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2章
狙われた少年 4
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佐藤くんの意識が戻らないので救急車を呼んだ。誠史郎さんが病院まで付き添ってくれるそう。
私は淳くん、眞澄くんと一緒に先に家に帰った。自宅で誠史郎さんを待つ。私のせいだからとても心配だ。
数時間経って、ようやく誠史郎さんは家に帰ってきた。
「意識は回復しました。脳震盪を起こしていたようです」
私は誠史郎さんから視線を逸らして宙を漂わせる。眞澄くんはこちらを正視せずに、ぽんと私の肩を叩いた。
「親御さんがいらっしゃったので付き添いを交代しました。彼には私からしっかりと話をしておきましたから、今後みさきさんに手出しすることはないと思いますよ」
誠史郎さんは端整な口許ににっこりと微笑みを浮かべる。
「ありがとう、誠史郎」
淳くんが穏やかに誠史郎さんにお礼を言った横で、裕翔くんがつつつ、とこちらに移動して来た。
「ねえ」
私と眞澄くんに耳打ちする。
「何か恐ろしいことが起こった気がするんだけど」
「あのふたりは普段にこにこしてる分、敵に回したらヤバいんだよ」
眞澄くんも声を潜めて答える。
「インキュバスに身体を貸していましたが、魂を渡すなどの契約は交わしていなかったようです。あの悪魔も善良といいますか、何も考えていないと言いますか……」
誠史郎さんは小さく息を吐く。
「何も考えていない……」
淳くんの何か考えているような声が聞こえて、眞澄くんと裕翔くんがぎくりとした様子でそちらを見る。
だけど淳くんは形の良いあごに右手を添えて何かを思案していた。叱られると思っていたふたりは安堵して胸を撫で下ろす。
「あのインキュバスはどうしてみさきを知っていたんだろう?」
顔を上げて淳くんは誠史郎さんに問いかけた。
「どなたかに呼び出されたインキュバスで、その方はみさきさんに用があると考えるのが自然でしょうね」
誠史郎さんの言葉に裕翔くんが反応して素早くぴしっと真っ直ぐに右手を挙げる。
「オレを狙ってたハンターは?」
「アイツはそういうタイプじゃないだろ。魔物はあくまで倒すべき相手で、契約しようとは考えない。それに人間が悪魔を呼び出して契約するのはリスクも高すぎる」
人間が悪魔を呼び出し契約を交わすには何か代償が必要になる。大抵の悪魔は人間相手には魂を要求してくる。
それに先日透さんに会ったとき、私達に対して怒っている様子はなかった。
「私もそう思います。それに、彼がみさきさんに悪魔を差し向ける理由がありません」
「恨まれるようなことはしていないと思うんだけど……」
おずおずと私が口を開くと、淳くんが柔和に微笑んだ。
「そうだね。みさきが実戦に出たのは裕翔の時が初めてだし」
みんな腕を組んだり首を捻ったりするが何も思い浮かばない。しばらく沈黙が続いてしまう。
「とりあえず、明日からの対処を考えないと」
淳くんの言葉が静寂を破る。眞澄くんが頷いたわ。
「そうだな。行き帰りと家の中は俺たちの誰かがいるだろうから良いとして、授業時間はどうするか」
「オレが明日から学校に行くっていうのは?」
裕翔くんは楽しそうに目をキラキラさせる。
「残念ながら、裕翔くんは1年生のクラスに入ることになっています。同じクラスではないのですよ」
「そうなんだ。残念……」
誠史郎さんの返答に、裕翔くんはしょんぼりと肩を落とした。
「授業や休み時間はみさきひとりで頑張ってもらうしかないね。強力なタリスマンを多めに用意しよう」
「何か、ごめんね……。またみんなに迷惑をかけてしまって」
「お前が謝ることなんかないさ」
眞澄くんがぽんぽんと頭を撫でてくれた。
「そうだよ、みさき」
淳くんも優しく肩に手を置いて励ましてくれる。
「あー、ふたりともいいなー。オレも!」
裕翔くんは勢いよく腰のあたりに抱きついてきた。
「大丈夫だよ、みさき!」
屈託のない満面の笑みを見て、私もつられて笑ってしまう。
「みさきさんはそうして笑っていてください」
誠史郎さんがネックレスにしたタリスマンを私の首に掛けてくれる。いつも誠史郎さんがシャツの下に隠して身につけている大切なものだ。
「誠史郎さん、これは誠史郎さんの……」
「インキュバスの件が片付くまでお貸しするだけです。私はスペアを持っていますからご心配なく。周の力が込められていますから、みさきさんをしっかり護ると思いますよ」
「そうだね。僕のも渡しておくよ」
淳くんは右手の中指にしていた指環をするりと抜いて私の手を取る。
「親指でも大きいかな?」
くすっと小さく笑って、私の左手の親指に指環になっているタリスマンを嵌めてくれた。
眞澄くんも淳くんと同じく右手の中指にあった指環を私の左手親指に重ねてくれた。ひとつずつでもデザインのあったそれは、ふたつ重ねることでまた違ったデザインになった。
