孕むまでオマエを離さない~孤独な御曹司の執着愛~

霧内杳/眼鏡のさきっぽ

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第三章 運命を変えたい

3-6

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「こんな感じでいかがでしょう?」

「えっ、凄くいい!」

かけている黒縁眼鏡が生えるように、肌は透明感が出るように仕上げてある。
ピンクブラウンのアイシャドウは目もとを明るくする程度に。
同じくチークも控えめだ。
代わりにくっきりアイラインを引き、眼鏡に負けないようにしてある。
リップは普段私が塗らない、華やかな赤だ。
けれどそれが顔を引き締める。

「メイクだけでこんなに変わるんですね……」

キャバクラでレイカさんにメイクしてもらったときもあまりの代わり映えに驚いたが、これもびっくりだ。

「そうだろ、そうだろ」

海星本部長がなぜか自慢げに頷いている。

「メイク、頑張ります!」

なんかちょっとやる気が出てきた。
それに私がなにかしたところで、止めたり笑ったりする人間はもういない。
そうだ、私は自由になったんだ。
もっと服もメイクも、冒険してもいいかも。

「じゃ、使ったメイク用品は全部買うよ。
あと、あの服と靴も」

「ありがとうございます」

影山さんも美容部員の方も深々と頭を下げているが、それはそうなるだろう。

「あのー」

並んでいる服と靴を見る。
服にあわせて靴もいくつか持ってきてもらっていた。
それはいいが、かなりの数がある。

「だってさー影山さん、この子にあう服を買いたいって写真と体型送ったら、花音に似合って俺の趣味ドンピシャなのばっかり持ってくるんだもん。
この中から選べとか無理。
だから全部買う」

「はぁ……?」

だからといって全部買う人がどこにいる?目の前にいるんだけれど。

「いつもありがとうございます」

影山さんは苦笑いしているが、もしかして海星本部長はいつもこんな買い方をしているんだろうか……?

「これで買い物は終わり……じゃなかった。
花音を怯えさせたお詫びに、なにか買ってやる約束をしたんだった。
なにが欲しい?」

レンズの向こうから海星本部長がじっと私を見つめてくる。
そういえば鰻を食べながらそんな話をした。
が、聞かれても思いつかない。
けれどなにか買ってもらわなければ、彼は納得しそうになかった。

「ん?」

私が黙っているからか、彼が僅かに首を傾げる。
少しのあいだ悩んで、口を開いた。

「あの。
……ピアスが、欲しいです」

ピアスをあけると運命が変わるのだという。
高志との関係は海星本部長が断ち切ってくれた。
なら、ピアスをあけて運命を変え、私自身、高志の軛から解放されたい。

「わかった」

私がどうしたいのか気づいたのか、海星本部長が重々しく頷く。

「影山さん、花音に似合いそうなピアスを見繕ってくれ。
仕事でも使えるヤツがいい。
あと、ファーストピアスも」

「かしこまりました」

頷いた影山さんは機敏に部屋を出ていった。

戻ってきた彼は小さめのケースを手にしていた。

「こちらでいかがでしょう」

目の前で開けられたケースの中にはいくつかのピアスが並んでいる。

「小ぶりのダイヤなどあまり主張せず、お仕事でもよろしいかと思いますが」

「えっ、ダイヤとかじゃなくていいですよ!」

ちょっとしたお詫びで買ってもらうのだ、そんな高価なものじゃなくていい。

「そうか?
俺はいいと思うけどな。
結婚指環とお揃いだし」

並んでいるものからひとつ取り、海星本部長が私の耳に当てる。

「うん、よく似合ってる。
この長い黒髪からちらっと覗くのがいいよな」

眼鏡の下で目尻を下げ、うっとりとした顔で彼は私を見ている。
おかげで顔があっという間に熱くなっていった。

「花音に異論がなければこれを買ってやりたいんだが、どうだろう?」

じっと綺麗な瞳に見つめられ、なにも言えなくなってしまう。
結局、黙って頷いた。

指環とピアス、海星本部長が選んだ数枚の服と靴を持ち帰りにし、あとは届けてもらう手はずになった。
確かにあの枚数を持って帰るのは大変そうだ。

今日も外食で夕食を済ませる。
昨日はお寿司だったが今日は中華だった。
それも〝高級〟が付くところだ。
そこでもやはりそこそこのお値段がするエビマヨが食べたいとは言い出しづらくてまごまごしていたら、苦笑いで海星本部長は頼んでくれた。
好きなものを好きに食べていいとは言われたしわかっているが、彼が連れてくるお店は私には高級すぎて無理。
でも、慣れるしかないのかな。

美味しい中華を堪能させてもらい、家に帰る。

「その。
スーパーに寄ってもらえないでしょうか」

「スーパーに?」

運転しながら海星本部長は不思議そうだ。

「なにか買うものがあるのか?」

「明日の朝食の材料を買いたいんですが……」

あの家の冷蔵庫にはなにも入っていなかった。
食材を買って帰らなければ朝ごはんを食べるのもままならない。

「花音が作るのか?」

「そうですが……」

私が作らなければ誰が作るんだろうか。
それとも作ってくれと言われていると思っている?いくらなんでもそこまで言わないし、そもそもあのキッチンでは彼が料理ができるとは思えない。

「作らなくていい」

「えっと……」

なにか彼の機嫌を損ねたのかとその横顔をうかがうが、真顔で判断ができない。

「花音が朝食を作ってくれるのは嬉しいがその分、早起きしなきゃいけないだろ?そんな面倒、花音にかけたくないからな」

早起きさせたくないから作らないでいいなんて言われるとは思わなかった。
この人はどこまで優しい人なんだろう。

「朝食は出勤途中に俺と一緒に摂ればいい。
朝も俺が送っていくしな」

「えっ、そんなの悪いです!」

思わず大きな声が出た。
朝食が毎食、外食なのまではいい。
それが海星本部長にとっては普通みたいだし、私を気遣ってのことだし。
しかし送ってもらうのはダメだ。
それこそ〝そんな面倒〟だ。

「近くでもその分、海星本部長は遠回りしなきゃいけないじゃないですか」

「あのな」

呆れたように小さくため息をつかれ、びくりと固まる。

「花音がいる支社は俺の通勤途中なの。
まあ、ちょっと逸れるがそれでも五分程度だ」

「えっ、そうでしたっけ……?」

慌てて携帯で地図を確認する。
言われるとおり住んでいるレジデンスから本社ビルを結んだ途中に私が所属している支社があった。

「そうなの。
それに俺は花音を目一杯甘やかせるって言っただろ?もし、一時間遠回りしないといけないところに花音が勤めていても、俺は毎日送り迎えするよ」

「あ、いや、それは……」

……さすがにお断りしたい。
そんな事態にならないように今後、遠くの支社に転勤とかならないように祈ろう。
――それにしても。

真っ直ぐに前を見て運転している彼の顔を盗み見る。
海星本部長はなにかと私を甘やかせたがるしそう宣言しているが、あれはなんなんだろう。
何度もいうが私は彼が社長になるための道具でしかないのだ。
あれかな、今まで可哀想だった私への同情。
うん、きっとそうだ。
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