契約書は婚姻届

霧内杳/眼鏡のさきっぽ

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第7話 雪が溶けるときっと花が咲く

7.ドライブ

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雪也と最後に会った後、すぐに携帯は解約され、新しいものに変わった。

たびたび変わる携帯番号は少し困るが、これは自業自得だから仕方ない。

あのあと、雪也がどうなったのかは気になるが、尚一郎に聞いていいのかわからなかった。


「とーもか」

休日、ご機嫌でケーキを食べさせていた尚一郎だが、朋香があまり食べないものだからフォークを置いて顔をのぞき込んでくる。

あれから、自分が雪也を殺したという思いから、朋香はふさぎがちになっていた。

「ちょっとドライブに出ようか。
どこか行きたいところはないかい?
高原の牧場でおいしいソフトクリームでも食べようか。
それともまた、温泉がいいかい?
日本人は温泉が大好きだよね。
僕も気に入ってるけど」

そんな気分にはなれなくて黙って首を振ると、困ったように笑った尚一郎はちゅっと朋香に口付けを落とした。

「とにかく、出かけよう。
いいだろ?」
 
なぜか出かけたがる尚一郎に、渋々うなずいた。

今日は高橋の運転ではなく、尚一郎自身が運転するのだという。

「たまには僕だって、運転したいからね」

いたずらっ子のように笑って尚一郎が出したのは、ガレージに停まっていた少し年式の古いポルシェ、カイエン。

「この車はね。
母が就職祝いに買ってくれたんだ。
営業もこれで回ってたし、いまでも大事にしてる」

「……そうなんですね」

珍しい家族の話に、いつもならいろいろ聞きたくて食いつくところだが、今日はどうでもよかった。

黙っている朋香に、尚一郎も黙っている。

しばらくして、唐突に尚一郎が口を開いた。
「あの、井上って男のこと、気にしてるのかい?」

黙ってうなずくと、はぁっと小さく、尚一郎がため息を漏らした。

「あの男は朋香を酷く傷つけたからね。
取り立て屋に借金を踏み倒して逃げるつもりだって……」

「なんでそんなことするんですか!?」

「と、朋香!?
危ないよ!」

思わず腕を掴んだ朋香に、ハンドルが取られ車が大きく右に寄る。
慌てて尚一郎はハンドルを切り、車を元に戻した。

「なんで!
なんでそんなことするんですか!
これじゃ、ますます……」

……自分が雪也を死に追いやったみたいだ。

泣きたくないのに涙はぼろぼろ落ちてくる。

「嫌い!
尚一郎さんなんてだいっきらい!」

怒って、そっぽを向いてしまった朋香に、尚一郎は困った顔をして運転を続けている。
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