上 下
39 / 129
第6話 車と元彼と私

5.久しぶりの自由=浮気デート?

しおりを挟む
納車されて次の水曜日、朋香は結婚して初、ふた月ぶりぐらいにひとりで外出した。

長い戦いだったと思う。

尚一郎のうっかり……うっかりでいいんだろうか?
もしかして本気であのまま、軟禁しておくつもりだったとか……という可能性は考えないでおこう。

車の購入が決まってからもさらにひと月我慢した。

これで晴れて自由!

つい気が緩んでウィンカーをあげるつもりでワイパーを動かしてしまい、ひとり苦笑い。

買ってくれた車は右ハンドルにはなっているが、ウィンカーとワイパーは国際基準のため、国産車とは逆だ。

「待った?」

「いや。
俺もさっき来たとこ」

待ち合わせのカフェに行くと、男――雪也は見ていた携帯を置いてにっこりと笑った。

「あれ?
俺がプレゼントしたのは?」

「あー」

鞄にキーをしまう際、雪也が目に留めた。
苦笑いで座り、店員を呼んでアイスティを注文する。

「尚一郎さんがもう準備してあるからって」

キーホルダーでさんざん揉めたあと、尚一郎から自分で選んだものを付けられた。

先日もらった財布とお揃いの、ピンクのハートのキーホルダー。

気に入らないはずがない。

尚一郎はなぜか、朋香の好みをよく理解していて、悔しいがいつも嫌だとは云えない。

「押部社長って結構独占欲強いんだ」

ふふっ、おかしそうに雪也が笑う。

……独占欲。

あれを独占欲というんだろうか。

「お昼、近くの店を予約してあるんだ。
朋香の好きなイタリアン。
……どう?」

「……ありがとう」

嬉しそうに笑う雪也に、朋香は頬が熱くなる思いがした。

 
雪也に連れられてきた店では、個室に通された。

ふたりで個室。

これではデートみたいで、浮気でもしている気分になる。
いや、男とふたりで会っている時点で立派な浮気なんだろうか。

「どうかした?」

「ううん」

浮かんでいた考えを慌てて打ち消す。
もともと、愛のない契約結婚。

尚一郎自身は朋香を愛しているようだが、朋香は別に尚一郎を愛しているわけではない。

……最近は少し、気になっているが。

とにかく、そういう関係なんだから、別にこれが咎められるはずがない……と、思う。

「車はどうよ?」

「あー、ワイパーとウィンカー、間違えた」

「最初はみんな、やるんだよなー」

メッセージのやりとりをしていたときからそうだが、気の置けないやりとりは楽だ。

「今度、同窓会じゃないけど、元サークルメンバーで集まるんだ。
朋香もどうだ?」

「あー……。
それってやっぱり、休日とかだよね」

休日や夜、とにかく尚一郎が家にいるときにひとりで外出なんて許してもらえるか自信がない。

「そっか。
押部社長がああじゃ、厳しいかもな」

「……うん」

「社長夫人も意外と窮屈だよな!」

ぽんぽん、雪也の手が朋香のあたまにふれる。
それはまるで、付き合っていた当時に戻ったみたいだった。
会計は朋香が払おうとしたが、雪也に断られた。

「少しくらいいいとこ見せさせろよ。
こう見えても外車ディーラーの営業なんだからな。
押部社長には遠く及ばないけど、それなりにもらってる」

「うん。
……じゃあ」

男のプライドってめんどくさい、内心、朋香は苦笑いしていた。


 
それからも雪也とは週一くらいの間隔で会っていた。

雪也と会うのは、まるで大学時代に戻ったかのように楽しい。
会うことに慣れていくと、はじめのうち抱いていた尚一郎に対する罪悪感が薄れていった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

