃんを嫁にして、一発逆転狙ってるんやろ」
透さんはやれやれというように、両の掌を肩の高さで天井に向けて、緩慢に首を何度も横に振る。
「そんなんで何も変わらんと思うんやけどな。このご時世にどうかと思うけど、魔と関わることを生業にしてるモンは家とか格とか跡継ぎやら、しょーもないこと気にする人間がまだまだ多い。せやから俺が真堂家に婿に入るってことになったら、向こうも迂闊に手ェ出してこられへん。うちの鬼ババ敵に回したらエライことになるで」
そう言って片頬でニヒルに笑ってみせた。彼の言葉を素直に受けとれば、私を守るために利用できるものは全て利用する、ということなのだろう。でも透さんが言うほど気軽なことではないと私は感じてしまう。
「そんな、結婚だなんて急過ぎますし、みさきはまだ高校生です。双方のご両親だって……」
淳くんは珍しく狼狽の色を隠せないけれど、透さんを諌めようとする。
「透が本気ならうちの両親は反対しないと思うよ。かわいい妹ができるのは嬉しいけど、僕もみさきちゃんと結婚できるならそうしたいな」
遥さんに、にこやかに爆弾を放り込まれた。真壁兄弟は心臓に悪い。
「勝手にそんな話されても、みさきのパパはヤダと思うけど」
確かにお父さんは大騒ぎしそうだ。裕翔くんは私の両親に会ったことがないのに、なかなか鋭い。
「それに、みさきの気持ちだってあるだろ」
眞澄くんの言葉で、みんなの視線が私に集まる。
「えっ……。そ、そんな急に決められないけど……」
不意に透さんの唇の柔らかさが甦る。真っ赤になって黙りこんだ私を見て、透さんは意地悪に微笑んだ。
「とりあえず婚約したフリだけでもええよ」
「何がフリだけだよ! そこから既成事実つくる気だろ!」
「えー、眞澄クン深読みしすぎー。そんな悪いコト考えもせーへんかったー」
かわいこぶっているのか、透さんはあごの辺りで両手を握って身体をくねくねさせる。だけど台詞はどこか棒読みだ。
「ふ、フリで解決できるなら……」
そう言ったけれど、私の本心は違った。もっと透さんのことを知りたい。
婚約したフリをして少しでも長く一緒にいられたら、風のよう軽やかで掴み所のない彼のことがちょっとはわかるかもしれない。
「みさきちゃんはそう言うてくれると思てたで」
悪魔の微笑みは、きっとこんな風に妖艶なんだと思う。私はとんでもない男性の懐に飛び込んでしまった気がする。
「フリなんだよ! フリだからね!」
裕翔くんが一生懸命透さんに訴えている。ハイハイとあしらっている透さんは、いつもの軽妙な雰囲気に戻っていた。
話が一段落したところで、今夜みんなどこで休むかという話になった。遥さんの運転する車に全員で乗ってきたそうだ。
さすがに往復は体力的に辛いし、もう時間も遅い。
今夜は休んで、明日の朝、透さんの車と2台に分乗して帰ると決まる。
そして今は、誰がどの部屋を使うかで揉めている。と言うか、私と同じ部屋が良いとだだをこねている透さんを、眞澄くんと裕翔くんが何とか引きずり出そうとしている。
自宅と変わらない光景にほっとしたような、少し残念なような。
男性がみんな出て行った客室は広くて静かで寂しかった。
そう言えば、真宮さんはどこへ消えてしまったのだろう。透さんと婚約していると伝えたら、諦めてくれると良いのだけど。
ただの早とちりの可能性だってある。その方が良いに決まってるのに、まだ始まってもいない透さんと婚約ごっこが終わってしまうのを残念だと思っていた。
あまりにもさらりと言われたので、とっさに漢字に変換できなかった。
一生を左右することなのに、透さんが言うとお手軽な感じがする。
「婚約でもええで。ずっと言うてるやん。俺、結婚するならみさきちゃんとって決めてるねん」
腰にタオルを巻いているだけの男性に言われると、本気なのか冗談なのかわからない。
だけど透さんが言ってくれたからその言葉を嬉しく思って、信じたいと思っている私がいた。
「本当、ですか?」
「もちろん」
正式なプロポーズは然るべきシチュエーションでお願いしたいなんて考えてしまったけれど、まだお付き合いもしていないのに私は何を先走っているのだろう。
だけど透さんの年齢を考えたら、そういったことを考える人も現れる頃だ。
「何でみさきが透と結婚しなきゃならないんだよ!?」
眞澄くんが焦ったように透さんに詰め寄る。
「センセは答えてくれへんかったけど、多分迎えに来たっちゅーんは、連れて帰って真宮さんとこの4人もおる息子の誰かの嫁にするってことなんやと思うで」
