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第6話 車と元彼と私
5.久しぶりの自由=浮気デート?
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納車されて次の水曜日、朋香は結婚して初、ふた月ぶりぐらいにひとりで外出した。
長い戦いだったと思う。
尚一郎のうっかり……うっかりでいいんだろうか?
もしかして本気であのまま、軟禁しておくつもりだったとか……という可能性は考えないでおこう。
車の購入が決まってからもさらにひと月我慢した。
これで晴れて自由!
つい気が緩んでウィンカーをあげるつもりでワイパーを動かしてしまい、ひとり苦笑い。
買ってくれた車は右ハンドルにはなっているが、ウィンカーとワイパーは国際基準のため、国産車とは逆だ。
「待った?」
「いや。
俺もさっき来たとこ」
待ち合わせのカフェに行くと、男――雪也は見ていた携帯を置いてにっこりと笑った。
「あれ?
俺がプレゼントしたのは?」
「あー」
鞄にキーをしまう際、雪也が目に留めた。
苦笑いで座り、店員を呼んでアイスティを注文する。
「尚一郎さんがもう準備してあるからって」
キーホルダーでさんざん揉めたあと、尚一郎から自分で選んだものを付けられた。
先日もらった財布とお揃いの、ピンクのハートのキーホルダー。
気に入らないはずがない。
尚一郎はなぜか、朋香の好みをよく理解していて、悔しいがいつも嫌だとは云えない。
「押部社長って結構独占欲強いんだ」
ふふっ、おかしそうに雪也が笑う。
……独占欲。
あれを独占欲というんだろうか。
「お昼、近くの店を予約してあるんだ。
朋香の好きなイタリアン。
……どう?」
「……ありがとう」
嬉しそうに笑う雪也に、朋香は頬が熱くなる思いがした。
雪也に連れられてきた店では、個室に通された。
ふたりで個室。
これではデートみたいで、浮気でもしている気分になる。
いや、男とふたりで会っている時点で立派な浮気なんだろうか。
「どうかした?」
「ううん」
浮かんでいた考えを慌てて打ち消す。
もともと、愛のない契約結婚。
尚一郎自身は朋香を愛しているようだが、朋香は別に尚一郎を愛しているわけではない。
……最近は少し、気になっているが。
とにかく、そういう関係なんだから、別にこれが咎められるはずがない……と、思う。
「車はどうよ?」
「あー、ワイパーとウィンカー、間違えた」
「最初はみんな、やるんだよなー」
メッセージのやりとりをしていたときからそうだが、気の置けないやりとりは楽だ。
「今度、同窓会じゃないけど、元サークルメンバーで集まるんだ。
朋香もどうだ?」
「あー……。
それってやっぱり、休日とかだよね」
休日や夜、とにかく尚一郎が家にいるときにひとりで外出なんて許してもらえるか自信がない。
「そっか。
押部社長がああじゃ、厳しいかもな」
「……うん」
「社長夫人も意外と窮屈だよな!」
ぽんぽん、雪也の手が朋香のあたまにふれる。
それはまるで、付き合っていた当時に戻ったみたいだった。
会計は朋香が払おうとしたが、雪也に断られた。
「少しくらいいいとこ見せさせろよ。
こう見えても外車ディーラーの営業なんだからな。
押部社長には遠く及ばないけど、それなりにもらってる」
「うん。
……じゃあ」
男のプライドってめんどくさい、内心、朋香は苦笑いしていた。
それからも雪也とは週一くらいの間隔で会っていた。
雪也と会うのは、まるで大学時代に戻ったかのように楽しい。
会うことに慣れていくと、はじめのうち抱いていた尚一郎に対する罪悪感が薄れていった。
長い戦いだったと思う。
尚一郎のうっかり……うっかりでいいんだろうか?
もしかして本気であのまま、軟禁しておくつもりだったとか……という可能性は考えないでおこう。
車の購入が決まってからもさらにひと月我慢した。
これで晴れて自由!
つい気が緩んでウィンカーをあげるつもりでワイパーを動かしてしまい、ひとり苦笑い。
買ってくれた車は右ハンドルにはなっているが、ウィンカーとワイパーは国際基準のため、国産車とは逆だ。
「待った?」
「いや。
俺もさっき来たとこ」
待ち合わせのカフェに行くと、男――雪也は見ていた携帯を置いてにっこりと笑った。
「あれ?
俺がプレゼントしたのは?」
「あー」
鞄にキーをしまう際、雪也が目に留めた。
苦笑いで座り、店員を呼んでアイスティを注文する。
「尚一郎さんがもう準備してあるからって」
キーホルダーでさんざん揉めたあと、尚一郎から自分で選んだものを付けられた。
先日もらった財布とお揃いの、ピンクのハートのキーホルダー。
気に入らないはずがない。
尚一郎はなぜか、朋香の好みをよく理解していて、悔しいがいつも嫌だとは云えない。
「押部社長って結構独占欲強いんだ」
ふふっ、おかしそうに雪也が笑う。
……独占欲。
あれを独占欲というんだろうか。
「お昼、近くの店を予約してあるんだ。
朋香の好きなイタリアン。
……どう?」
「……ありがとう」
嬉しそうに笑う雪也に、朋香は頬が熱くなる思いがした。
雪也に連れられてきた店では、個室に通された。
ふたりで個室。
これではデートみたいで、浮気でもしている気分になる。
いや、男とふたりで会っている時点で立派な浮気なんだろうか。
「どうかした?」
「ううん」
浮かんでいた考えを慌てて打ち消す。
もともと、愛のない契約結婚。
尚一郎自身は朋香を愛しているようだが、朋香は別に尚一郎を愛しているわけではない。
……最近は少し、気になっているが。
とにかく、そういう関係なんだから、別にこれが咎められるはずがない……と、思う。
「車はどうよ?」
「あー、ワイパーとウィンカー、間違えた」
「最初はみんな、やるんだよなー」
メッセージのやりとりをしていたときからそうだが、気の置けないやりとりは楽だ。
「今度、同窓会じゃないけど、元サークルメンバーで集まるんだ。
朋香もどうだ?」
「あー……。
それってやっぱり、休日とかだよね」
休日や夜、とにかく尚一郎が家にいるときにひとりで外出なんて許してもらえるか自信がない。
「そっか。
押部社長がああじゃ、厳しいかもな」
「……うん」
「社長夫人も意外と窮屈だよな!」
ぽんぽん、雪也の手が朋香のあたまにふれる。
それはまるで、付き合っていた当時に戻ったみたいだった。
会計は朋香が払おうとしたが、雪也に断られた。
「少しくらいいいとこ見せさせろよ。
こう見えても外車ディーラーの営業なんだからな。
押部社長には遠く及ばないけど、それなりにもらってる」
「うん。
……じゃあ」
男のプライドってめんどくさい、内心、朋香は苦笑いしていた。
それからも雪也とは週一くらいの間隔で会っていた。
雪也と会うのは、まるで大学時代に戻ったかのように楽しい。
会うことに慣れていくと、はじめのうち抱いていた尚一郎に対する罪悪感が薄れていった。
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