孕むまでオマエを離さない~孤独な御曹司の執着愛~

霧内杳/眼鏡のさきっぽ

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第七章 嫉妬と愛と

7-6

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私は思いがけず休みになったのでいいが、海星はのんびり食後のコーヒーを傾けていて気になった。

「あのー、海星……?」

「俺も今日は休みにした。
会議も接待も入ってなかったからな。
それに憲司のところにも寄らないといけないし」

「砺波さんのところに……?」

どうして彼の名前が出てくるのかわからなくて、首が斜めに傾く。

「昨日の件は花音に対する性犯罪と名誉毀損で訴える」

海星さんは本気だ。
きっとそれくらいしないと彼の気が済まないのはわかっているし、なら私も反対しない。
しかし、気にかかることがあるのだ。

「昨日のあれ、右田課長は本気だったんでしょうか……?」

今にして思えばキスされる直前、ごめんと謝られた気がする。
私を海星から奪うつもりなら、そんな必要はない。
それに思い出せば思い出すほど、昨晩の右田課長はらしくなさすぎた。
一晩経って頭も冷えると、あれは演技だったんじゃないかと思えてくる。
でも、なんで?
彼なら海星と揉めるのはわかっていたはず。
なのにそんな危険を冒してまで、あんなことをする必要があったんだろうか。

「そう……だな」

少しのあいだ考えていた海星もおかしいと気づいたらしく、顔を上げた。

「普段の右田課長なら人を貶めてまで自分の我を通そうとなどしない」

同意だと勢いよく頷く。

「なにかありそうだな。
調べておく」

海星がそう言ってくれてほっとした。

「時間ができたし観光でもして帰るか」

海星は早速、携帯片手に観光地を調べている。
結局、訴える話は保留になった。
事情があってもキスしてきたのは許せないが、それでも訳を聞いてから決めたい。

「近くにアウトレットモールがあるな。
買い物でもするか」

「あ、いや、買い物はいいんじゃないですかね……?」

やんわりと海星の申し出を断る。
初めて海星に百貨店に連れていかれた日、山ほど服を買ってくれたうえに、ときどきなんだかんだいって外商の影山さんに服を持ってこさせては全部お買い上げするのだ。
おかげでレジデンスのウォークインクローゼットはかなり広いのにパンクしそうになっていた。

「いや。
昨日のお詫びになにか買ってやりたいからな。
アウトレットモールで決まりだ」

携帯をポケットにしまい、海星が身支度をしだす。

「うん……はい……わかりました……」

またきっと、とんでもない量を買うんだろうなと、私が遠い目をしたのは言うまでもない。



海星が気の済むまで買い物をし、車のトランクをパンパンにしてアウトレットモールを出る。

「ふふっ」

ふと胸もとに目を落としては、嬉しくてつい笑ってしまう。

「満足してもらえたみたいでよかった」

「あっ、はい!」

くすりとおかしそうに小さく笑われ、焦って返事をする。
私の胸もとには海星が買ってくれた、ペンダントが下がっていた。
お詫びなどいいと断ったが、見るくらいいいだろと入ったアクセサリーショップで紐を結んだようなデザインのものが気に入ったのだ。
でも、悪いしと一度は店を出たもののどうしても忘れられず、結局買ってもらった。

「ありがとうございます、海星」

「いや。
俺は花音の喜ぶことならなんでもしたいだけだ」

下がってもいない眼鏡を海星が上げる。
でも、弦のかかる耳が真っ赤になっていた。

レジデンスに帰り着いた途端、見ていたかのタイミングで海星の携帯が鳴った。

「父からだ」

画面を見て彼は嫌そうな顔をしたあと、電話に出た。

「はい、海星です。
……はい……はい」

話している彼を、不安な気持ちで見つめる。

「わかりました。
じゃあ、土曜日に」

通話を終えた彼は当たりを真っ黒に染めそうなほど、憂鬱なため息をついた。

「話があるから実家に来いってさ」

本当に海星は嫌そうだが、そうなるだろう。

「なんですかね、話って」

「まあ、だいたい見当はつくけどな」

困ったように彼が小さく笑う。
……あ。
そうか。
海星が実家に呼び出されるなんて、あの話しかない。

そっと自分の下腹部を撫でる。
けれどまだ、私にはなんの兆候もなかった。
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