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第七章 嫉妬と愛と

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目を開けたら海星の顔が見えた。

「おはよう」

緩く笑い、彼が口付けしてくる。

「……おはようございます」

私から出た声は酷くかすっかすでおかしくなった。
昨晩、喉が嗄れるほど喘がされればそうなる。

「昨日はごめんな、あんな酷いこと。
身体、つらくないか」

心配そうに彼の眉間に深い皺が寄った。

「あ、いえ。
大丈夫、なので」

曖昧に笑ってそれに答える。
正直に言えば身体がつらい。
しかし、仕事を休むわけにもいかないし、海星を心配させたくない。

「本当か?
かなり無理、させたし……」

項垂れて海星はかなり落ち込んでいる。
そうやって優しいから、好きなんだよね。

「全然大丈夫ですよ」

証明するように明るく笑い、私から彼にちゅっとキスをする。
途端に彼の顔が輝いていった。

「それに。
嬉しかった……とか言ったら、引きますか?」

まるで自分は変わった性癖だと披露しているようで顔が熱い。
けれどこれは、伝えたかった。

「あんなにつらい思いをさせられたのに?」

海星は完全に困惑しているが、まあそうだよね。

「こんなに怒り狂うほど海星が嫉妬してくれているんだ、……と思って」

「あー……」

長く発し、彼は宙を見ている。

「だから嫉妬をぶつけられて滅茶苦茶にされるのが嬉しかったんですが……変、ですか?」

おそるおそる上目遣いで彼をうかがう。
これで変な人だと思われたら、そのときはそのときだ。
それに海星はそれくらいで私を嫌いになったりしないと思うし。

「なんで花音はそうやって、俺を煽るようなこと言うの?」

「へ?」

なんか嫌な予感がするけれど、スルーしてもいいですか?

「でも、昨日は本当に無理をさせたし。
まだ声も掠れてるからな。
我慢する」

目尻を下げて小さくふふっと笑い、彼は私にちゅっとキスした。

「シャワー浴びてこい?
そのままじゃ気持ち悪いだろ」

「そうですね……」

いつもどおり海星が身体を拭いてくれているとはいえ、昨晩は髪も洗っていないしシャワーは浴びたい。

「海星はいいんですか?」

「俺?
俺は昨日、浴びた。
花音の荷物も回収してきてる」

彼が親指で指した先には私のキャリーケースが置いてあった。
私は意識を飛ばすほどだったのに、あれからそれだけ動いているなんて海星はどれだけ体力があるんだろう?

「じゃあ、お言葉に甘えて」

渡されたバスローブを羽織り、浴室へ向かう。

「うわっ」

鏡に映った私の身体には、いつも以上にキスマークがついていた。

「やりすぎ」

とか言いつつも、これが海星の愛だと思うと嬉しくなる。

浴室から出たら、朝食の準備が調っていた。

「洋食にしたがよかったか?」

「はい」

促されて海星と向かいあって座る。
私がシャワーを浴びているあいだにルームサービスを取ってくれるなんて、気が利く。

ホテルの美味しい朝食を食べながら昨晩の出来事が気にかかってくる。
右田課長はすでに私が海星と一緒で、自分と帰るつもりはないとわかっていそうだが、それでも連絡しないでもいいんだろうか。

「右田課長に海星と一緒にいるって連絡入れないとですね。
心配しているかもしれません」

「もう俺が連絡入れてある。
俺が連れて帰るとも言ってあるし、この件が解決するまでは出社させないとも言ってある」

「……へ?」

思わず、変な声が出た。
海星が連れて帰ってくれるのはいいが、出社させないって?

「なんだ、不満か」

「……まあ」

じろっと眼鏡の奥から睨まれ、肯定しながらも決まり悪くクロワッサンを揉んで破壊する。
おかげでテーブルの上はパン屑だらけになった。

「同意なしでキスしてきたんだぞ?
立派なセクハラで性犯罪だ。
花音じゃなくても処分が決まって安心して出社できるようになるまで、有給扱いで休んでもらうに決まってるだろ」

特別扱いされているのかと思った。
けれどそれは海星を侮っていたんだな。

「海星って凄いです」

「普通だろ」

当たり前って顔で彼はオレンジジュースを飲んでいる。
それにううんと首を振った。

「その普通ができるのが凄いです」

ここまでできる上司ってそうそういないだろう。
なのにそれを〝普通〟と言って当たり前のようにやる。
本当に尊敬できる人で、こんな人が私の旦那様で誇らしい。

「そうか?
まあ、今度、花音がアイツになんかされたら冷静でいられる自信がないからな。
俺が犯罪者にならないためでもある」

今、さらっと物騒なことを言われた気がするが、スルーしておこう。
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