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三.初めての週末――好きだけど好きじゃない
2.一緒に過ごす、朝
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「今日は中華ですか?」
「なんちゃって、だけどな。
ビールでいいか?」
「はい」
自分の分と二本もってテーブルにつく。
加久田は嬉しそうに笑っている。
「ほら」
「ありがとうございます。
では、いただきます!」
「いただきます」
加久田はビールを受け取ると、ごはんを食べ始めたので、私も食べ始める。
「旨いです!」
「そうか?」
今日も嬉しそうに、加久田は私の作ったごはんを食べている。
そんな加久田を見ているとなんか可愛いな、とか思ってしまう。
「もう一本、飲むか?」
「はい!
お願いします!
……ってか、先輩はもう飲まないんですか?」
「ん?
ああ。
ほんとは酒は、夜に本読みながら、ちびちびやる方が好きなんだ。
それに、あんまり食わないで飲むと、まわるの早いしな」
「そーなんですねー」
二本目のビールを手渡すと、なんか感心したかのように加久田はこくこくと頷いていた。
「だから。
私のことは気にしないでいいから、加久田は飲め。
というか、このあいだ勢いで買ってしまったビールの処分に困ってるから、飲んでくれた方が嬉しい」
「ビール、好きじゃないんですか?」
「そうだな。
家ではあまり飲まない」
ビールを口に運んだ癖に、すぐに置いて加久田は私の顔を見てくる。
「普段、なに飲んでるんですか?」
「日本酒。
冷やして飲むのが好きだな」
「銘柄は?」
「特に決まってない。
店の人のお勧めとか、その時々。
……ああ、でも、特別なときは決まった酒がある」
なぜ加久田は、崩していた足を正座にしている。
そのせいで私もつい、箸を置いていた。
「特別なときだけなんですか?」
「そう。決めてるからな。
いつも買うのより高いし。
……っていっても、買うのは年に一回もないけどな」
「そうなんですか」
「というか、これはなんの調査だ?」
「だって、俺は先輩のこと、なんでも知りたいですから」
にやっと笑うと、加久田はビールを口に運んでいた。
なんか恥ずかしくて、黙って肉団子を口に入れる。
「っていうかですよ。
このあと俺だけ酔ってて先輩は素面に近いって、なんかおかしくないですか?」
「……そうか?」
……いや、おかしくないと思うぞ?
だって、このあいだみたいに潰れて、最終的になにも覚えていない、ってどうかと思うし。
「中華とは合わないかもしれないですけど。
日本酒、飲んだらいいじゃないですか。
ごはんだって大概すすんでるから、胃は空じゃないし」
「あー、わかった、わかった。
ってか、おまえ、既に酔ってる?」
「はぁっ?
二本くらいで、俺が酔っ払うとでも思ってるんですか?」
「……そう、だったよな」
苦笑いしながら、日本酒とグラスを持ってくる。
そうだよなー。
加久田の奴、他班の班長にしこたま飲まされても、いつもけろっとしてるもんなー。
大概腹も満たされていたし、ゆったりとどうでもいい話をしながら食事を進める。
加久田の奴は私のごはんが美味しいと、いやに褒めてくれる。
なんかそれが妙にくすぐったかった。
そのうち、眠気が襲ってきたのか、所々記憶が飛び始める。
……やばいな、これ。
自覚はあるんだが、身体はいうこと聞かない。
「先輩?
寝ちゃダメですよ」
「……うん」
眼鏡を外されて、そっと抱え上げられた。
身長もそんなに変わらないし、体つきも細い加久田に、そんな力があったのかと、驚いた。
ベッドに寝かせられて、あたまを撫でられる。
あたまに靄がかかった状態で見上げると、愛しむってのがぴったりの顔で、見つめられていた。
そのまま顔が近付いてきて……唇が、重なった。
「……かく、た……」
「……拒否、されてないから、その先もいいんですよね?」
「かく……ん」
また、唇が重なる。
さっきの優しいキスとは打って変わって……激しい、キス。
やっぱり、溺れてしまいそうなほど気持ちよくて、必死で掴まることしかできなかった。
ゆっくりと、加久田の手が私の体の上を滑る。
そのままどんどん、快楽に沈んでいく。
「……気持ちいいですか、優里。
もっともっと、気持ちよくしてあげますからね」
加久田に名前で呼ばれて、ぴくりと体が反応した。
「やっ、かくた、もう、むり、ゆるして」
「名前で呼ぶまで、楽になんかしてあげませんよ」
「むり、むり、かくた、おねがい」
「優里、ちゃんと名前で呼んでください。
貴尋(たかひろ)って」
「……っ。
たかひろ、たかひろ!
