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第五章 私は道具
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――夢を、見た。
「一士の妻が妊娠した」
冷たい目で海星さんが私を見下ろす。
「俺は社長になれなかった」
ごめんなさい、すみません。
謝罪し、必死に取り縋るが彼はかまってはくれない。
「お前はもう、用済みだ」
吐き捨てるように言い、踵を返して彼が去っていく。
待って、待って!
私はあなたを――。
「愛しているの!」
自分の叫び声で目が覚めた。
「はっ、ははは……。
酷い、夢」
私の口から乾いた笑いが落ちていく。
現実の海星さんがあんなことを言わないのはわかっている。
わかっているのにこんな夢を見るのは、私の心がまだ高志に縛られているからだ。
「ピアス、あけたのに……」
無意識に手が、耳のピアスに触れる。
高志を断ち切るためにあけたピアスだが、いまだに私は彼から逃れなれない。
……ううん。
それだけじゃない。
海星さんがただの道具である私を愛しているという理由がわからない。
わからないから「愛している」という言葉は、高志と一緒で私を言いように利用するためではないかと疑ってしまう。
うなされたせいかびっしょりと汗を掻いた身体は気持ち悪く、シャワーを浴びる。
「……愛してる、か」
夢の中で去っていく海星さんに向かって叫んだ台詞を思い出し、嘲笑が漏れた。
……そんなふうに思っていたんだ、私。
道具のくせに何様だよ。
私は道具。
ただの道具。
一士本部長だってそう言っていたではないか。
道具の私が愛されるとかないし、道具の私が愛するとかあってはならない。
着替えながらナプキンがもう少なかったから買いに行かなければと思う。
汗を掻いたせいか二日酔いは治っていたし、生理痛も動けるくらいまでには治まっていた。
これなら午後出勤できそうだが……海星さんが滅茶苦茶心配しそうだから、ここは甘えて休んでおこう。
「え?」
リビングへ行ったらなぜか海星さんが帰ってきていた。
「ただいま」
キスしてくるのはいい……いや、よくない。
まさか仕事を休んできたとかないよね?
「どう、したんですか?」
戸惑いつつ聞く。
「ん?
ちょっと時間ができたから抜けてきた。
昼食が必要だろ?」
彼が紺色のエコバッグからお弁当にサンドイッチ、おにぎりにゼリーにヨーグルト……と大量に出し、テーブルの上に並べていく。
「なんなら食べられるのかわからなかったからな。
とりあえず思いつくもの全部買ってきた」
にぱっと人なつっこい笑顔で彼が笑う。
「あと、これも」
さらに出てきたのは私が使っているナプキン、しかも夜用、多い日用、普通の日用と三種類揃っていた。
「えっと……。
どうしたんですか、これ?」
食料はわかるが、さすがにこれは理解ができない。
買ってきてくれたのは助かるけれど、恥ずかしくなかったんだろうか。
「ん?
間違ってたか?
一応銘柄は確認していったが……」
少し不安そうに海星さんが聞いてくる。
「間違ってはないですが……」
「なら、よかった」
嬉しそうに笑われ、なんか全部どうでもよくなった。
食事をする時間はあるというので、海星さんと一緒にお昼を食べる。
日持ちするものはいいが、賞味期限当日のものがいくつもあるし。
「具合はどうだ」
心配そうに眼鏡の下で彼の眉が寄る。
「多少、お腹が痛いくらいであとはすっかり」
「それはよかった」
海星さんはあきらかにほっとした顔をした。
「だから、接待断るとかしないで大丈夫ですよ」
出社はやめておこうと決めたが、午後からは家でできる仕事をするつもりだ。
海星さんも私が朝よりずっと調子がいいのはこうやって確認したんだし、そこまでしないでいいはず。
「もう断った」
さらりと言って海星さんはお弁当を食べている。
断ったのをさらにもう一度入れろというのもアレだし、まあいいか。
「食欲あるみたいだし、夜は食べたいもの買ってきてやる。
なにがいい?」
「そうですね……」
私の旦那様はとにかく私に甘い。
でも、これはきっと同情からだ。
それ以外に道具の私に優しくする理由なんて、ない。
「一士の妻が妊娠した」
冷たい目で海星さんが私を見下ろす。
「俺は社長になれなかった」
ごめんなさい、すみません。
謝罪し、必死に取り縋るが彼はかまってはくれない。
「お前はもう、用済みだ」
吐き捨てるように言い、踵を返して彼が去っていく。
待って、待って!
