孕むまでオマエを離さない~孤独な御曹司の執着愛~

霧内杳/眼鏡のさきっぽ

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第五章 私は道具

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「おはよう、花音」

私の朝は海星さんのキスから始まる。

「……おはようございます」

「まだ眠そうだけど、そろそろ起きないと朝食摂る時間なくなるぞ」

起き上がったものの私が頭をぐらぐら揺らしていて、海星さんはおかしそうだ。
でも、ひとつ文句を言わせてもらいたい。
誰のせいでこんなに眠いと思っているの?
毎晩、私をあんなに責め立てておいて。

「……はい」

大きく伸びをしてどうにか目を覚まさせる。
そんな私に彼は眼鏡を渡してくれた。

顔を洗って身支度を済ませてしまう。
メイクは前より時間を費やして手をかけるようになった。
髪もひっつめひとつ結びをやめて、ゆるふわなお団子にしている。
黒縁眼鏡は相変わらずだけれど。
おかげで最近は。

『結婚してなんか、綺麗になったよね』
などと噂されている。

海星さんとの結婚は、彼のご両親へ挨拶に行った時点で一士本部長も知るのだしと、オープンにした。
周囲も一応は祝福してくれ、今のところ特に問題はない。

「じゃあ、今日も仕事、頑張って」

家を出る前に海星さんとキスを交わす。
彼はなにかと、私にキスしたがった。

海星さんの運転する車で会社へ向かう。
途中、コーヒーショップに寄って朝食を摂った。

「今日、俺は遅くなるから、帰りはタクシー使え。
一昨日みたいに電車で帰るとか、なしだ」

「うっ」

上目で恨みがましく睨まれて、言葉が詰まる。
毎日、帰りも海星さんの車だが、一昨日は接待が入っているからかなり遅くなるのでタクシーで先に帰るように言われた。
しかしそんな贅沢が怖くて電車で帰ったわけだが、あとでバレて滅茶苦茶怒られた。

「電車は痴漢が出るから危ないからな」

さらっと言って海星さんがサンドイッチにかぶりつく。

「でも、普通の女性は乗ってるわけですし……」

精一杯の反論をしたものの。

「金があればうちの全女性従業員をタクシー通勤にしたいくらいだ。
さすがにそれは無理だから注意喚起とケアしかできないけどな」

はぁっと短く彼がため息をつく。
つい先日、海星さんの直属の部下が痴漢に遭ったらしい。
今、そのケアに彼は腐心している。

「女性に危害を加えるヤツとか、同じ男として恥ずかしい。
滅べばいいのに」

吐き捨てるように彼が言った言葉の中には、一士本部長が含まれているんだろうなと推測された。
もう彼は何度かセクハラで女性から会社へ訴えられている。
そのたびにあの手この手を使って黙らせているのは有名な話だった。

「いってらっしゃい」

「いってきます」

車を降りる前にキスしてもらい、海星さんとは会社近くで別れる。

「おはようございます」

「おはよう」

エレベーターの前で右田課長と一緒になった。

「今日もラブラブで羨ましいな」

「えっ、あっ、いや」

あれを見られていたのかと恥ずかしくて、あっという間に顔が熱くなる。

「いろいろ大変だろうけど、頑張れよ」

励ますように彼はエレベーターに乗る際、私の背中を軽く叩いた。

「ありがとうございます」

私たちの結婚は困難ばかりだ。
でも、絶対にめげないと決めていた。

仕事が終わり、タクシーで家に帰る。
また、こんなことで無駄な喧嘩はしたくない。
それに海星さんがそれだけ私を心配してくれているのは嬉しいし。

なんとなく地味にお腹が痛くて、夕食は帰ってストックしてある冷凍お弁当で済ませた。

海星さんは自分がしないことは私もしないでいいし、自分ができることは俺がやるから私はしないでいいと言う。
海星さんは家事をしないので、私もしないというよりもする必要がない。
掃除洗濯は週三回入っている家政婦さんがやってくれるし、食事はほとんど外食だ。
それでも家でゆっくり食べたい日もあるし……と言ったら、冷凍食品をあれこれストックしてくれるようになった。
定期配達のお弁当もそのひとつだ。
疲れて家に帰って洗濯や炊事をしないでいいのは楽でいいが、できた時間を持て余しているなんて贅沢な悩みだ。
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