おねがい、もう、」
……そこからはもう、よく覚えていない。
ひたすらうわごとのように加久田の名前を呼び続けて、溺れてしまわないように必死で掴まっていた。
でも、最終的には溺れてしまって、なんだかよく、わからない。
目が覚めたら、加久田の腕の中だった。
ゆっくりと寝返りを打って顔の方を向くと、加久田の目が開いた。
「……おはようございます、優里」
「……優里って呼ぶな」
ぎゅっと鼻をつまんでやると、目を細めて笑う。
その顔を見たら、なんだか顔が熱くなってきて、背を向ける。
「優里。
いま顔、赤くなってるでしょう?」
「なってない!」
……後ろから腕が伸びてきて、ぎゅっと抱きしめられた。
「そうですか?
……俺としてはもう一回したいんですけど、ダメですか?」
加久田の唇が、首筋を這う。
気持ちよくて声が漏れそうで、必死で噛み殺す。
「朝からなにいってる!
ダメに決まってるだろ!」
「えーっ。
昨晩の優里は、滅茶苦茶可愛かったのに……。
必死で俺に掴まってて、もう、」
「わぁーっ!!!!
みなまでいうな!
ていうか、いったら殺す!」
タオルケットを胸まで引き上げて起き上がり、枕を投げつける。
でも、奴は余裕でかわしてきて、しかも笑っていたりして……はっきりいってむかつく。
「シャワー浴びてくる!」
「俺も一緒にいいですか?」
「ついてきたら、本気であの世に送ってやる!」
浴室に行っても、加久田がベッドから出てくる気配がなくてほっとした。
シャワーを浴びて、火照っている体を冷やす。
……ってか、加久田ってあんなキャラだったっけ?
人懐っこい奴だとは思っていたけど、あんな、あんな……ってあれじゃ、私、確実に手玉にとられている?
私が浴室を出ると、今度は加久田がシャワーを浴びにいった。
その間に、朝食の準備をする。
レタスをちぎって、切ったトマトとドレッシングで軽く和えて簡単サラダ。
ベーコンを出して一センチ幅くらいに切る。
軽く炒めたら、レタスも入れて少しだけ炒める。
水を入れて、コンソメスープの素も入れて。
最後にこしょうで味を調えたらスープの完成。
フライパンにベーコン入れて、片面焼いたらひっくり返してたまごを落とす。
蓋して少し置いて、目玉焼きのできあがり。
あとは冷凍庫から食パン出して焼いて、コーヒー淹れればいいだろう。
「わーい。
朝から先輩のごはんだー」
Tシャツにトランクスで加久田が洗面所から出てきた。
初めから泊まる気だったらしく、……どうみても新品。
「たいしたものはないぞ」
「いえいえ。
先輩のごはんってだけで、ごちそうです」
今朝もご機嫌で、加久田は朝ごはんに箸をつけている。
私はそれを見ながらスープに口をつける。
「……って、先輩はそれだけですか?」
「……?
ああ。朝はあまり入らないからな。
今日はこれでも多い方」
加久田と違い、私の前には少しシリアルの足されたヨーグルトのボールと、大きめのマグカップに入れたスープ、それにコーヒー。
「あんまり朝食食べないから、そんなに細いんですよ」
「余計なお世話だ。
それでも今日はかなりましだ」
「かなりまし、って……。
普段どんな食生活送ってるんですか?」
みるみるうちに加久田の顔が曇っていく。
「え?
これのスープなしが、休日の朝昼兼用だけど」
「死にますよ!
もっと食べなきゃ!」
なんでそんなに怒られなきゃいけないんだ?
