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第4話 義実家って面倒臭い
2.突然の呼び出し
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「朋香、今日は後で業者の人たちが来るから」
「……?」
土曜日、朝食中になにを云われたのかわからなくて、もぐもぐと噛んでいたパンを飲み込むと首を傾げてしまう。
最初のうちこそ戸惑ったドイツ式の朝食だったが、すぐに慣れた。
ライ麦パンは朋香にあったらしく、いまではお気に入りだ。
それに一番問題のゆで卵は、エッグオープナーを準備してくれたおかげで簡単に解決したのもある。
「業者ってなんのですか?」
どこか、リフォームでもするのだろうか。
朋香がここで暮らすにあたって、一日であの部屋をリフォームして家具を揃えたと知ったときは、目眩がしたものだ。
「仕立屋とか宝石商とか。
朋香は僕の選んだ服が、気に入らないみたいだからね」
「……」
にっこりと笑われて、手にしていたパンを置いてしまった。
……怒ってる。
怒ってる、よね。
衣装部屋の、尚一郎が準備した服にはなにひとつ手をつけていない。
それに手をつけるのは尚一郎に“買われた”ことを認めるようで、朋香の小さな抵抗だった。
「買っていただいても私は着る気がないので」
「僕は朋香を可愛がりたいだけなんだけど、……ダメかい?」
……うっ。
上目遣いで、怒られたときのロッテと同じ顔で見られると、さすがに言葉に詰まる。
「……き、気に入ったのがあれば」
「よかった」
ぱっと顔を輝かせると、尚一郎はうきうきと残りのパンを食べはじめた。
わんこモードの尚一郎はたちが悪くて困る。
朝食が終わるとリビングに移動し、膝の上に乗せられて一方的に尚一郎からいちゃいちゃされていると、無表情に野々村がやってきた。
どんな表情をしてこられてもそれはそれで気まずいのだが、無表情なのは怖い。
「本邸から使いでございます。
今日の昼食、一緒にせよとのことです」
「Was!?」
勢いよく立ち上がりそうになった尚一郎に、膝の上の朋香は慌ててしがみついた。
それでようやく、朋香を載せたままだったことを思い出したのか、尚一郎はソファーに座り直す。
「このまま呼び出しがなければいいと思ってたけど、そう簡単にはいかないか」
なにが起こっているのかわからなくてきょとんとしている朋香の額に口付けすると、尚一郎は朋香を膝の上から下ろした。
「野々村、すぐにスタイリストを呼んで。
……朋香、おいで」
尚一郎に手を引っ張られてきたのは自分の部屋。
入るなり、バスルームに押し込まれた。
「悪いんだけど、あたまのてっぺんからつま先まで、ぴかぴかに磨いてくれるかい?
許可してくれるんなら、僕がやるけど」
「自分でできます!」
ニヤリと笑った尚一郎にバスタオルを投げつけると、閉まったドアに当たって落ちた。
全く意味のわからないまま、シャワーを出して云われたとおりに身体を磨く。
……本邸からの使いって云ってたよね?
それって家族がお昼を一緒に食べようって云ってるのと違うの?
なんであんなに、慌ててる上に嫌そうなんだろう。
バスルームを出ると、部屋に尚一郎の姿はなかった。
開いている衣装部屋から声がするので覗くと、尚一郎ともうひとり、たぶん、スタイリストの女性が服を出したりしまったりを繰り返していた。
「朋香、もう決まるからちょっと待ってね。
……ああもう、なんで僕は、着物を作っておかなかったんだろうね!」
どうして尚一郎があんなに必死なのかわからない。
……いや、たがだか家族との食事に着物が必要だなんて、理解できないんですが。
セレブってそれが普通なの?
これを着て、差し出された服に躊躇したが、真剣な尚一郎に自分には拒否権はない気がして、小さなこだわりは捨ててそれを着る。
着替えているあいだに、尚一郎は後をスタイリストに託して部屋を出ていった。
されるがままに化粧を施され髪を結われ、鏡を見ると上流階級の若奥様ができあがっていた。
「馬子にも衣装ってこれを云うんだよね……」
自虐的に笑っていると、コンコンコンとノックの音がして飛び上がった。
「準備できたかい?
……うん、朋香によく似合ってる。
これなら文句ないだろう」
いつの間にか尚一郎はスーツに着替えている。
それにしても、……文句がないって?
