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第二章 可哀想だと自覚した

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ソファーに座っているように言われたので、おとなしく座る。
アイボリーの革製ソファーはフローリングの上に直接置かれていた。
その前にはダークブラウンの木製ローテーブルがあり、正面の壁には大型のテレビが掛かっている。
リビングにある家具はそれだけだった。

「どうかしたのか」

よっぽど私が変な顔をしていたのか、怪訝そうに海星本部長が隣に座る。
テーブルに置かれたふたつのカップからはコーヒーのいい匂いがしていた。

「あー、えっと」

なんと答えていいのか困る。
ミニマル主義なんですか?
なんて聞いてもいいんだろうか。

「いえ、なんでもないです」

結局、なにも聞けなくて曖昧に笑って済ませる。
どうしてか、インテリアについては聞いてはいけない気がした。

「なら、いいが」

彼がカップを口に運ぶので、私も口をつけた。
ふくよかな香りが私を包み、リラックスさせる。
コーヒーを飲みながら鍵の設定をした。
これからここに住むのに、鍵がないと不便だもんね。

「その」

鍵の設定が終わり、携帯を置いて居住まいを正した。

「私の借金を肩代わりしていただき、ありがとうございました」

誠心誠意、心を込めて頭を下げる。
今日、砺波さんが準備していた書類の中には、私の借金を海星本部長が請け負う内容のものもあった。
弁護士さんの作ったものだから、サインすれば法的拘束力が発生する。
けれど海星本部長は迷わずにそれに、サインした。

「よせよ。
俺はその代わり、俺の子を産めとか滅茶苦茶な条件を出してるんだからさ」

自嘲するように小さく肩を竦め、彼はコーヒーをひとくち飲んだ。

「それだけじゃありません。
高志のことも」

借金を私に押しつけていなくなり、それで終わりだと思っていた。
しかし海星本部長は彼を探しだし、形だけではあったけれど謝罪させてくれた。
それに警察に連れていかれる彼を見て、溜飲が下がらなかったかといえば嘘になる。

「それこそあれは、俺がアイツを酷い目に遭わせたかったからやっただけだ」

「海星本部長が、ですか?」

しかし、彼が高志にそこまでの恨みを抱く理由がわからない。

「昨日、花音は『気持ちいいのが嬉しい』と泣いていただろ?
抱かれるのは苦痛だとも言っていたし、あれを見て今までどれだけ花音はつらい思いをしたんだろうと悲しくなった」

隣りあう彼の手が私の手に重なる。

「借金だってそうだ。
三千万なんて大金、背負わせて捨てるなんて花音に惨いことをするヤツは、絶対に許せなかったんだ」

ぎゅっと私の手を握る海星本部長の手に力が入る。
痛かったがそれだけ彼が怒っているのだとわかって、嬉しかった。

「だからあれは、俺が俺のためにやったことだ。
花音が礼を言う必要はない」

こちらを向いた彼が眼鏡越しに私と目をあわせる。
その目はとても優しげに見えた。

「でも……」

「いいんだ。
それに」

腕が伸びてきて、私を抱き締める。

「花音は今まで、いっぱいつらい思いをしたんだ。
これからは俺が目一杯、花音を愛して甘やかせる。
これまでの分、いや、これまでの分以上に幸せにする」

誓うようにぐっと海星本部長の腕に力が入った。
そうか、今まで私はずっと、つらかったんだ。
でも、そんな思考すら許されなかった。
可哀想な自分に私自身、気づけなかった。
けれど海星本部長は私が知らなかった可哀想な私を見つけて、こうやって抱き締めてくれるんだ。
認めると同時に涙が頬を転がり落ちていく。

「うっ、ううっ。
うわーっ……」

泣きじゃくる私の髪を、撫でる海星本部長の手は優しい。
おかげでますます涙が出てきた。

「落ち着いたか?」

「……はい」

海星本部長が私の汚れた眼鏡を外し、唇でまだ残る涙を拭う。

「なんか、すみません」

こんなに泣いたのはいつぶりだろう?
おかげで気持ちはこれ以上ないほどすっきりしていた。

「いや、いい。
これからは俺と幸せになろうな」

ちゅっと軽く唇が重なる。
海星本部長は優しい。
私なんて社長になるための道具に過ぎないはずなのに、こんなに気遣って幸せにしてくれるという。
せめて私が早く身籠もって、望みどおり彼を社長にしよう。
そう、誓った。

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