契約書は婚姻届

霧内杳/眼鏡のさきっぽ

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第8話 焼き肉デート

1.女の子同士でお話

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朋香が庭に出ると、すぐにロッテが寄ってきた。

「いこっか」

「ワン!」

女の子のロッテには失礼だが、嬉しそうに尻尾をふりふりしている様は尚一郎そっくりで、思わずくすりと笑いが漏れた。

「やっぱりロッテの云う通りだったよー。
元彼なんて会うもんじゃなかった」

「ワン!」

私の云うことを聞かないからよ、などというロッテの声が聞こえてきそうだ。

最初からロッテの云う通り、雪也になんて連絡しなければよかったのだ。
そうすれば、尚一郎を傷つけたり、死ぬほど悩んだりすることなどなかった。

「あ、でも……」

「ワフ?」

ロッテが不思議そうに朋香の顔を見上げる。

でも、この件があったから、改めて自分の気持ちを知ることができた。

尚一郎が好き。
……家族や親友程度には。

いまはまだこれでいいんだと思う。
焦る必要はない。

自分の気持ちを自覚する機会をくれた点だけ、雪也に感謝しなければと思う。

「尚一郎さんってさ。
結構いい人だよね。
あの、くそじじぃとくそばばぁの孫だなんて思えない」

尚一郎が褒められてるとわかるのか、ロッテの尻尾が嬉しそうに揺れた。

きっと、尚一郎があの祖父母そっくりの性格だったら、いまでも嫌っていたと思う。
もしかしたら、迷わず雪也の誘いに乗っていたかもしれない。
似なかったのはほんと、神に感謝したいくらいだ。

 
しばらく歩くと道に出た。
屋敷から外へと通じる一本道。

屋敷の方に戻って歩きながらちらり。

朋香の視線の先には監視カメラ。

それは、不審者とともに朋香を監視している。

野々村から朋香が出かけると連絡が入ったときと、この監視カメラで朋香の車が出て行くのが確認できたとき、シークレットサービスが出動するようになっているらしい。

通常は朋香にわからないようにこっそりと。
このあいだのような緊急事態のときだけ、姿を現すのだというが。



「そんなに私を監視しておきたいですか!?」

監視されていることを知ってキレた朋香に全くかまう様子もなく、ちゅっ、唇にキスを落としてくる尚一郎を必死で引き剥がす。

「知られて困ることをしていたのは朋香だろう?」

「うっ」

その通りだから云い返せない。
尚一郎に隠れてこそこそと、男と会っていたのは自分だ。

「それに。
もし、朋香になにかあったら困るからね。
朋香を失ったら、僕はもう生きていけないよ」

「んっ、やめっ、……尚一郎さん!」

耳朶をおいしそうにはむはむと喰まれるとくすぐったい。
一緒に寝るようになってから、尚一郎はなにかと軽い悪戯をしてくる。

そういうのは……ちょっと困る。

外出するのにいつもシークレットサービス付きだとか、尚一郎は大げさだと思っていた。

別に、ひとりで出かけたからといって、今回のようなことがそうそうあるわけじゃない。

セレブって面倒臭い、それが朋香の正直な感想だった。
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