契約書は婚姻届

霧内杳/眼鏡のさきっぽ

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第11話 Kaffee trinken

4.本宅からの迎え

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「奥様。
本宅から迎えが参っております」

「はい?」

自分の部屋で、だらしなくソファーに寝ころび、ドラマを見ながらポテチを口に運びかけた瞬間、野々村に声をかけられて慌ててしまう。

「私に?
本邸から?」

全く持って意味がわからない。
朋香個人を呼び出しなど。

「はい。
すぐに本宅に参られよとのことです」
 
「すぐに? 
着替え、どうしよう?
なに着たらいいのかな」

慌てる朋香に、野々村の表情は変わらない。

「迎えの者が待っております。
お早くお支度を」

「え?
待ってるの!?
どうしよう。
尚一郎さんに連絡しなきゃ」

「お早く」

念押しすると、野々村は顔色ひとつ変えないまま部屋を出ていった。

尚一郎に電話をしてみたものの、出ない。
出ないときは犬飼に伝言を頼むように云われたのを思い出し、かけてみるもこちらも出ない。

とりあえず、画面に指を走らせてメッセージを送る。

“本邸から呼び出しがありました。
いってきます”

迎えが待っているということだし、着付けを頼むほど余裕もなさそうなので、クローゼットを漁って上品そうに見えるスーツを着た。

髪をどうしようか迷っていると、コンコンコンと野々村にノックされた。

「お支度はお済みでしょうか」

「えっ、あっ、はい!」

仕方なく、ブラシを通し、軽くクリームで整えるだけする。

玄関を出ると、黒のBMWが待っていた。
乗ると静かに車は走り出す。

運転手のみ、しかも野々村並に無表情で、誰が、どうして朋香を呼び出したのかなどと、聞きにくい雰囲気。

少しして、マナーにしていた携帯がバッグの中で震えた。
尚一郎からの電話だが、なんとなく通話しにくくて悩んでいたら、震えが止まった。
すぐに、メッセージが送られてくる。

“本邸から呼び出しだって?
行くことないからね。
無視しとけばいい”

初めてその手があったのかと気付いた。
急かされていたので、全く考えが及ばなかったのだ。
しかし、気付いたところですでに遅い。

“ごめんなさい。
すでに本邸に向かう車の中です”
 
画面に指を滑らせて送ると、すぐに手の中の携帯が震える。

“できるだけ早くそっちに行けるように手はずを整えるから。
無理はしないで”

“わかりました。
大人しく待ってます”

謝っている眼鏡男子のスタンプが送られてきたかと思ったら、続いて愛してると照れてる、同じキャラクターのスタンプ。
どうしてかそれがおかしくて、くすりと小さく笑いが漏れた。
おかげで、少しだけ緊張が和らいだ気がする。

本邸にくるように手はずを整えると尚一郎は云っていたが、呼び出しがなければ本邸には入れない。
早々簡単にはいかないはずだ。

とにかく、尚一郎が来るまで、ひとりでどうにかするしかない。
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