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二.元彼の結婚式――押し倒されていた
4.一歩ずつ歩み寄り?
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帰りにスーパーに寄って帰る。
買い物して、家に帰って、部屋着に着替えかけて……それはどうかと思い、普段着に着替える。
冷蔵庫の中や、その辺りに残っている野菜を集めて、小さく刻んで野菜スープ。
サラダスパ用の麺が少し残っていたので、短く折って入れて、トマトも放り込んで、最後にチーズを振り込んで、ミネストローネ風。
茹でたキャベツをざく切りにして、荒く潰したゆで卵とマヨネーズで和える。
隠し味にマスタード。これで簡単サラダ。
多めの油に輪切りにしたじゃがいも入れて、揚げ焼きにしてフライドポテト風。
油を捨てて、南瓜にピーマン、人参なんかを焼いて軽く塩こしょう。
フライパンを拭いて、一口大に切った鶏ももを焼く。
火が通ったら、にんにく醤油ダレを入れて絡ませる。
じゃがいも・焼野菜をお皿に飾り、横に鶏肉をのせる。
スープをスープボールに入れて、ごはんはカフェオレボール風の食器についで、軽くパセリを振る。
これで、カフェ風チキンソテーセットの完成…………って!
一体なにやっているんだ!
私!
――ピンポーン
「せんぱーい。
加久田でーす」
「……はい」
なんとなく自分に対する嫌悪感に浸りつつ、玄関を開ける。
「……どうしたんですか?」
「……なんでもない」
「なんでもないって、どうみても落ち込んでますよね?
……ってかこのカフェみたいなごはん、どうしたんですか?」
最初はドアを開けた私に怪訝そうだった加久田だけど。
テーブルの上に並ぶ料理を見て、満面の笑みになっていた。
「……魔が差した」
「どこをどうやったら、魔が差してこんな料理ができるんですか?」
「知るか。
作ったものはしょうがない。食え。
なんならビールもつけてやる」
「わーい。先輩のごはんだー。
遠慮なくいただきまーす。
あ、ビールもお願いします」
「……ほら」
「ありがとうございます」
自分の分も合わせて二本、ビールを冷蔵庫から出してテーブルにつく。
加久田は缶を開けると、満面の笑みでごはんを食い始めた。
……てか、そんなに私の料理が嬉しいか?
半ば呆れつつ自分も缶を開けて食べ始める。
呆れていたはず、なんだけど、嬉しそうに食っている加久田を見ていると、なんか嬉しくなってくるのはどうしてだろう?
「それで、だ」
あらかたごはんが終わって。本題を切り出した。
テーブルの上には料理がのっていた皿と、ビールの缶が二本のみ。
……大丈夫。今日はまともに話ができるはず。
「昨日いったことは酔っ払いの戯言として、忘れてほしい。
もちろん、おまえがいったことも忘れるし、……し、したことも忘れる」
「……忘れてもらったら困ります」
「……え?」
いままでにこにこ笑っていた加久田が、急に真剣な顔になって私をじっと見つめる。
「先輩がいったことは忘れてもいい。
第一、あれは俺に向けていったことじゃないし。
でも、俺がいったことは忘れてもらったら困ります。
いったでしょう?
いままで我慢してたんだって」
「かく、た……?」
「もう俺、我慢しませんから。
いまはただの部下でもいいです。
でも絶対、先輩に俺のこと、好きになってもらいますから」
「かくた、なに、いって……」
……気が付いたら。
加久田が目の前に座っていた。
なぜか怖くて、じりじりと後ろに下がる。
でも、無情にもすぐに、背中は壁についてしまう。
膝立ちになっている加久田を見上げると、逃がさないかのように、両手を壁につかれた。
「先輩が……優里が、好きだっていってるんです」
そのまま、無理矢理唇を重ねられた。
嫌なのに、やっぱり溺れそうなほど気持ちよくて、あたまはパニックだった。
「かくた……こんなの……やだぁ」
「そんな怯えた目で見て……。
俺のこと、誘ってるんですか?」
「ちが……ん……」
泣き出しそうに顔を歪ませると、また唇を重ねてくる。
「……やだぁ。かくた、やだぁ……」
見上げると、複雑な色に瞳を染めた、加久田がいた。
いままで見たことない加久田は、ひたすら私を怯えさせ、怖くて、不安で、まるで子供のように、嫌だということしかできなかった。
「すみません、先輩。泣かせるつもりはなかったんです」
私の目尻にたまる涙を指で拭うと、まるで、壊れ物にでもふれるかのようにそっと私を抱きしめる。
「俺、欲張りで。
もう我慢しないって決めたら、あれも、これもって。
全然余裕がなくて。
自分が焦って先輩怖がらせたら元も子もないの、わかってるのに。
いってること、支離滅裂ですよね。
わかってるんです。
すみません」
……不意に。
加久田の体が、小さく震えていることに気が付いた。
……不安なのは。
私だけじゃないんだ。
加久田は、加久田なりにいろいろ考えているんだ。
そう思うと、腹が立つというよりも、少し可愛く思えた。
そっと背中に腕を回して恐る恐る抱きしめると、びくりとその背中が、大きく震えた。
「……加久田。
無理強いは嫌だ」
「合意の上だったらいいんですか?」
「……そうだな」
「先輩は合意してくれるんですか?」
「……時と場合による」
「それってどんな時と場合ですか?」
「あー、もう、わかった!
