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最終章 決別と未来
8-2
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「いこう、花音」
今度こそ、海星と一緒に車へ向かう。
彼がロックを解除するタイミングで我に返った社長と一士本部長が追いついてきた。
「海星!
キサマ、どういうつもりだ!?」
社長が海星の胸ぐらを掴む。
海星はそれを、冷たく見下ろした。
「どういうつもりも、先ほど言ったとおりですが」
「兄弟仲良く揃って会社を盛り上げていかなくてどうする!?」
仲良くなんてどの口が言っているのだろう。
海星をあんなに酷い扱いしておいて。
「そうだぞ!
兄は弟を助けるのが当たり前だろ!」
いまさら家族面をしてくる彼らに反吐が出る。
しかもそうやってご機嫌を取っているつもりなんだろうが、本音が透けて見えて気持ち悪い。
「はぁっ。
やめてもらえますか」
短くため息をつき、海星が社長の手を払いのける。
「今まで私はあなたたちに尊厳を踏みにじられ、酷い扱いを受けてきました。
もうこれ以上、あなたたちのいいようにされるのはごめんです」
「なんだと!」
再び社長が海星の胸ぐらを掴んだ。
「育ててやった恩を忘れよって!」
「忘れた?
先ほど、感謝して差し上げましたのに?」
薄らと彼が笑う。
見下すそれは触れるだけで切れる日本刀のようで、社長と一士本部長の喉仏が緊張からかごくりと動いた。
「とにかく。
今後一切、あなたたちとは関わり合いにはなりたくありません。
会社は引き継ぎ等がありますので今しばらく籍は置きますが、それが終われば完全に縁を切ります。
では」
海星に押し退けるように振り払われ、社長が尻餅をつく。
目で車に乗るように言われ、シートに座ってシートベルトを締めた。
無言で海星が車を出す。
「かいせーい!」
すぐに社長と一士本部長の怒号が追ってきた。
黙ったまま海星は車を走らせる。
彼がなにを考えているのかわからなくて、じっと自分の手を見つめた。
来た道と反対方向へ走り、山を下りて街に入る。
少しして見えてきた大きめのホテルに彼は車を入れた。
チェックインを済ませ、彼は私の手を掴んで進んでいく。
部屋の中に入った途端、抱き締められた。
「ごめん」
短い彼の声は、深い後悔で染まっていた。
「なんで海星が謝るんですか?
悪いのは私です。
海星を……海星を社長にしてあげられなかった」
声は次第に湿ったものへと変わっていくが、私には泣く資格なんてない。
軽く鼻を啜って耐える。
あんなに海星が愛してくれたのに、どうして私は先月、妊娠できなかったのだろう。
食べ物が悪かった?
それとも生活?
どんなに後悔しようと、私が一士本部長の奥様より早く妊娠できなかった事実は変わらない。
「ごめんなさい、ごめんなさい。
私が早く、妊娠できなかったから。
私が妊娠できなかったから、海星を社長にしてあげられなかった」
口からは謝罪の言葉しか出てこない。
それ以外、なにも言えなかった。
「ごめんなさい、ごめんなさい。
役立たずな私でごめんなさい」
「花音……」
ひたすら謝罪し続ける私を海星がぎゅっと強く抱き締める。
「いいんだ。
言っただろ?
どうしても社長になりたいわけじゃない、って」
「でも、でも……!」
「花音は悪くない。
悪くないんだ」
私の謝罪をやめさせようと、ますます海星の腕に力が入った。
今度こそ、海星と一緒に車へ向かう。
彼がロックを解除するタイミングで我に返った社長と一士本部長が追いついてきた。
「海星!
キサマ、どういうつもりだ!?」
社長が海星の胸ぐらを掴む。
海星はそれを、冷たく見下ろした。
「どういうつもりも、先ほど言ったとおりですが」
「兄弟仲良く揃って会社を盛り上げていかなくてどうする!?」
仲良くなんてどの口が言っているのだろう。
海星をあんなに酷い扱いしておいて。
「そうだぞ!
兄は弟を助けるのが当たり前だろ!」
いまさら家族面をしてくる彼らに反吐が出る。
しかもそうやってご機嫌を取っているつもりなんだろうが、本音が透けて見えて気持ち悪い。
「はぁっ。
やめてもらえますか」
短くため息をつき、海星が社長の手を払いのける。
「今まで私はあなたたちに尊厳を踏みにじられ、酷い扱いを受けてきました。
もうこれ以上、あなたたちのいいようにされるのはごめんです」
「なんだと!」
再び社長が海星の胸ぐらを掴んだ。
「育ててやった恩を忘れよって!」
「忘れた?
先ほど、感謝して差し上げましたのに?」
薄らと彼が笑う。
見下すそれは触れるだけで切れる日本刀のようで、社長と一士本部長の喉仏が緊張からかごくりと動いた。
「とにかく。
今後一切、あなたたちとは関わり合いにはなりたくありません。
会社は引き継ぎ等がありますので今しばらく籍は置きますが、それが終われば完全に縁を切ります。
では」
海星に押し退けるように振り払われ、社長が尻餅をつく。
目で車に乗るように言われ、シートに座ってシートベルトを締めた。
無言で海星が車を出す。
「かいせーい!」
すぐに社長と一士本部長の怒号が追ってきた。
黙ったまま海星は車を走らせる。
彼がなにを考えているのかわからなくて、じっと自分の手を見つめた。
来た道と反対方向へ走り、山を下りて街に入る。
少しして見えてきた大きめのホテルに彼は車を入れた。
チェックインを済ませ、彼は私の手を掴んで進んでいく。
部屋の中に入った途端、抱き締められた。
「ごめん」
短い彼の声は、深い後悔で染まっていた。
「なんで海星が謝るんですか?
悪いのは私です。
海星を……海星を社長にしてあげられなかった」
声は次第に湿ったものへと変わっていくが、私には泣く資格なんてない。
軽く鼻を啜って耐える。
あんなに海星が愛してくれたのに、どうして私は先月、妊娠できなかったのだろう。
食べ物が悪かった?
それとも生活?
どんなに後悔しようと、私が一士本部長の奥様より早く妊娠できなかった事実は変わらない。
「ごめんなさい、ごめんなさい。
私が早く、妊娠できなかったから。
私が妊娠できなかったから、海星を社長にしてあげられなかった」
口からは謝罪の言葉しか出てこない。
それ以外、なにも言えなかった。
「ごめんなさい、ごめんなさい。
役立たずな私でごめんなさい」
「花音……」
ひたすら謝罪し続ける私を海星がぎゅっと強く抱き締める。
「いいんだ。
言っただろ?
どうしても社長になりたいわけじゃない、って」
「でも、でも……!」
「花音は悪くない。
悪くないんだ」
私の謝罪をやめさせようと、ますます海星の腕に力が入った。
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