「いや、現に死んでないし。
それで十分やっていけてるし」
「前から、先輩はいろいろかなりずれてるとは思ってましたけど、ここまでとは思ってなかったです。
俺、しっかり矯正させてもらいますから!」
「なんか知らんが、使命感に燃えてるとこ悪いけど、これで十分生活できてるから……」
「俺が!
困るんです!」
……うん?
なんでおまえが困るんだ?
私は困らないから、放っておいてほししいのだけれど。
「ところで先輩。
いまからどうするんですか?」
ひとしきり怒って気がすんだのか、加久田は話題を変えてきた。
「ああ。
おまえが帰ったら、この部屋片付けようかと思って」
「えっ。
俺のため、ですか?」
「あー、変な期待してるとこ悪いが、
そろそろ雑誌や本を処分しないと、床に不安が……」
「……ああ。
そうですね」
所狭しと積まれた本や雑誌に、加久田は苦笑いしていた。
趣味が読書なせいもあって、本は無尽蔵に増えていく。
増え続ける本に辟易して図書館を利用していた時期もあったけれど、人気の本は予約してもいつまでたってもまわってこないし、なにより貸出期間があるのが痛い。
借りたはいいが途中で急ぎの仕事なんか降って沸いてくると、結局読み切れないまま返す羽目になる。
また結局、古書店や本屋で買い始めて、読んだ本と、いつか読もうと思っている本で溢れかえっている。
「全部この本、読んだんですか?」
「あー、半分は確実?
本屋に行くとついつい買ってしまうから、どんどん増えていくんだよな」
「……仕方ないですね。
手伝いますよ」
ニヤリ、と加久田が口元を歪ませる。
「いやいいって!
加久田だって、休みの日、やることあるだろう?」
「って、先輩。
途中で読んだか内容確認、とかいって、そのままどっぷりはまっちゃって、全然進まないまま終わるタイプですよね?」
「ううっ」
彼のいうことは事実なだけにいい返せない。
きっとひとりでやっていたら、いつまでたっても片付かないだろう。
「はい、けってーい。
俺、ごはん終わったら、近所のウニクロでちょっと服、買ってくるんで。
その間に朝ごはんの片付けとか、しちゃっててください」
「……はい」
「なんちゃって、だけどな。
ビールでいいか?」
「はい」
自分の分と二本もってテーブルにつく。
加久田は嬉しそうに笑っている。
「ほら」
「ありがとうございます。
では、いただきます!」
「いただきます」
加久田はビールを受け取ると、ごはんを食べ始めたので、私も食べ始める。
「旨いです!」
「そうか?」
今日も嬉しそうに、加久田は私の作ったごはんを食べている。
そんな加久田を見ているとなんか可愛いな、とか思ってしまう。
「もう一本、飲むか?」
「はい!
お願いします!
……ってか、先輩はもう飲まないんですか?」
「ん?
ああ。
ほんとは酒は、夜に本読みながら、ちびちびやる方が好きなんだ。
それに、あんまり食わないで飲むと、まわるの早いしな」
「そーなんですねー」
二本目のビールを手渡すと、なんか感心したかのように加久田はこくこくと頷いていた。
「だから。
私のことは気にしないでいいから、加久田は飲め。
というか、このあいだ勢いで買ってしまったビールの処分に困ってるから、飲んでくれた方が嬉しい」
「ビール、好きじゃないんですか?」
「そうだな。
家ではあまり飲まない」
ビールを口に運んだ癖に、すぐに置いて加久田は私の顔を見てくる。
「普段、なに飲んでるんですか?」
「日本酒。
冷やして飲むのが好きだな」
「銘柄は?」
「特に決まってない。
店の人のお勧めとか、その時々。
……ああ、でも、特別なときは決まった酒がある」
なぜ加久田は、崩していた足を正座にしている。
そのせいで私もつい、箸を置いていた。
「特別なときだけなんですか?」
「そう。決めてるからな。
いつも買うのより高いし。
……っていっても、買うのは年に一回もないけどな」
「そうなんですか」
「というか、これはなんの調査だ?」
「だって、俺は先輩のこと、なんでも知りたいですから」
にやっと笑うと、加久田はビールを口に運んでいた。
なんか恥ずかしくて、黙って肉団子を口に入れる。
「っていうかですよ。
このあと俺だけ酔ってて先輩は素面に近いって、なんかおかしくないですか?」
「……そうか?」
……いや、おかしくないと思うぞ?