何だかふたりの強い絆を表しているみたいだ。
「裕翔とみさきの分は今作ってもらっているからね」
それを教えてもらい、どんなものが私専用のタリスマンになるのか楽しみになる。
「……あいつが渡しに来るのか?」
「そうでしょうね」
眞澄くんは頭を抱えている。その人が苦手なのだろうか。
「来週末には出来上がるみたいだから」
「どんな人?」
「楽しい方ですよ」
隣でその会話を聞いていて、眞澄くんには申し訳ないけれど、どんな人なのかも楽しみになった。
日付が変わる2時間前、外の空気が何かおかしいと淳くん、眞澄くん、誠史郎さん、裕翔くんは様子を見に出て行った。
私は危ないからと、みやびちゃんとお留守番を言い渡された。
「みんな大丈夫かな……」
お風呂に入ってからベッドに仰向けで横になってひとりごちた。
みんなが貸してくれたタリスマンはサイドボードに並べてある。
「大丈夫だから、寝なさい」
いつの間にかみやびちゃんが部屋の中にいた。
「強い精神を保つために、睡眠は大切よ。みんなは多少寝なくても平気だけど、みさきは生身の人間なんだから」
「……そうだね。でも、何かあったらすぐに起こして欲しいんだけど……」
「わかったわ」
みやびちゃんが頷いてくれたので私は信用して眠ることにした。今から眠れば朝早く起きても平気だ。
みんなは少し疲れた様子で夜明け前に帰ってきた。私はみやびちゃんに起こしてもらうまでぐっすり眠っていた。
裕翔くん以外のみんなは仮眠を取ってから学校に行くそう。
裕翔くんはみんなが出発してから眠ると言って、何があったかを私に教えてくれた。
夢魔に取り憑かれていそうな人を見つけて退散させようとする度に、身体から夢魔がするりと抜けだしていったそうだ。
ふらふらしている夢魔のせいで、良くない空気を発している人も多かったらしい。
「インキュバスが力を蓄えようとしてた……?」
「うん。淳たちがそう言ってた」
ソファでうつ伏せになって裕翔くんは言った。眠そうに小さくあくびをしている。
「何のためかしら?」
「わからないけど、みさきは本当に気をつけて」
††††††††
「怖い顔をして、どうしたの?」
「あまり時間がないから手短に答えて。何をするつもり?」
「君との契約を全うするつもりだよ。そのために力を蓄えているだけ。今夜の様子で目星もついたしね」
美しすぎる微笑みは、彼女には胡散臭くしか見えなかった。
「安心して。あの子は少し傷つくかもしれないけれど」
インキュバスの瞳の奥で危険な光が閃く。
「あなたの探し物はもう少しで見つかるから」
私は淳くん、眞澄くんと一緒に先に家に帰った。自宅で誠史郎さんを待つ。私のせいだからとても心配だ。
数時間経って、ようやく誠史郎さんは家に帰ってきた。
「意識は回復しました。脳震盪を起こしていたようです」
私は誠史郎さんから視線を逸らして宙を漂わせる。眞澄くんはこちらを正視せずに、ぽんと私の肩を叩いた。
「親御さんがいらっしゃったので付き添いを交代しました。彼には私からしっかりと話をしておきましたから、今後みさきさんに手出しすることはないと思いますよ」
誠史郎さんは端整な口許ににっこりと微笑みを浮かべる。
「ありがとう、誠史郎」
淳くんが穏やかに誠史郎さんにお礼を言った横で、裕翔くんがつつつ、とこちらに移動して来た。
「ねえ」
私と眞澄くんに耳打ちする。
「何か恐ろしいことが起こった気がするんだけど」
「あのふたりは普段にこにこしてる分、敵に回したらヤバいんだよ」
眞澄くんも声を潜めて答える。
「インキュバスに身体を貸していましたが、魂を渡すなどの契約は交わしていなかったようです。あの悪魔も善良といいますか、何も考えていないと言いますか……」
誠史郎さんは小さく息を吐く。
「何も考えていない……」
淳くんの何か考えているような声が聞こえて、眞澄くんと裕翔くんがぎくりとした様子でそちらを見る。
だけど淳くんは形の良いあごに右手を添えて何かを思案していた。叱られると思っていたふたりは安堵して胸を撫で下ろす。
「あのインキュバスはどうしてみさきを知っていたんだろう?」
顔を上げて淳くんは誠史郎さんに問いかけた。
「どなたかに呼び出されたインキュバスで、その方はみさきさんに用があると考えるのが自然でしょうね」
誠史郎さんの言葉に裕翔くんが反応して素早くぴしっと真っ直ぐに右手を挙げる。
「オレを狙ってたハンターは?」
「アイツはそういうタイプじゃないだろ。魔物はあくまで倒すべき相手で、契約しようとは考えない。それに人間が悪魔を呼び出して契約するのはリスクも高すぎる」
人間が悪魔を呼び出し契約を交わすには何か代償が必要になる。大抵の悪魔は人間相手には魂を要求してくる。
それに先日透さんに会ったとき、私達に対して怒っている様子はなかった。
