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2章
温度差 2
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「母さんの言うことを聞いていれば間違いないのに、亜沙美はどうしてわかってくれないんでしょうね?」
お客様に申し訳ないけれど、得体の知れない恐怖でぞわぞわした。
「さ、左様ですか……」
自分でも的はずれな返答をしている自覚はあった。だけど頭が真っ白になって言葉が思い浮かばない。
それから池澤さんの気が済むまで、いかに彼のお母さんが優れていて素晴らしいかを聞かされた。
池澤さんの昼休みが終わるとのことで解放されたけれど、どっと疲れた。
会社の方針で自動録音しているけれど、聞き返したくない。
「ご飯行ってきます……」
「是枝さん、大丈夫か?」
お昼休憩を終えて戻って来た梅原係長は私の顔を見て驚いていた。
坂本さんや同期の稲垣祥太さん、東雲さんもあっけに取られている。
相当ヒドい顔をしているみたいだ。
「後でお話させてください……」
とりあえず、お腹が空いて力が出ないので何か食べようと思う。
げんなりしながら、身体を引きずるように近くのカフェへお昼ごはんを食べに出かけた。
❁❁❁❁❁❁❁❁
スマホをチェックしたら凛空の新シナリオが近日実装と言うお知らせが来ていた。それだけで天まで昇るくらい幸せな気持ちになった。
口元の緩みが止まらない。今なら何でもできる気がする。
奏、ごめんなさい。これは浮気ではないのです。別次元の話なのです。
「大丈夫?」
坂本さんが困惑している表情で私を見る。
「大丈夫です」
ニヤニヤしていたのを、無理をしていると思われているのかもしれない。
キリッと顔を引き締めて坂本さんに告げる。
仕事で折れているわけにはいかない。凛空の新シナリオが私を待っている。
「是枝さん、会議室へ」
梅原係長には有無を言わさぬ何かがあった。言われた通り、スラリとしたスーツの背中を追って会議室へ移動する。
「お昼に電話対応していたみたいだけど、あれは」
「大貫さんと池澤さん、それぞれからお電話がありました。池澤さんのお母様の件で溝が埋まらないみたいです。私も何もアドバイスができなくて」
「こちらへの値下げ要求はなかったか?」
そう言えば言われなかった。二人ともまだ理性が働いているのかもしれない。
「ありません」
「そうか……」
係長は形の良いあごに手を当てて思案しているようだ。
「何度も言うが、冷たいようだが感情でどちらかに肩入れしたり、深入りしないように。余計にこじれる」
「はい」
「少しでも違和感のあることがあれば、すぐに報告してくれ」
深くうなずいてお互い業務に戻る。
就業時間中に池澤さんから何通かメールが届いた。確認すると多少文言は違うものの、お母さんの言うことは間違いないから、私に大貫さんを説得しろと書かれていた。
遠回しにそれはできない。お二人で話し合ってください。私にできることはあくまでお手伝いで、お二人にとって最高の結婚式にしましょうと返した。
丸く収まってくれれば良いのだけど。この様子では難しい。
お客様に申し訳ないけれど、得体の知れない恐怖でぞわぞわした。
「さ、左様ですか……」
自分でも的はずれな返答をしている自覚はあった。だけど頭が真っ白になって言葉が思い浮かばない。
それから池澤さんの気が済むまで、いかに彼のお母さんが優れていて素晴らしいかを聞かされた。
池澤さんの昼休みが終わるとのことで解放されたけれど、どっと疲れた。
会社の方針で自動録音しているけれど、聞き返したくない。
「ご飯行ってきます……」
「是枝さん、大丈夫か?」
お昼休憩を終えて戻って来た梅原係長は私の顔を見て驚いていた。
坂本さんや同期の稲垣祥太さん、東雲さんもあっけに取られている。
相当ヒドい顔をしているみたいだ。
「後でお話させてください……」
とりあえず、お腹が空いて力が出ないので何か食べようと思う。
げんなりしながら、身体を引きずるように近くのカフェへお昼ごはんを食べに出かけた。
❁❁❁❁❁❁❁❁
スマホをチェックしたら凛空の新シナリオが近日実装と言うお知らせが来ていた。それだけで天まで昇るくらい幸せな気持ちになった。
口元の緩みが止まらない。今なら何でもできる気がする。
奏、ごめんなさい。これは浮気ではないのです。別次元の話なのです。
「大丈夫?」
坂本さんが困惑している表情で私を見る。
「大丈夫です」
ニヤニヤしていたのを、無理をしていると思われているのかもしれない。
キリッと顔を引き締めて坂本さんに告げる。
仕事で折れているわけにはいかない。凛空の新シナリオが私を待っている。
「是枝さん、会議室へ」
梅原係長には有無を言わさぬ何かがあった。言われた通り、スラリとしたスーツの背中を追って会議室へ移動する。
「お昼に電話対応していたみたいだけど、あれは」
「大貫さんと池澤さん、それぞれからお電話がありました。池澤さんのお母様の件で溝が埋まらないみたいです。私も何もアドバイスができなくて」
「こちらへの値下げ要求はなかったか?」
そう言えば言われなかった。二人ともまだ理性が働いているのかもしれない。
「ありません」
「そうか……」
係長は形の良いあごに手を当てて思案しているようだ。
「何度も言うが、冷たいようだが感情でどちらかに肩入れしたり、深入りしないように。余計にこじれる」
「はい」
「少しでも違和感のあることがあれば、すぐに報告してくれ」
深くうなずいてお互い業務に戻る。
就業時間中に池澤さんから何通かメールが届いた。確認すると多少文言は違うものの、お母さんの言うことは間違いないから、私に大貫さんを説得しろと書かれていた。
遠回しにそれはできない。お二人で話し合ってください。私にできることはあくまでお手伝いで、お二人にとって最高の結婚式にしましょうと返した。
丸く収まってくれれば良いのだけど。この様子では難しい。
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