一回キスして嫌がらなかったらそれ以上のこと、してもいい。
……ただし、常識的な場所で、だぞ?」
「わかりました!
ありがとうございます!」
やっと離れた加久田は、いつもみたいな人懐っこい笑顔になっていた。
……とりあえず。
まだ暫くはそんなにぎくしゃくした関係にはならなくてすみそうな感じ、かな?
「とりあえず、今日はもう、帰れ」
「えーっ。
もう一回、キスしたらダメなんですか?」
「今日はもう二回も、拒んだからダメ」
「ケチー」
唇尖らせてむくれている様はなんか可愛くて、思わず「いいよ」といってしまいそうになるけど、最初から甘やかせてはダメだ。
第一、まだこいつに恋愛感情は持っていない。
「その、週末だったら考えてやらないこともないので、今日は帰れ」
「……ほんとに?」
「ほんと」
「ごはんもつけてもらえますか?」
「……わかった。
つけてやる」
「やったー!
なら帰ります!
週末が楽しみです!」
なんかもう、ぴょんぴょん跳ねそうな勢いで、
加久田は帰っていった。
……っていうか、私はあんな奴に少しとはいえ、気を許して正解だったんだろうか?
買い物して、家に帰って、部屋着に着替えかけて……それはどうかと思い、普段着に着替える。
冷蔵庫の中や、その辺りに残っている野菜を集めて、小さく刻んで野菜スープ。
サラダスパ用の麺が少し残っていたので、短く折って入れて、トマトも放り込んで、最後にチーズを振り込んで、ミネストローネ風。
茹でたキャベツをざく切りにして、荒く潰したゆで卵とマヨネーズで和える。
隠し味にマスタード。これで簡単サラダ。
多めの油に輪切りにしたじゃがいも入れて、揚げ焼きにしてフライドポテト風。
油を捨てて、南瓜にピーマン、人参なんかを焼いて軽く塩こしょう。
フライパンを拭いて、一口大に切った鶏ももを焼く。
火が通ったら、にんにく醤油ダレを入れて絡ませる。
じゃがいも・焼野菜をお皿に飾り、横に鶏肉をのせる。
スープをスープボールに入れて、ごはんはカフェオレボール風の食器についで、軽くパセリを振る。
これで、カフェ風チキンソテーセットの完成…………って!
一体なにやっているんだ!
私!
――ピンポーン
「せんぱーい。
加久田でーす」
「……はい」
なんとなく自分に対する嫌悪感に浸りつつ、玄関を開ける。
「……どうしたんですか?」
「……なんでもない」
「なんでもないって、どうみても落ち込んでますよね?
……ってかこのカフェみたいなごはん、どうしたんですか?」
最初はドアを開けた私に怪訝そうだった加久田だけど。
テーブルの上に並ぶ料理を見て、満面の笑みになっていた。
「……魔が差した」
「どこをどうやったら、魔が差してこんな料理ができるんですか?」
「知るか。
作ったものはしょうがない。食え。
なんならビールもつけてやる」
「わーい。先輩のごはんだー。
遠慮なくいただきまーす。
あ、ビールもお願いします」
「……ほら」
「ありがとうございます」
自分の分も合わせて二本、ビールを冷蔵庫から出してテーブルにつく。
加久田は缶を開けると、満面の笑みでごはんを食い始めた。
……てか、そんなに私の料理が嬉しいか?