私はあなたを――。
「愛しているの!」
自分の叫び声で目が覚めた。
「はっ、ははは……。
酷い、夢」
私の口から乾いた笑いが落ちていく。
現実の海星さんがあんなことを言わないのはわかっている。
わかっているのにこんな夢を見るのは、私の心がまだ高志に縛られているからだ。
「ピアス、あけたのに……」
無意識に手が、耳のピアスに触れる。
高志を断ち切るためにあけたピアスだが、いまだに私は彼から逃れなれない。
……ううん。
それだけじゃない。
海星さんがただの道具である私を愛しているという理由がわからない。
わからないから「愛している」という言葉は、高志と一緒で私を言いように利用するためではないかと疑ってしまう。
うなされたせいかびっしょりと汗を掻いた身体は気持ち悪く、シャワーを浴びる。
「……愛してる、か」
夢の中で去っていく海星さんに向かって叫んだ台詞を思い出し、嘲笑が漏れた。
……そんなふうに思っていたんだ、私。
道具のくせに何様だよ。
私は道具。
ただの道具。
一士本部長だってそう言っていたではないか。
道具の私が愛されるとかないし、道具の私が愛するとかあってはならない。
着替えながらナプキンがもう少なかったから買いに行かなければと思う。
汗を掻いたせいか二日酔いは治っていたし、生理痛も動けるくらいまでには治まっていた。
これなら午後出勤できそうだが……海星さんが滅茶苦茶心配しそうだから、ここは甘えて休んでおこう。
「え?」
リビングへ行ったらなぜか海星さんが帰ってきていた。
「ただいま」
キスしてくるのはいい……いや、よくない。
まさか仕事を休んできたとかないよね?
「どう、したんですか?」
戸惑いつつ聞く。
「ん?
ちょっと時間ができたから抜けてきた。
昼食が必要だろ?」
彼が紺色のエコバッグからお弁当にサンドイッチ、おにぎりにゼリーにヨーグルト……と大量に出し、テーブルの上に並べていく。
「なんなら食べられるのかわからなかったからな。
とりあえず思いつくもの全部買ってきた」
にぱっと人なつっこい笑顔で彼が笑う。
「あと、これも」
さらに出てきたのは私が使っているナプキン、しかも夜用、多い日用、普通の日用と三種類揃っていた。
「えっと……。
どうしたんですか、これ?」
食料はわかるが、さすがにこれは理解ができない。
買ってきてくれたのは助かるけれど、恥ずかしくなかったんだろうか。
「ん?
間違ってたか?
一応銘柄は確認していったが……」
少し不安そうに海星さんが聞いてくる。
「間違ってはないですが……」
「なら、よかった」
嬉しそうに笑われ、なんか全部どうでもよくなった。
食事をする時間はあるというので、海星さんと一緒にお昼を食べる。
日持ちするものはいいが、賞味期限当日のものがいくつもあるし。
「具合はどうだ」
心配そうに眼鏡の下で彼の眉が寄る。
「多少、お腹が痛いくらいであとはすっかり」
「それはよかった」
海星さんはあきらかにほっとした顔をした。
「だから、接待断るとかしないで大丈夫ですよ」
出社はやめておこうと決めたが、午後からは家でできる仕事をするつもりだ。
海星さんも私が朝よりずっと調子がいいのはこうやって確認したんだし、そこまでしないでいいはず。
「もう断った」
さらりと言って海星さんはお弁当を食べている。
断ったのをさらにもう一度入れろというのもアレだし、まあいいか。
「食欲あるみたいだし、夜は食べたいもの買ってきてやる。
なにがいい?」
「そうですね……」
私の旦那様はとにかく私に甘い。
でも、これはきっと同情からだ。
それ以外に道具の私に優しくする理由なんて、ない。
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