「私もそう思います。それに、彼がみさきさんに悪魔を差し向ける理由がありません」
「恨まれるようなことはしていないと思うんだけど……」
おずおずと私が口を開くと、淳くんが柔和に微笑んだ。
「そうだね。みさきが実戦に出たのは裕翔の時が初めてだし」
みんな腕を組んだり首を捻ったりするが何も思い浮かばない。しばらく沈黙が続いてしまう。
「とりあえず、明日からの対処を考えないと」
淳くんの言葉が静寂を破る。眞澄くんが頷いたわ。
「そうだな。行き帰りと家の中は俺たちの誰かがいるだろうから良いとして、授業時間はどうするか」
「オレが明日から学校に行くっていうのは?」
裕翔くんは楽しそうに目をキラキラさせる。
「残念ながら、裕翔くんは1年生のクラスに入ることになっています。同じクラスではないのですよ」
「そうなんだ。残念……」
誠史郎さんの返答に、裕翔くんはしょんぼりと肩を落とした。
「授業や休み時間はみさきひとりで頑張ってもらうしかないね。強力なタリスマンを多めに用意しよう」
「何か、ごめんね……。またみんなに迷惑をかけてしまって」
「お前が謝ることなんかないさ」
眞澄くんがぽんぽんと頭を撫でてくれた。
「そうだよ、みさき」
淳くんも優しく肩に手を置いて励ましてくれる。
「あー、ふたりともいいなー。オレも!」
裕翔くんは勢いよく腰のあたりに抱きついてきた。
「大丈夫だよ、みさき!」
屈託のない満面の笑みを見て、私もつられて笑ってしまう。
「みさきさんはそうして笑っていてください」
誠史郎さんがネックレスにしたタリスマンを私の首に掛けてくれる。いつも誠史郎さんがシャツの下に隠して身につけている大切なものだ。
「誠史郎さん、これは誠史郎さんの……」
「インキュバスの件が片付くまでお貸しするだけです。私はスペアを持っていますからご心配なく。周の力が込められていますから、みさきさんをしっかり護ると思いますよ」
「そうだね。僕のも渡しておくよ」
淳くんは右手の中指にしていた指環をするりと抜いて私の手を取る。
「親指でも大きいかな?」
くすっと小さく笑って、私の左手の親指に指環になっているタリスマンを嵌めてくれた。
眞澄くんも淳くんと同じく右手の中指にあった指環を私の左手親指に重ねてくれた。ひとつずつでもデザインのあったそれは、ふたつ重ねることでまた違ったデザインになった。
何だかふたりの強い絆を表しているみたいだ。
「裕翔とみさきの分は今作ってもらっているからね」
それを教えてもらい、どんなものが私専用のタリスマンになるのか楽しみになる。
「……あいつが渡しに来るのか?」
「そうでしょうね」
眞澄くんは頭を抱えている。その人が苦手なのだろうか。
「来週末には出来上がるみたいだから」
「どんな人?」
「楽しい方ですよ」
隣でその会話を聞いていて、眞澄くんには申し訳ないけれど、どんな人なのかも楽しみになった。
日付が変わる2時間前、外の空気が何かおかしいと淳くん、眞澄くん、誠史郎さん、裕翔くんは様子を見に出て行った。
私は危ないからと、みやびちゃんとお留守番を言い渡された。
「みんな大丈夫かな……」
お風呂に入ってからベッドに仰向けで横になってひとりごちた。
みんなが貸してくれたタリスマンはサイドボードに並べてある。
「大丈夫だから、寝なさい」
いつの間にかみやびちゃんが部屋の中にいた。
「強い精神を保つために、睡眠は大切よ。みんなは多少寝なくても平気だけど、みさきは生身の人間なんだから」
「……そうだね。でも、何かあったらすぐに起こして欲しいんだけど……」
「わかったわ」
みやびちゃんが頷いてくれたので私は信用して眠ることにした。今から眠れば朝早く起きても平気だ。
みんなは少し疲れた様子で夜明け前に帰ってきた。私はみやびちゃんに起こしてもらうまでぐっすり眠っていた。
裕翔くん以外のみんなは仮眠を取ってから学校に行くそう。
裕翔くんはみんなが出発してから眠ると言って、何があったかを私に教えてくれた。
夢魔に取り憑かれていそうな人を見つけて退散させようとする度に、身体から夢魔がするりと抜けだしていったそうだ。
ふらふらしている夢魔のせいで、良くない空気を発している人も多かったらしい。
「インキュバスが力を蓄えようとしてた……?」
「うん。淳たちがそう言ってた」
ソファでうつ伏せになって裕翔くんは言った。眠そうに小さくあくびをしている。
「何のためかしら?」
「わからないけど、みさきは本当に気をつけて」
††††††††
「怖い顔をして、どうしたの?」
「あまり時間がないから手短に答えて。何をするつもり?」
「君との契約を全うするつもりだよ。そのために力を蓄えているだけ。今夜の様子で目星もついたしね」
美しすぎる微笑みは、彼女には胡散臭くしか見えなかった。
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