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2章
守ってくれるひと 1
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「実梨、大丈夫か?」
係長がこちらに振り返った。私の肩に手を置いて顔を覗き込んでくる。
心配してくれている表情と声音に緊張が緩んだ。
「ありがとうございます」
「少し遅くなるが、課長に報告してから移動しよう」
梅原係長の言葉にうなずく。私たちは一度社内に戻った。
原田課長は帰り支度をしているところだった。
「あら、血相変えてどうしたの?」
「原田課長、ご報告しておきたいことがあります。今しがた池澤様がお見えになり、是枝さんにこのようなことを言い捨ててお帰りになりました」
そう言って係長はスマホをスラックスのポケットから取り出した。
そして先ほどの会話の音声を再生する。いつの間に録音していたのだろう。手際の良さに驚いてしまう。
「……これは穏やかではないわね」
普段は飄々としている原田課長の双眸が鋭く細められる。
梅原係長は静かにうなずいた。二人の固い表情に、私はとんでもないことに巻き込まれていると実感する。
「だけど、これだけじゃ警察に届けるにはまだ弱いかもしれないわ」
「俺ができる限り是枝さんの身を守ります」
「できるの?」
「やります」
奏の声は、瞳は、どこまでも真っ直ぐで。
それどころではないと頭ではわかっているのに、心臓が高鳴る。
多分、部下を守る以上の気持ちを持ってくれている。素直に嬉しい。
「是枝さん、この件は上にも報告しておきます。何もしてあげられなくて申し訳ないけれど、できるだけ一人にならないで。少しでも身の危険を感じたら、すぐに誰かに助けを求めるか、警察に駆け込みなさい。何かあってからでは遅いから」
「はい」
おネエ感の薄くなった原田課長を前に姿勢を正す。
「梅原も、無理しないのよ」
「はい」
「大体、アナタ殴り合いのケンカとかしたことあるの?」
「…………」
係長の無言で無表情なところが全てを物語っていた。
❁❁❁❁❁❁❁❁
ご飯を食べる店の予約をしていなくて今日は良かった。
もしも池澤さんがまだ会社の周辺をうろついていて、あとを付けられたりしたら嫌だった。
「今日は俺の家で食べよう」
奏がそう言ってくれて、二人で彼の部屋の近くのスーパーに寄った。お互いに食べたいもの、飲みたいものをカゴに入れていく。
奏の入れた、握り寿司の詰め合わせが目に止まった。
「お寿司、好き?」
「ああ。カレーや焼き肉も好きだ」
ラインナップが男の子っぽくて半ば感動する。変におしゃれな食べ物を言わないところも好感度がまた上がった。
「うちの近くに美味しい回転寿司屋さんがあるんだ。今度、一緒に行こう」
「ぜひ行きたい」
嬉しそうに笑った奏の顔は、普段のクールな印象と全然違って、またキュンとなる。
本当に私はチョロいなと思いながらも、どんどん奏のことが好きになるのを止められそうになかった。
係長がこちらに振り返った。私の肩に手を置いて顔を覗き込んでくる。
心配してくれている表情と声音に緊張が緩んだ。
「ありがとうございます」
「少し遅くなるが、課長に報告してから移動しよう」
梅原係長の言葉にうなずく。私たちは一度社内に戻った。
原田課長は帰り支度をしているところだった。
「あら、血相変えてどうしたの?」
「原田課長、ご報告しておきたいことがあります。今しがた池澤様がお見えになり、是枝さんにこのようなことを言い捨ててお帰りになりました」
そう言って係長はスマホをスラックスのポケットから取り出した。
そして先ほどの会話の音声を再生する。いつの間に録音していたのだろう。手際の良さに驚いてしまう。
「……これは穏やかではないわね」
普段は飄々としている原田課長の双眸が鋭く細められる。
梅原係長は静かにうなずいた。二人の固い表情に、私はとんでもないことに巻き込まれていると実感する。
「だけど、これだけじゃ警察に届けるにはまだ弱いかもしれないわ」
「俺ができる限り是枝さんの身を守ります」
「できるの?」
「やります」
奏の声は、瞳は、どこまでも真っ直ぐで。
それどころではないと頭ではわかっているのに、心臓が高鳴る。
多分、部下を守る以上の気持ちを持ってくれている。素直に嬉しい。
「是枝さん、この件は上にも報告しておきます。何もしてあげられなくて申し訳ないけれど、できるだけ一人にならないで。少しでも身の危険を感じたら、すぐに誰かに助けを求めるか、警察に駆け込みなさい。何かあってからでは遅いから」
「はい」
おネエ感の薄くなった原田課長を前に姿勢を正す。
「梅原も、無理しないのよ」
「はい」
「大体、アナタ殴り合いのケンカとかしたことあるの?」
「…………」
係長の無言で無表情なところが全てを物語っていた。
❁❁❁❁❁❁❁❁
ご飯を食べる店の予約をしていなくて今日は良かった。
もしも池澤さんがまだ会社の周辺をうろついていて、あとを付けられたりしたら嫌だった。
「今日は俺の家で食べよう」
奏がそう言ってくれて、二人で彼の部屋の近くのスーパーに寄った。お互いに食べたいもの、飲みたいものをカゴに入れていく。
奏の入れた、握り寿司の詰め合わせが目に止まった。
「お寿司、好き?」
「ああ。カレーや焼き肉も好きだ」
ラインナップが男の子っぽくて半ば感動する。変におしゃれな食べ物を言わないところも好感度がまた上がった。
「うちの近くに美味しい回転寿司屋さんがあるんだ。今度、一緒に行こう」
「ぜひ行きたい」
嬉しそうに笑った奏の顔は、普段のクールな印象と全然違って、またキュンとなる。
本当に私はチョロいなと思いながらも、どんどん奏のことが好きになるのを止められそうになかった。
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