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最終章 決別と未来
8-7
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「ママ……」
そのうち、響希が起きてきた。
「おはよう」
まだ眠いのか、私に抱きつきぽすっと胸に頭を預ける。
「パパは……?」
「まだ帰ってきてないよ」
「うーっ」
それで機嫌が悪くなっていくのは、響希がパパ大好きっ子だからだ。
というかうちは海星が子供たちを甘やかせるから、ふたりとも私より海星が好きなんだよね。
ちょっと妬けちゃう。
「んー。
じゃあ、パパを迎えに行こうか」
「ほんと?」
ぱっと顔を上げた響希はもう、上機嫌になっていた。
本当にチョロくて助かる。
今から準備してタクシー呼べば、ちょうど終わる時間だと思うんだよね。
ちなみに海星は絶対に定時で帰るし、よっぽどのことがなければ飲み会にも行かない。
そんな時間があれば子供のために使うと、一貫している。
星哉も目を覚ましたので準備をし、呼んであったタクシーで家を出る。
海星に連絡を入れようかと思ったが、やめておいた。
いきなり行って驚かせたいもんね。
海星の会社はオフィスビルに入っているので、ロビーで待たせてもらう。
「響希ちゃん、パパを迎えに来たの?」
「うん!」
ガードマンのおじさんに話しかけられて、にっこにこで響希が答える。
しょっちゅうこうやって迎えに来ているので、もうすっかりなじみになっていた。
……のはいいが、響希は誰に似たのか誰にでも愛嬌を振りまくので、変な人間に目をつけられないかちょっと不安だ。
「パパーッ!」
そのうち、エレベーターから降りてきた海星を見つけ、響希が駆け寄る。
「響希!
ちょっと待ってって!」
慌てて追いかけるが、意外と追いつかない。
私が響希を捕まえるよりも早く、響希は海星に抱きついた。
「今日も迎えに来てくれたのか?」
「うん!」
響希が満面の笑みなのはもちろん、海星の顔もデレデレに崩れている。
「ぱー!」
「はいはい、星哉もありがとうな」
私の腕の中で僕もいるんだよと星哉が声を上げ、海星は響希を抱いて立ち上がった。
「食事して帰るだろ?」
「そうですね」
ビルを出る私たちをみんな、微笑ましそうに見ている。
ここではもう、当たり前の光景なのだ。
響希のリクエストで、お気に入りの洋食店へ徒歩で向かう。
響希はそこの、オムライスが大好きなのだ。
「今は中国企業だと思うと不思議ですね」
途中、見えたマグネイトエステートの広告看板を見上げる。
不正の批判を浴び、社長は退陣。
その後、まったく関係ない外部の人間なりに社長の座を譲ればよかったのだが、なにを思ったのか一士さんを任命した。
おかげでさらなるバッシングを受け、信用を完全に失う。
最終的に中国企業に買われたとなれば笑えない。
「近々、買い戻す……って言い方も変だが、買い戻そうと思ってるんだ」
「え?」
思いがけない告白に、ついその顔を見上げていた。
「やっぱりこの会社の社長になりたかったとかじゃない。
マグネイトエステートの名を背負って、好き勝手やってる奴らが許せないんだ」
会社を買った中国企業は、違法すれすれのことをやっているとSNSでは度々話題になっている。
海星はそれが、許せないのだろう。
「なんだかんだいっても、この会社に愛着があったんだな」
自嘲するように海星が笑う。
でも。
「いいと思いますよ、そうやって昔の海星に大事なものがあったのは」
私と出会う前の海星はなにも持っていないように感じていた。
しかしその人生の中で大事なものがひとつでもあったのなら、それだけ彼は少しでも幸せだったんじゃないだろうか。
「会社を取り戻しましょう。
それで前よりずっといい会社にして、お客様も社員も笑顔に溢れる会社にしましょう。
私も手伝います」
「頼もしいな」
足を止めた海星がこちらを向く。
なにをするのかと思ったら、ちゅっと唇が重なった。
「あー!