甘い束縛

はるきりょう
恋愛
今日こそは言う。そう心に決め、伊達優菜は拳を握りしめた。私には時間がないのだと。もう、気づけば、歳は27を数えるほどになっていた。人並みに結婚し、子どもを産みたい。それを思えば、「若い」なんて言葉はもうすぐ使えなくなる。このあたりが潮時だった。 ※小説家なろうサイト様にも載せています。

○と□~丸い課長と四角い私~

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
佐々鳴海。 会社員。 職場の上司、蔵田課長とは犬猿の仲。 水と油。 まあ、そんな感じ。 けれどそんな私たちには秘密があるのです……。 ****** 6話完結。 毎日21時更新。

Spider

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
花火大会に誘われた。 相手は、会社に出入りしている、コーヒー会社の人。 彼はいつも、超無表情・事務的で。 私も関心がないから、事務的に接してた。 ……そんな彼から。 突然誘われた花火大会。 これは一体……?

Good day ! 3

葉月 まい
恋愛
『Good day !』Vol.3 人一倍真面目で努力家のコーパイ 恵真と イケメンのエリートキャプテン 大和 晴れて入籍した二人が 結婚式の準備を進める中 恵真の妊娠が判明! そしてそれは 恵真の乗務停止の始まりでもあった… ꙳⋆ ˖𓂃܀✈* 登場人物 *☆܀𓂃˖ ⋆꙳ 日本ウイング航空(Japan Wing Airline) 副操縦士 佐倉(藤崎) 恵真(28歳) 機長 佐倉 大和(36歳)

隠れ御曹司の愛に絡めとられて

海棠桔梗
恋愛
目が覚めたら、名前が何だったかさっぱり覚えていない男とベッドを共にしていた―― 彼氏に浮気されて更になぜか自分の方が振られて「もう男なんていらない!」って思ってた矢先、強引に参加させられた合コンで出会った、やたら綺麗な顔の男。 古い雑居ビルの一室に住んでるくせに、持ってる腕時計は超高級品。 仕事は飲食店勤務――って、もしかしてホスト!? チャラい男はお断り! けれども彼の作る料理はどれも絶品で…… 超大手商社 秘書課勤務 野村 亜矢(のむら あや) 29歳 特技:迷子   × 飲食店勤務(ホスト?) 名も知らぬ男 24歳 特技:家事? 「方向音痴・家事音痴の女」は「チャラいけれど家事は完璧な男」の愛に絡め取られて もう逃げられない――

昨日、彼を振りました。

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「三峰が、好きだ」 四つ年上の同僚、荒木さんに告白された。 でも、いままでの関係でいたかった私は彼を――振ってしまった。 なのに、翌日。 眼鏡をかけてきた荒木さんに胸がきゅんと音を立てる。 いやいや、相手は昨日、振った相手なんですが――!! 三峰未來 24歳 会社員 恋愛はちょっぴり苦手。 恋愛未満の関係に甘えていたいタイプ × 荒木尚尊 28歳 会社員 面倒見のいい男 嫌われるくらいなら、恋人になれなくてもいい? 昨日振った人を好きになるとかあるのかな……?

隠れオタクの女子社員は若社長に溺愛される

永久保セツナ
恋愛
【最終話まで毎日20時更新】 「少女趣味」ならぬ「少年趣味」(プラモデルやカードゲームなど男性的な趣味)を隠して暮らしていた女子社員・能登原こずえは、ある日勤めている会社のイケメン若社長・藤井スバルに趣味がバレてしまう。 しかしそこから二人は意気投合し、やがて恋愛関係に発展する――? 肝心のターゲット層である女性に理解できるか分からない異色の女性向け恋愛小説!

Promise Ring

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
浅井夕海、OL。 下請け会社の社長、多賀谷さんを社長室に案内する際、ふたりっきりのエレベーターで突然、うなじにキスされました。 若くして独立し、業績も上々。 しかも独身でイケメン、そんな多賀谷社長が地味で無表情な私なんか相手にするはずなくて。 なのに次きたとき、やっぱりふたりっきりのエレベーターで……。

処理中です...