だって、このあいだみたいに潰れて、最終的になにも覚えていない、ってどうかと思うし。
「中華とは合わないかもしれないですけど。
日本酒、飲んだらいいじゃないですか。
ごはんだって大概すすんでるから、胃は空じゃないし」
「あー、わかった、わかった。
ってか、おまえ、既に酔ってる?」
「はぁっ?
二本くらいで、俺が酔っ払うとでも思ってるんですか?」
「……そう、だったよな」
苦笑いしながら、日本酒とグラスを持ってくる。
そうだよなー。
加久田の奴、他班の班長にしこたま飲まされても、いつもけろっとしてるもんなー。
大概腹も満たされていたし、ゆったりとどうでもいい話をしながら食事を進める。
加久田の奴は私のごはんが美味しいと、いやに褒めてくれる。
なんかそれが妙にくすぐったかった。
そのうち、眠気が襲ってきたのか、所々記憶が飛び始める。
……やばいな、これ。
自覚はあるんだが、身体はいうこと聞かない。
「先輩?
寝ちゃダメですよ」
「……うん」
眼鏡を外されて、そっと抱え上げられた。
身長もそんなに変わらないし、体つきも細い加久田に、そんな力があったのかと、驚いた。
ベッドに寝かせられて、あたまを撫でられる。
あたまに靄がかかった状態で見上げると、愛しむってのがぴったりの顔で、見つめられていた。
そのまま顔が近付いてきて……唇が、重なった。
「……かく、た……」
「……拒否、されてないから、その先もいいんですよね?」
「かく……ん」
また、唇が重なる。
さっきの優しいキスとは打って変わって……激しい、キス。
やっぱり、溺れてしまいそうなほど気持ちよくて、必死で掴まることしかできなかった。
ゆっくりと、加久田の手が私の体の上を滑る。
そのままどんどん、快楽に沈んでいく。
「……気持ちいいですか、優里。
もっともっと、気持ちよくしてあげますからね」
加久田に名前で呼ばれて、ぴくりと体が反応した。
「やっ、かくた、もう、むり、ゆるして」
「名前で呼ぶまで、楽になんかしてあげませんよ」
「むり、むり、かくた、おねがい」
「優里、ちゃんと名前で呼んでください。
貴尋(たかひろ)って」
「……っ。
たかひろ、たかひろ!
おねがい、もう、」
……そこからはもう、よく覚えていない。
ひたすらうわごとのように加久田の名前を呼び続けて、溺れてしまわないように必死で掴まっていた。
でも、最終的には溺れてしまって、なんだかよく、わからない。
目が覚めたら、加久田の腕の中だった。
ゆっくりと寝返りを打って顔の方を向くと、加久田の目が開いた。
「……おはようございます、優里」
「……優里って呼ぶな」
ぎゅっと鼻をつまんでやると、目を細めて笑う。
その顔を見たら、なんだか顔が熱くなってきて、背を向ける。
「優里。
いま顔、赤くなってるでしょう?」
「なってない!」
……後ろから腕が伸びてきて、ぎゅっと抱きしめられた。
「そうですか?
……俺としてはもう一回したいんですけど、ダメですか?」
加久田の唇が、首筋を這う。
気持ちよくて声が漏れそうで、必死で噛み殺す。
「朝からなにいってる!
ダメに決まってるだろ!」
「えーっ。
昨晩の優里は、滅茶苦茶可愛かったのに……。
必死で俺に掴まってて、もう、」
「わぁーっ!!!!
みなまでいうな!
ていうか、いったら殺す!」
タオルケットを胸まで引き上げて起き上がり、枕を投げつける。
でも、奴は余裕でかわしてきて、しかも笑っていたりして……はっきりいってむかつく。
「シャワー浴びてくる!」
「俺も一緒にいいですか?」
「ついてきたら、本気であの世に送ってやる!」
浴室に行っても、加久田がベッドから出てくる気配がなくてほっとした。
シャワーを浴びて、火照っている体を冷やす。
……ってか、加久田ってあんなキャラだったっけ?