パパー!」
響希が騒ぎ出し、一気に顔が熱くなる。
「なんだ、響希もちゅーしてほしいのか」
「きゃーっ!」
海星が響希にキスし、歓声が上がる。
再び歩き出し、そっと握られた隣りあう手は幸せそうに揺れていた。
【終】
そのうち、響希が起きてきた。
「おはよう」
まだ眠いのか、私に抱きつきぽすっと胸に頭を預ける。
「パパは……?」
「まだ帰ってきてないよ」
「うーっ」
それで機嫌が悪くなっていくのは、響希がパパ大好きっ子だからだ。
というかうちは海星が子供たちを甘やかせるから、ふたりとも私より海星が好きなんだよね。
ちょっと妬けちゃう。
「んー。
じゃあ、パパを迎えに行こうか」
「ほんと?」
ぱっと顔を上げた響希はもう、上機嫌になっていた。
本当にチョロくて助かる。
今から準備してタクシー呼べば、ちょうど終わる時間だと思うんだよね。
ちなみに海星は絶対に定時で帰るし、よっぽどのことがなければ飲み会にも行かない。
そんな時間があれば子供のために使うと、一貫している。
星哉も目を覚ましたので準備をし、呼んであったタクシーで家を出る。
海星に連絡を入れようかと思ったが、やめておいた。
いきなり行って驚かせたいもんね。
海星の会社はオフィスビルに入っているので、ロビーで待たせてもらう。
「響希ちゃん、パパを迎えに来たの?」
「うん!」
ガードマンのおじさんに話しかけられて、にっこにこで響希が答える。
しょっちゅうこうやって迎えに来ているので、もうすっかりなじみになっていた。
……のはいいが、響希は誰に似たのか誰にでも愛嬌を振りまくので、変な人間に目をつけられないかちょっと不安だ。
「パパーッ!」
そのうち、エレベーターから降りてきた海星を見つけ、響希が駆け寄る。
「響希!
ちょっと待ってって!」
慌てて追いかけるが、意外と追いつかない。
私が響希を捕まえるよりも早く、響希は海星に抱きついた。
「今日も迎えに来てくれたのか?」
「うん!」
響希が満面の笑みなのはもちろん、海星の顔もデレデレに崩れている。
「ぱー!」
「はいはい、星哉もありがとうな」
私の腕の中で僕もいるんだよと星哉が声を上げ、海星は響希を抱いて立ち上がった。
「食事して帰るだろ?」
「そうですね」
ビルを出る私たちをみんな、微笑ましそうに見ている。
ここではもう、当たり前の光景なのだ。
響希のリクエストで、お気に入りの洋食店へ徒歩で向かう。
響希はそこの、オムライスが大好きなのだ。
「今は中国企業だと思うと不思議ですね」
途中、見えたマグネイトエステートの広告看板を見上げる。
不正の批判を浴び、社長は退陣。
その後、まったく関係ない外部の人間なりに社長の座を譲ればよかったのだが、なにを思ったのか一士さんを任命した。
おかげでさらなるバッシングを受け、信用を完全に失う。
最終的に中国企業に買われたとなれば笑えない。
「近々、買い戻す……って言い方も変だが、買い戻そうと思ってるんだ」
「え?」
思いがけない告白に、ついその顔を見上げていた。
「やっぱりこの会社の社長になりたかったとかじゃない。
マグネイトエステートの名を背負って、好き勝手やってる奴らが許せないんだ」
会社を買った中国企業は、違法すれすれのことをやっているとSNSでは度々話題になっている。
海星はそれが、許せないのだろう。
「なんだかんだいっても、この会社に愛着があったんだな」
自嘲するように海星が笑う。
でも。
「いいと思いますよ、そうやって昔の海星に大事なものがあったのは」
私と出会う前の海星はなにも持っていないように感じていた。
しかしその人生の中で大事なものがひとつでもあったのなら、それだけ彼は少しでも幸せだったんじゃないだろうか。
「会社を取り戻しましょう。
それで前よりずっといい会社にして、お客様も社員も笑顔に溢れる会社にしましょう。
私も手伝います」
「頼もしいな」
足を止めた海星がこちらを向く。
なにをするのかと思ったら、ちゅっと唇が重なった。
「あー!
パパー!」
響希が騒ぎ出し、一気に顔が熱くなる。
「なんだ、響希もちゅーしてほしいのか」
「きゃーっ!」
海星が響希にキスし、歓声が上がる。
再び歩き出し、そっと握られた隣りあう手は幸せそうに揺れていた。
【終】
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