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第六章 身籠もり旅行

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「……ん」

寝返りを打ったら、なにかが身体に当たった。
目を開けたら海星が密着している。

「おはよう」

「……おはよう、ございます」

まだはっきりしない頭でさらに彼に身体を寄せた。

「まだ眠いのか?」

こくりと頷き、また目を閉じる。

「もうすぐ朝食の時間だけどな」

「……朝ごはん、いらない……眠い……」

もうすでに、意識は再びとろとろと溶け始めていた。

「わかった、断っておく」

布団を出ていこうとした彼の腕を掴む。

「いっちゃ、ダメ……」

「わかった、わかった」

私の頭を軽くぽんぽんし、彼は私を抱き寄せた。
それで満足して、また眠りに落ちた。



「……旅館の朝ごはん、楽しみだったのに」

目の前に座る海星を、上目遣いでジトッと睨む。

「いらないって言ったのは花音だろ」

「うっ」

そう言われると反論できない。
そういえば、言ったような気もする。
あれから予定の時間に間に合わなくなると海星に起こされた。
昨晩、汚れた身体を温泉でさっぱりさせ、ブランチで近くにあるカフェに連れてきてもらっていた。

「でもですね、海星が昨晩、寝かせてくれなかったせいじゃないですか」

それでも果敢に、反撃を試みる。

「……海星」

噛みしめるように自分の名を言い、彼は溢れ出る喜びを堪えるように唇をむにむにと動かした。

「やっと花音が呼び捨てしてくれた」

「あー、えっと」

そんなに嬉しそうに言われると恥ずかしくなるのでやめてもらいたい。

「今日はほどほどにして、明日はちゃんと起きれるようにしてやるからいいだろ」

「だったらいいですけど……」

あの、限界というものを知らない海星様が、本当にほどほどでやめてくれるのか疑わしいが、渋々納得しつつパスタを口に運ぶ。
とはいえ、このカフェのパスタは大変美味しい。
入っているベーコンと、別で取ってくれたソーセージは自家製だそうだ。
使っている野菜も近くにある、マスターの実家で作っているもので、毎朝穫りたてを届けてくれるので新鮮だ。
そのせいか普段食べているものよりもサラダはシャキシャキしている。
昨日のお昼のピザ店もかなり美味しかったし、きっと今回の旅行のために海星はいろいろ調べてくれたんだろうな。
そういうのは嬉しくなっちゃう。

美味しいブランチを堪能したあと、連れていかれたのは写真館だった。

「えっと、海星?」

「俺たち、結婚式まだだろ。
だから」

お店の方から説明を受けながら、海星が指した窓の外には道を挟んで小さな教会がある。

「あそこで簡単な式が挙げられるんだ」

結婚式はゆっくり、私の家族だけを招待して挙げようという話はしていた。
なのになんで?

「きちんと式場を手配して式を挙げるとなると、今から予約しても何ヶ月かかかるだろ?
そうなると花音は妊婦になっているだろうし、いろいろ制約もかかってくると思う。
子供が生まれて落ち着いてからってのもありだけど、その場合はそこまでおあずけなのが俺が耐えられない。
だからとりあえずだけど挙げたかったんだ。
ダメ、か?」

上目遣いで少し不安そうに彼が私を見つめる。
それにううんと首を振った。

「ありがとうございます、海星」

彼がそこまで考えていてくれたなんて思わなかった。
最高のサプライズだよ。

ドレスはかなりの枚数から選べた。
ここで小さな結婚式を挙げる人は多いらしく、そういうプランがあるらしい。
もちろん、今回はそのプランだ。

「どれにしようかな……」

気に入るドレスを選び、着せてもらったが。

「うっ」

鏡を見て固まった。
首筋にくっきりと昨晩、海星がつけた歯形がついているうえにキスマークもそこかしこに散っていた。

「……海星」

「どうした?
似合ってるけど」

私が不機嫌で海星は不思議そうだ。

「誰かさんがいっぱい、いっぱい……」

みなまでは恥ずかしくて言えず、声はそこで詰まっていく。
今日、こういう予定ってわかっていたんなら、つけないでくれたらいいのに!

「あー、うん。
ドンマイ」

ようやく私が言いたいことを悟ったのか、慰めるように彼が肩を叩いてくる。
いや、悪いのはあなたですが!?
結局、立ち襟でデコルテ部分はレースで隠れるものにした。
それでも肩の出るノースリーブはセクシーで気に入っている。
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