孕むまでオマエを離さない~孤独な御曹司の執着愛~

霧内杳/眼鏡のさきっぽ

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第一章 三千万の借金

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「なんだ、右田の部下だったのか」

出てきた私の顔を見て、待っていた海星本部長は意外そうな顔をした。

「……ハイ?」

それは私も同じで、間抜けにも何度か瞬きをして首を傾げてしまう。
私だってわかっていたから、店外に連れ出したんじゃないの?

「ならさらに都合がいい、……のか?」

などと聞かれたところで、答えられるわけがない。

「まあいい、とりあえずどっか入るぞ」

「あっ、はい!」

私の腕を取り、彼が歩き出す。

「その。
レイカさんはよかったんですか」

彼女の大のお気に入りらしい海星本部長が、あの状況でもう帰っても大丈夫なんだろうか。

「ん?
ああ、もういい。
用は済んだしな。
あの店にもキャバクラにももう行かないし」

「はぁ……?」

用は済んだって、キャバクラになにか用でもあったんだろうか。
私の疑問をよそに彼は道を進んでいき、入ったのはカラオケ店だった。

「なんだ、そんな顔して」

「いえ……」

勧められてそろそろと、海星本部長の隣に座る。

「ホテルに連れ込まれるとでも思ったか」

右の口端をつり上げ、意地悪くにやりと彼は笑った。

「えっ、あっ、いや」

そのとおりです、なんて口が裂けても言えない。

「ここは個室だからな、聞かれたくない話をするのにもってこいなんだ。
それにまあ、ホテルに連れ込むのは当たらずとも遠からず、だしな」

「え?」

「なんでもない」

なにを言われたのかわからずに聞き返したが、答えてはくれなかった。
しかし、私が会社の人間だと知らなかったのだとしたら、なんで彼は私を連れ出したのだろう。
それに誠実な海星本部長の人柄からして、女性をホテルに連れ込むなど想像しにくい。
そこからいくと彼がキャバクラ通いをしているのすら、意外なのだ。

「で。
なんで我が社の社員がキャバクラなんかで働いてるんだ?」

私のほうへ身体を向け、組んだ足に頬杖をついて海星本部長が聞いてくる。
それは咎めているというよりも面白がっている感じがした。

「あの、えっと、その」

「うん」

にっこりと笑い、銀縁スクエアの眼鏡の奥から彼が私を見つめている。
少し長めのストレートヘアを八二分けにし、緩くオールバックにしているのは清潔感がある。
切れ長な目は涼しげで、右目下のほくろがより彼をセクシーに見せていた。
鼻筋も通っており、唇は薄いけれどキスを誘うように形がいい。
レイカさんが夢中になるのも頷ける。

「……お金が、必要で」

そんないい顔に見つめられ、顔が熱くなっていく。
耐えられなくなって目を逸らし、俯いた。

「なんで金が必要なんだ?
うちの給料はそんなに悪くないはずだがな」

「それは……」

不動産業界でもトップ10に入る会社となれば、普通よりも給料はもらっている。
さらに独身、海星本部長が不思議に思うのも当たり前だ。
自分の恥をさらすのはやはり躊躇われ、口を濁す。

「それは?」

「うっ」

私の顎を掴んで顔を持ち上げ、彼がレンズ越しに無理矢理視線をあわせさせる。
その目は話せと命じていて、たじろいだ。

「その。
……借金が、あって」

結局逆らえず、口を開く。

「いくらだ?」

「……三千万……です」

「三千万!?」

私が額を口にした途端、海星本部長は驚愕の声を上げた。
それはそうだよね、三千万とかそうそう簡単に作れる借金ではない。

「なんだ、投資で失敗したのか?
それともホスト……は、君に限って考えにくいが」

私の顔をよくよく見て、取り繕うように彼が笑う。
キャバ嬢モードの私ならともかく、今の真面目な会社員モードの私ならホストクラブ通いなど考えにくいだろう。

「あー……」

それでも真実を告白するよりも、ホストに貢いで多額の借金を作ったと話すほうが恥が少ない気がした。

「でも意外だったな、君が借金だなんて。
君は真面目で、正義感も強い人間の気がしていたから」

おかしそうに海星本部長が笑う。
彼は私のなにを見て、そう評価していたのだろう。
同じ部署で近くとはいえ、支社と本社では顔をあわせることも少ない。
話となればなおさらだ。
不思議でしょうがないが、そんなふうに私を評価していた彼に嘘を吐こうとしていた自分を恥じた。
どんなに呆れられようと、正直に話すべきだ。

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