孕むまでオマエを離さない~孤独な御曹司の執着愛~

霧内杳/眼鏡のさきっぽ

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第四章 彼が社長になると決意した理由

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話が終わり、和やかに食事が始まる。

「盛重さんってなにしてる人なの?
姉ちゃんの上司とは聞いたけど」

弟の口の利き方が馴れ馴れしくて睨んでいた。

「本社の開発部の本部長だよ。
それで、社長の息子」

お寿司を摘まみながらさらりと海星さんが自分の身分を明かす。

「え……」

弟の掴んだ箸から、寿司が転げ落ちていく。

「ちょっと待って。
じゃあ、盛重さんって次期社長……?」

弟も父も、穴があきそうなほど海星さんの顔を見ていた。

「さあ、どうかな。
俺には弟がいるからね。
なれるように努力はしているけど」

意味深に彼が、私側の目を瞑ってみせる。
ええ、それは言うわけにはいかないですね。

「ええーっ、そんな人の結婚相手が、うちみたいな一般庶民でいいのかよ」

それにはつい、うんうんと頷いていた。

「んー、俺は花音の乙女な部分が可愛いと思うし」

「まー、姉ちゃんは確かに乙女だ。
だからあんなアホ男に引っかかるんだよなー」

この年になっても乙女なんて、しかも弟にまで言われるのはいたたまれない。
さらにそれで、失敗したとなると。

「あと、間違っていることはきっぱりと間違っているという真っ直ぐなところとか」

「うんうん。
でもそれ、融通が利かないってことだけど、大丈夫?」

弟に私はそういう認識をされていたのだと初めて知った。
しかし、融通が利かないはよく言われる。

「そこがいいんだろ。
案外、間違っているとはっきり言うのは難しいんだ」

それは今までの彼の人生がそうだったんだろうと思うと切なくなった。
あの親と弟だ、きっと間違ったことをたくさん言っている。
しかし反論すれば今日みたいに物が、手が、飛んできたのだろう。

「それに俺は花音に救われたからな。
花音が貧乏人だろうとお姫様だろうと関係ないよ」

眼鏡の奥で目を細め、眩しいものかのように海星さんが私を見る。
おかげでみるみる頬が熱を持っていった。

「へーへー、お熱いこって」

気まずそうに弟が目を逸らす。

「ん?
もういいのか?
花音の可愛いところならいくらでもあげられるぞ?」

海星さんはまだ語り足りないらしいが、いい加減にしてください……。
父も母もどうしていいのかわからないのか、もぞもぞしているし。

海星さんの実家とは違い、楽しく過ごして実家をあとにする。

「今度は一緒に酒を飲もう」

「そうですね、楽しみです」

父は海星さんが気に入ったらしく、今日は車なのでお酒が飲めないのを残念がっていた。

「じゃあ、また来ます」

「ええ、いつでも来てね」

母はイケメンの、しかも性格もよさそうな息子ができたと大喜びだ。

「じゃあおやすみー」

両親に見送られて海星さんが車を出す。
弟はオンラインゲームの約束があると途中で抜けていた。

「素敵な家族で、羨ましい」

「そうですか?
騒がしい……」

そこまで言って、止まる。
今日、彼の家族の実態を目の当たりにした。
あんな家族ならば、うちのようなごく普通の家族でも羨ましく思えるに違いない。

「えっと」

こほんと小さく咳払いし、前言を撤回する。

「これから私たちで、素敵な家族になりましょう。
それにうちの家族はもう、海星さんの家族ですよ」

笑って、彼の横顔を見上げる。
なにかに気づいたように大きく開かれた目は、みるみるうちに潤んでいった。
片手で自分の眼鏡から下を海星さんが覆う。

「……うん、そうだな」

頷いた彼の目尻は光っていて、ぎゅっと私の胸が苦しく締まる。
これから私が、海星さんの素敵な家族になっていけばいい。
彼が私を幸せにしてくれるというのなら、私も彼を幸せにする。
……でも。

そっと、上機嫌で運転している彼の顔を盗み見る。
海星さんに家族を納得させるでまかせとはいえ、愛していると言われて怖かった。
人に、愛されるのが怖い。
愛されて本気になって愛するのが怖い。
本気になってもきっと、――また、捨てられる。
無意識に耳のピアスを触っていた。
ピアスをあけたところでまだ、私は高志から逃れられないのだ。
でも、きっぱり彼と別れて僅か一週間。
まだ絶望しなくていい。
しかし、どれだけ海星さんから愛情を注がれようと、この恐怖から逃れられる自信が私にはなかった。
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