なんか、面倒そうだな。
本邸に行く前から、朋香はうんざりしていた。
「……?」
土曜日、朝食中になにを云われたのかわからなくて、もぐもぐと噛んでいたパンを飲み込むと首を傾げてしまう。
最初のうちこそ戸惑ったドイツ式の朝食だったが、すぐに慣れた。
ライ麦パンは朋香にあったらしく、いまではお気に入りだ。
それに一番問題のゆで卵は、エッグオープナーを準備してくれたおかげで簡単に解決したのもある。
「業者ってなんのですか?」
どこか、リフォームでもするのだろうか。
朋香がここで暮らすにあたって、一日であの部屋をリフォームして家具を揃えたと知ったときは、目眩がしたものだ。
「仕立屋とか宝石商とか。
朋香は僕の選んだ服が、気に入らないみたいだからね」
「……」
にっこりと笑われて、手にしていたパンを置いてしまった。
……怒ってる。
怒ってる、よね。
衣装部屋の、尚一郎が準備した服にはなにひとつ手をつけていない。
それに手をつけるのは尚一郎に“買われた”ことを認めるようで、朋香の小さな抵抗だった。
「買っていただいても私は着る気がないので」
「僕は朋香を可愛がりたいだけなんだけど、……ダメかい?」
……うっ。
上目遣いで、怒られたときのロッテと同じ顔で見られると、さすがに言葉に詰まる。
「……き、気に入ったのがあれば」
「よかった」
ぱっと顔を輝かせると、尚一郎はうきうきと残りのパンを食べはじめた。
わんこモードの尚一郎はたちが悪くて困る。
朝食が終わるとリビングに移動し、膝の上に乗せられて一方的に尚一郎からいちゃいちゃされていると、無表情に野々村がやってきた。
どんな表情をしてこられてもそれはそれで気まずいのだが、無表情なのは怖い。
「本邸から使いでございます。
今日の昼食、一緒にせよとのことです」
「Was!?」
勢いよく立ち上がりそうになった尚一郎に、膝の上の朋香は慌ててしがみついた。
それでようやく、朋香を載せたままだったことを思い出したのか、尚一郎はソファーに座り直す。
「このまま呼び出しがなければいいと思ってたけど、そう簡単にはいかないか」
なにが起こっているのかわからなくてきょとんとしている朋香の額に口付けすると、尚一郎は朋香を膝の上から下ろした。
「野々村、すぐにスタイリストを呼んで。
……朋香、おいで」
尚一郎に手を引っ張られてきたのは自分の部屋。
入るなり、バスルームに押し込まれた。
「悪いんだけど、あたまのてっぺんからつま先まで、ぴかぴかに磨いてくれるかい?
許可してくれるんなら、僕がやるけど」
「自分でできます!」
ニヤリと笑った尚一郎にバスタオルを投げつけると、閉まったドアに当たって落ちた。
全く意味のわからないまま、シャワーを出して云われたとおりに身体を磨く。
……本邸からの使いって云ってたよね?
それって家族がお昼を一緒に食べようって云ってるのと違うの?
なんであんなに、慌ててる上に嫌そうなんだろう。
バスルームを出ると、部屋に尚一郎の姿はなかった。
開いている衣装部屋から声がするので覗くと、尚一郎ともうひとり、たぶん、スタイリストの女性が服を出したりしまったりを繰り返していた。
「朋香、もう決まるからちょっと待ってね。
……ああもう、なんで僕は、着物を作っておかなかったんだろうね!」
どうして尚一郎があんなに必死なのかわからない。
……いや、たがだか家族との食事に着物が必要だなんて、理解できないんですが。
セレブってそれが普通なの?
これを着て、差し出された服に躊躇したが、真剣な尚一郎に自分には拒否権はない気がして、小さなこだわりは捨ててそれを着る。
着替えているあいだに、尚一郎は後をスタイリストに託して部屋を出ていった。
されるがままに化粧を施され髪を結われ、鏡を見ると上流階級の若奥様ができあがっていた。
「馬子にも衣装ってこれを云うんだよね……」
自虐的に笑っていると、コンコンコンとノックの音がして飛び上がった。
「準備できたかい?
……うん、朋香によく似合ってる。
これなら文句ないだろう」
いつの間にか尚一郎はスーツに着替えている。
それにしても、……文句がないって?
なんか、面倒そうだな。
本邸に行く前から、朋香はうんざりしていた。
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