半ば呆れつつ自分も缶を開けて食べ始める。
呆れていたはず、なんだけど、嬉しそうに食っている加久田を見ていると、なんか嬉しくなってくるのはどうしてだろう?
「それで、だ」
あらかたごはんが終わって。本題を切り出した。
テーブルの上には料理がのっていた皿と、ビールの缶が二本のみ。
……大丈夫。今日はまともに話ができるはず。
「昨日いったことは酔っ払いの戯言として、忘れてほしい。
もちろん、おまえがいったことも忘れるし、……し、したことも忘れる」
「……忘れてもらったら困ります」
「……え?」
いままでにこにこ笑っていた加久田が、急に真剣な顔になって私をじっと見つめる。
「先輩がいったことは忘れてもいい。
第一、あれは俺に向けていったことじゃないし。
でも、俺がいったことは忘れてもらったら困ります。
いったでしょう?
いままで我慢してたんだって」
「かく、た……?」
「もう俺、我慢しませんから。
いまはただの部下でもいいです。
でも絶対、先輩に俺のこと、好きになってもらいますから」
「かくた、なに、いって……」
……気が付いたら。
加久田が目の前に座っていた。
なぜか怖くて、じりじりと後ろに下がる。
でも、無情にもすぐに、背中は壁についてしまう。
膝立ちになっている加久田を見上げると、逃がさないかのように、両手を壁につかれた。
「先輩が……優里が、好きだっていってるんです」
そのまま、無理矢理唇を重ねられた。
嫌なのに、やっぱり溺れそうなほど気持ちよくて、あたまはパニックだった。
「かくた……こんなの……やだぁ」
「そんな怯えた目で見て……。
俺のこと、誘ってるんですか?」
「ちが……ん……」
泣き出しそうに顔を歪ませると、また唇を重ねてくる。
「……やだぁ。かくた、やだぁ……」
見上げると、複雑な色に瞳を染めた、加久田がいた。
いままで見たことない加久田は、ひたすら私を怯えさせ、怖くて、不安で、まるで子供のように、嫌だということしかできなかった。
「すみません、先輩。泣かせるつもりはなかったんです」
私の目尻にたまる涙を指で拭うと、まるで、壊れ物にでもふれるかのようにそっと私を抱きしめる。
「俺、欲張りで。
もう我慢しないって決めたら、あれも、これもって。
全然余裕がなくて。
自分が焦って先輩怖がらせたら元も子もないの、わかってるのに。
いってること、支離滅裂ですよね。
わかってるんです。
すみません」
……不意に。
加久田の体が、小さく震えていることに気が付いた。
……不安なのは。
私だけじゃないんだ。
加久田は、加久田なりにいろいろ考えているんだ。
そう思うと、腹が立つというよりも、少し可愛く思えた。
そっと背中に腕を回して恐る恐る抱きしめると、びくりとその背中が、大きく震えた。
「……加久田。
無理強いは嫌だ」
「合意の上だったらいいんですか?」
「……そうだな」
「先輩は合意してくれるんですか?」
「……時と場合による」
「それってどんな時と場合ですか?」
「あー、もう、わかった!
一回キスして嫌がらなかったらそれ以上のこと、してもいい。
……ただし、常識的な場所で、だぞ?」
「わかりました!
ありがとうございます!」
やっと離れた加久田は、いつもみたいな人懐っこい笑顔になっていた。
……とりあえず。
まだ暫くはそんなにぎくしゃくした関係にはならなくてすみそうな感じ、かな?
「とりあえず、今日はもう、帰れ」
「えーっ。
もう一回、キスしたらダメなんですか?」
「今日はもう二回も、拒んだからダメ」
「ケチー」
唇尖らせてむくれている様はなんか可愛くて、思わず「いいよ」といってしまいそうになるけど、最初から甘やかせてはダメだ。
第一、まだこいつに恋愛感情は持っていない。
「その、週末だったら考えてやらないこともないので、今日は帰れ」
「……ほんとに?」
「ほんと」
「ごはんもつけてもらえますか?」
「……わかった。
つけてやる」
「やったー!
なら帰ります!
週末が楽しみです!」
なんかもう、ぴょんぴょん跳ねそうな勢いで、
加久田は帰っていった。
……っていうか、私はあんな奴に少しとはいえ、気を許して正解だったんだろうか?
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