人懐っこい奴だとは思っていたけど、あんな、あんな……ってあれじゃ、私、確実に手玉にとられている?
私が浴室を出ると、今度は加久田がシャワーを浴びにいった。
その間に、朝食の準備をする。
レタスをちぎって、切ったトマトとドレッシングで軽く和えて簡単サラダ。
ベーコンを出して一センチ幅くらいに切る。
軽く炒めたら、レタスも入れて少しだけ炒める。
水を入れて、コンソメスープの素も入れて。
最後にこしょうで味を調えたらスープの完成。
フライパンにベーコン入れて、片面焼いたらひっくり返してたまごを落とす。
蓋して少し置いて、目玉焼きのできあがり。
あとは冷凍庫から食パン出して焼いて、コーヒー淹れればいいだろう。
「わーい。
朝から先輩のごはんだー」
Tシャツにトランクスで加久田が洗面所から出てきた。
初めから泊まる気だったらしく、……どうみても新品。
「たいしたものはないぞ」
「いえいえ。
先輩のごはんってだけで、ごちそうです」
今朝もご機嫌で、加久田は朝ごはんに箸をつけている。
私はそれを見ながらスープに口をつける。
「……って、先輩はそれだけですか?」
「……?
ああ。朝はあまり入らないからな。
今日はこれでも多い方」
加久田と違い、私の前には少しシリアルの足されたヨーグルトのボールと、大きめのマグカップに入れたスープ、それにコーヒー。
「あんまり朝食食べないから、そんなに細いんですよ」
「余計なお世話だ。
それでも今日はかなりましだ」
「かなりまし、って……。
普段どんな食生活送ってるんですか?」
みるみるうちに加久田の顔が曇っていく。
「え?
これのスープなしが、休日の朝昼兼用だけど」
「死にますよ!
もっと食べなきゃ!」
なんでそんなに怒られなきゃいけないんだ?
「いや、現に死んでないし。
それで十分やっていけてるし」
「前から、先輩はいろいろかなりずれてるとは思ってましたけど、ここまでとは思ってなかったです。
俺、しっかり矯正させてもらいますから!」
「なんか知らんが、使命感に燃えてるとこ悪いけど、これで十分生活できてるから……」
「俺が!
困るんです!」
……うん?
なんでおまえが困るんだ?
私は困らないから、放っておいてほししいのだけれど。
「ところで先輩。
いまからどうするんですか?」
ひとしきり怒って気がすんだのか、加久田は話題を変えてきた。
「ああ。
おまえが帰ったら、この部屋片付けようかと思って」
「えっ。
俺のため、ですか?」
「あー、変な期待してるとこ悪いが、
そろそろ雑誌や本を処分しないと、床に不安が……」
「……ああ。
そうですね」
所狭しと積まれた本や雑誌に、加久田は苦笑いしていた。
趣味が読書なせいもあって、本は無尽蔵に増えていく。
増え続ける本に辟易して図書館を利用していた時期もあったけれど、人気の本は予約してもいつまでたってもまわってこないし、なにより貸出期間があるのが痛い。
借りたはいいが途中で急ぎの仕事なんか降って沸いてくると、結局読み切れないまま返す羽目になる。
また結局、古書店や本屋で買い始めて、読んだ本と、いつか読もうと思っている本で溢れかえっている。
「全部この本、読んだんですか?」
「あー、半分は確実?
本屋に行くとついつい買ってしまうから、どんどん増えていくんだよな」
「……仕方ないですね。
手伝いますよ」
ニヤリ、と加久田が口元を歪ませる。
「いやいいって!
加久田だって、休みの日、やることあるだろう?」
「って、先輩。
途中で読んだか内容確認、とかいって、そのままどっぷりはまっちゃって、全然進まないまま終わるタイプですよね?」
「ううっ」
彼のいうことは事実なだけにいい返せない。
きっとひとりでやっていたら、いつまでたっても片付かないだろう。
「はい、けってーい。
俺、ごはん終わったら、近所のウニクロでちょっと服、買ってくるんで。
その間に朝ごはんの片付けとか、しちゃっててください」
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