「誰かって……」
眞澄くんが困惑した声を力なく発する。
「みさきは犬や猫じゃないぞ」
「人権なんか無視なんやろ。自分らの家とか名誉さえ守れたらそれでええんや。順当にいったら相手は長男なんやろうけど、遥より歳上やった気がするで」
全く知らない男性といきなり結婚だなんてお断りだ。まして、私を道具としてしか見ていない人達と家族にはなれない。
「誠史郎さん……」
そこまで強引なことはされないと思うけれど、少し不安になって誠史郎さんの顔を見る。
「大丈夫ですよ。みさきさんが生まれて間もない頃から何度もそう言った申し入れはありましたが、毎回きちんとお断りしています」
「真宮さんとこは、最近エエ話聞けへんからなー。『白』の能力者で、あの真堂周の孫であるみさきちゃんを嫁にして、一発逆転狙ってるんやろ」
透さんはやれやれというように、両の掌を肩の高さで天井に向けて、緩慢に首を何度も横に振る。
「そんなんで何も変わらんと思うんやけどな。このご時世にどうかと思うけど、魔と関わることを生業にしてるモンは家とか格とか跡継ぎやら、しょーもないこと気にする人間がまだまだ多い。せやから俺が真堂家に婿に入るってことになったら、向こうも迂闊に手ェ出してこられへん。うちの鬼ババ敵に回したらエライことになるで」
そう言って片頬でニヒルに笑ってみせた。彼の言葉を素直に受けとれば、私を守るために利用できるものは全て利用する、ということなのだろう。でも透さんが言うほど気軽なことではないと私は感じてしまう。
「そんな、結婚だなんて急過ぎますし、みさきはまだ高校生です。双方のご両親だって……」
淳くんは珍しく狼狽の色を隠せないけれど、透さんを諌めようとする。
「透が本気ならうちの両親は反対しないと思うよ。かわいい妹ができるのは嬉しいけど、僕もみさきちゃんと結婚できるならそうしたいな」
遥さんに、にこやかに爆弾を放り込まれた。真壁兄弟は心臓に悪い。
「勝手にそんな話されても、みさきのパパはヤダと思うけど」
確かにお父さんは大騒ぎしそうだ。裕翔くんは私の両親に会ったことがないのに、なかなか鋭い。
「それに、みさきの気持ちだってあるだろ」
眞澄くんの言葉で、みんなの視線が私に集まる。
「えっ……。そ、そんな急に決められないけど……」
不意に透さんの唇の柔らかさが甦る。真っ赤になって黙りこんだ私を見て、透さんは意地悪に微笑んだ。
「とりあえず婚約したフリだけでもええよ」
「何がフリだけだよ! そこから既成事実つくる気だろ!」
「えー、眞澄クン深読みしすぎー。そんな悪いコト考えもせーへんかったー」
かわいこぶっているのか、透さんはあごの辺りで両手を握って身体をくねくねさせる。だけど台詞はどこか棒読みだ。
「ふ、フリで解決できるなら……」
そう言ったけれど、私の本心は違った。もっと透さんのことを知りたい。
婚約したフリをして少しでも長く一緒にいられたら、風のよう軽やかで掴み所のない彼のことがちょっとはわかるかもしれない。
「みさきちゃんはそう言うてくれると思てたで」
悪魔の微笑みは、きっとこんな風に妖艶なんだと思う。私はとんでもない男性の懐に飛び込んでしまった気がする。
「フリなんだよ! フリだからね!」
裕翔くんが一生懸命透さんに訴えている。ハイハイとあしらっている透さんは、いつもの軽妙な雰囲気に戻っていた。
話が一段落したところで、今夜みんなどこで休むかという話になった。遥さんの運転する車に全員で乗ってきたそうだ。
さすがに往復は体力的に辛いし、もう時間も遅い。
今夜は休んで、明日の朝、透さんの車と2台に分乗して帰ると決まる。
そして今は、誰がどの部屋を使うかで揉めている。と言うか、私と同じ部屋が良いとだだをこねている透さんを、眞澄くんと裕翔くんが何とか引きずり出そうとしている。
自宅と変わらない光景にほっとしたような、少し残念なような。
男性がみんな出て行った客室は広くて静かで寂しかった。
そう言えば、真宮さんはどこへ消えてしまったのだろう。透さんと婚約していると伝えたら、諦めてくれると良いのだけど。
ただの早とちりの可能性だってある。その方が良いに決まってるのに、まだ始まってもいない透さんと婚約ごっこが終わってしまうのを残念だと思っていた。
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